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<インタビュー>miwa ニューアルバム『7th』で伝える、自分らしく生きることの尊さ「どんな自分も自分自身」
Interview & Text:岡本貴之
miwaが、7枚目となるニューアルバム『7th』を5月29日にリリースする。そのものズバリなタイトルには、喜怒哀楽にとどまらない人間が持つ7つの感情のすべてを受け入れて、誰もが自分の道を自分らしく歩いていこうよという、肯定的なメッセージが込められている。その確固たる意志を象徴しているのが、1曲目の「GIRL CRUSH」だ。強烈なビートに乗せて歌い、ラップするmiwaの声からは、キャリア15周年を目前にして貪欲に時代の音を取り入れつつ、進化を止めないアーティストとしてのポジティブな姿勢が伝わってくる。音楽と言葉が持つパワーを余すことなく詰め込んだ今作について、新曲を中心に話を訊いた。
“自分自身は自分で染める”
――アルバムのリリースにあたって、かなりイメージチェンジしたビジュアルを打ち出しましたよね。驚いたファンの方も多かったのではないでしょうか。
miwa:そうですね。アルバムを出すということで、せっかくなのでアルバムを印象づけるような曲だったり、ビジュアルのイメージだったりを打ち出していきたいなと思って。ヘアメイクさんやスタイリストさんたちに「ハイトーンにするのはどうか」という提案をもらったんです。ジャケットの衣装に関しても、いろいろと相談させてもらってオリジナルで作っていただけることになりました。やっぱり、アートワークもアルバムのひとつの象徴だと思っているので、まずはアートワークを通して「miwaがアルバム出すんだな」っていうのをたくさんの人に知ってもらうことができたのかなと思っています。
――まさにビジュアルの印象が作品にも直結しているというか、1曲目でいきなりぶっ飛びました。
miwa:あはははは(笑)。ありがとうございます。
――アルバムとして、どんなコンセプトのもとにまとめたのでしょうか。
miwa:1曲目の「GIRL CRUSH」に象徴されるように、“誰にも染まらない”“自分自身は自分で染める”というコンセプトです。誰だって主人公だし、胸を張って自分の道を進んでいこうというメッセージになっていますね。今回は『7th』というタイトルなんですけど、「7」という数字にまつわる言葉ってたくさんあって。やっぱり「7」って、どこか特別な数字なんだろうなと思ったんです。「ラッキーセブン」や「虹色」ってイメージもあると思うんですけど、今回「7」についてどんな言葉があるか調べていたら、たくさんあった中に「七情」という言葉があって。人間には、「喜」「怒」「哀」「楽」だけじゃなくて7つの感情――「愛」「悪」「欲」という3つを加えて「喜怒哀楽愛悪欲」っていう7つの感情がある、という意味なんですけど、そういった自分のあらゆる面を受け入れて認めて、どんな自分も自分自身だから愛してあげる、っていう意味合いも込められたらいいなと思ったんです。それに1週間も7日間なので、そういった日常も大切にしてあげられるようなアルバムにしたいなと思いました。
――「GIRL CRUSH」には、〈誰だって主人公 ど真ん中を歩こう〉という歌詞がありますけど、こちらの勝手なイメージだと、miwaさんはデビューからずっと主人公のまま、ど真ん中を歩いてきているような印象です。でも、自分だけじゃなくて“誰だって主人公”なんだという、まわりを奮い立たせるようなメッセージが出てきたのはどうしてですか。
miwa:それはやっぱり、「自分らしい人生を自分で決めて、自分で歩んで行っていいんだよ」って意味合いを込めたかったからです。主人公って、本当にいろんなシーンがあって、いろんな面を見せてくれるものだと思っていて。もちろん人との関わりだったり、助けてもらったり、いろんなシーンがあるけれど、でもやっぱり主人公って最後は自分で決めて、自分で責任を持って突き進んでいく存在だと思うんですよね。自分で自分の人生を描いて進んでいけるような、みんながそういう勇気を持てるような曲にしたいなって思いました。
「GIRL CRUSH」LIVE Music Video(miwa Live Tour 2024 "7th") / miwa
人生の流れを表現した曲順
――今回のアルバムは17曲収録という結構なボリュームですよね。
miwa:これまで15年間活動してきたわけですけど、いま20代前半の子たちって、私がデビューしたときは本当に幼くて……それこそドラえもんの曲のとき(『映画ドラえもん のび太の宇宙英雄記』主題歌の「360°」/2015年2月リリース)は幼稚園児だったとかで、そこからファンになってくれた人もいるんだなと思って。そう考えると、どこかからファンになってくれた方やこれからファンになる方がさかのぼって活動を振り返ったときに、アルバムに曲を入れておくことで、アーカイブ的な存在にもなるかなと思ったんです。もちろんEPを買って聴いてくれていた方もいると思うんですけど、このアルバムで初めて出会う方とか、後々アルバムを振り返って聴いてくれる方たちにも楽曲が届くといいなと思って。この2年間の活動を集約するようなアルバムにしたくて、なるべくたくさん曲を入れたかったというのがまずあります。それでもやっぱりひとつの作品として、いい流れで曲順を組みたかったので、曲順にはかなりこだわって決めていきました。
――この2年間にリリースしてきたEPやシングルの曲も入っていますけれど、そういう曲たちと新曲5曲をどういう流れにしたんですか?
