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<インタビュー>halcaが歌う儚いからこそ美しい青春、TVアニメ『ぽんのみち』EDテーマの新曲「Good Luck Waker」
Interview:Takuto Ueda
halcaが通算10作目のシングルとなる『Good Luck Waker』をリリースした。
表題曲は現在放送中のTVアニメ『ぽんのみち』のエンディング・テーマ。広島県尾道市を舞台とした本作は、かつて雀荘だった空き家を遊び場にする高校生たちの日常を描いた完全新作オリジナル・アニメーションで、<今日は今日だけの宝物>と歌う「Good Luck Waker」には、美しも儚い青春の煌めきが込められている。また、カップリング曲「IN THE BRAIN」では、halca自身も共同作詞として参加しており、自身の体験にもとづく葛藤を遊び心たっぷりに表現した。
初のツアーや海外ライブを経験した2023年を経て、halcaの表現者としての現在地が刻まれた本作について、話を聞いた。
決まった動きをやらないことがミスではない
――まずは昨年を振り返って、2023年はどんな一年でしたか?
halca:去年はアルバムを出して、初めてのツアーもやっと実現して、そこでゲストに出てくれた(北澤)ゆうほちゃんと一緒に『恋愛ミリフィルム』も作って……デビュー5周年を迎えて、いろいろなことを経験させていただいたなと思います。あと、海外のライブにもたくさん呼んでいただきました。
halca『恋愛ミリフィルム』Music Video(TVアニメ『彼女、お借りします』第3期オープニングテーマ)
――サウジアラビア、シンガポール、香港のステージに立ちましたね。
halca:そういう意味でもコロナ禍が一区切りしたことは大きかったです。自粛期間にできなかったことをやっと精算できたような感じ。ツアーも最初は2020年4月に組んでいて、発表もしていたんですけど、中止になってしまって。そのリベンジがようやく去年できたんです。
――アルバム『nolca solca』を引っ提げて。
halca:『nolca solca』はもちろん、1stアルバム『Assortrip』の曲もたくさん歌えたし、フェスやイベントのバンドと一緒に歌ったことはあるけど、自分のために集まってくれたバンドの演奏でライブするのは初めてだったんですよ。お客さんからも要望が多かったし、私自身もずっとやってみたいなと思っていたので嬉しかったです。
――念願が叶ったんですね。
halca:私はずっとソロ・アーティストとして活動してきたので、バンドの皆さんが一緒にいると、休憩中に「この曲のあの部分どうしようか」みたいな話とかができて、まるで自分がバンド活動をしているような気持ちになれて楽しかったです。
――パフォーマンスの手応えはいかがでしたか?
halca:パワーがすごいなって。負けないように頑張らなくちゃと思って、練習のときは空回りすることもあったんですけど、でも、5周年を迎えたタイミングで緩やかになってきた「頑張らなくちゃ!」みたいな気持ちが、もう一度フレッシュな感じに戻ってきたというか、燃えるみたいな感覚があったので、ツアーは良いきっかけになったなと思います。
――特に印象に残っている楽曲を挙げるとすれば?
halca:ぱっと最初に思い浮かぶのが、1stミニアルバム『white disc+++』に収録されている「曖昧グラデーション」。これはデビュー前からある曲で、ツアーのバンマスをやってくれた川口圭太さんがアレンジしてくださったんですけど、オリジナルはストリングスが印象的なサウンドなんです。なので、ちょっと澄ました感じでパフォーマンスしようと思ったんですけど、バンドでやってみたら思っていた以上にかっこよくて。ライブで特に印象が変わった曲は「曖昧グラデーション」かなと思います。
――海外のステージはいかがでしたか?
