もうこの女ダメだ～！って感じですよね

－－まず、3曲目に収録されている新曲「あの女」は“あたしの男を盗ってんじゃねーよ”と歌った曲ですけど、正直かなり怖いです（笑）。

笛田さおり：“あの女”って、Twitterで検索したらタイムラインでたくさん出てくるくらい、色々な方が発している言葉なんですよ。女子会でも「あの女が～」って発言している女の子、よくいません？ 隣に男性がいたら“あの女”とは言わないだろうけど、女性同士だとそうやって毒を吐くんですよね。

－－確かに、それはあります。この曲は単独公演【恋の119番通報】での存在感もすごかったですね。

笛田さおり：お客さんを一気にさめざめワールドへ引き込みたいと思ったので。この曲の女性は、殺したいくらい相手を愛しているんですよね。憎しみと愛する気持ちが紙一重というか。「謝ってよ」「土下座してよ」とまで言っているのに、結局「抱きしめてくれたら許しちゃうよ」ってなってしまう。もうこの女ダメだ～！って感じですよね（笑）。でも、そういう女性は世の中にたくさんいると思うんです。彼氏の愚痴ばかり言うけど全く別れない女の子とかいるじゃないですか？ それも同じようなことなのかなって。

－－歌詞もインパクト強いですけど、歌謡曲テイストのジャジーなサウンドがたまらなく良いです！

笛田さおり：“ふざけんな あの女”というフレーズをドキっとさせるものにしたくて。そこを意識しながら、懐かしい妖艶なメロディにしました。

私が普遍的なものを美しく歌ってもつまらない

－－そもそも、さめざめの楽曲は歌謡曲を匂わせる作品が多いですよね？

笛田さおり：私自身、倉橋ヨエコさん、山口百恵さん、中森明菜さん、中山美穂さん、工藤静香さん、Winkさん、小泉今日子さんなど、80～90年代の音楽が大好きなので、少なからず影響は受けているかもしれないですね。
　よく「さめざめの歌詞はビッチだ」と言われますけど、そのぶんメロディに関しては“どれだけ聴き手の耳に残るか”を大事にしているんです。「この曲、好きじゃないけど頭から離れないよね」っていう感覚でもいいので、一度聴いただけで覚えてもらえるようなキャッチーさを大切にしています。

－－思えば、80～90年代にも大胆な歌詞の曲は多くありましたよね？

笛田さおり：はっきり“SEX”とは歌っていないけど、ドキっとさせられる内容の曲は多かったですよね。この前、親から教えてもらったんですけど、「黄色いサクランボ」（※1）という曲は“おっぱい”のことを歌っているという説もあるらしいですね。あくまで説ですけど。

－－へー！ 知らなかったです。あと、笛田さんの歌声も80年代っぽいですよね。

笛田さおり：昔から「80年代のアイドルみたいだね」ってよく言われていて、以前はそれが凄く嫌でしたけど、最近は“これも個性のひとつなのかな”って考えるようになりました。それに私が普遍的なものを美しく歌っても、本当につまらないものになると思うので。ビッチと言われる歌詞にキャッチーなメロディー、その中にどこか懐かしい歌声が入っている方が、ある意味バランスは取れているのかもしれないですね。

－－そこは計算だったりします？

笛田さおり：計算というか、せっかく自分のオリジナル作品として発表するなら、面白いことをやりたいなっていう気持ちだけです。あとは、書きたいものを書いている。

－－確かに、さめざめは批判を恐れず、常に面白さを求めていますよね。

笛田さおり：音楽以外でも人と同じことをしたり、分かり易く流行りにのることが嫌なタイプなんです。高校生のときも、周りが当時流行っていたブランドのマフラーをしている中で、私は古着屋さんで買ったマフラーを使っていたり。自分を押し殺してまで、人に合わせたくないんですよね。それによって批判されることがあったとしても、私は好きでやっているだけだし。そういう部分が音楽にも繋がっているのかもしれないです。

（※1）昭和34年に発売されたスリー・キャッツの名曲。作詞を星野哲郎、作曲を浜口庫之助が担当しており、後にゴールデンハーフがカバーしている。“～ウフン”というフレーズが特徴的で、“ほらほら 黄色いサクランボ つまんでごらんよ ワン しゃぶってごらんよ ツー 甘くてしぶいよ スリー”とあるように歌詞は少々過激だ。

歌詞がなかったら子どもに聴いてほしいくらい

－－また、2曲目「非公式彼氏（シークレットダーリン）」では純粋な女の子の恋心を描いていますけど、その純粋さが怖くもあるなと感じました。

笛田さおり：最後に「殺す覚悟であたしを捨ててね（ハートの記号）」というフレーズがありますからね。可愛いのに毒づいている感じが、この曲の面白さだと思います。歌詞がなかったら子どもに聴いてほしいくらいキャッチーな曲ですし。スーパーとかで流れていてもアリなくらい、さめざめの中ではかなりポップ。

