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<インタビュー>安田レイ、“まっすぐに大切な人を守りたい”という思いを表現した「Ray of Light」で始まる新たなスタート
Interview & Text:岡本貴之 / Photo:辰巳隆二
安田レイが、New E.P『Ray of Light』を2024年2月7日リリースする。表題曲「Ray of Light」は、安田とは縁深い作品『劇場版 君と世界が終わる日に FINAL』の挿入歌として起用され、大きな話題となっている。また、中国の人気アニメ「烈⽕澆愁」日本語吹替版エンディングテーマ「声のカケラ」、昨年のソロデビュー10周年記念ライブで初披露された「Turn the Page」、さらにオーケストラをバックに歌った「Not the End - With ensemble」「Circle - With ensemble」を収録しており、聴きどころ満載だ。さらに初回盤に付属するBlu-rayでは、ビルボードライブ東京でのライブの模様を見ることもできる。SACRA MUSICへのレーベル移籍後初のCDリリースとなる今作について話を訊いた。
等身大の自分を表現した「Turn the Page」
――EP『Ray of Light』の初回盤には、2023年7月3日にビルボードライブで開催した10周年記念ライブでの2ndステージを収録したBlu-rayが付属していますが、当日のステージを振り返ってみていかがでしたか?
安田:10周年をお祝いするスペシャルなライブだったので、セットリストにも懐かしい曲を入れてみたり、ファンのみんなでお祝いしたいなという気持ちで臨みました。私はビルボードライブという会場が本当に大好きなんですよ。すごく良い距離感で歌える場所だし、それぞれにパーソナルスペースがあって、すごくのんびりと過ごせるあの時間が好きなんです。しかも2部制のステージということで、1stステージの後にまたすぐ2ndステージが来るっていうのも、なかなか他のライブでは経験できないので、それもいつも楽しみにしていて。そういうこともあって、当日はファンのみんなとすごく近づけた時間になったと思います。
――今おっしゃったように、ビルボードライブは2部制ですから、1stから2ndステージの間ってそんなに時間がないですよね。その間にはどんな過ごし方をしているものですか?
安田:本当に時間がないんですよ(笑)。食事をとったりとか、みんなでちょっとした反省会というか、「次のステージではここをこうしたい」とかポイントを話し合いながら、「楽しかったね」って言っているうちに、「はい、出番です!」って声がかかって (笑)。結構ドタバタです。でも、そうやって楽屋でバンドメンバーのみんなと一緒にガヤガヤしている時間もすごく大好きですね。
――ライブが終わった後も、まだ帰りたくなさそうにしていましたよね。
安田:本当に楽しくて、帰りたくなかったです。アンコールでいきなり未発表の「Turn the Page」を歌ったんですけど、曲を知らないはずなのにみんなが一生懸命、私に愛を伝えてくれている時間がもう本当に愛おしくて。「音楽をやっていてよかったな」って思いました。“帰らない作戦”は成功しなかったんですけど(笑)。子供みたいに「帰りたくない!」って言っちゃうぐらい楽しかったです。
安田レイ「Brand New Day from Rei Yasuda 10th Anniversary Special Live “Turn the Page”」
――ライブタイトルにもなっていた「Turn the Page」も今作に収録されています。ライブでは未発表曲ながらお客さんにもコーラスをレクチャーして、感動的なフィナーレに繋がりました。
安田:実は1stステージでは、レクチャーする時間がなくて、いきなり「みんな歌って!」って呼び掛けて、「ええっ? メロディわかんない!」みたいな感じで困らせてしまったんですけど(笑)。2ndステージでは、お客さんのなかに1stを観てくれていた方もいたので、みなさん本当に一生懸命歌ってくれてうれしかったです。ライブにあたって、10周年というテーマでビルボードライブのタイトル【Turn the Page】をまず作っていたんです。そこから何か1曲、未発表曲をこのライブで披露したいねってみんなで話し合ったときに、10周年だからバラードじゃなくて、みんなで温かい気持ちになれてハッピーなオーラのある曲にしたいなと思ったんです。いつもサポートをしてくれているクレハリュウイチさん(Key/以下・クレぴょん)が今回も一緒に曲を作ってくださいました。コードを弾いてもらいながら、それに乗せてメロを作って即興で歌う遊びをよくやっているんですけど、その中でクレぴょんが弾いたコード進行がとても良くて。それを曲に使いたいと思って、私もそこからメロを考えて曲を作っていきました。
