Special
<インタビュー>ポルノグラフィティ流“ファイトソング”から幕開けた25周年イヤー「過去の自分たちのことも、これから先の時間も大事にしないといけない」
Interview:もりひでゆき
メジャーデビュー25周年を迎えるポルノグラフィティが、「解放区」を3月27日にリリースした。
表題曲となる「解放区」は、新藤晴一が作詞、岡野昭仁が作曲を手がけており、困難な時代でも楽しむことができ、暗闇の中でも生きる灯火を見つけられるというメッセージが込められた、ポルノ流のファイトソングとなっている。また、パッケージには、2023年の広島サミット応援ソング「アビが鳴く」や、同年に開催された日本武道館ライブ【18th ライヴサーキット“暁”】での披露から待望のリリースとなる「OLD VILLAGER」を収録。そしてYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』で披露した「THE DAY-From THE FIRST TAKE」「アゲハ蝶-From THE FIRST TAKE」も収められる。
今回はそんなポルノグラフィティの2人にインタビューを敢行。収録曲についてはもちろん、厳島神社で行ったTikTokライブについてや、25周年を迎える今の心境、そして2人が見据える未来についてまで話を訊いた。
光を拒絶した暗闇の世界でも響く曲があるはず
――アリーナツアー【19th ライヴサーキット“PG wasn't built in a day”】ではすでに披露されている新曲「解放区」。晴一さんは今作を“ファイトソング”と称していますが、25周年を迎える今年一発目としてなぜそういった楽曲をリリースしようと思ったのでしょうか?
新藤晴一:25周年ということもあったし、ツアーで先行して披露することが決まった状態で制作をスタートしたので、そこであんまり暗い曲を作るのもなんだよなという思いがまずありましたよね。歌詞を書く身として一番大きかったのは、昨今の日本の状況かな。自分が生まれ育ってきた流れを振り返れば、昔の日本にはイケイケドンドンでちょっと浮かれてる感じの時代があったわけですよ。
――いわゆるバブルの時代ですよね。
新藤晴一:そう。CDがめちゃくちゃ売れるみたいな状況も含め、そんな時代性を子供ながらに感じていたし、その残り香の中でポルノとして活動を始めた事実もあったりする。でも今の日本はそういう状態じゃないでしょ。単純に“朝日が見える”とか“光が射す”みたいなオチを用意した曲を作れる状況じゃないというか。だったら、そんな中でも響く曲もあるはずだよなと思ったのが作詞をする上での最初の起点でしたね。
ポルノグラフィティ『解放区』MUSIC VIDEO
――光を拒絶した暗闇の世界において生きる希望を見出しながら強く生きて行く者たちの姿を描いた本作は、まさに現代を生きるすべての人にとっての“ファイトソング”と言えるものだと思います。応援歌であることは間違いないですが、その書き方は他に類を見ない、実に晴一さんらしいものですよね。
新藤晴一:そこも25周年ということが影響していたのかもしれないけど、今回は自分の色を出すことをいつも以上に強く思っていたような気もしますね。大サビのところの歌詞なんかはまさにそうですよね。
――“たとえわずかな一歩でも 進むことだと 光の国では言うだろう”“それさえできない夜はここにおいで”のところですよね。ある種、やみくもに光のある場所に導こうとする応援歌へのアンチテーゼのようにも受け取れますし、“それさえできない夜は”のラインからはポルノの深い優しさを感じました。
新藤晴一:僕はそもそも理由もなく背中を押してくる歌があまり好きじゃないですからね(笑)。25年やってきた中で自分の好きどころみたいなものはわかってきているので、それが今回は強く出たっていう。“朝日”みたいなわかりやすいワードではなく、“ファイヤーワークス”とか“ライト アップ サファリ”とかなんだかよくわからないけどキラキラしている、ポジティブに感じられるワードを選んだのもこの曲の特徴になりましたね。ちょっと幻想的な世界観になったのは、ギターのリフとかアルペジオとか、そういったサウンドに導かれたところもあったんだと思います。
――作曲は昭仁さんですね。
岡野昭仁:はい。去年、自分の中の価値観をアップデートしたくてスペインに行ったんですよ。一昨年に父が亡くなったりとか、今年で自分が50歳になるとか、そこにはいろんなきっかけがありました。さっき晴一が言ったような今の日本の状態っていうものは、一度外に出てみないとわからないよなっていう思いもあったし。まぁそこでの経験で何が変わったかはまだわからないですけど、25周年に出す曲、しかもツアーで初披露する曲としてはスケール感の見える深さを持ちつつも、シンプルでストレートな曲がいいんじゃないかなと思ったんです。そんな思いを持って、スペインで作ったのがこの曲で。