miwa:まずEPが、季節をテーマにした作品になっているんです。夏に『君に恋したときから』というEPが出て、バレンタインにスポットをあてた『バレンタインが今年もやってくる』という、バレンタイン・ソングが入っている冬のEPが出て。春は「ハルノオト」とか「Bloom」っていう春の曲があったりとか、秋は「月が綺麗ですね」に代表されるような秋の季語を使った『月に願いを』というEPを出したり……。そういった、四季をテーマにしたEPから人生を描いたアルバムへ繋げていけたらいいんじゃないかなと思って、曲順を組んでいきました。EPは結構コンセプチュアルにやってきたので、その流れをアルバムへ繋げられたかなと思っています。私の中ではこの一枚のアルバムが、恋をして、その恋が終わってという高校生っぽいターンで“ガールズトーク”して、大学生の時代があって、社会人で幸せになった……みたいな、そういう人生の流れを曲順で表せたかなと思っています。
――それで言うと、「GIRL CRUSH」は10代のギラギラした女性のエネルギーを歌っている?
miwa:いや、さっきの話の学生からの流れは「ハルノオト」から始まる感じです。あとは、「2月14日」「君が好きです」とか、そのあたりが割と若い視線で作った曲ですね。お互い「好き」って言えないんだけど、恋が始まる甘酸っぱさやキュンキュンが詰まった曲を前半に持ってきていて、学生の恋から人間愛みたいなものに繋がっていく流れで「こういうアルバムですよ」っていうことを示しています。アルバム冒頭の2曲、「GIRL CRUSH」と「BUZZ!!!」は、〈誰だって主人公〉とか〈きっと未来七色〉という、アルバムのテーマを掲げた曲です。
アルバム新曲は“リバイバル”
――「GIRL CRUSH」はビートも歌い方も強烈ですが、メロディやサウンドを作る上で、どんなイメージがありましたか。
miwa:新曲の5曲については、今私がハマっているK-POPやシティポップの延長にあるものをやりたいと思いました。今は本当に多様な時代なので、何のリバイバルをしても、何がトレンドっていうのがきっちりあるわけじゃなくて。アーティストによって捉えている時代もちょっとずつ違いますし、何をリバイバルしても今っぽくなるようなところもあると思うんです。もちろん、私がトレンドだなと思っているK-POPの世界観もそうですけど、今まで聴いてきた2000年代とか2010年代とかのリバイバルをしてもいいかもね?みたいな話をしながら作りましたね。
――今おっしゃったように、K-POPのテイストがあって、グループで歌っているようなイメージすら湧きましたけれども、曲の中での歌い方の違いなど、意識したことはありますか。
miwa:「GIRL CRUSH」は、初めてラッパーの心之助さんにラップ部分のメロディとリリックを書いてもらっているんです。今までは自分で何となくメロラップをしていたんですけど、本格的にラップにも挑戦しているところが新しいチャレンジかなと思いますね。「BUZZ!!!」は、今時っぽい曲を書きたくて作りました。アルバム曲っぽい、普段やらないようなアプローチで書きたいなと思って自由に書いていった楽曲なので、言葉遊びもしたくて、私が好きな韓国語を入れたりとか、あえてサビも全部英語にしてみたりして。結果的に3か国語をそれぞれのパートで使っている面白い曲になりました。
――「BUZZ!!!」を手掛けている96Savageさんは、フジテレビ『すぽると!』テーマソングとしてリリースされた、佐久間みなみ feat. miwa「Our Time」でも作曲に共作クレジットされています。そこからの流れで参加されたんですか。
miwa:そうです。『すぽると!』の話が先にあって、そこで初めて出会いました。曲を作り終わってから、私もアルバムの制作があるので「アルバム曲もやりましょうか」という流れでご一緒しました。
――ライブで、みんなで踊るようなイメージも浮かぶ曲ですね。
miwa:それこそ「バズる」っていう言葉がある曲なので、「SNSを使って何かできたらいいね」なんて話をしていたんです。振り付けとか短いショート動画とかあっても楽しいねって。今の自分の中で流行っている感情じゃないけど、恋心が自分の中で爆発するような気持ちを、恋と絡めて“バズる”みたいに言えたらいいなと思って書いたんです。それを現実世界でも、TikTokやYouTube、Instagramとかと連動できたらいいなと思っていて。サビには、InstagramやYouTubeの決めゼリフを遊び心で使っています。
―― 一方で、「oARTo」(アート)はSNSへのアンチテーゼ的な歌詞が対照的です。
miwa:音楽や芸術って、どういうところから生まれて、どんな感情であったらいいんだろう?という気持ちがあって。怒りの感情とかもいつ生まれてどこにぶつけてとか、そういったものを何か集約して、“アート”っていう曲に落とし込めたらいいなと思って作っていきました。
――タイトルはちょっと変わった表記の仕方ですけれども、これはどんな意味があるんですか?