――<愛とかほしいから また泣いてさ>といった飾らない歌詞が耳に残ります。曲調はコーラスも相まってゴスペルチックですね。
安田:クレぴょんが弾いたコードに私が自由にメロを乗せて作ったときに、クレぴょんは100%「それいいやん」って言って却下しないんですけど、でもその「いいやん」のテンションでわかるんですよね。基本否定をしない人なので、本当に良い「いいやん」なのか、まあまあの「いいやん」なのか、なんとなくわかるようになってきていて(笑)。でもそういうすごくポジティブな空気感の中で、いろいろメロディが浮かんできたんです。まずそのメロディをいったん家に持ち帰って歌詞を書いていきました。
――記念碑的な曲になったと思いますが、どんな思いを込めていますか。
安田:「Turn the Page」は、30歳になった安田レイの等身大そのまんまを何も隠し包まず、言葉にすることができたと思います。なんかもう、カッコつけることは20代のうちにやめたんですよね(笑)。10周年を迎えて新たにページをめくり、等身大の自分の今の思いを、真っ白なところに書いていこうっていう曲です。
愛する作品とキャラクターに寄り添い、何度も歌詞を書き直した
――EP表題曲「Ray of Light」は強めの曲ですが、安田さんご自身で作曲すると今は「Turn the Page」のような優しいニュアンスのメロディが出てくるのかなと思って聴いたんですけど、そこはいかがですか。
安田:最初、ゴスペルっぽいニュアンスを入れようとかはまったく思っていなかったんです。メロが出来上がって、コーラスをいっぱい入れたら「すごくいい感じだな!」っておもいながら進めて行ったら、気づいたらゴスペルっぽくなっていました。レコーディングのときも、メインのメロディだけを決めていて、コーラスワークやフェイクは下準備せずにいきなりスタジオに入ってレコーディングしていきました。そこから、ちょっと派手な感じにしたくて少しずつハモとかコーラスを実験しながら足していったら、あっという間にこういうスタイルの曲になっていました。
――EP表題曲「Ray of Light」は1月26日から全国で劇場公開されている『劇場版 君と世界が終わる日に FINAL』の挿入歌に起用されています。同ドラマで「Not the End」が挿入歌として起用されて以来の再タッグとなりますが、作品への思いを訊かせてください。
安田:もう大好きな作品で思い入れがありすぎて、1曲にまとめられないぐらいで、3、4曲作りたいって思ったんですけど(笑)。またこうやって安田レイに声をかけてくださって、監督やスタッフのみなさんにも本当に感謝しています。シーズン2まで「Not the End」を挿入歌に使ってくださっていたんですけど、その後もずっと物語は続いていて。私もいちファンとしてずっと、来美(中条あやみ演じる小笠原来美)と響(竹内涼真演じる間宮響)の行方を見守っていたんですけど、どんどんストーリーが面白くなっているんです。最初はゴーレムが現れて日常が奪われるという話だったんですけど、気づいたら人間同士の争いや奪い合いだったり「怖いのって結局人間じゃない?」ということろにたどり着いて。今回、その物語のファイナルの挿入歌に声をかけてくださったことにとても感謝しているのとは裏腹に、私的には終わって欲しくなくて、「ファイナルって言わないでください!」みたいな気持ちでした(笑)。でもやっぱりファイナルって1つの作品の中でもすごく大事な瞬間だと思うし、その大事な瞬間を、響や来美、大和(高橋文哉演じる柴崎大和)や葵(堀田真由演じる羽鳥葵)という大好きなキャラクターたちに1ミリでも近くに寄り添って歌詞を書きたいなと思って、何回も何回も書き直しながら歌詞を作りました。
安田レイ「Ray of Light」Music Video(『劇場版 君と世界が終わる日に FINAL』挿入歌)
――すごく切実というか、差し迫った緊張感のある曲ですよね。ご自分で書いている歌詞ではあるものの、こういう物語の世界に入り込むような曲を歌うときって、シンガーとして精神的にもすごく消耗したりするんじゃないかと想像します。安田さんの中ではどういう心境で曲にアプローチしてるのでしょう。
安田:それは初めて訊かれました。あんまり考えたことがなかったけど、面白い質問ですね。それで言うと歌うときって、体が疲れるとか喉が疲れるとか物理的なパワーを使って疲れるというよりも、気持ちが削られる部分があるので、何度も向き合って歌っていくと気づいたらヘトヘトになっていたりはしますね。特にレコーディングだと本当に曲にワーッと集中しますから。私、レコーディングに朝から晩までそんなに時間をかけたくなくて、気持ちは本当に一発録りでやりたいと思っているんですよ。人によっては、何十テイクも歌ってその中から選んでるみたいな話も聞くんですけど、私の場合はそこまで歌うとまず喉の前に心がすり減っちゃって持たないというか、無感情になっちゃうと思うんです。なので、なるべくフレッシュな集中した状態で、マックスでも6、7テイクで録るようにしたいと思ってます。でもライブで続けて、こういうすごい生命力の強い曲を歌うと、終わった後に喉は全然元気でも、精神的に「フニャ~」ってなりますね(笑)。やっぱり何か別のところを使っているんだなって実感します。
