Billboard JAPAN


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<インタビュー>Linna FiggとKyazmによるロックデュオ=SATOH、“しっくりくるもの”を追求し続ける二人がシングル「OK」で提示した最新モード



インタビュー

Interview & Text:矢島由佳子 / Photo:Taichi Kawatani

 2023年、ラブリーサマーちゃん、Cwondo(No Buses)、aryyを招いたアルバム『BORN IN ASIA』を発表、渋谷Spotify O-EASTにてイベントを開催、さらにはTHE ORAL CIGARETTESのツアーにてフロントアクトを務めるなど、着実に注目を集めているロックデュオ、SATOH。1月24日、デジタルシングル「OK」でトイズファクトリーよりメジャーデビューを果たす。

 何にも括られない、何にも括らせない。まだ見ぬ同志と出会うために、SATOHはただひたすら自分たちの心にあるものを形にしていく――今回初となるBillboard JAPANでのインタビューでは、SATOHは何を大事にしながら音楽を作り上げているのか、そして今後の展望などをじっくりと語ってもらった。

バイブスが震えるものを選んで積み上げている

――そもそもSATOHは、どういった音楽をやろうとして結成したのでしょう。

Kyazm(Gt./Manipulator):(互いに別のバンドをやっていて)対バンしたときに彼のバンドの曲がいいなと思ったので誘ったんですけど、結果的に今やっていることとは全然違うので、振り返ると、おれとしては音楽というより人で組みたいと思ったんだな、と思いました。

Linna Figg(Vo.):無邪気に、何の意図もなく楽しく曲を作っている時間が長くて。アルバム『BORN IN ASIA』(2023年3月リリース)でまとまった作品を作ろうということになったときに、初めてちゃんと考えたという感じですね。最初はただ「アルバムを作りたい」という意欲がある状態で曲を作っていたんですけど、曲数が揃ったときに、一回全部白紙に戻して、一から考え直して。

――「TOKYO FOREVER」「ON AIR feat.ラブリーサマーちゃん」などが収録されている『BORN IN ASIA』は、結果的にSATOHのアーティスト性を世の中に自己紹介するに相応しい傑作になりました。白紙にする前は、どのようなものを作っていたんですか。

Linna Figg:最初は『glee』みたいな、チアフルな曲のアルバムを作りたかったんですよ。おれが『iCarly』とかシットコムが好きだし。そういうものが作りたくて進めていたけど、これが自分たちの名刺かってなると、ちょっと違和感があって。楽しく作ったものではあるし、いいものになる確信はあったけど、自分がアウトプットするものとしては違うのかなと。そこから自分が小さいときに聴いていたギターロックを聴き直したり、久しぶりにちゃんとアンプでギター鳴らしてみたりして。

――もともと作ろうとしていたものもルーツに根ざしたものではあったけど、何が違和感のもとだったんでしょうね。トレンドと違う、ということなのか、それとも自分の血に流れているものとは違う、みたいなことなのか。

Linna Figg:別にトレンドがどうみたいなことをめっちゃ考えていたわけでもないし、時代遅れでも早すぎてもいないと思うけど、なんか……そういうのありません? たとえば一人称を「ぼく」というのか「おれ」というのかみたいな話と近くて。自分が絶対に言わない言葉遣いだと自分っぽくない。しっくりこない。もともと作っていた曲は、アイデアとしては成立していたけど、自分じゃない感じがしたんですよね。おれらじゃなくてもいいかなと思った。

Kyazm:確かに、うん。もともと作っていたものは半年以上かかっていたんですけど、しっくりくるものを作っていったらすぐに10曲くらい揃ったので、そういうことなのかなと思いました。

――NUMBER GIRL、THEE MICHELLE GUN ELEPHANT、ELLEGARDEN、Mr.Children、ASIAN KUNG-FU GENERATION、RADWIMPSなどがルーツにあると、他の記事で拝見しました。それをさっき「ギターロックを聴き直した」という言葉で表現してくれたんだと思うんですけど、今やっている音楽が「ギターロック」だという意識はどれくらいありますか。

Linna Figg:実際、Kyazmもおれも子どものときからギターロックを聴いて育っているから――もちろんそれ以外も聴いてるけど――DNAに入っているとは思います。ただ、ギターロックのコンテクストはもちろんあるけど、「ギターロックを作るぞ」と息巻いているわけではないですね。ギターロックを作ろうとも、ミクスチャーを作ろうともしてない。とりあえずしっくりくるものを作ってます。折角作ったものはできるだけ届けたいんで、わかりやすく「ギターロック」とか形容してみたりしてますけど。

――作るときは、自分にとってバイブスが震えるものを選んで積み上げているだけで。

Linna Figg:だと思います。「しっくりくるもの」。

――新曲「OK」でいうと、どういうものが今の二人にとって「しっくりくるもの」でした?