新藤晴一:曲出しでデモを聴いたとき、サビがいきなり跳躍してるからね、そのスケールの大きさみたいな部分はすごく感じましたよ。スタジアムロック的な空気感がデモの段階からあった。そのイメージはアレンジによってさらに強くなったんだけど。
岡野昭仁:アレンジはtasukuくん。かなり密なやり取りをして作っていったんですよ。シンプルなものの上に何を重ねていけばいいのか。ギターのフレーズはもちろん、上物としてパッドを重ねてみようかとか、スパイスとしての音の足し方みたいなことのひとつの答えみたいなものがこの曲を通してわかったような気がします。今回は晴一ともけっこうやり取りしたところもありましたね。いつもはあんまり言わないんだけど、「ここの歌詞は英語じゃないほうがいい」とか、いろいろリクエストしたりとか。
新藤晴一:うん。そのリクエストに応じて書き直していくっていう。基本は譜割りに関することが多かったですけどね。作曲者として大事にしているところや、ボーカリストとして歌いやすいところの優先度を上げていく作業です。
岡野昭仁:今回は制作に使える時間がけっこうあったので、tasukuくんや晴一とそういうやり取りを細かく突き詰めてできた。その作業は大変ではあったけど、すごく有意義なことだったなって思いますね。その作業を通して、自分の中に歌の表現がいくつも用意されていったので、実際のレコーディングでは表現のチョイスや気持ちの持っていき方が早かったところもあったし。
――シーンごとに昭仁さんのボーカルは表情を変えていきますよね。それがストーリー性の強い本作の世界観を見事に表現していて。
岡野昭仁:構成もシンプルだし、コード進行もほぼワンループというか、大サビで変わっているくらいなので、ボーカルで表情をつけないと曲の中での起伏が作れないなと思って。表現に関してはいろいろ考えたところもありましたね。最初のサビがストンと落とす感じになっているのも、僕らなりに新しいことができたような気もするし。まぁそこに関してはボーカリストというよりは、作曲者としての視点の方が強いんですけどね。
――ライブでいち早く披露してみて、いかがですか?
岡野昭仁:レンジ的に、またしんどい曲作っちゃったなっていうのはあるかなぁ(笑)。でも、そこに込められたメッセージも含め、みなさんがしっかりと受け取り、喜んでくれていることは伝わってきているので、それは純粋に嬉しいことです。
新藤晴一:演奏していても気持ちいいですしね。今後のライブにおいても、いいパートに置けそうなアレンジを持つ曲だと思うし。
――シングルの2曲目には「アビが鳴く」が収録されています。この曲は昨年開催されたG7広島サミットの応援ソングとして書き下ろされたものですね。作詞は晴一さん、作曲は昭仁さんが手がけられています。
新藤晴一:戦争や平和に対して歌詞を書くことは自分にとってものすごいプレッシャーだったし、それが書ききれたかどうかはまだわからないかな。そのテーマをズームアップしすぎるとポップソングが扱えるものではなくなってしまうし、かといってズームアウトしすぎると意味がわからなくなってしまう。その塩梅が難しかったです。
岡野昭仁:作詞をするのは本当に大変だろうなって、側にいて感じていました。戦争とか平和というものは自分たちでは受け止めきれないほどに大きなテーマだから。ただ、広島サミットというきっかけでそこに一歩踏み込むことができたのはよかったと思うし、そうすることが音楽をやっている自分にとってのひとつの役目なのかなって思えたところもありましたね。
――2024年9月8日には広島県の厳島神社でTikTokライブが行われました。そこでも「アビが鳴く」が歌われていましたが、本当に素晴らしいライブでしたよね。
岡野昭仁:いやーあのライブは本当によかったですね。
新藤晴一:厳島神社でライブをやらせてくれるんだっていう驚きもありつつ。でも、ライブじゃなくて奉納なんですよね。音楽を奉納するっていう。そういう形式がすごく新鮮でもあった。ポルノグラフィティという名前で音楽を奉納するのか……っていう気持ちもありつつ(笑)。でも本当に厳かな気持ちで向き合うことができましたね。
岡野昭仁:それこそ何千年もの歴史を持つ場所だから特別な力があるんですかね、自分としてもすごくいい歌が歌えた実感があったんですよ。何かに乗せられるような気持ちで歌えたというか。これまでの活動の中では大概のことはやらせてもらいましたけど、デビューから丸24年を迎えたタイミングで、あの厳島神社で歌わせてもらえたっていうのは本当にすごいことだなと。いい景色を見させていただきました。
ポルノグラフィティ『アビが鳴く』Live at 嚴島神社
――3曲目に収められた「OLD VILLAGER」は、【18th ライヴサーキット“暁”】のファイナルとなった昨年1月の日本武道館公演2デイズでのみ披露されていた楽曲ですね。待望の音源化です。
岡野昭仁:この曲はまずtasukuくんにギターロックをイメージしたトラックを作ってもらい、そこに僕がメロディをつけていきました。最近はギターソロがないとか、ギター自体が鳴らない曲が多いという時代ですけど、僕の根本には原体験としてギターロックが今も存在しているので、そういう曲をあらためて歌いたいと思ったんですよね。
