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<コラム>aiko チャートでも大躍進の新曲「相思相愛」が描く、人々の共感を呼ぶ心の機微
Text:岡本貴之
aikoの新曲「相思相愛」が耳から離れない。イントロなしで〈あたしはあなたには なれない なれない/ずっと遠くから見てる 見てるだけで〉と歌い出すと、ミディアムテンポでゆったりと、どこか淡々と言葉を重ねるaiko。「相思相愛」という言葉が持つ幸福なイメージを浮かべながら曲を再生したので、一瞬「えっなんで?」と思ったが、そこはさすが百戦錬磨のシンガーソングライター。グッと人を引き寄せる曲の構成とテクニックに感嘆しつつ、歌の世界にどっぷりと浸った。第一声ですぐにaikoだとわかる歌声と表現力、聴く者それぞれの情景を思い浮かべることができる歌の描き方は、まさに彼女の真骨頂といえる。
タイトルの「相思相愛」は、歌詞には一度も出てこない。言葉通りの意味ではなくて、片想いの歌にも聴こえる箇所もあるし、人として相手を尊重する気持ちと愛情を求める気持ちのもどかしさを、現在進行形の恋愛でお互いを想う気持ちのすれ違いを憂いているようにも聴こえる。また、〈地球〉〈宇宙〉〈本当は無い世界〉〈本当は無い暗闇〉といった言葉で、自分と誰かを繋ぐ何かを求めて手探りしているのかもしれない。こうした様々な想像ができるからこそ、「相思相愛」というタイトルがより一層意味深に感じられる。
同曲は、2024年5月8日に発売された45作目のシングル『相思相愛』の表題曲であり、劇場版『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』の主題歌として、映画公開日の4月12日に先行配信がスタートした。aikoにとって、「名探偵コナン」とのタッグは初めてとなる。今年3月1日に行われた10年ぶりの東京・日本武道館ワンマンライブ2日目のMCでは、主題歌を担当することになった経緯についてのエピソードも披露。「名探偵コナン」側のスタッフから、「aikoさんが曲を書いてくれたら、どんな曲でも構いません。aikoさんが書いた曲が良いんです」と依頼されたことを明かし、「嬉しかったです。楽しみにしていてほしいです」と語っていた。果たして『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』のどんな場面でこの曲を聴くことができるのか? 実際に映画を観てきたのだが、これ以上ない最高の場面で曲が流れてくる。アーティストにとって、全幅の信頼の元に自由に曲づくりできることは、大きな喜びであると共に、いかに自分らしさを出しつつタイアップ作品と向き合うかという、プレッシャーもあるのではないだろうか。そういう意味で、「相思相愛」は、見事にその役割を果たしている。これは是非、劇場に足を運んで確かめてみてほしい。
劇場版『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』×aiko「相思相愛」スペシャルムービー
さらに、4月15日に公開されたMVにも注目が集まっている。ロケ地は、伊丹空港から離発着する飛行機を間近で見ることができる、大阪府豊中市の千里川土手。aikoの頭上を飛行機が飛んでいく迫力の映像、煌びやかな空港の夜景、機内に佇むaikoの姿などが映し出されている。曲、映画、MVを個別に楽しむも良し、それぞれの結びつきを連想しながら楽しむのも良しだ。
相思相愛 / aiko
aikoの楽曲といえば、バラードでもロックチューンでも、曲ごとに歌声を支える繊細なサウンド・プロダクションもリスナーにとって楽しみのひとつ。編曲を手掛けているのはトオミヨウだ。歌い出しのピアノから、軽やかなオルガンの音色を中心としたバンドアンサンブルで、ところどころのキメも歌にピタリと寄り添い、歌と演奏が混然一体となって感情表現しているところが素晴らしい。切なくもふつふつと力強さも感じられる楽曲となっている。また、シングルCDには「相思相愛」とそのインストゥルメンタル・バージョンのほか、アップテンポのポップソング「まさか夢」、小気味よいギターがリードするメロウチューン「あなたは優しい」の2曲も収録。いずれも、今のaikoの創作活動が充実していることが伝わってくる楽曲となっている。
そして、「相思相愛」はチャート・アクションにおいても特筆すべき動きをみせている。Billboard JAPAN 総合ソング・チャート“JAPAN Hot 100”で初登場46位(2024年4月17日発表)を記録したのち、翌週4月24日発表チャートでは9位と、シングル表題曲としては2020年10月リリースの「ハニーメモリー」以来となるトップ10入りを達成。さらに、CDリリース後初週となる5月15日発表チャートではさらに順位を上げ、7位を記録した。
【ビルボード】Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」通算15度目の首位、&TEAM「五月雨 (Samidare)」が続く(5/15訂正) https://t.co/JXavSZyqZk
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) May 15, 2024
なかでも注目したいのはストリーミングおよびダウンロードの動きで、ストリーミングは週を追うごとに右肩上がりで増加。Billboard JAPANのストリーミング・ソング・チャート“Streaming Songs”では、最新の5月15日発表チャートで7位と、自身最高位を更新し続けている(なお、これまでのaiko楽曲のストリーミング最高位は「カブトムシ」の17位であった[2020年3月11日発表チャートより])。またダウンロードも、一度チャートイン2週目の4月24日発表チャートで最初のピークを記録したのち、ゴールデンウィーク期間中の集計となった5月8日発表チャート(集計期間:2024年4月29日~5月5日)ではふたたび増加傾向に転じたなど、根強い人気を示している。
今年でメジャーデビュー26年目、シングル『相思相愛』で聴くことができるaikoの表現は、時代と共に音楽のトレンドが変わっても微塵も揺るぐことがない。それは、人々が日々の生活の中で感じている“心の機微”を優しく丁寧に歌い続けているからに違いない。そして、ライブでエナジー全開に駆け回りながら歌う姿は、いつも明日への活力を与えてくれる。これからもaikoの歌声は、世代や性別を問わず多くの人の心を震わせていくはずだ。
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