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<インタビュー>ザ・クロマニヨンズ 甲本ヒロトが語る、最新アルバム『HEY! WONDER』とロックンロールを“楽しみ続けられる”理由
Interview & Text:沖さやこ
ザ・クロマニヨンズが17枚目のフルアルバム『HEY! WONDER』をリリースした。エネルギッシュなパンクナンバーである先行シングル楽曲「あいのロックンロール」を筆頭に、コーラスワークが効果的なロックンロール、歌詞が胸に染み入る軽快なカントリーテイストの楽曲、ロマンチックなラブソングなど、ポジティブなムードが湧き立つ楽曲が多く収録されている。このインタビューでは、フロントマンの甲本ヒロトに最新作や曲作りの話題はもちろん、ライブやレコーディング、ツアーに対する心情や向き合い方などを語ってもらった。その言葉には、ザ・クロマニヨンズが、そして甲本が今もバンドを存分に楽しみ、瑞々しいロックンロールを鳴らし続けられる理由が詰まっていた。
これまでよりお客さん“を”見たライブ
――2023年9月~10月に開催されたザ・クロマニヨンズの全国ツアー【月へひととび】は、久しぶりの小さめキャパシティのライブハウスツアーでしたが、回ってみていかがでしたか?
甲本ヒロト:楽しかった。意外と楽しかった。
――意外と?
甲本:というのは、ライブは楽しいのが当たり前で。いつも通り楽しいと思ってたら、それ以上にもっと楽しかった。多分ね、コロナがあって、ああいうライブハウスでのライブをもう何年間もやってこなかったわけですよ。その前まで俺は「ホールもライブハウスも、イベントも野外も全部一緒」「お客がたくさんいようが少なかろうがステージは全部平べったい板の上だし、ここから外のことは関係ねえ」って思ってたし、そういう発言もしてきた。でも久しぶりにライブハウスでライブしたら、よかった。関係あった(笑)。
――ステージで皆さんが存分に音楽を楽しんで、お客さんはそれを観て喜んでいるという構図が、ザ・クロマニヨンズのライブに対する印象でした。でも【月へひととび】では、そのスタンスは崩れずも、これまでよりお客さん“を”見たライブなのかなとは感じて。
甲本:それはあります。あとお客さんも、コロナ前後で意識が変わってたんじゃないかな。みんなからの「待ってました!」感や「こんな感じ、ずっとなかったよな」っていうでっかい気持ちが、ライブハウスにあった気がして。それが今までにはなかったものだったのかもしれない。物理的にお客さんが近かったから、余計感じたね。「関係ない」ってずっと言ってたけど、「いいお客さんだな」とか、いろいろ感じさせてくれるツアーになった。
――今作『HEY! WONDER』は、ツアー【MOUNTAIN BANANA 2023】と【月へひととび】の間で制作されたものですか?
甲本:そうです、そうです。『MOUNTAIN BANANA』のツアーが終わって割とすぐ後、5月ぐらいからレコーディングしてて、6月に出来上がった。
――『MOUNTAIN BANANA』のツアーが終わったのが4月29日でした。相変わらず制作からレコーディングまでスピーディーですね。
甲本:マーシー(真島昌利/Gt.)と僕が曲を作っちゃってるので、スタジオ入ったら演奏するだけなんです。そこでいろいろと考えたりしない。よくボーカルの人がレコーディング中にずっと歌詞を考えてるって言うけど、僕らにそういう時間は0秒です。もしスタジオに入る前に歌詞ができてなかったら、そこで考えても出てこない。
――ヒロトさんとマーシーさんの曲作りは、普段生きているなかでいろんなものを吸収して、それが曲になって自然とご自分からこぼれてくるということですよね。
甲本:吸収したものそのまんま出てくるわけじゃないと思うんですよ。ブルースを聴いたり、レゲエを聴いたり、ジャズを聴いたり、ダウンタウンの漫才を観たり、そういうのも全部が自分というフィルターを通して出てくると思うんです。多分ね。(曲が生まれる)メカニズムは、自分でもよくわからない。うんこした時にうんこを見ても、自分が何食べたか当てられないもん(笑)。そんなもんです。だから「今回こういうことをテーマにアルバム作ろう、これを伝えよう」って考えて、できるものではないんです。
