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<コラム>注目を集めてしまうのは“自分が素敵すぎるから” TikTokヒットで勢い増すメーガン・トレイナーから見習いたい前向きマインド
Text: セメントTHING
Introduction: Mariko Ikitake
全米No.1デビュー曲「オール・アバウト・ザット・ベース」で世界中を勇気づけたメーガン・トレイナー。レトロサウンドと圧倒的な歌唱力、説得力のある歌詞はリスナーと音楽業界の心を掴み、【グラミー賞】を含む主要アワードの常連に。ポジティブで自己肯定感の高い楽曲を発表しつづけるメーガンは、近年は「メイド・ユー・ルック」と「タイトル」がTikTokで人気を博し、2020年代を代表するTikTokバズ女王であることは間違いない。
そんな彼女の最新アルバム『タイムレス』が6月7日にリリース。“輝く自分”は今も昔も変わらないメーガンのあくなき挑戦を輝かしいキャリアとともに振り返る。読み終わった頃には、「自分も頑張ってみようかな」と前向きな気分になっていることだろう。
キャリアを代表するようなヒット曲を生み出すのは、あらゆる歌手にとっての難題だ。めまぐるしく変化する時代と並走し、気まぐれな大衆の心をつかみ、自己イメージを刷新し続ける。それに成功したアーティストはそう多くはない。だが、ここ数年のメーガン・トレイナーの破竹の勢いは、彼女がそんな例外的な存在であることを印象付けている。
メーガンのデビューは華々しいものだった。ソングライターとしての腕を買われ音楽業界入りした彼女は、2014年のデビュー曲「オール・アバウト・ザット・ベース」の大ヒットで一気に世界的なスターとなった。EDMやヒップホップが人気を集めていた時代に、あえてレトロな“ドゥー・ワップ”サウンドを押し出した曲は、「自分の身体を肯定しよう」というボディポジティブなメッセージも相まって、リスナーから大いに歓迎された。
※ドゥー・ワップ:1950年代に人気を博したR&Bの一ジャンル。主にコーラス・グループが甘いメロディを分厚いハーモニーを持って歌い上げ、〈パッ〉〈ドゥワッ〉といったスキャットが多用される。
その後も彼女はキュートでポップなサウンドに乗せて、パワフルで物怖じしない女性像を表現。女性たちを応援するキャッチーなヒット曲を連発していく。「リップス・アー・ムーヴィン」、「ディア・フューチャー・ハズバンド」、そして「ミー・トゥー」などはその好例だ。だが同時に、2010年代はヒップホップが業界で最も人気のジャンルとなっていく時代でもあった。「ポップスターである自分は、このシーンにどう対応していくべきなのだろう?」――デビューから一貫して安定した音楽活動を続けてきたようにみえるメーガンだが、実際には自身の方向性をどうするべきなのか悩むこともあったのだという。
だが思わぬ角度から、彼女に転機が訪れた。自身のデビュー・アルバムのタイトルトラック「タイトル」のTikTokにおけるリバイバル・ヒットである。ダンスチャレンジをきっかけに日本でもバズを巻き起こしたこの曲は、2022年の年間Billboard JAPAN“TikTok Songs Chart”で6位にチャートイン。予想外の成功は、彼女に自身の活動について大きな示唆を与えることとなった。新世代のリスナーたちは、自分らしい“ドゥー・ワップ”サウンドを求めている。彼女はデビュー時の作風への回帰を決め、TikTokクリエイターたちとの交流を深めながら、同プラットフォームでのプロモーションに注力することを選んだ。
@itzyofficial #itzy #있지 #ryujin #류진 #title #meghantrainor @meghantrainor ♬ Title - Meghan Trainor
それらの試みが結実したのが、2022年にリリースしたシングル「メイド・ユー・ルック」だ。どんな場面にもぴったりな心地よく甘いコーラス。ユーモラスでキャッチーなフレーズ。思わず身体を動かしたくなるハッピーなムード。さらにミュージック・ビデオには親友であるクリス・オルセンや、人気歌手のジョジョ・シワなど、TikTokで人気を集めるインフルエンサーたちも出演した。2分14秒という彼女のシングル屈指のコンパクトさも、ショート動画に使うにはばっちりだ。インターネットの注目を集める要素は、ありすぎるぐらいにあったと言えるだろう。