miwa:そこは解読していただきたいところです(笑)。
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やっぱり曲って、育っていくと思う
――なるほど、そこは聴く人それぞれが読み取る楽しさを残しているということで。この曲はバンドでの再現も想像できるんですけれど、新曲の5曲は打ち込み色が強いですよね。その辺はどのように考えてらっしゃいましたか。
miwa:EPの曲たちがわりとアコースティックなサウンドだったり、テンポが速くない曲が多かったので、アルバムの新曲に関してはライブで歌って楽しんだり、アルバムを聴いたときに楽しめるセクションになるようにアップテンポなものを作ろうと考えていました。
――そんな中で、「キミはナガレボシ」はとても温かみのある優しい印象の曲ですが、どんなきっかけでできた曲ですか。
miwa:恋が生まれる瞬間を捉えたいなと思って書いた曲です。流れ星が降ってくるみたいに突然気づくみたいな、突然その人の大切さに気づいたり、自分の心の中に突然その人が入ってきたりするような、そういう感覚を流れ星にたとえて言えたらいいのかなと思いながら作っていきましたね。
――2番の〈願い事ひとつだけでさらに〉から始まるメロラップ調のパートが良いアクセントになっている気がします。
miwa:最近の曲って、バースを繰り返さないものが多いなと思っていて。1番のフックが終わったら、その後は違うセクションというか、ラップみたいなセクションに行くことのほうが多いと思うんです。それで1番のバースに戻るんじゃなくて、2番は別のセクションに進んでいくみたいな意識で作っていきました。
――最後の「7days」にはラッパーのRude-αさんが作詞作曲に参加していますが、どんなご縁があったのでしょうか。
miwa:この曲もラップのセクションを入れたいと思っていたんです。「GIRL CRUSH」のほうが先にできていたんですけど、違う人にも頼んでみたいねっていうなかで、Rude-αさんの名前が挙がってきて。私もRude-αさんの楽曲で好きな曲があったので、すごくいいなと思ってお願いしてみたら受けていただけることになって、一緒にセッションしたという流れです。
――この曲は最初からアルバムの最後の曲として作ったんですか?
miwa:最後の曲として作ったわけじゃないんですけど、結果的にこの曲がアルバムのいちばん最後に作った曲になりましたね。
――この曲も、ライブでお客さんと一緒に踊れるような曲ですよね。新曲を作るときに、お客さんの姿が常に浮かんでいるのかなと感じました。
miwa:そうですね、やっぱり曲って育っていくと思うので。ライブでやって楽しい曲だとか、お客さんにも楽しんでもらえるような曲にしたいなっていうのは、頭の片隅にイメージとして必ずある感じはします。
―― 一方で、お客さんがじっと集中して聴き入るような曲も多いですけれども、たとえば「それでもただ」はどんな気持ちで歌っておられますか。
miwa:(曲の)テーマが“ありのままを肯定する”なので、その人らしさや自分らしさを肯定できるような強さや深さを持っている曲だなと思います。なので、歌うときも今までと違うというか、メッセージがひたむきに、まっすぐに届くように、歌詞が持っている熱量のまま届くように歌っています。
それでもただ / miwa
最終の段階まで責任を持って、自分たちが良いと思うものを届けたい
――近年はサブスクで1曲ずつ聴く聴き方がリスナーに浸透していますが、miwaさんの中で、アルバムという作品の立ち位置は変わらないですか。
miwa:作る側としては変わっていないですね。というのも、私はミックスにもマスタリングにも立ち会って、基本的にはアルバムをCDで一枚通して聴く人のために最終仕上げをしているんです。その後の配信に関しては、ちょっともう私たちの手の届かないところというか……規格によって、マスタリングとかは聴く人側の音質、環境とかによるところもあると思うんですけど、私たちがコントロールできて、ちゃんとその責任を持って届けられるところというと、やっぱりCDになると思うので。そこには最終の段階まで責任を持って、これが“リスナーに届く”作品として、きっちり自分たちが良いと思うものを届けたいなっていう思いでやっているんです。そこはずっと変わらないですね。
――17曲の中で、アタックの強い曲からストリングスの入った柔らかい音の曲まで、曲によってだいぶニュアンスも違うと感じます。それをアルバムとして統一感のある音に仕上げるのは大変だったのでは?