大好きなロックンロールが爆音で僕の周りで鳴ってくれてる。ほんと特等席です
――それもあってか、ザ・クロマニヨンズは音源でもライブでもいつも瑞々しくて、ご自身がご自身の音楽に感動しているんだなと感じるんです。全員がすごく楽しんでいて、いつも新鮮みを感じている。その様子に我々も高揚するというか。
甲本:ああ、それはうれしいですね。やっぱりそれは、僕らがずっとロックンロールに対して受け身だからだと思う。自分で何か新しいものを作り出そうとか、何かを人に伝えよう、発信しよう、表現しよう、人を楽しませようとか、そういう気持ちはないですね。そんなのプロじゃねえって言われたら、プロじゃなくていいです。楽しみたいんです。特に僕は特等席にいるんです。バンドの真ん中にいて、生のギターの音、ベースの音、ドラムの音、大好きなロックンロールが爆音で僕の周りで鳴ってくれてる。ほんと特等席です。そりゃうれしいよ。楽しい。
――バンドを始めてから、それがずっと続いていると。
甲本:そうです、そうです。飽きたら僕もやめるよ。いつ辞めてもいい。だって楽しくなかったら、やってもしょうがない。今まで何度かバンドを解散しましたけど……そのたびに聞かれる。「なんでやめたんですか?」って。(解散するのが)もったいないから辞めたんだよ。「もったいない」という理由でバンドは続けちゃだめだよ。バンドは楽しいからやるんだよ。俺たちがバンドをやろうが辞めようが世の中何にも変わらないし、俺が生きようが死のうが、人間の歴史においてどうでもいい話。僕がどうするかは、気分で適当に決めればいい。誰も困らない。僕が今コロッと死んでも、世の中はなあんにも変わらない(笑)。
――死んで花実は咲かぬ……とは常々思いますが、ヒロトさんが亡くなるのは大事件ですよ。
甲本:悲しんでくれる人もいるかもしれないけどさ、その後も人類は無事にいろんなことをしていくんですよ。だからバンドがひとつなくなろうが大したことじゃないんだけど、ステージで起きることや毎日聴く一枚のレコードは、僕にとって大事件。これは絶対に譲れない、大切なものなんです。
「自分の曲」「マーシーの曲」みたいな意識がないんです
――『HEY! WONDER』は、『MOUNTAIN BANANA』以上にエネルギッシュな曲が多い印象がありました。先行シングルの表題曲としてリリースされたマーシーさん作詞作曲の「あいのロックンロール」は、かなりハイテンポなパンクナンバーで。
甲本:アルバムの1曲目だしね。ドンッて感じで始められたらと思って。
――10年前にインタビューさせていただいたとき、ヒロトさんもマーシーさんも「ずっと一緒にやってきてるから、どっちの作った曲かわからなくなる時がある」とおっしゃっていて。
甲本:あるあるある。日々同じようなものを観たり聴いたりしてるから、同じようなものが出てきてもおかしくないし、違和感はないです。もしかしたらマーシー、僕用に書いてるのかな?(笑) わかんないけど、スタジオで歌っていても「自分の曲」「マーシーの曲」みたいな意識がないんです。でもたまに呼ばれて、セッションとかでマーシー以外の人の歌を歌おうとすると、ものすごく違和感がある。「あ、人の歌だ」って思う。マーシーの曲を歌うときに、そうは思わない。
――「不器用」は特に、マーシーさんの曲を歌ってらっしゃるときならではのヒロトさんのボーカルだなと感じました。
甲本:自分以外の人が聴いたら「ヒロト、自分の歌とマーシーの歌は違うふうに歌ってる」って思うかもしれないけど、僕にそういう意識はないんです。でも僕が歌うことでマーシーの曲から何かが減ってはいけないと思うから、心持ち自分の曲よりも丁寧にやってるかもしれない。僕が足せる部分はそんなにないから(笑)。
言葉には意味以外のものがいっぱい詰まってる
――そんなことは絶対にないですけど(笑)。『MOUNTAIN BANANA』の「さぼりたい」や、『あいのロックンロール』のカップリング曲「SEX AND DRUGS AND ROCK‘N’ROLL」、今作収録の「くだらねえ」と、歌詞がタイトルのワードのみの曲も多いのは、おふたりの共通したモードなのでしょうか?