halca:昔はSpotifyを見ればどの国で聴かれているかが分かったじゃないですか。私、最初の頃は日本よりもインドネシアとか香港とかアメリカのほうが多かったんです。私も「なんで?」と思っていたんですけど、最近は一般ユーザーでは見れなくなってしまって。なので、ライブする国ではどの曲が聴いてもらえているのか、スタッフさんたちにリストアップしてもらったんです。
――アナリティクスを活用して。
halca:やっぱりアニメソングが多かったけど、びっくりしたのは「FIRST DROP」ですね。これはTVアニメ『彼女、お借りします』第7話の特別エンディング・テーマで、アニメでは一度しか流れていないんですけど、シングルの表題曲に負けない勢いで聴かれていて驚きました。ということもあって、海外でのライブは不安もあったけど、それ以上にアニメが自分の背中を押してくれるような安心感がありました。
halca playground # 017「FIRST DROP」
――貴重な海外でのライブを経験して得たものは多い?
halca:そうですね。アップテンポな曲のときに穏やかに揺れている人がいれば、逆に落ち着いた曲でずっとジャンプしている人もいて、本当に自由でいいんだなって勇気をもらえました。もちろん日本でライブをするときのような、お決まりの振り付けで一致団結する感じもすごく嬉しいけど、自分の中の「これをしなきゃいけないんだ」みたいな気持ちが和らいだというか。もともとパフォーマンスって苦手で、昔はライブが怖かったんですよ。何も決めないと直立不動になっちゃう。
――自然体でいるのって難しいですよね。
halca:なので、無理やり振り付けに沿って動いたり、なんとか手持ち無沙汰にならないように助けてもらっていたんですけど、最近はそこから引き算していけたらいいなと思っていたんです。私はあくまでボーカリストで、決まった動きをやらないことがミスではないんだなって。誰かが手を振ってくれたら手を振り返せばいいし、何かを見つけたら指させばいいんだって。海外のステージを経験して、そういうふうに思えるようになりました。
リリース情報
公演情報
【LAWSON presents halca live 2024 playloud】
2024年5月4日(土)
OPEN 17:00 / START 18:00
東京・新宿ReNY
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――新曲「Good Luck Waker」はTVアニメ『ぽんのみち』のエンディング・テーマ。タイアップのオファーはどんなふうに受け止めましたか?
halca:「ついに麻雀アニメ来た!」と思いました。自分は嗜んではいないんですけど、母がすごく好きで、正月とか夏休みに親戚や友達と集まって遊んでいるのを横に座ってよく見ていたんです。ただ、私はルールを覚えるのが大変そうで「また今度にしよう」を繰り返していうちに大人になっちゃったので、今回のテーマソングが麻雀に触れるきっかけになってよかったなと思います。今ちゃんと勉強中です。
halca『Good Luck Waker』Music Video(TVアニメ『ぽんのみち』エンディングテーマ)
――テーマソングを担当するにあたり、アニメサイドから受けたリクエストなどはありましたか?
halca:あくまで“麻雀×日常”のアニメなんだということは資料の中に書いてあったと思います。私も麻雀は楽曲のエッセンスとして入れつつ、基本的には日常だったり、(主人公の十返舎)なしこちゃんたちの気持ちを大事にして作りたいなと思いながら進めました。
――具体的にどんな部分を表現したいと考えました?
halca:青春って振り返ったとき、みんな寂しそうな顔するじゃないですか。それって永遠に続くものじゃないからだと思うんです。例えばクラスで仲良くしていた子と卒業後に疎遠になっちゃうようなことは私もよくあって。どんなふうに話していたかも覚えていないから、いまさらご飯にも誘えない、みたいな。青春だけどあっけらかんとした太陽みたいな感じはちょっと違うかなと思ったので、明るさの中にもそういう寂しさとかノスタルジーは入れたいなと思いました。
――キラキラしていて美しいけれど、過ぎ去ってしまえば取り戻せない。そういう青春を振り返ったとき、halcaさんだったらどんな景色や思い出が浮かびますか?