――やっぱりこういう壮大な映像の世界を描いた曲ということで、普段以上に削られてる部分もあるのかなと思って訊いてみました。
安田:歌詞を書く前に映画の編集はほぼ完成されていたので、その映像を実際に見ながら書いたんです。その映像からいろいろ影響を受けた部分もあるし、考えさせられるところも、すごく共感できた部分もありました。その思いを、映像だったりみんなの感情からインスピレーションをもらえたのは、すごくありがたかったですね。「Not the End」を作ったときは、まだ映像が何もできてない状態で、資料やキャストさんの台本を読ませていただいて、そこからどういう歌詞にするか決めていたので。今回は逆に情報量がいっぱいあったので、あたまを整理して歌詞として1曲に落とし込むのがすごく大変ではありましたね。
――10周年についてお話を伺ったときに(<インタビュー>安田レイ、ソロデビュー10周年を記念するビルボードライブ公演への想いとこれまでの軌跡を語る )、デビュー当時に「私は何もできない」とご自身を責めたり、葛藤があったとおっしゃっていたので、<あなたの代わりはいないから>という歌詞には、映画の世界観とは別に自分自身への言葉にも聴こえました。
安田:ありがとうございます。そういう目線でまた聴いてもらうと、いろんなものが何か違った意味を持ってくるなと思います。作品をいつも自分と置き換えて、「私ならこれはできるかな」とか「私ならこれは選ばなかったな」とか、そういうふうにいつも『君と世界が終わる日に』を見ているんです。ストーリーが他人事じゃないというか、何か得体の知れないものが突然現れて日常が奪われていくっていうところが、コロナだったり現実の時間の流れにもすごくリンクしていて。最初はゴーレムという存在自体が何かわからなかったけれど、だんだんと対峙の仕方がわかってきたみたいに、私たちもコロナと共存する方法を徐々に見つけていったところとリンクしていると感じました。だから、作品に寄り添いたいという気持ちと、現実の私たちの世界で起きていることも自然と混ざっていくなって思います。
オーケストラの中で歌うことが夢だった
――「Ray of Light」と「Not the End」はどういう関係だと思って聴くのが良いでしょうか?
安田:「Not the End」の頃は、物語ではまだゴーレムとの対峙の仕方がわからないという不安な部分がすごく大きくて、どうやって生きていけばいいんだ、でも大切な人には会いたいっていう、「?」がまだたくさん存在している曲なんですよね。幸せになりたいけどその方法をまだ探している途中っていうのが「Not the End」で。そこから物語はいろんなことが起きて、ゴーレムがどういうものなのかがわかってきて、響がどんどんタフになっていくというか、戦う力を覚えて逞しくなって、その先がこの「Ray of Light」なんですよね。なので響や来美が当時よりも成長した姿だったり今回新しく登場する大和や葵というキャラクターも含めて、まっすぐに大切な人を守りたいという想いを「Ray of Light」で表現したいと思っていました。監督は、「アンサーソングだね」って言ってくれたんですけど、物語のラストで強くなった姿で、自分よりも大切な人を自分の身を削ってでも守りたいっていう、誰も邪魔できない思いを今回の「Ray of Light」で表現したいなと思っていたので、そこが大きな違いかなと思います。
――実際に歌ってみていかがでしたか。
――「Not the End」は今回、「Not the End - With ensemble」として、「Circle - With ensemble」と共に収録されています。これも大きな聴きどころですね。
安田:自分にとってオーケストラの中で歌うことは夢だったんです。いろんなアーティストさんのライブに行って、普段とは違うアレンジでたくさんの弦の方だったりとか、包み込まれる音の中で歌ってる人をライブでいっぱい見てきて、「私もやってみたい」と思い続けてきて、やっと夢が叶った感じです。『With ensemble』に声をかけてもらい、曲をどれにしようかっていうところで「Not the End」は絶対に歌いたいなと思っていました。「Circle」も殻を破るじゃないですけど、自分の弱さと向き合って生きていくっていう、自分にとってのけじめでもあった曲なので、その2曲を今回選んで、With ensembleのオーケストラのみなさんとコラボレーションさせていただきました。
安田レイ – Not the End | With ensemble
