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<インタビュー>GARNiDELiA 「自分の中のメーターを全部振り切った」最新作『TEN』と、一層パワフルに進化する現在のモードを語る
Interview & Text:西廣智一
Photo:筒浦奨太
今年メジャーデビュー10周年を迎えるGARNiDELiAが、約2年ぶりのオリジナルアルバム『TEN』を1月17日にリリースした。コロナ禍に生まれた前作『Duality Code』に続く本作は、収録された全13曲中7曲がテレビアニメやゲームとのタイアップ曲という話題作満載の内容。それでいてアルバムとしての統一感もしっかり感じられ、GARNiDELiAらしさに満ち溢れたパワフルな作品集に仕上がっている。
2023年のGARNiDELiAは、カバーアルバム『GARNiDELiA COVER COLLECTiON』のリリースや4年ぶりのワールドツアー【GARNiDELiA stellacage 2023 -stella ship- Re:CoNNeCT】の開催といったトピックに加え、MARiAが中国の音楽リアリティショーバラエティ番組『乗風(チェンフォン)2023』に参加。その結果、以前にも増して中華圏での人気が爆発することとなった。今回のインタビューでは、そういった環境の変化が、生命力に満ち溢れたこのアルバムにどんな影響を与えたのかが赤裸々に語られている。
コロナ禍前に戻ったというよりは「新しい世界に突入した」感があります
――昨年5月から10月にかけて行われたワールドツアー【GARNiDELiA stellacage 2023 -stella ship- Re:CoNNeCT】は、観客の声出しなどコロナ禍以降の規制が解除された中で実施。手応えはいかがでしたか?
toku:声出し含めてリアルライブがまた戻ってきたことで、「ライブはやっぱり楽しいな」ってことを再認識できたし、なによりコロナ前よりもお客さんが元気な気がしますね。
MARiA:そうだね。これは私たちに限定したことではなく、コロナ禍前に戻ったというよりは「新しい世界に突入した」感があります。ライブの楽しみ方についても、戻すというよりは、新しい楽しみ方をみんなで見つけていくみたいな感覚がすごく強くて。たとえば、私たちの日本でのライブにも海外のお客さんがたくさん来てくれるようになったし、それによって会場自体の空気感も変わってきていて。そうやって日本のライブも超グローバルな環境になっているので、その環境に合わせて、うちらのチームもグローバル化が必要だなと感じているところです。
――海外公演も2019年以来となりましたが、日本同様に海外でもライブにおける変化を感じましたか?
MARiA:特に最近は今まで私たちのことを知らなくて、2023年を機にライブに足を運んでくれるようになった方がほとんどだと思うんです。しかも、信じられないぐらい熱狂的で。たぶん日本のお客さんが見たらびっくりすると思います。
――今作のきゃにめ限定盤付属Blu-rayには上海公演の模様も収録されていますし、その様子が垣間見れるわけですね。
MARiA:ですね。上海公演をまるっと収録しているので。
タイトル『TEN』に込めた願い
――そんな達成感の強いツアーを経て届けられるニューアルバム『TEN』ですが、前作『Duality Code』が結成10周年を経て原点回帰をしつつも楽曲的、サウンド的に幅を広げていたところがあったのに対し、今作は焦点を絞ってきたというか。すごくまとまりがよくて、塊となってガツンとぶつかってくるような印象の強い作品集だと思いました。
toku:ありがとうございます。
MARiA:前作から2年の間にタイアップ曲がかなり増えて、そこに向けて書いた曲がたくさん収録されているので、なかなかテンションが高い内容になっているのかな。
――確かに、熱量がかなり高い作風ですよね。そういったタイアップ曲を制作しつつ、このアルバムに向けて動き出したのはどれぐらいのタイミングだったんですか?