halca:なんだろう……石鹸とか入浴剤がたくさん売っているお店に友達と遊びに行ったときの思い出なんですけど。
――めちゃくちゃ具体的な。
halca:その中にタブレット式の歯磨き粉みたいなものがあって。“レッツトライ”みたいなことが書いてあったので、「トライしていいんだ」と思って口の中に入れてみたんですよ。そのままお店の中を回っているときは何もなかったんですけど、ぐるぐる散歩していたら、途中でタブレットがぶくぶくしてきて(笑)。一緒にいた友達みんな、口の中が泡でいっぱいになって溺れそうになったことがあって。
――たぶん口の中に含んだまま移動するようなものじゃないですよね(笑)。
halca:吐き出さないといけなかったのかな。でも、そんな馬鹿なことをしても誰も落ち込んだりせず、笑い合っていたのがすごく青春だなって。そうやって大人になった人も青春を振り返ってほしいし、まさに青春のまっただ中にいる人には「今を大事にしなきゃ」と思ってもらえるような曲になっていたらいいなと思います。
――レコーディングではどんなポイントに気をつけました?
halca:私、声がけっこう大きいほうで、いつもは一生懸命に歌いがちなんですけど、今回はあえて力を抜いて、セーブして歌いたいなと思ったんです。というのも、この曲の主人公は「いつかこの楽しい時間にも終わりがやってくるんだな」ということに気づいているから。<ユートピアはきっとキミの横って>と歌っているし、その“キミ”のことを大事に思っている気持ちに嘘はないけど、でも、失ってしまったときに自分が傷つかないよう、どこか冷静というか、あまり期待しすぎないように生きている感じがして。
――<ちょっと気付きはじめてんの/幸せとはパッと咲いて散るって>というラインも象徴的ですね。
halca:私自身にもそういうところがあって。「うわー、楽しい! 最高!」みたいなときも「いつかこの瞬間は終わってしまうんだ」とか、「この子のこと、めっちゃ大好きだ」と思っているときも「いつか別れがやってくるんだ」とか、しかもそれを何年後とかに振り返って思うのではなく、リアルタイムで体験しているときにも常に頭の片隅にあるんです。そういう私のパーソナルなところは宮嶋さんも知ってくれているし、歌詞にそういう部分を込めてくれたのは感じていたので、歌声でもそれを表現したかったんですよね。なので、あまりエネルギッシュに情熱的になりすぎないようにしました。
――<君がいい/もう君じゃなきゃ/今はただ君を焼き付けたい>と情熱的に歌い出す「恋愛ミリフィルム」とはある意味で対照的ですね。
halca:ですです! あれは情熱的でしたね。それこそツアーでゆうほちゃんが出てくれて、一緒に隣で歌っていたときは「この時間が終わらないでくれ」と思って泣きそうになったし。あと、鈴木愛奈ちゃんとコラボした「あれこれドラスティック」も、何回か本人と一緒に歌う機会があったけど、サビで見つめ合いながら歌うときに「こうやって一緒に歌えるのはあと何回だろう」みたいに考えたりして。でも、終わりがあるからこそ美しいと思うんです。だからこそ「絶対にいいライブにしたい、私もちゃんと応えなきゃ」と思えるし、より熱の入ったパフォーマンスができると思っていて。
halca 『あれこれドラスティック feat. 鈴木愛奈』Music Video(TVアニメ『邪神ちゃんドロップキックX』OP)
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【LAWSON presents halca live 2024 playloud】
2024年5月4日(土)
OPEN 17:00 / START 18:00
東京・新宿ReNY
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作詞もこれから頑張っていきたい
――今作のカップリングは「IN THE BRAIN」。共同作詞としてhalcaさんもクレジットされています。この曲の制作はどんなふうに進めていきました?
halca:「IN THE BRAIN」はデモ時点で(山崎)真吾さんが書いてくれた仮の歌詞が入っていたんですけど、それが衝撃的すぎて頭から離れなくて。これを超えられるのかと悩みましたね。
――何かが足がかりになった?
