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<わたしたちと音楽 Vol.40>ゆりやんレトリィバァ 自分が面白いと思うことを信じて、世界へ羽ばたく
米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。
今回のゲストは、秋にアメリカ進出を控えるお笑い芸人のゆりやんレトリィバァ。お笑いの数々の賞を総なめにし俳優やラッパーとしても活躍、これからは映画監督としての活動も予定している。エンタテインメントの世界で快進撃を続けるゆりやんに、これまでとこれからの活動の原動力について聞いてみた。(Interview:Rio Hirai[SOW SWEET PUBLISHING] l Photo:Megumi Omori)
男性が多いお笑いの世界で、
“面白さ”で勝ち抜いてきた
――お笑い芸人を志したのは、小学2年生の頃だったというゆりやんレトリィバァ(以下、ゆりやん)さん。2011年には、吉本興業の養成所であるNSC吉本総合芸能学院に入学されましたが、当時は今よりも女性芸人が少なかったと思います。芸人になることに、性別的なハードルは感じませんでしたか。
ゆりやんレトリィバァ:「お笑い芸人ってカッコいい」とずっと思ってきたので、男性社会に飛び込んでいくという感覚があまりなかったかもしれません。実際は、当時NSCの同期が大阪だけで500人いて、女性はそのうちの40人程度。最初の1か月は男女でクラスが分かれていて、そのあとは一緒に授業を受けていました。自分が“女性”芸人であると意識することになったのは、卒業後。劇場に入るためのバトル形式の公開オーディションがあるんですけれど、当時は女性ファンに「きゃーきゃー!」と応援してもらえる男の芸人のほうが票が入っていると思っていました。今考えてみると、単純にウケているか、ウケていないかの世界だったはずだけれど、全く票が入らないときもあって、そうするとついそういうふうに考えてしまって……女性芸人として先輩の(元・尼神インター)渚さんに「男子のほうが票入りますよね」ってこぼしたら、「結局面白かったら勝てるから、頑張ろう」って言われたのを覚えています。それから、燃えてきましたね。自分だからできることがある、って考えるようになって。
――それから『第47回NHK上方漫才コンテスト』優勝、『NTV女芸人No1. 決定戦 THE W』優勝、『R-1グランプリ2021』優勝と華々しい結果を残しています。ミュージシャンからは、“フィメール”ラッパー、“女性”シンガーソングライターとカテゴライズされるのに違和感があるという声もあがったのですが、ゆりやんさんは“女性”芸人とカテゴライズされることにはどう感じていますか。
ゆりやんレトリィバァ:私は今逆にラッキーやなと思っていますね。男性が多い中に女性が1人だと、目立てるじゃないですか。でもそれが特別なことじゃなくなってくれば、わざわざ“女性”とつけなくなるのかもしれないですね。
――ゆりやんさんがお笑い芸人を始めた頃と比べて、今は女性芸人の数もすごく多くなったと思います。エンタテインメントの世界で女性が活躍するには、どんなことが必要だと思いますか。
ゆりやんレトリィバァ:私としては、今とっても働きやすいんですよ。でも女性は出産するとなったら、肉体的にどうしても休まないといけない時期ってあるじゃないですか。そういうときのために撮り溜めとかしておいて、ちゃんとギャラが入ってくるみたいにはなるといいですよね。
幼い頃から夢見た
ハリウッドスターへの道
――2019年には、米オーディション番組『アメリカズ・ゴット・タレント』に出演したことも話題になりました。2024年中にはアメリカ進出が決まっていますが、いつから計画していたんですか。
ゆりやんレトリィバァ:10年くらい前から具体的にアメリカ進出を視野に入れて、会社にもそう伝えて準備をしてきました。アメリカに行きたいと思ったきっかけは、小学生のときに初めて観た映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。不思議と「私、大人になったらこの人たちに会える感じがする」と思っていたんです。中学生の頃にもう一度観返して、改めてマイケル・J・フォックスが大好きになって、いつか英語を話せるようになってアメリカで映画の仕事をしたいという気持ちが芽生えました。でも先に芸人になりたいという夢を持っていたので、そのまま芸人になる道を選んだんです。実際に芸人として活動し始めてからは、本当にいろいろなことに挑戦させてもらえて。今年配信予定のNetflixドラマ『極悪女王』に主演したり、映画監督にも挑戦できるようになるなど、コントをやるだけが芸人の仕事じゃないんだとわかって、「アメリカに行く夢を諦めなくて良いんだ」と思うようになったんです。
――アメリカに行って、どんなことをやりたいのでしょうか。