MARiA:アルバムを出すことが決まったのっていつだっけ?
toku:「そろそろアルバムに向けて動かなきゃね」って話をしたのが、ちょうど2022年の10月とか11月くらいかな。でも、新しいタイアップがどんどん決まるので「どうしよう?」という感じで。
MARiA:ありがたい話ですけどね。
toku:【GARNiDELiA stellacage 2023 -stella ship- Re:CoNNeCT】が決まったことで、「次にツアーがあるんだったら、こういう曲も必要だよね」みたいな話をしたことが大きかったかな。
MARiA:アルバムのコンセプト的な話をしたのは、実はかなり近々なんです。前回のツアーには“起死回生”という裏テーマがあったんですけど、GARNiDELiAは以前『起死回生』というアルバムをリリースしていて、今回のツアーでは必ず1曲目に「起死回生」を披露していたんです。それはコロナによっていろんなことが一度リセットされたあと、何かのきっかけにならないかなとひとりで中国に飛び込んでいって、『乗風2023』で掴んだ今の結果にもつながっていて。自分たちにとって起死回生になればいいなという願いを込めて(中国へ)行ったことが、大きな波のうねりの中でいい方向に動いて、中国ではすごく有名な日本人アーティストの位置を確立した私たちが、今どうあるべきか、どうしていきたいか……そこからアルバムのコンセプトはスタートしています。“起死回生”できた私たちが、次に目指していくのは?ということで、てっぺんを目指すことが浮かんだ。2024年はメジャーデビュー10周年という節目のタイミングでもありますし、なおかつ中国のみならず日本や世界でてっぺんを獲りたい、自分たちの位置を確立させたいという願いを込めて、『TEN』というタイトルに辿り着きました。
toku:『TEN』という響きからもいろんなイメージが湧きますし、すごく意味深でいいタイトルになったと思います。しかも、タイトルトラックの「―TEN―」では、僕がこのアルバムでいちばんやりたかったことにも挑戦できましたし。
――歌詞も、激動の2023年を経た今のGARNiDELiAからの新たな決意表明のような内容で、サウンド的にもかなりビートが強い。まさにアルバムのオープニングにふさわしい一曲だと思います。
MARiA:歌詞もしっかり読んでほしいですね。この曲、確かライブハウスの楽屋でアイデア出ししてなかった?
toku:そうだね。この曲は上海で作ったんですよ。こういう方向の楽曲はいっぱいやりたいんですけど。アルバムだからこその一曲かなと思っています。続く「暁桜」もビート感の強い楽曲ですし、3曲目の「蒼天」はアグレッシブなロックチューン。この冒頭3曲はライブのオープニングを飾るにふさわしい流れになったんじゃないかな。
――「暁桜」も「蒼天」もタイアップ曲ですが、こうして並べてみるとアルバムとして自然な流れで楽しめますね。
MARiA:私たちへのタイアップの要望として、こういう和風テイストの曲でオーダーをいただくことが多いので、自然と統一感が出ているんでしょうね(笑)。ただ、うちらとしてはそのイメージをある程度保ちつつ、いかにぶち壊していくかが課題で。そうしないと、全部同じような曲になってしまうので。
――その課題と対峙しながら、サウンドやメロディをどんどんアップデートさせていくわけですね。実際、このアルバムはそういうテイストになっていると思います。
toku:今まではアルバム1枚を作るのに対して新たな音色を作って、その中でやりくりしていこう、みたいな制作手法だったんですけど、今回はタイアップ曲も多く曲単体のクオリティだけを考えて作ってきたので、とにかくバラバラ。そもそもサブスクが主流になったことで、音楽の聴き方自体も、アルバムを通してというよりは単曲で楽しむ方向に変わってしまったじゃないですか。そういうこともあって、今回のアルバムに関しては曲順がストーリーを作っていくんだろうなと思ったので、まとめはMARiAに任せようと思いまして(笑)。ただ、既発の配信楽曲もすべてアルバム用に新たにマスタリングをしているので、そこで統一感も多少は与えられたんじゃないかと思います。
中国での経験がもたらした変化
――なるほど。本作ではMARiAさんの歌がどんどん深みを増していて、とにかく歌が気持ちよく楽しめるアルバムだと思いました。
MARiA:本当ですか? この一年、ものすごく過酷な環境で戦ってきたので、歌が信じられないぐらいスキルアップしている感覚が自分の中にもあって。中国というまったく日本語が通じない環境で、自力で歌を表現しなくちゃいけないし、教えてくれる人がいないから自分で突っ込んでいかないといけない。日本語と中国語で喉の響かせ方も全然違いますし。スケジュールも本当にカツカツで、3日で新しいステージに立つという番組がありながら、ワールドツアーも並行して行っていたので、常に限界突破をしていたんですよ。中国の楽曲に今までほとんど触れてこなかったので、この期間にたくさん向き合ったことで、歌い方や声の使い方など新しい発見もたくさんあった。しかもありがたいことに、中国の超スーパースターの方々と一緒に歌わせてもらう機会もたくさんあって、それもすごく刺激になりました。