甲本:とはいっても、スリーワード・スリーコードはロックンロールではよくあることだから。モンクスなんかも1曲の中に3つしか言葉が出てこない。そういうコンセプトのバンドもいるぐらいだから、そんなに珍しいことではないよ。
――ヒロトさんは歌詞の意味について、あまり重きを置いていないという発言もよくされていますよね。今おっしゃっていただいたことは、それと通ずる思考なのでしょうか。
甲本:歌詞はものすごく大事ですよ。自分がその歌詞にどれだけ感動できるかって、すごく大事。でも意味はどうでもいい。歌詞は「こんな意味のことを言ってるからすごい」じゃなくて、パンと聴いた瞬間に「わあっ」てなる、そういう感動が大事だと思う。語感も含めて、 歌詞はものすごく大事です。言葉には意味以外のものがいっぱい詰まってる。
――歌詞はヒロトさんの思う綺麗な言葉であればいい?
甲本:綺麗じゃなくていいんですよ。美しければ。
――ああ、なるほど。確かに。
甲本:言葉で表すからこそ歌詞なんだよね。たとえばゴッホの『ひまわり』は、ゴッホがひまわりを伝えようとして描いたものだろうか。あの絵からゴッホの「ほらひまわりだよ! 僕、ひまわりが大好きなんだ」って気持ちはちっとも感じないよ。あれはひまわりじゃない、絵の具です。歌詞もそうです。だから誰かの歌を聴いて感動するとき「かっこいい!」と思うけど、その歌がどんな意味を書いているのかは、よくわかんなかったりする。どういう意味なんだろうって考えたこともない。
――それは言葉の美しさに感動しているからであると。でも受け手がザ・クロマニヨンズの歌詞の意味を自分なりに考えて感動するのは、とても素敵なことですよね。
甲本:そうそうそう、それでいいんです。よく「メッセージのある歌詞」と言われたりもするけど、僕はメッセージを発したつもりはないんです。そう感じるのは、受け取った人の心の中にもともとあったものなんです。だからその人の気づいていないものを喚起させただけだし、そうやって(聴き手を)喚起させることが歌詞の大切さだと思う。聴いた人の心の中にある“なんかいいもの”を感じさせられたら、いい歌だなって言ってもらえる。
――個人的には「大山椒魚」の歌詞がすごくいいなと思って。
甲本:この歌詞もね、意味わかんないよね(笑)。
――あははは。凛々しさに鼓舞されました。詳細な言語化は難しいんですけど。
甲本:文章で伝えるって難しいよね。昔のクラシックの人も楽譜でしか音楽を残せなかったけど、残す方法が紙だけだと無理がある。今は録音技術があるから、僕らは言葉で説明するんじゃなくて、本物そのままを「どうだ」って見せられる。だから僕以外の人が歌ったら、また歌詞も違うものに聴こえるかもしれない。
バンドってのは自分たちで決めた本当の仲間だから、楽しいね
――そうですね。「恋のOKサイン」も、ロマンチックなのにコーラスが入ることで絶妙な塩梅になっていて、そういうのは音楽の妙だなと。コーラスにも楽しげな雰囲気が漲っているので、聴いている側もテンションが上がります。
甲本:コーラスの録音もすごく楽しい。演奏は「せーの」で、みんなでバンッと演奏するんだけど、僕は歌、カツジ(桐田勝治)はドラム、マーシーはギター、コビー(小林勝)はベースで、みんな違うことやってるでしょ。でもコーラスは、ひとつのマイクでみんなが同じことやるから楽しいね。学校とかさ、そういうとこで「みんなで一緒に」ってやらされるのは好きじゃないけど、あれがなんで好きじゃないかっていうと、自分の意思で集まった人たちじゃないからなんだよなあ。
――ああ、確かに。
甲本:だけどバンドってのは自分たちで決めた本当の仲間だから、楽しいね。「オイ!」って言ってるときもみんな一生懸命(笑)。それで「今のもう一回やり直そう」「マイクをもっと離してみよう」「もっと近づけたほうがいいんじゃないか」とか、みんなで頭使って聴こえ方を考えて、ちゃんと真面目なことやってる(笑)。こういう雰囲気は録音物だから伝えられるんだよね。さっきも言ったけど、楽譜では伝わらない。耳元で「オイ」って言うのも、大きな野球場みたいなところで「オイ」って言うのも、文字だと全部同じだけど、録音物だと雰囲気がそのまま残るんだよね。