――晴一さんが手がけた歌詞は、世にはびこる様々な“予定調和”にモノ申してる感じで。
新藤晴一:ディストーションギターが鳴ってる曲なんでね、そこに乗せる歌詞としてどんな感情を描くかっていうと、まぁだいたい怒りになってきますよね(笑)。サウンドに寄せて選んだベクトルではあるけど、あらためて見返してみると今と昔の価値観の違いみたいなものが影響している歌詞ではあると思う。昔の価値観が悪いかっていうとそういうわけではないけれど、でも今からすれば古いものではあるよねっていう。そういう内容です。
――ある種、自嘲的に“生きる伝説”って言っているのがシニカルで晴一さんらしいところですよね。
新藤晴一:別に自分たちのことを言っているわけではないんだけど、今の音楽チャートを眺めたりすると昔との変化はすごく感じるし、僕らは僕らの信じることしかやってないよなぁっていう思いは無きにしも非ずなので、そのへんのニュアンスが出ちゃってるんだろうなとは思います。
――この曲のボーカルにも多彩な表現が盛り込まれていますよね。
岡野昭仁:そうですね。若い頃の自分には、いわゆるロックボーカリスト然とした、しゃがれた声でがなるような歌い方ができないことへのコンプレックスがあったんですよ。でも、キャリアを重ねて行く中でそういった表現が少しできるようになってきたなという思いもあるので、それをふんだんに盛り込みたかったんでしょうね(笑)。もちろんメロディと歌詞の雰囲気に合う表現をすることが大前提ではあるけど、自分なりに強弱をつけた歌い方ができたと思います。
10年後も15年後も楽しんでいられたら
――そしてシングルには『THE FIRST TAKE』で披露された「THE DAY -From THE FIRST TAKE」「アゲハ蝶-From THE FIRST TAKE」の2曲も収録されています。どちらも新たなアレンジが施されていますね。
岡野昭仁:「アゲハ蝶」のアレンジも江口(亮)くんがやってくれたんですけど、大変だったと思いますよ。「すごいプレッシャーだった」って言ってましたし。
ポルノグラフィティ - アゲハ蝶 / THE FIRST TAKE
――ポルノの代名詞とも言える大ヒットナンバーですからね。
岡野昭仁:本間(昭光)さんによるレベルの高いオリジナルをリアレンジするわけですから。1か月くらいずっと胃が痛かったって(笑)。でも本当にいいアレンジに仕上げてくれましたね。おもしろい解釈の「アゲハ蝶」になりました。
新藤晴一:もう1曲の「THE DAY」はストリングスと一緒にやったんだよね。元がロック然とした曲だから、アレンジを変えるならアコースティックな感じになるのかなって勝手に思ってたんですよ。だから、「そうなんだ。こういうアレンジにするんだ」ってすごく思った。この曲もまた独特な解釈がおもしろかったです。
ポルノグラフィティ - THE DAY / THE FIRST TAKE
――ポルノは今年の9月8日で25周年を迎えます。その日が刻一刻と近づいてきていますが、実感も高まってきてます?
新藤晴一:長いことやってるなっていうのは、ようやく実感という意味で思えてきましたね。15年とか20年のときはそんなに思わなかったけど、流石に長いことやってるよねっていう。だってね、これまでとまったく同じペースや規模感で倍の年数はもうきっとムリでしょ。そういう意味では、過去の自分たちのことはもちろん、これから先の時間も大事にしないといけないなってすごく思いますよね。
岡野昭仁:デビューした頃は25周年なんて遠い未来の話だと思ってましたから。それが今、目前まで来ているっていう事実に驚きます。でもね、音楽的な挑戦をしながら20年目までは必死に走ってきましたけど、ここ5年は気持ちがシンプルになったところもあって。応援してくれるたくさんの人たちがいるという礎を確認できたうえで迎える25周年だから、気持ちはすごく穏やかで安心感があるし、純粋にありがたいなって思える自分がいますよね。
――ここから先の未来について何か思い描いていることはあります?
新藤晴一:どうかなぁ。あと5年経ったら30周年だなってことはわかります。
――あははは。数字的にはそうですよね(笑)。そこでの自分たちの姿を想像したりは?
岡野昭仁:昔はいつか終わりが来るものという思いをもって活動してたような気がするんですけど、今はまったくそういうことは考えないんですよ。当然、命は有限ですから、終わりを迎える日はいずれ来ることになるんでしょうけど、今はこのありがたい人生を全うすることしか考えられない感じですよね。
新藤晴一:この先、10年後も15年後も楽しんでいられたらいいですよね。デビューの頃はポルノの中に自分の生活があったけど、大人になった今は生活の中にポルノがあるんですよ。そこが大きく違うところ。そういう意味では、自分の人生を豊かにするものとしてポルノをやることはすごく重要なこと。この先もずっとそういう思いでいられたらいいなと思っています。
関連商品