－－ただ、この曲の男性ヒドくないですか？ 手をつないで歩くことも、名前を呼び捨てにすることも禁止だなんて、私だったら耐えられません…。

笛田さおり：私の周りの男性の中には「同じことをさせてしまったことがあるから、男性側の気持ちがよく分かる」という方がいましたよ。私もヒドイと思いますけど、こういう恋愛はどの世代にもよくあることだと思っていて。例えば、職場恋愛だったら上司にバレたくない場合があるだろうし、学校だったらクラスの皆にバレると恥ずかしいから隠す男の子とかいたじゃないですか？ そういうパターンもあるので、女子高生にもOLさんにも共感して頂ける曲だと思いますね。

Twitterは午前2時～4時頃がポイント

－－さめざめは様々な女性の心情を上手に描きますけど、曲を書く際のネタって尽きないものですか？

笛田さおり：それがですね、最近ちょっと刺激が足りないなと感じたら、友達と会ったり、インターネットを使うんですよ。Twitterは午前2時～4時頃がポイントです。

－－どういうことでしょう？

笛田さおり：その時間帯は病んでいる内容のツイートが多いので、そこから皆さんの感情を勝手に頂いたりするんです。足跡が付かないぶん、思っていることを大胆に吐かれる方が多くて、「今日彼氏と別れてくる」「今行ってきた」とか、そういうリアルタイムな情報を手に入れることが出来ちゃうんですよ。そこから自分の経験に繋げたり、勝手に自分が経験した気になったりして曲を書きますね。

－－経験した気になれるものですか？

笛田さおり：元々、脚色することが好きだし、被害妄想も激しいんですよね。例えば、マネージャーの電話が繋がらないと、何をしているんだろう!?　交通事故に遭っていないかな!?　私のこと嫌になったんじゃないかな!? って心配になるくらい（笑）。一喜一憂が激しくて、1日の中で急激に落ち込んだり、ハッピーになったり、厄介な人間だなぁって自分でも思いますけど、そういう性格だから感情移入できるんでしょうね。

手に入りそうで入らないモノって誰しもある

▲さめざめ／愛とか夢とか恋とかSEXとか　試写映像＃1

－－また、前回のインタビューで“この曲を作った時にさめざめを始めようと決意した”と仰っていた「愛とか夢とか恋とかSEXとか」は、恋愛だけでなく生きるうえでの迷いや葛藤を綴った曲です。

笛田さおり：この曲を書いた4年くらい前、“人生このままでいいのかなぁ”って悩んでいたんですけど、同じような悩みを抱えている人は私だけじゃない気がして。例えば、本当はあの会社に入りたかったとか、もっと違う夢があったとか。妥協して生きているわけではないけど、手に入りそうで入らないモノって少なからず誰しもあると思うんです。そういう想いを私らしく書いた曲。私そのものでもありますね。“人生”がテーマになっているので、さめざめを好きじゃない人でも、どこかに共感して頂ける個所があると思います。

－－4年前に比べて、自分の中でこの曲に対する想いが変わった部分もありますか？

笛田さおり：かなり変わりました。今年歌入れをしたときに、4年前よりも更にこの曲を深く感じることができましたね。私、恋愛に関しては相変わらずダメなんですけど（笑）、音楽に対してはモチベーションも、背負っているものも、覚悟も、4年前と比べて全く違うんです。あの頃はもっと甘かったし、中途半端だった。それが色々な経験を通して少しは成長して、この曲に対する感じ方も変わったのかなって思います。

こういう女性もいるってことを知ってもらえたらいい

▲さめざめ／愛とか夢とか恋とかSEXとか　試写映像＃2

－－そんな想い入れの強い曲でメジャーデビューするわけですけど、メジャー進出に対して不安を感じることはないですか？

笛田さおり：今はワクワク感の方が強いですね。どこまで受け入れてもらえるのかな？ どこまでいったら「もうダメ！」って言われるのかな？ってドキドキしています（笑）。

－－ただ、メジャーデビューしたことで批判される機会も増えるかもしれません。

笛田さおり：自分の気持ちが100％人に伝わることはないと思うし、それを望んだらただの自己満足になってしまう。だから、曲を聴いたうえで聴き手が何を感じようと自由なんですよね。もちろん、批判されることも仕方ない。ただ、この曲のような現状がある、この曲のような女性もいる、ということを知ってもらえたらいいです。さめざめの曲を聴いて「私はこんな女じゃない」と思うなら、それはそれでいいんです。「友達にこんな子いたな」「その子はこういう想いなのかな？」とかでいいんです。

　さめざめの曲は、タイトルやちょっとしたフレーズで薄っぺらいと思われることも多いですけど、歌詞を読み砕いて頂くと全く別の方面のものが見えてくることもありますし、意外と真面目なことを歌っているのかな？と気付いて頂けると信じています。なので、腹をくくってメジャーデビューです！