miwa:やっぱりマスタリングはかなり大変でした。事前に(音データを)送ってもらって聴いたりして。どの曲も良く聴いてもらいたいっていう思いがあるので、スタジオで結構時間をかけてマスタリングして、1曲目から最後までどの曲も気持ちよく聴ける状態にしています。
――フルアルバムとはいえ、17曲って時代を問わず相当多いほうですよね。
miwa:相当多いなと思いながら作ったら、テイラー・スウィフトのニューアルバム(『ザ・トーチャード・ポエッツ・デパートメント』)が31曲だったので(笑)。「想像を超えてくる」っていうところで、17曲は聴いてもらいたいですね。
――初回限定生産盤には【miwa -39 live- 2024 "sing dance enjoy!”】のライブ映像が収録されたBlu-rayが付属します。振り返ってみてどんなライブでしたか。
miwa:【39 live】は、みなさんに感謝の気持ちを伝えるために“いかに楽しんでもらえるか”を考えるライブで、映像があったり、過去には抽選会でプレゼント企画があったり、クイズ大会があったりと、楽しんでもらうためのいろんな企画をやっているんです。今回は7年ぶりの開催だったので、初めて来る方もいただろうし、ずっと待ち続けてくれた方もいると思って。その期待に応えるために、ドラムチャレンジでサザエさんの格好をして、ドラムを叩きながら「サザエさん」を歌ったのがいちばんのハイライトになっているんじゃないかなと思います。それと、過去の【39 live】でもやったんですけど、お客さんをステージに上げて一緒にダンスメドレーをする企画もありました。あと、ライブ映像って普通は無駄なMCをカットすることが多いんですけど、今回は無駄なMCがダラダラと入っておりますので(笑)、ライブに来れなかった方にもライブそのままの雰囲気を味わっていただけると思います。バンドメンバーとのわちゃわちゃしたやり取りも含めて、【39 live】の楽しい雰囲気を見てもらえたら嬉しいですし、来てくれた方にも、もう一度あの日を振り返って楽しんでもらえたらいいなと思います。
――5月17日からは、【miwa Live Tour 2024 "7th”】が東京・Zepp Divercity (TOKYO)を皮切りに、福岡、大阪、愛知の4か所で開催されています(※取材はツアー開催前、5月上旬に実施)。どんなライブになりそうですか。
miwa:4公演しかないのであっという間に終わっちゃうとは思うんですが、ライブでアルバムの曲をとっても楽しく披露できそうで楽しみです。アルバムのツアー自体が久しぶりなので、「ありのままを肯定する」という、アルバムの全曲に入っているメッセージを届けられたらいいなと思っています。
――来年、2025年にはデビュー15周年を迎えますが、今後はどんな活動を考えておられますか。
miwa:10周年(2020年)のときはコロナ禍でイベントとかを実施できなかったので、そのぶん15周年は盛大に、みなさんと一緒にこの15年間を振り返るような企画を準備しています。デビューの頃からのファンの方にも、どこか途中で知ってファンになってくださった方にも、改めて振り返りつつ、これからの景色を一緒に描いていけるような、そんな企画をいろいろと用意しています。
――今、miwaさんが音楽に持っている夢や実現したいことはどんなことでしょう?
miwa:音楽の聴き方も多様になっているし、SNSなどで世界中と繋がっている時代と思うので、もっとグローバルな活動をしていきたいなと思っています。今後の15周年に向けた活動もその中に入っていますね。以前、サウジアラビアでのフェス(【Anime Village(Jeddah Season 2022)】)や、パリの【JAPAN EXPO 2022】、ロサンゼルスの【Anime Expo】に出演したんですが、日本のJ-POPのカルチャーやアニメ文化が世界ですごく受け入れられていることを感じました。海外でのライブもすごく楽しいんです。台湾でイベントに出たこともあるんですけど、(現地の)ファンの方がすごい声援で待ってくださっていたり、温かい空気があって。また行きたいですね。日本だけじゃなくて、いろんなところで活動してみたいなと思います。
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