Special
<インタビュー>TRF YU-KIが今振り返る、デビューから30年の歩み――「今」歌いたかった過去曲への想い、そしてこれからへの希望
Interview:藤井美保
TRFが、デビュー30周年イヤーを記念したボックス作品『TRF 30th Anniversary “past and future” Premium Edition』を3月20日にリリースした。最新曲「TRy the Future」や、ボーカルのYU-KIがセレクトし、リテイク&リアレンジされた過去曲6曲も初収録する同作は、CD3枚、Blu-ray3枚からなる大ボリュームに仕上がっている。そこでBillboard JAPANでは、ボーカルのYU-KIへインタビューを実施。先のリメイク曲のことはもちろん、デビュー30周年を記念し2月18日に開催された東京・日本武道館公演のこと、さらにはTRFとして駆け抜けた30年間についてまで、たっぷり語ってもらった。
武道館公演を振り返って
――まず、30周年の締めくくりとして行われた日本武道館公演【TRF 30th Anniversary Live at 日本武道館 「past and future.」】について聞かせてください。解き放たれた表情で自由に歌うYU-KIさんの姿が、とても印象的でした。
YU-KI:ありがとうございます。実は、あの4~5日前に突然喉がおかしくなって、当日まで歌わず、当日まで全力で治療に専念していました。声が割れて、ファルセットもうまく出なくて。ここで試練を与えられるのか、と思いましたし、ピリつかないわけはないんですけど、なぜか落ち込みはしなかったんです。
――声、本当に伸びやかに出ていました。
YU-KI:そうなんですよ。自分でもびっくりしました。ファルセットを多用して表現したいバラードでは、最悪そこを地声でいく作戦も考えていたんですけど、結果的に当初のプラン通りファルセットを生かした形にできました。TRFのファンの方は本当にマナーがよくて、静かに待って耳を傾けてくださるんですね。そのおかげもあって、落ち着いてゆったりと歌うことができました。
――長い時間を共有してきた人たちだからこその温かい空気が漂っていました。
YU-KI:直前までバタバタだったので、私自身は、本番のスイッチを入れてもどこかフワッとしているという、体験したことのない心地でした。しっかり準備していたはずのMCが「あれ、なんだっけ?」と飛ぶ場面もあったり(笑)。でも気負わずにいられたのがよかったみたいで、多くの方が「すごく身近に感じた」と言ってくださいました。結局、自分を信じてあげることしかないんだなと、改めて感じましたね。記念の一夜に最善は尽くせたので、心底ホッとしています。
――30周年は、10周年や20周年の時とはやはり違いますか?
YU-KI:10周年では「10年しか経ってない。まだまだだ」が、20周年では「継続できていてありがたい。学ばなきゃ」と変わり、その「学び」は30周年を過ぎた今も続いていますが、「ああ、長くやってこれたんだな」という感慨は、やはりひとしおです。あっという間とは言わないまでも、体感的にはものすごく早い30年。でもその時間のなかで、当時のファンの方たちが、今度はお子さんと一緒にTRFを愛してくれるようになって、学生さんたちが学校の体育祭などでTRFを踊ってくれるようにもなった。今こうして活動を続けられていることが、しみじみとありがたいと思います。
何度も何度も失敗を繰り返したことが、今となっては私の強み
――ここからはTRFの歴史をYU-KIさんの視点で辿らせてください。始まりは、YU-KIさんがとあるダンスコンテストで小室さんにスカウトされたことにありました。当時、こんな未来があるとは思っていましたか?
YU-KI:いや、もう、全然想像していませんでした。新しく作るユニットの構想をいきなり説明されて、「そのボーカルをやってほしい」と言われたんですけど、その段階で小室さんは私の歌すら聴いていないんですよ(笑)。だから、「歌聴かなくて大丈夫なのかな?」としか思えなくて。
――その頃、YU-KIさんご自身はどんな夢を持っていましたか?