安田:「この音の中で歌うって本当に難しいんだな」と思ったのは、普段バンドで歌ってるときは、ドラムのビートがしっかりあって、そのビートやグルーヴを感じたりして歌っているんだなということでした。今回はそういうビートを感じる楽器というのは存在しなくて、流れるような音の中で歌ってるので、いつもとは違ったんです。映像とか音源を聴くと何も違和感を感じないんですけど、歌っているとグルーヴにカチッと乗り切れない1秒があったりして。すごく複雑な音の中にいるんだなと思って、リハーサルでは結構、「うわー」ってなりました(笑)。でもそこから出てくる自分の声がすごく面白かったり楽しいなと思って、非日常感に包まれていましたね。
――そこは、経験豊富なシンガーの方にしかわからない領域ですね。
安田:『With ensemble』のライブで加藤ミリヤさんとご一緒して、ライブが終わった後に「私めっちゃ緊張しました」って言ったら、「この環境で歌うのってなかなか難しいよね」みたいなことをおっしゃっていて、私だけじゃないんだなと思いました。でもやっぱり、普段とは全然違ったアレンジや楽器の音の中で歌うのは、良い緊張感だったと思います。
――「Circle」はもともとイケイケなアッパーチューンなので、アレンジの変化に驚きました。
安田:確かに、全然違った曲になったなと思います。弦にプラスしてドラムとかを入れても面白そうだなと思いましたし、今後自分のいろんな曲で、オーケストラのみなさんのなかで歌ってみたいなっていう気持ちにもなりました。
安田レイ – Circle | With ensemble
――もう1曲の収録曲「声のカケラ」は、アニメ「烈火澆愁(れっかぎょうしゅう)」の日本語吹替版エンディング曲として配信リリースされました。これはアニメのイメージを踏襲して作られた曲、歌詞なんですか。
安田:そうです。もう中国では放送されていて大人気なアニメ作品なんですけど、日本語吹替版のエンディング曲ということでお話をいただきました。そのときはまだ日本語の吹き替え版が出来上がる前だったので、中国で放送されている中国語の映像につけてもらった日本語の字幕を見て歌詞を書かせていただいたんです。
安田レイ「声のカケラ」アニメ『烈火澆愁』コラボMusic Video
――歌詞はどんなテーマで書きましたか?
安田:作品の中で、戦うシーンも毎回カッコよく描かれているので、最初は「戦い」をテーマにしようかなって考えながら作品を見ていたんです。ただ、見続けていくうちに「もしかしたら、過去にどこかで会っていたんじゃないか、繋がってたんじゃないか」っていうシーンが登場したんです。それで、過去とか記憶とかを歌詞にしてみてもいいなと思って「声のカケラ」を作ったんです。「何月何日何曜日何時に何をしてたか?」みたいなことってなかなか全然思い出せないんですよね。でもふとした瞬間、何かをきっかけに、不安なときや自信がないときとかに思い出す言葉があって、それに救われる夜があるなと思ったんですよね。その言葉があったから、今私はこの夢を選べているな、あのとき諦めなくてよかったなってすごく思うときがあって、それをそのまま歌詞にしたいなと思いました。もちろん、過去にもらった言葉が私を振り回したりとか突き落としたりとか、そういう良くない言葉もあったと思うんですけど、でもその中には必ず優しい言葉もあって。いろんな言葉を浴びて、私は自分の人生を選択してきたから、いろんな過去の言葉に「ありがとう」って言いたくなったし、「声のカケラ」を聴いて、懐かしい記憶や優しい言葉が、みんなの中でフラッシュバックされたらいいなって思いながら、歌詞を書きました。
――穏やかな感じで始まりますけど、後半になって高ぶっていくような曲ですね。どんな気持ちで歌っていますか。
安田:「Ray of Light」と並べてみても結構大きく歌い方も違っていて、優しくて柔らかいニュアンスが歌の中に入っていたらいいなと思いながら歌いました。ただ、そこで「柔らかく」ってなると、私の中で言葉の輪郭もぼやけてきちゃうので、優しさをキープしつつ、言葉の輪郭もしっかりとキープしようと思いながらレコーディングしました。
――SACRA MUSICへのレーベル移籍後、初めての作品となりますが、安田さんにとってどんな1枚になりましたか。
安田:SACRA MUSICに移籍して、昨年は【SACRA MUSIC FES. 2023 IN HONG KONG】出演で香港に行かせていただいたりしたんですけど、ここからまた“Turn the Page”して、ゼロから安田レイを作っていきたいなって思っています。その1枚目の作品に、「Ray of Light」と「声のカケラ」、「Turn the Page」という、自分にとっても大事な思い入れのある曲がリリースできることはすごく嬉しいです。今年はこの勢いで、また国内外のいろんな場所に行って、この曲たちを直接届けたいなって思っています。いっぱい曲を作って、いつでもリリースできるような状態に、いつでもライブに出られる状態にしていたいですね。
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