halca:私が電車で座っていたら、男子高校生二人が仲良さそうに乗ってきたんですよ。自分の両サイドが空いていたので隣にずれてあげたら、片方の子が「次で降りるんだけどどうしようかな」とぼそっと言っていたんですけど、隣の子が「いや、こういうときは座っておくんだよ」と言っていて、二人ともすごく優しくて気が遣える子だなと思って。こういうことについて書きたいと思ったんです。私的に本当の優しさって、親切にしていることを相手に悟られない優しさだと思っていて。逆にそういう優しさがない人を見ると、少し腹立たしくなってしまうんです。そういう頭の中のもやもやって説明するのが難しいし、だったらポップな感じで歌詞にできないだろうかと思って挑戦してみたんですよね。
――かなり異質な筆致になっていますよね。
halca:今まではストレートに気持ちを書くことが多かったけど、こういう遊び心を交えながら作詞するのは初めてでした。たぶん一歩間違えたら危ないというか、えぐい表現になってしまいそうな内容だからこそ、遊び心を入れる意味があるなと思ったんです。
――<その場しのぎでまぁるくするクセ/頭は冷静で心はガオー/"あぁすれば良かった" が消えない>というラインからも、halcaさん自身がもやもやと葛藤している感じが伝わってきます。
halca:一日の終わりにベッドで布団に包まれながら「ああすればよかったな」とか「もっとこういうやり方があったな」みたいな反省をしちゃうのも含めて、自分のもやもやを入れられたらいいなと思いました。
――1stアルバム『Assortrip』のリード曲「one another」を皮切りに、halcaさんも作詞に参加する楽曲が増えてきましたが、「weather through」あたりから自身をさらけ出している感じがして、作詞への向き合い方も変わってきたのかなと思っているのですが。
halca:まさにそうです。「weather through」あたりから変わってきました。あの曲で初めて皮肉を可愛らしく表現するような歌詞を書いたんですけど、「これ、楽しいかも」と思ったんですよね。
――「TTL」も言葉遊びはキュートなんですけど、内容はけっこうエゴイスティックじゃないですか。
halca:ですね。そういうトゲみたいなものを入れてみる、みたいなことは今後、自分らしさとして続けていけたらいいなと思っていて。「weather through」「TTL」「IN THE BRAIN」と3曲続けてやってこれたので、なんとなく自分が目指すべき場所みたいな輪郭がぼやーっと見えてきたんです。なので、作詞もこれから頑張っていきたいなと思います。
――5月には久しぶりのワンマンが決まっています。
halca:ちょうど1年ぶりですね。まだ内容は考えている最中だけど、バンドと一緒にラウドなライブにしたいなと思っていて。あと、今回の「Good Luck Waker」も「IN THE BRAIN」も、みんなで一緒に歌えるパートがあるので、そういう意味でもラウドなライブにしたいという想いを込めて“playloud”というタイトルをつけました。
――“play◯◯”はhalcaさんの公演タイトルではお馴染みのフォーマットですね。
halca:アコースティックでやるライブは“playground”、マンスリー企画でやったライブは“playgood”、あと、最近はあまり更新できていないけど今後動かしていきたいYouTubeのサブチャンネルが“halca playfulbox”。いつも単発のライブは“Help Me!!!!!!!”にしているんですけど、今後はバンド編成のライブを“playloud”としてやっていきたいなと思っています。
――今回のシングルは“playloud”への布石でもあるんですね。
halca:そうです。なので、たくさん聴いて練習してほしいです!
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【LAWSON presents halca live 2024 playloud】
2024年5月4日(土)
OPEN 17:00 / START 18:00
東京・新宿ReNY
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Good Luck Waker
2024/02/28 RELEASE
VVCL-2445 ¥ 1,320(税込)
Disc01
- 01.Good Luck Waker
- 02.IN THE BRAIN
- 03.Good Luck Waker -Instrumental-
- 04.IN THE BRAIN -Instrumental-
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