YU-KI:それが、特になかったんです。そのコンテストも、大好きな先輩に誘われたから出たというだけでした。ただ、音楽はずっと好きでやっていて。小学生の頃はピアノを、中高では吹奏学部で、木管、金管、パーカッションとひと通り経験しました。一方で運動も得意だったので、バスケに進もうかなと思った時期もあったりして。
――ある意味モラトリアムな時代から、突如プロとしてフロントに立つ運命を背負ったわけですよね。そのプレッシャーは計り知れなかったと思うのですが。
YU-KI:私自身に歌の経験がないばかりか、当時は事務所のスタッフも素人に近かったので、デビュー前にボイトレを受けさせる発想もないわけです。それでも作品のリリースは確定していくので、次々とレコーディングをしなきゃならない。「曲できました」「覚えます」「歌録ります」の繰り返しでした。初期には英語バージョンを別に作るということもけっこうあったので、相当な物量。そのどれもを期日までにやり遂げなければならないので、プレッシャーを感じないはずはないんですけど、ひしひしと感じている暇がなかったんですね。いちばんキツかったのは、TRFはエイベックスの第1号アーティストなので、わからないことを聞ける先輩がいないということでした。
――そうでしたか!
YU-KI:現場で飛び交う専門用語も全然わからなかったんですけど、それを恥ずかしいと思う暇もないので、レコーディングでもライブでも、エンジニアさんを捕まえては質問しまくっていました。歌うときの音の聞こえ方の調整とか。五感をフル回転させて状況判断をして、あとはもう自分なりに知恵をつけていくしかなかったんです。もちろん、何度も何度も失敗を繰り返しました。今となっては、それが私の強みですね。
――経験に裏づけられた頼もしさを感じます。
YU-KI:イントロがないということも、相当のプレッシャーだったんですよ。
――たしかに、「寒い夜だから・・・」も「survival dAnce ~no no cry more~」もイントロがないですね。
YU-KI:まず「キー、どうやって取ればいいの?」って思いました。毎回そこを瞬発力でクリアして、スコーンとアタックをつけて歌い出さなきゃならない。なかなかの大変さでした(笑)。しかも、小室さんは「こうしてね」ということは何もおっしゃらないんです。こうやって話していくと、いろいろ思い出しますね。
――明日が見えないくらい多忙を極めていたとお察しします。
YU-KI:たとえば、新曲の取材スケジュールが入るとしますよね。失礼な受け答えはしたくないから、前日に準備したいんです。でも、準備しようにも音があがってこない。仮歌のままの音を媒体の方に聴いていただいて、インタビューに臨むこともしばしばでした。音の完成形を、常に自分なりに妄想しまくって質問に答えるという状態。取材する側も大変だったと思います。
――当時のあるあるですね(笑)。さて、メンバーとの関係性ですが、DJ KOOさん、SAMさん、CHIHARUさん、ETSUさんとは、結成時が初対面でしたか?
YU-KI:はい。その時点で、私以外のメンバーはもうそれぞれスペシャリストだし、個性も際立っていました。当然お互い戸惑いだらけでしたし、それぞれに苦労があったと思います。でも、がむしゃらに進んでいくうちに、いつしかDJ/ボーカル/ダンサーという役割を認め合って、リスペクトできる関係性になっていきました。
――「個」として確立されていた5人だからこそ、お互いの本質がよく見えたんでしょうね。
YU-KI:もうみんな大人でしたし、プライベートの環境も全員違っていたので、現場が終わって一緒にご飯を食べに行くなんてことも、最初からなかったんです。でも、それが逆によかったのかなと。現場だけで会って話すうちに、「えっ、そうなんだ!」と、お互い初めて知る事実があったりするんです(笑)。今もそう。きっと「知りすぎていない」のが、メンバーみんなフレッシュでいられて、離脱も解散もなくここまでやってこられたひとつの要因かもしれませんね。
――見えないところで自分の「好き」を極めている同士だからこそ、刺激し合えるんでしょうし。
YU-KI:それぞれトレーニングは続けていますけど、何をしているかはお互い知らないんです。でも、ステージに上がればすぐわかりますよ。日々どれだけ鍛錬してるかって。そこがメンバーの素晴らしさだと思います。
EZ DO DANCE -Version. 2023- / TRF
リリース情報
関連リンク
“今”歌ったら面白くなりそうだなと思う曲を選んだ
――今回のBOXセットには、メンバーそれぞれの「好き」が詰まっています。YU-KIさんは、歌い直し、リアレンジ曲を収録した「TRF Special Tracks」を担当。選曲のポイントを教えてください。