Linna Figg:これは、最悪な1日があって。友達と喧嘩して、しかもその日クラブへ遊びに行ったらうざいやつに変な絡まれ方をして、楽しみにしていたのにめっちゃ萎えて。舌打ちしながら家に帰って、ストレス解消で作った(笑)。

Kyazm:そうなんだ、知らんかった。バイブスすぎる(笑)。

Linna Figg:そんな感じです。1バース目までは30分くらいでできて。それでスッキリしたから寝たんですけど。誰にも聴かせない状態で、完成させるつもりもなかったけど、あとあとみんなに聴かせたら「いい」という話になって。

――インダストリアルロック〜ポストパンク〜グランジのサウンドを今、しかもメジャーデビュー・シングルとして、リリースしようと決めたポイントはどこでしたか。

Kyazm:ポイントかぁ…

Linna Figg:そもそも「メジャーデビュー」って言葉にあんましっくりきてない。けど、契約して一発目がこの曲だったらなんか面白いかなと思って。ライブでやって楽しいしね。


SATOH「OK」Official Video

――ラフいけど、ギターの音色とかしっかり選んでいるのだろうなと思ったし、ドラムもこれまでは打ち込みだったと思うけど今回は生音も使ってますよね。

Kyazm:レコーディングの日に39度くらい熱があって、おれだけリモートで作業みたいな感じだったんですよ。だからギターとかピックアップを変えて8パターンくらい送って、スタジオでリアンプしてもらう作業になりました。結果的に、イメージ通りでもあるしスタジオの空気感も感じれる音にできたかな。

Linna Figg:ドラムもタムに関してはスタジオでレコーディングして、デモで使ってたサンプルの音源とかドラムプラグインと混ぜるような感じで編集し直しました。

――評論目線でいうと、デジタルで隅々まで作り込まれた音が全盛期の時代に対してこのラフ感がアンチテーゼにも思えるし、日本のいわゆる「ギターロック」をアップデートしようとする気概を感じたりもしますが、ただただ「しっくりくる」という感じ?

Kyazm:やばいかもな。全部考えてなくない?(笑)

――それがいいんじゃないですか。意識的、戦略的とかではなく、ただただ自分たちの心から出てくるものをやったらこの音楽になるというのが一番いいじゃんって思いますし、それこそがSATOHの音楽に溢れ出ているエモーショナルさの源なのだなと思いました。

Linna Figg:そうかもしれない。

――リリックでいうと、1番は《my friend》というワードもあるし友達のことを歌っているようにも取れるけど、《お前 逃げてますね/そういうのバレてます 残念》とか、自分に対して歌ってるところもあるのかなと感じました。そういった部分もありますか。

Linna Figg:そうかもしれないです。いつも特定の誰かに向けて書いてるつもりだけど、あとあと聴いて、自分が甘いときとかは、過去の自分から言われているような気分になります。

――《ニヒルやめろ》というワードもありますけど、過去の作品を聴いていると、昔はニヒリズムに浸るような歌詞とかもあって、でも今作は《I have a meeting! yeah!/I need a billion yen!/汗で買うシンセ/吸わないマリアナ》とか、1番で歌ってるような薄いミュージシャンではなく「自分たちはこうなるんだ」という前向きな主張みたいなものが見えると思いました。そう言われるとどうですか。

Linna Figg:小学校の通知表を読んでる気分(笑)。

――はははは!(笑)

Linna Figg:自覚はなかったけど、外から見るとそうだったのかもしれないです。あとはもともと前半があって、後半はそこから広げていった部分なので遊びが多めかな。「ミーティング」とか歌詞であまり言わないじゃないですか。そういう言葉を入れるの好きなので。

――ああ、なるほど。

Linna Figg:2番はもともと違うバースが入っていたんですけど、よくない言葉が入っていて、「それはダメです」ってなって書き直しました。

――《西洋人のスタンスで東洋人のふりしてる》と、Mr.Childrenの歌詞(《東洋人の顔して 西洋人のふりしてる》)のオマージュが入ってるのもいいですよね。

Linna Figg:「光の射す方へ」、好きなんでね。


Mr.Children「光の射す方へ」Music Video

――家で『DISCOVERY』(「光の射す方へ」が収録されたMr.Childrenのアルバム)がずっと流れていたそうですね。私も『DISCOVERY』と『Q』はめちゃくちゃ聴いてました。

Linna Figg:あの2枚が一番いいですよね。

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新しい場所に行く手段を常に求めている

――「SATOH」という日本で一番多い苗字をバンド名に掲げていることもそうだし、『BORN IN ASIA』というタイトルもそうだけど、日本やアジアで生まれた人間であることをどう捉えていて、それをどう自分たちの表現に活かしたいと思っていますか。それとも、そこもそんなに重くは捉えていないのか……