――お話を伺っていると、ライブとレコーディングの楽しみ方はそれぞれ違うんですね。
甲本:レコーディングだとね、やっぱり頭のどっかでどうしても「今の歌と演奏が残る」っていう意識がはたらきます。それはもう拭えない。でもライブはもう残す気ゼロ。その違いはあると思う。
――残す気がないからこそ出せるものもあれば、その逆も然り。
甲本:そうそう。残そうとすることで伝わるものもあるし、ライブでしか出てこない爆発力や瞬発力もあるし、それを両立させるのは難しい。だからライブ盤は非常に微妙な位置にあって……その場限りのことをやってるんだけど、それが残って、ずっと聴けるでしょ。非常に難しいところにあると思う。で、僕らのライブはうまくやれてると思う(笑)。
――ははは、間違いないです。去年の10月にリリースしたライブ盤『ザ・クロマニヨンズ ツアー MOUNTAIN BANANA 2023』も、ライブの良さがちゃんと残っていました。
甲本:ラジオでかかってるのを聴いて「かっこいいライブ盤だな」「あ、いいライブだな」と思ったな。ライブは残す気ないし、自分にとって終わったものだから、他人事なんですよ。その場で終わってるはずのものが残って、二番だしがまだ使えたんだって思うと得した気がするよ(笑)。
『ザ・クロマニヨンズ ツアー MOUNTAIN BANANA 2023』15秒SPOT
――アルバムのリリースから9日後にスタートするツアー【HEY! WONDER 2024】も、そういうライブが観られるんだろうなと思います。
甲本:僕らは毎回ニューアルバムから全曲やるんです。できれば1曲目からケツまで、曲順通りが理想。だからアルバムは、いつもツアーの予告編。今回もそうなる。全曲ライブでやることのいいところは、ライブの後に「ああ、今日楽しかったな」と思って家に帰ってアルバムを聴いたら、まったく同じ曲順で流れるところ。ライブを反芻できて、ツアーとアルバムがうまくリンクするから。
――リリースツアーとアルバム制作、どちらもあってこそのザ・クロマニヨンズの音楽であることをあらためて感じるお話でした。
甲本:1年でツアーやってレコーディングして、1年でツアーやってレコーディングして……そのルーティーンだからね。あのね、ルーティーンって全力でやることなんです。たとえば腕を横にピーンと伸ばしてみるとさ、全力を出して伸ばせる長さは決まってるでしょ?
――そうですね。人間なのでどうしたって腕の長さ以上の長さは出せません。
甲本:これと同じ。いつも全力でやってるから、毎回同じサイクルになる。これがルーティーンなんです。だからルーティーンに飽きちゃう人は、脳みそで「こんくらいにしよう」って腕を伸ばす長さを変えてるんだろうね。でも自分の意識下にあるものって、飽きますよ。だって季節に飽きないでしょ? でも自分が作った夏だったら飽きるよ。全力出したら何も考えずにやるだけだから、飽きるも何もないよね(笑)。
HEY! WONDER
2024/02/07 RELEASE
BVCL-1356 ¥ 3,204(税込)
Disc01
- 01.あいのロックンロール (MONO)
- 02.大山椒魚 (MONO)
- 03.ゆでたまご (MONO)
- 04.ハイウェイ61 (MONO)
- 05.よつであみ (MONO)
- 06.恋のOKサイン (MONO)
- 07.メロディー (MONO)
- 08.くだらねえ (MONO)
- 09.ダーウィン(恋こそがすべて) (MONO)
- 10.SEX AND VIOLENCE (MONO)
- 11.不器用 (MONO)
- 12.男の愛は火薬だぜ ~『東京火薬野郎』主題歌~ (MONO)
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