――『Duality Code』のときはソロ活動から得られた経験があったと思いますが、あのときとも異なる進化の仕方をしていて。特にアルバム後半のエモーショナルさが際立つ楽曲で、その実力が発揮されていると感じました。
MARiA:歌に注目してもらえるのは、めっちゃうれしいですね。
toku:マイクは新調しているけど、歌の録り方自体は今までとあまり変わっていなくて。歌詞の内容が力強くなっていることから導かれたものもあると思います。特に、アルバム後半に収録されている新曲群はレコーディング終盤に一気に録ったものなので、よりその成長が出ているのかもしれないですね。
MARiA:「QUEEN(S) GAME」以降のノンタイアップ曲は、めっちゃ最近録った歌なんです。
toku:そうだね。トラックはツアー中に移動先で作って、歌だけレコーディングスタジオを使って録る、みたいな形で。しかも、限られたスケジュールの中、ピンポイントでレコーディングしていたので、いい歌を録ることに集中できていたと思います。
MARiA:ここで録れなかったらもう飛ばすしかないっていう、ギリギリの戦いを経てこのアルバムは完成しました。気合いで録る、みたいな(笑)。
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前作『Duality Code』と対照的に仕上がった理由
――その凄みも、歌に表れていると思います。
MARiA:「これひとつ飛ばしたら全部なくなる」みたいなスケジュールだったので、気迫がすごいんじゃないかと(笑)。私、基本的にはあんまりピリつかないんですけど、このレコーディング期間は……。
toku:珍しくピリついてたね(笑)。
MARiA:「ここで歌詞が間に合わなかったら……」っていう瞬間が何度もありましたし。レコーディングの日は絶対にずらせないので、歌詞はそこまでに固めなきゃいけない。そういうギリギリの戦いの中から生まれた歌詞たちなんです。
――だから、繊細さよりもパワーの伝わる作品に仕上がったんですね。
MARiA:そこが『Duality Code』とは対照的ですよね。前作はまだコロナの影響を若干受けていた中で、制作はずっと家にこもって進めていましたし。数年前はお外に出られなかったのに、今は世界中に飛びまくっているという。
toku:コロナ期間に自宅の機材を新調したのに、今回はそれすら使えなかった(笑)。
MARiA:自分たちの環境としても対照的ですよね。飛行機をタクシーのように使って世界中を飛び回って、家に帰れない生活が続く。そんな日々を生きている私たちだから、自然と「いくぞ!」みたいに力がみなぎる。加えて、言葉や文化が異なる環境でいかに最大限のパフォーマンスができるかというところでも戦っていたから、「もうやるしかない!」みたいに、細かいことを気にせずノリとテンションで作ったところもあるかもしれません。
――コロナを挟んで、こうも対照的に変化するんですね。
MARiA:そうですね。その一方で、歌詞に関しては書きたいことを書いた感じで。タイアップものに関してはもちろん脚本やストーリーがあるから、そのお題に沿って書いていきましたけど、『Duality Code』が自分たちの伝えたいことを、アルバム一枚を通して伝えようと書いたのに対して、今回の『TEN』では一曲ずつ書きたいことを書くというテンションだったんです。なので、アルバムを通して何を伝えたいというよりは、そのとき楽しかったから「QUEEN(S) GAME」を書いたし、恋愛の曲を書こうと思ったらそのとき思い浮かんだ失恋の話をテーマに「フィクション」を書いた……みたいな感じで、自分の感覚にすべて従ってみたんです。
――なるほど。その中には「QUEEN(S) GAME」みたいに、めちゃくちゃ強い女性がテーマの楽曲もあると。
MARiA:そうですね(笑)。もともと自分が書くダンス系の歌詞は、わりと強い女の子が題材になることが多いんですけど、今回はさらに強くなっちゃいました。
――冒頭2行ですべて伝わりました(笑)。
2人:(笑)。
MARiA:あと、ボーカルのレコーディング時間は過去イチ早かったですね。
toku:確かに、今まででいちばん短かった。
MARiA:以前は立ち上がりに時間がかかるタイプだったんですけど、それを待っていると今回のスケジュールはこなせないんです。なので、スイッチオンの状態でこの一年を過ごしてきて、スタジオに入ったら一発目からポン!と高い状態に行けた。ずっとスイッチを切っていないんですよね、自分の中で。いつでもステージに立てるし、いつでもレコーディングできる状態(笑)。だから、自分が書いた歌詞に忠実に歌えば自然とパワーが出るという。結果、歌について余計なことを考えることはなくなりました。
toku:アーティストっぽい発言ですね(笑)。
MARiA:しかも、それが今も続いているんですよ(笑)。ありがたいですけどね。
――そういう状態を維持し続けることが負担にはならないんですか?