YU-KI:ヒットソング軸ではなく、昔より太くなった声で“今”歌ったら面白くなりそうだなと思う曲を選んでいきました。結果的にけっこうアグレッシブなラインナップになりましたね。選曲を終えた時点でリアレンジの方向性もはっきり見えたので、依頼したいなと思うアレンジャーさんには、まず私から直接電話したんです。「元気ですか?」というところから始まり、自分が考えているサウンドの構想を伝えて、「あなたの持ち味の音が欲しいんです」と、けっこう具体的に打診させていただきました。
――個人的にもまずお聞きしたいのが、武道館で感動を呼んだ「TRUTH」です。オリジナルは、1993年の1stアルバム『trf~THIS IS THE TRUTH~』に収録。レイヴを打ち出したあのアルバムのなかで唯一ポップな曲で、その後のTRFの方向性を予感させるものでした。
YU-KI:そうですね。すごくキュートな曲で、1994年のアルバム『BILLIONAIRE』にも、ピアノで歌ったバージョン「TRUTH'94 (UNPLUGGED STYLED MIX)」が収録されています。今回、バラードを入れたいと思ったときにすぐこの曲が浮かびました。同時に頭の中でストリングスが響いたんです。歌詞の優しさと釣り合う壮大すぎない質感で。そういうストリングスじゃないと、きっと古くさくなってしまっただろうなと。
――リアレンジは宗本康兵さんですね。
YU-KI:はい。どんな楽器を使いたいかも含めてイメージがはっきりあったので、プリプロの段階からかなり濃くやり取りさせてもらいました。イントロのフレーズなどは歌って伝えて、一緒に作っていった感じです。優しい雰囲気から徐々に重みを帯びて、最後ワーッと広がるという、素晴らしい音のストーリーを見せてくれたストリングス・チームにも感謝しています。
――「Happening Here」は当時も新しかったですが、今回また時代にフィットした感じになっていますね。
YU-KI:ありがとうございます。「今、絶対いい!」と思って選びました。リリース当時は、私自身が「まだこの曲を歌いこなせていないな」という感覚もあって、だからこそ「今ならもっとエモいトラックにできそう」という気持ちで臨めたんです。リアレンジは当初からT.Kuraさんしか頭になかったですね。
――新曲「TRy the Future」も手がけているYOW-ROWさんの「masquerade」も、尖り方がなんとも素敵です。
YU-KI:YOW-ROWさんは、元々ミクスチャー・バンドGARIのボーカリストでもあるので、ぜひ新しい風を吹き込んでもらいたいと思いました。ざっくりとテンポ感とストーリーをお話しただけなんですけど、オープニングがドンピシャのゴシック。その妖艶さに「さすがでございます」と唸りましたね。オリジナル以上に凛とした女性像が浮かび上がるようになったと思います。
TRy the Future / TRF
――「LEGEND OF WIND」はnishi-kenさんのリアレンジ。
YU-KI:彼はウツさん(宇都宮隆)のサポートもしていますし、ディナーショーでもピアノを弾いてもらっているので、なんかもう親戚みたいな存在なんです(笑)。なので、自由に作ってもらいました。彼ならではの品のあるサウンドに仕上がったと思います。そうそう、今回のリアレンジはどれも、オリジナルの良さを残しつつ、アレンジャーの個性も注ぎ込んでもらうことが課題でした。全体的にそのバランスがうまく取れたんじゃないかなと思います。
歌という仕事が好きですし、やれていることが本当に幸せなんです
――さて、30周年の一連の活動が一区切り着きました。改めて今、どんな未来を描いていますか?
YU-KI:30周年の日本武道館公演には、楽しいだけじゃない、なんかとてもハッピーな“気”であふれていたなと、今だに思うんですね。ファンのみなさんも余韻を長く味わってくださっているようで、「ああ、共有できているんだな」と、そこもうれしく思っています。これから35、40と数字は進んでいくわけですけど、今はもうその道のりを、地に足をつけて丁寧に生きていきたいと思うのみです。そもそもが音楽ファンですし、さらに音楽が好きになっていることは間違いないので、そこも大事にしながら。チャレンジすることも常に恐れずにいたいです。
――生き方が、音楽、歌になっていくと?
YU-KI:昔から「歌は心だ」と言われていますよね。素敵な言葉ですけど、心がそのまま出てしまうという意味で、歌う側にとっては怖い言葉でもあります。でも、人の心をなんらか動かすことのできるこの歌という仕事が、私は好きですし、やれていることが本当に幸せなんです。「TRFを聴いて、頑張れそうな気がしてきました」などと言っていただけることが、すごくうれしい。だから、私自身がまず健やかな心でいられるように、自分をよく見て、認めてあげて、時には叱咤激励し、時には「今日はもう寝なさい」と労りながら、ここからまた日々を大切に紡いでいきたいと思います。
リリース情報
関連リンク
関連商品