ゆりやんレトリィバァ:ハリウッドスターになりたいんです。日本で幅広く活動できたように、アメリカでもまずはスタンドアップコメディから挑戦して、活動の幅を広げていきたいですね。アメリカでも日本でやってきたように自分が面白いと思うことをやってウケたいと思っているのですが、そのためにも国の背景や文化からノリを掴まないといけないので、まずはそこからです。
腹立つことも、悔しいことも、
全て“芸の肥やし”に
――本当にいろいろなことに挑戦していますね! 最初に憧れたお笑い芸人になる夢を叶えた今、活動していて面白いと感じるのはどんな瞬間ですか。
ゆりやんレトリィバァ:全てが面白いですね。もちろん、お客さんに笑ってもらえると嬉しい! あとは、自分のことを何でも発表できるのが楽しいんですよ。生きていて腹立つこととか、悔しいことってあるじゃないですか。そのままにしておくとしんどいけれど、芸人だからコントにして笑い飛ばしてしまえる。言いたいことを言えるし、なりたいものになれる。
――何かあっても全て、“芸の肥やし”になるんですね。
ゆりやんレトリィバァ:そうそう。私の尊敬している先輩の1人である、藤崎マーケットのトキさんの話なんですけれど、「仮想通貨で失敗して朝目が覚めたらたくさんのお金を失っていた」という壮絶なことがあっても、トキさんは「おもろ……」と言っていて。何があっても面白いと受け止められるのって人間味もあるし、すごく強いなと思ったんです。みなさんも何か腹立つことがあったら、ネタやリリックにしてみるのがお勧めです。誰にも見せなくても、モノマネしてみたり……ちょっとスッとすると思いますよ。
アンチコメントをネタに、
賞レースで優勝
――良いライフハックを、ありがとうございます(笑)。お笑いの価値観も、ここ10年くらいで変わりましたよね。昔は“容姿いじり”が当たり前のような時代もあったけれど、最近は少なくなったように感じます。
ゆりやんレトリィバァ:私がお笑い芸人になったばかりの頃は、まだ容姿いじりが普通にありましたね。私、2019年に体重が110kgあったんですよ。面白さのために意識してそうしたわけではなく、めちゃくちゃな生活をしていたことによる怠慢で、いつの間にか……でもあるとき、せっかく健康な体に産んでもらったのに、「この状態は良くないな」と思って、トレーナーに「私、変わりたいです」と言ったんです。そうしたら「アメリカで水着姿も披露したし、今の体型でやれることは全部やってるはずだから、新しいゆりやんになって頑張ろう」と言ってくれたんです。そうしてトレーニングや食事制限を始めて、2021年に40kgの減量に成功。体も軽く健康で、メンタルもポジティブになって、それまでだったらあり得なかったスポーツ関連の新しい仕事ももらえるようになったんです。以前はボディポジティブというか、「太っててもええやん」って感覚だったけれど、振り返ってみると自分にとってはベストな状態ではなかった。心から「自分はこれがいい」って思える、自分にとって最高の状態を努力して得られたって思えたんですね。
――ご自身で納得できたことで、周囲の声もノイズにならなかったのでしょうか。
ゆりやんレトリィバァ:芸人仲間は「健康的でいいじゃん」って言ってくれたのですが、インターネットでは「芸人捨てたんか」とか「痩せてもブスだ」とか言ってくる人もいましたよ。腹が立ったから、その人たちに復讐するつもりでネタを作って、その年に出場したR-1で優勝しました。
――アンチへの対抗心をモチベーションに、『R-1グランプリ』で優勝したのはカッコいいですね。
ゆりやんレトリィバァ:インターネットではまだそうやって容姿いじりをしている人たちの声が大きく感じますが、劇場に来てくれるお客さんの反応は全然違うんですよ。10年前は「私ブスなんです」ってコメントがウケていたけど、今は自虐的なコメントをすると、お客さんが「ここは笑ったらあかん」というムードになっているのがわかります。私も「ウケないからやめよう」というだけじゃなくて、自分や他人の容姿に対してネガティブなコメントをするのは「人として、ひどいからやめよう」と思うようになっているんですよね。自分の気持ちも変化しています。そうやってアンチコメントをネタにしていくうちに、「ゆりやんにアンチコメントしても、それをネタに賞レースで賞金稼がれるだけだ」と言われるようになりました(笑)。
プロフィール
お笑い芸人。大学4年生のときに大阪NSCに35期生として入学し、翌年行われた『NSC大ライブ2013』で優勝を果たしNSCを首席で卒業。2017年、『第47回NHK上方漫才コンテスト』で優勝。同年12月に行われた『女芸人No.1 決定戦 THE W』に出場し、第1回優勝者となる。海外進出を目指し、2019年6月には、米アメリカのオーディション番組『アメリカズ・ゴット・タレント』に出場。2021年には、『R-1グランプリ』で優勝を果たす。2023年にはラッパーとしてデビューしたほか、Netflixの『極悪女王』(2024年配信予定)で主演を務めるなど、お笑い以外の活動でも注目を集めている。
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