そしてその狙いは的中した。「メイド・ユー・ルック」は、彼女にとって活動初期以来となる特大ヒットとなったのだ。TikTokではダンスチャレンジがバズを起こし、歌詞に合わせグッチやルイ・ヴィトンで固めたコーディネートを披露するといった動画も人気を集めた。米Billboard Hot 100では最高11位につけ、2024年6月現在、YouTubeでのMV再生回数は1.7億回を突破している。
@meghantrainor #duet with @brookieandjessie it took me and my managers 2 hours to film this. You girls make it look easy. I’m obsessed. I WILL master it #madeyoulook @chrisbpepe @salikrazy ♬ Made You Look - Meghan Trainor
その後も「マザー」などのシングルをバイラルヒットさせ、メーガンはポップスターとしてシーンの最前線へと見事カムバックすることとなった。もはや彼女はこの一連のヒットによって、歌手として第二の全盛期に突入したと言ってもいいかもしれない。「タイトル」のTikTok人気が示した自身の新たな可能性を、メーガンは鮮やかに体現してみせたのである。
また、このカムバックはメーガンにとって別の意味でも大きな達成となった。なぜなら「メイド・ユー・ルック」は、彼女の「また自分を愛せるようになりたい」という気持ちから生まれた一曲だったからだ。
2021年に待望の第一子を無事に授かったメーガン。彼女は医師の指導を受け帝王切開での出産を選択したのだが、妊娠線や手術跡が残った身体をすぐに受け入れるのは難しかったと語る。また身体に対する不安から、セラピーを受診したこともあったのだという。
「メイド・ユー・ルック」のインスピレーションは、そんななかでも弛まずに自分を支えてくれる夫の愛だった。彼が私を見るときに感じているような愛を、自分自身に対しても感じたい――そんな思いから、「私はありのままで、あなたを夢中にさせられる」という歌詞が生まれてきたのだ。
そんな切実な気持ちが詰まった曲が世界的に大ヒットしたのは、メーガンにとってとても心強いことであったに違いない。たとえ人生がいま逆境にあったとしても、そこで頑張る自分を肯定することはできる。彼女は自分の苦しみを楽しいポップ・ミュージックへと昇華させることで、音楽という芸術がもつポジティブな力を証明してみせたのである。多くのリスナーが彼女の音楽から元気をもらったと語るのも、彼女のそんな前向きな姿勢が、曲を通してリスナーに伝わっているからだろう。
数々のヒットを生み、シンガーとして絶好調が続くメーガン。前作からそう間を空けずリリースされたシングル「ビーン・ライク・ディス」も、彼女のそんな勢いを感じさせる快作だった。
軽快なブラス・バンドによる演奏とダンサブルなビートを組み合わせたこの曲は、ウキウキと踊りだしたくなるようなエレクトロ・スウィングとなっている。チャールストンやスウィングなどレトロなジャンルへの愛を滲ませつつ、ポップスとしてスマートにまとめる手腕には、メーガンのソングライターとしてのセンスが光る。まさかのT-Painの参加も、このパーティーチューンにはぴったりだ。
続くシングル「トゥー・ザ・ムーン」ではジャージー・クラブのビートを大胆に取り入れ、ドゥー・ワップから一歩踏み出す姿勢を見せた。さらに先行曲「アイ・ワナ・サンク・ミー feat. Niecy Nash」でも部分的にバイレファンキ的なリズムが取り入れられており、彼女らしさもありつつより現代的なダンス・ミュージックに近づいた意欲作が続いている。
成功に安住せず、常に新しい挑戦を続けていく。そんな姿勢が、メーガン・トレイナーという歌手の活動を支えてきたことを改めて感じざるをえない。まさに彼女にとっての新章の幕開けであるニューアルバム『タイムレス』を、ぜひチェックしてほしい。
リリース情報
アルバム『タイムレス』
2024/6/7 DIGITAL RELEASE
再生・ダウンロードはこちら
関連リンク
メーガン・トレイナー 公式サイトメーガン・トレイナー 日本レーベルサイト
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