Special
<コラム>「Less Waste, More Music」――BMSGが提言する“持続可能”な音楽業界の姿とは?
Text:礒﨑誠二、Maiko Murata
2024年2月13日、とあるニュースが日本の音楽業界を騒がせた。株式会社BMSGが発表した、「BMSGから音楽業界を持続不可能にしないための提言」という文章。そのなかで言及されていたのは、CD売上に依存する日本の音楽業界における問題点、そこから起こっているCDの複数枚購入、それによって捨てられる大量のCD――多くのCDが“ゴミ”となってしまう現在の音楽業界のシステムに対し、事務所としてアクションを起こしていく、ということだった。
2024年2月13日
— BMSG Official (@BMSG_official) February 13, 2024
BMSGから音楽業界を持続不可能にしないための提言https://t.co/Qc1NUzgUtM@SkyHidaka #BMSG
文章内でも触れられているが、CDの大量購入が問題となっているのはここ最近に限った話ではなく、10年以上前から(特に音楽業界の“外側”で)議論されてきたこと。それをついに音楽事務所、なかでも熱心なファンダムを持つダンス&ボーカルグループを抱える事務所であるBMSGがこのような内容の文章を発表したということで、業界内外に与えた衝撃は大きかった。
なお、この内容は“提言”の発表から1週間後、2月20日に発売された書籍『ビルボードジャパンの挑戦 ヒットチャート解体新書』内での対談でも、株式会社BMSG 代表取締役CEOであるSKY-HI氏本人が語っていた内容であった。この対談について、書籍著者であり、ビルボードジャパンでチャートディレクターを務める礒﨑誠二はこう振り返る。
「SKY-HIさんとは、それまでにお会いしたことはありませんでしたが、様々なアクションや発言はもちろん耳にしていました。それらのなかにはヒットチャートに関することもあり、とても刺激を受けましたし、ジャパンチャートを創っていくモチベーションにもなりました。彼とチャートをテーマにしてお話することができれば、アーティストの側で(つまりはチャートに掲載される側で)どのようにその変遷が見えていたのかがわかるだろうと思いましたし、ヒットチャートを取り巻く諸問題についても、複眼的な視野をもって話し合うことができるだろうと考えました。
実際にお会いしてみて感じたのは、今を生きる彼のしなやかなスタンスです。私たちもヒットチャートに向き合うことで、今の音楽業界の限界と可能性について考え続けてきました。互いの立場は異なりますが、彼もまた向き合い続けてきたことを強く感じて、とても勇気づけられる対談となりました」
BMSGの活動方針ともいえる“提言”は、その後、業界関係者を招いて4月に開催された同社コンベンションでのSKY-HI氏によるプレゼンでも、改めて宣言されている。同プレゼンの模様はその後YouTubeにて配信され、SKY-HI氏の生の言葉で、改めて全世界へ“提言”が届けられたのだった。
東京を拠点に、世界の音楽市場へ。【2024 BMSG CEO PRESENTATION】
その“提言”で明らかにされたアクションの第1弾作品となったのが、4月24日にリリースされたBE:FIRSTの“コンセプトシングル”『Masterplan』だ。同作は、CD製造時のプラスチック使用を削減するため、紙ジャケット仕様を採用。また、CD複数枚購入の原因のひとつとされていた「法人別特典」、つまり販売店や販売サイトごとに異なる購入者特典や、ランダム封入のCD特典を廃止した。その結果、リリースから約1か月間(〜5月22日まで)において、CDの出荷枚数は約7万枚減少したものの、同作の絵柄を使用したグッズの売上を含めた「作品にかかる総売上」は、前作の約2倍にまで上昇。また紙ジャケットを採用したことで、CD製造段階のプラスチック使用量を10t削減しており、これはCO2にして59t分もの削減を達成したという。
また、同シングルの表題曲「Masterplan」は、ビルボードジャパン総合ソング・チャート“JAPAN Hot 100”において、初登場1位を獲得。チャート上でもしっかり成績を残すことで、「法人別特典」をつけるということ、すなわちファンダムによるCDの複数枚購入に依存しなくとも、チャート1位を獲得することは可能ということを証明してみせたのだ。
「Masterplan」Music Video / BE:FIRST
「ヒットとは何か、を考える上で、ヒットチャートはどのように構成されると、多くの人に納得してもらえる、共感性の高いチャートとなるのか、というのは重要なテーマです。USで進化を続けてきたビルボードチャートや、それに携わってきた方々を深く知るにつれて、その責任を強く自分たち自身が突きつけられることになりました。
USでは、90年代初頭、ニールセン(当時/現在はルミネイト)によって、国中のレコード店のPOSデータを収集することが可能になりました。それまでのファックスや電話調査によるデータ生成から、人為的な操作の入る余地がないデータ生成に移行、ビルボードホット100のラインナップが激変する結果となり、業界内外に大きなショックを与え、ヒットの概念が大きく変わることになりました。私たちが印象深く感じているのは、その後もビルボードはダウンロードやストリーミングなどの新しいデータを加えることでヒットチャートの整備を続け、昔も今も高い共感性を維持してきたことです。
日本では、2010年代初頭から顕著となった複数枚購入という顧客参加型のアクティビティをどのように考えるべきか、というのはヒットチャート自体のスタンスを問われるのと同義だと思います。大好きなアーティストを応援するファンのアクティビティを無視することはあってはなりませんが、共感性を失っては本末転倒です。同時に、短期的な視野狭窄を招いてファンを疲弊させるほどにあおり立てるようなヒットチャートであってはならないとも考えます。10年代半ばから私たちは、占有率バランスを維持するためのチューニングを毎週行うことで対応するようになり、それは日本におけるヒットの概念をゆっくりと変えることに繋がったと思います。
今日では、複数枚購入がヒットチャートに与える影響は小さくなりました。 ファンにとっては大好きなアーティストが末永く活動してもらえたほうが嬉しいはずです。持続的に応援できるファンのアクティビティとはどういうものか、今が立ち止まってみんなで考えるタイミングであると、今回の SKY-HIさんの提言は訴えているように思います」
音楽業界が“持続可能”であるために――このBE:FIRSTの取り組みだけでなく、今後もBMSGは具体的なアクションを続けていくという。“提言”は、「我々は、音楽に関わる全ての人が胸を張って夢を追える状況をつくることを絶対に諦めません。」という言葉で締められている。この結果は国内、ひいては世界の音楽業界全体へどう影響を及ぼしていくのだろうか。BMSGの挑戦は続いていく。
Less Waste, More Music【提言から体現へ】
関連商品