MARiA:倒れるまではやろうかなと思っているんですけど、なかなか倒れてくれないんですよね。私、たぶん丈夫なんだと思います(笑)。一時期、目覚めたら知らない天井が見えないかなというシチュエーションに憧れたことがあって。
――倒れて、目が覚めたら病院の天井が見えたみたいな?
MARiA:そう(笑)。でも、こんなにヤバい状況で倒れないんだったら、今後一切倒れることはないんだろうなって。これぐらい逞しくないと、頻繁に日本と海外を行き来できないですよ。そもそも、向こうの音楽業界や芸能界って日本とは全然違うので、戦い方もまったく異なりますし。そこで笑って「イエーイ!」みたいにやれるメンタルと体力が必要ですから。今まで生きてきた環境とはまったく異なる場所に行くので、何もかもが新しくて。そんなことを大人になってから経験することってほとんどないじゃないですか。年齢的にも、初めてのことってどんどん少なくなっていく中で、ここまで新しい世界に飛び込んでいくわけですから、それなりにハードなことを要求されますし、自分の中のメーターが全部振り切った結果、奥底で眠っていた潜在能力も引き出される。そりゃあ強くなりますよ。鋼を超えてダイヤモンドのメンタルを手に入れたと思います(笑)。
――こういうアルバムに仕上がった理由がわかりました。いろいろ納得です。
MARiA:やっぱり、音楽って自分たちの人生からしか生まれないですからね。生きる環境が大きく反映されるし、それこそ恋愛も、彼氏が変われば出てくる歌詞の内容も変わるし。「QUEEN(S) GAME」も、以前の私だったらあの最初の2行は書けなかっただろうし、今の私だから生まれた歌詞なわけです。その時々の心情やメンタルがかなり影響してくるから、アルバムって面白いですね。そのアーティストの人生が詰め込まれた一枚なわけですから。
――人生のドキュメンタリーですよね。
MARiA:そうそう。日記みたいなものですね。
――6月30日の東京・日比谷野外音楽堂でのライブを皮切りに、新たなワールドツアーが始まります。これだけ生命力の強い楽曲が揃ったことで、次のライブがますます楽しみになりました。
MARiA:ライブで聴いたら印象が変わる曲もたくさんあると思うので、ぜひ生で聴いてほしいです。それに今の私たち、常に最強のライブができるくらいとんでもないパワーが溢れていますからね。とにかく怖いものが全然なくなっちゃったので、ステージが日々楽しいんです。今まででいちばん楽しいですし、毎回“楽しい”を更新しているところ。そんな音楽人生を歩ませてもらえてすごく幸せです。
toku:最近はツアーだけじゃなく、イベントとかにもひっきりなしに出させていただいていますし、それもいい状況を保てている要因なのかな。
MARiA:2023年はオフシーズンがなかったからね。
toku:今年もオフシーズンがなさそうだけど、その中で曲をいつ作ればいいんだっていう話ですが(笑)。
MARiA:なんなら今も作ってますから(笑)。でも、裏を返せばそれだけGARNiDELiAが求められているってことですし、めちゃくちゃありがたいです。ここからも感謝の気持ちを忘れずに、突き進んでいきたいと思います!
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