Linna Figg:そう、全部同じで。別に「アジア人」だとか「日本人」だということを表現したいとはまったく思ってないもないし、考えてもないです。ただ、それは事実だから。タイプビートみたいな「それっぽいもの」は誰でもいくらでも作れるけど、自分が出すものとしてしっくりくるものじゃないといけないから、自分についてはよく考えるし。「ミクスチャーだよね」「インディーロックのここをこうしてるよね」「ギターロックでどうこうだよね」とか言われても、そういうことではなくて、おれは自分についてよく考えているだけだと思う。

Kyazm:うん。だからステレオタイプとかには興味なくて、SATOHとして芯が通ったものだけをやりたいですね。

――自分について考えると、どうしたって生まれ育った場所は切っても切り離せないですよね。

Linna Figg:事実としても、意識としても、町とか国とかアジアとかに対する帰属意識みたいなものはどうしてもあるかなと思うんですけど、おれにとってそれはそんなに重要じゃない。しっくりくるかどうかが一番大事。SATOHの音楽で成し遂げたい野望とかはあるけど、「日本人として」「アジアの誇りで」みたいなものも別にない。でも実際に日本人やアジア人であることの壁はあって、それ自体は邪魔だから取っ払いたいです。

――SATOHとして成し遂げたい野望というのは、今どういうことが浮かんでいるんですか。

Linna Figg:もともとコロナ禍にKyazmとオンラインでやりとりして、たまにお互いの家に行って、という感じでレコーディングを進めていたときは、誰がこれに共感してくれるかわからなかったけど、実際【FLAG】というイベントをやったらお客さんがたくさん来て一緒に歌ってくれて。そうやって、まず自分がしっくりくるものを作って、それを出したら知らなかった人とフィールし合えるということがいいなと思うから、基本的にはそういう「仲間」みたいな人を見つけたいという気持ちがあります。たとえば電車で隣に座る人で、同じようなことを考えたり、同じようなフィーリングを持ったりしている人はそんなにいないけど、逆に場所を問わなければ、世界中にいるような気がするから。まずそこに届きたいですね。だから新しい場所に行く手段を常に求めています。

――フィールし合える人と出会いたいし、増やしていきたいし。

Kyazm:それはでかいですね。「Aftershow」でHarry Teardropと一緒にできた体験がめちゃめちゃよかったと思っていて。あれがきっかけで、(「OK」のミュージックビデオ撮影のために)ニューヨークへ行こうという踏ん切りもできたし。そういうことを大事にしたいなと思っています。


SATOH + Harry Teardrop「Aftershow」Official Video

Linna Figg:自分を俯瞰的に見ると、ずっと「ホーム」みたいな場所を探しているんだと思います。自分が落ち着ける場所とか、仲間だと思える人。それがそんなに多い方ではないから、そういうものを常に求めているのかなって思う。ここにはないという感覚があるから、ずっとここにいてはいけないなとも思うし。

――だから国の壁も飛び越えて、世界中のまだ見ぬ「仲間」と出会いたいと。SATOHは“FLAG21”というクリエイティブ集団を主宰していますが、それはSATOHにとってどういう位置付けですか。

Linna Figg:映像ディレクター、プロデューサー、ラッパーとかが集まって、MVを作ってみたりグラフィックを作ったり、クリエイティブチームみたいな感じで。おれも含めて、そこにいるメンバーが各々のキャリアでレベルアップしていって、できることが増えていく、という状態にすることがやっていきたいことですね。

――Linnaさん自身も映像監督をやられていますよね。

Linna Figg:そうですね。それも自分のしっくりくるリストの中に入っているんだと思うんですけど。極論、別に音楽を作ろうと思って作っているわけではない。しっくりくれば、映像でも、音楽でも、両方でも、もしかしたら小説とかでも、本来何でもいいんです。そういう中で、チームから映像を学ぶ機会があったから、自分でやってみようかなって。将来的には映画を撮れるようになりたいです。

――「メジャーデビューという言葉はしっくりきてない」という話もありましたけど、それはどういう想いからですか。

Linna Figg:おれは、「メジャーデビュー」というかは「レコードディール」って呼んでるんですけど。しっかり必要なお金もらって、自分たちがイメージしているものを鮮明に作りたい。いいアイデアであればあるほど、細部までイメージが浮かぶじゃないですか。たとえば、車がガラスに突っ込むシーンを撮りたいってなったときに、その車がどこの車で、どういう形で、どこに傷があって、誰が乗っていて、ガラスの飛び散り方がどうで、とか。MVでも曲でもライブでも、イメージがあるのにそれを実現できないことがフラストレーションなので、それが極力ない方向にいきたいんですよね。

Kyazm:それを実現させるために大きくなっていきたいと思います。