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<コラム>稀代のプロデューサー・チーム=ジミー・ジャム&テリー・ルイスが初来日公演開催――その輝かしいキャリアをルックバック



コラム

 80~90年代R&Bシーンを席巻したソングライティング&プロデュース・デュオ、ジミー・ジャム&テリー・ルイス。錚々たるアーティストとともにヒットを連発、グラミー賞を5度も受賞するなど、レジェンダリー・アイコンとしても君臨する彼らが、待望の初来日公演をビルボードライブで開催する。世界中の音楽ファンが羨むようなプレミアム・ステージを前に、その輝かしいキャリア、ヒット作の数々を振り返る。

 この記事は、2024年6月発行のフリーペーパー『bbl MAGAZINE vol.197 7月号』内の特集を転載しております。記事全文はHH cross LIBRARYからご覧ください。

Text:林 剛

 40年近く前、ジミー・ジャムとテリー・ルイスが乗る予定の飛行機が無事に飛び立っていたら、R&Bやポップスの歴史は少し違っていたのかもしれない。当時ふたりはプリンスのプロデュースによるザ・タイムのメンバー。同時にプロデューサー/ソングライター・チームとしての活動も始めており、S.O.S.バンドのアルバム『On The Rise』(83年)の制作でアトランタにいた。が、悪天候で戻りの飛行機が欠航に。親分プリンスの公演に穴を開けてしまう。結果バンドを解雇されるが、独立したふたりは、S.O.S.バンドのほか、地元ミネアポリスの音楽仲間だったアレクサンダー・オニール、彼とデュエットもするシェレールをタブー・レコードで手掛けて成功に導き、裏方として名を上げていく。そんな中、全面的に制作したジャネット・ジャクソンの『Control』(86年)が大ヒット。以降ジャム&ルイスは、60年代のモータウンを支えたホーランド=ドジャー=ホーランド、70年代にフィリー・ソウルを開花させたギャンブル&ハフに続く80年代ブラック・コンテンポラリーおよび90年代R&Bを代表する制作チームとして米国音楽の歴史に太字で名を刻むことになる。


Janet Jackson - When I Think Of You


 後に彼らのプロダクション/レーベル名になるフライト・タイムなどを経てスタートしたザ・タイムでは、ジミー・ジャムが鍵盤、テリー・ルイスがベースを担当していた。プロデューサーとしては、ドラムマシンのTR- 808なども用いながら生楽器を加えた電脳と人力のグルーヴによる“ミネアポリス・ファンク”でヒットを量産。フォースM.D.'S「Tender Love」(85年)のような美しいバラードも作りながら、ヒューマン・リーグやハーブ・アルパートなどR&B以外の作品にもジャム&ルイスの音を刻んだ。


Force M.D.'S - Tender Love


 80年代後半からは、ジャネット・ジャクソン『Rhythm Nation 1814』(89年)に代表されるメタリックで攻撃的なファンクで、当時隆盛を極めていたニュー・ジャック・スウィングと拮抗。テディ・ライリー、LAリード&ベイビーフェイスとともに最前線のR&Bを牽引する裏方として、ニュー・エディションに続いて同メンバーのラルフ・トレスヴァントやジョニー・ギル、後にテリー・ルイスと結婚するキャリン・ホワイト、ボーイズⅡメンなどにも楽曲を提供した。その後も蜜月関係が続くジャネットとその兄マイケル・ジャクソンとの「Scream」(95年)も語り草だ。同時にザ・タイム再結成にも参加し、A&M傘下に設立したパースペクティヴ・レコーズからは同郷のサウンズ・オブ・ブラックネスなどを輩出。ここに所属したロー・キー?のメンバーやボビー・ロス・アヴィーラはジェームズ・“ビッグ・ジム”・ライトらとともにジャム&ルイスの懐刀として音作りを支え、重心の低いビートやメロディアスなグルーヴでサウンドを進化させていく。


Michael Jackson, Janet Jackson - Scream


 90年代後半から2000年代にかけてもメアリー・J.ブライジやマライア・キャリー、TLC、アッシャーなどをサポート。ベテランのキャリア更新にも手を貸し、バリー・ホワイト、パティ・ラベル、グラディス・ナイト、チャカ・カーン、ピーボ・ブライソンなどを、それぞれのシグネチャーを活かしながら手掛けてきた。そうしたキャリアの集大成と言えるのが、2021年に発表した初のリーダー・アルバム『Jam & Lewis: Volume One』であった。最近ではコメディ・ドラマ『帰ってきたお父さん』(2023年)のスコアを担当。初期に関わったシェリル・リンの「Encore」(83年)がTikTokのダンスチャレンジで人気を集めたことも記憶に新しい。


Cheryl Lynn - Encore


 そんな彼らがビルボードライブ東京/大阪に登場する。来日としては、かつて楽曲提供をした宇多田ヒカルのツアーにゲスト参加したことがあるが、ジャム&ルイス名義の公演は初めて。ライブ・パフォーマンスは、ザ・タイム時代から数多のステージをこなし、近年も本国のアワードなどでそれぞれキーター、ベースを弾きながらステップを踏む姿を見ることができたが、リーダー公演は本国でも珍しい。以前彼らと組んだルーベン・スタッダードや門下のシェレーエを含めて所縁の面々を帯同する今回の来日公演は、80~90年代を中心としたジャム&ルイス・クラシックを連発しながら、まだ誰も体験したことのない世界も見せてくれるはず。始まる前から伝説化が約束されているショウに胸が高まるばかりだ。