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<インタビュー>オペラ歌手の今井俊輔とミュージカル俳優の中井智彦がビルボードライブで初めてのライブを開催、リスペクトしあう二人

インタビューバナー

 国内外の指揮者やオペラ演出家からも評価が高いオペラ歌手・バリトン今井俊輔と、ミュージカルや歌手活動をはじめ、ラジオ番組のパーソナリティなど活躍の場を広げているミュージカル俳優・中井智彦が、ビルボードライブに初登場! 東京藝術大学の同級生で、今も親交の深い彼らが、圧巻の歌声と親しみのある軽快なトークで魅了します。今回は、フルオーケストラを思わせる豊かな音と独自の技術、高い音楽性が絶賛されているエレクトーンの神田将も競演。プログラムはオペラ『椿姫』やミュージカル『オペラ座の怪人』などの楽曲からぽポップスまでジャンルレスなラインアップを予定しています。実力派メンバーが繰り広げる、クロスオーバーな一夜を前に、今井俊輔と中井智彦の対談が実現。コンサートに向けての期待感や、お互いにリスペクトしあうそれぞれの個性について語ってもらいました。(Interview & Text: 岩本和子 / Photo:小川星奈 / 協力:ホテル日航大阪)

オペラとミュージカルのいいとこ取り、だからこそ一球入魂

――ビルボードライブに初登場ですね。

中井智彦(以下、中井):ビルボードライブ横浜は観客として行ったことがあったんですけど、先日、初めてビルボードライブ大阪に足を踏み入れまして、どこにいてもいい音が聴こえそうだなと思いました。しかも舞台上に5つもモニターがあって。ここまで徹底して音にこだわってくださる、こんな贅沢なライブハウスはなかなかないですね。ラグジュアリーで憧れのビルボードライブに、僕と今井さんのオペラとミュージカルで立てるということに興奮しているところです。

今井俊輔(以下、今井):僕はこういったライブハウスの経験が少ないので、今回は中井に頼りっぱなしになるのですが、ホールとかあまり関係なく、僕は自分の中で処理をして歌うと決めています。クラシックは響きのあるホールで歌ったり、野外でも歌うこともあるのですが、自分の身体が楽器なので、とにかくその環境に左右されないように気をつけることを心がけています。

中井:今回はエレクトーンの神田将さんも一緒なので、今井さんの声がマイクに入って、そしてエレクトーンの音もスピーカーから出てというミックスは、今井さんが自身の楽器を鳴らせば鳴らすほど音の可能性が広がるので、音響のスタッフさんも色んなアプローチをしてくださると思います。僕は僕でオンマイクで歌うので、そこの違いも楽しんでいただけたら最高だなと思います。




――エレクトーン奏者の神田将さんとはこれまでもお三方でコンサートをされていますが、お二人の声と、神田さんのエレクトーンが合わさるとどんな音になるのでしょうか?

今井:神田さんは本当にどちらにも行けるんですよ。弾き分けられる。

中井:そうですね。ミュージカルとオペラ両方を弾ける人は、実はあんまりいないんですよ。いや、ほぼいないですね。今井さんはがっつりオペラを歌うので、その音感であったり、一つ一つの音のチョイス、それから呼吸。大事なのは呼吸です。楽譜に忠実でありながら、歌い手の呼吸を見てしっかりと音を入れる。オペラにいわゆるコレペティ(オペラのピアノ伴奏者)がいるのは、楽譜に忠実に表現するために「この音楽はこうだから、こういうふうに歌うといいよ」と作曲家の意図を紐解く手伝いをする存在が必要だからなんです。その中で、神田さんは一つ一つのエレクトーンの音のチョイスも素晴らしく、壮大なオーケストレーションを奏でます。この神田さんのオーケストラで今井さんのオペラを聴きたかったんです。一方、ミュージカルはどうかというと、オペラのように楽譜通りに弾いていても、うまくいかないことがあるんですよ。そこをどう音で埋めていくかという作業がミュージカルの場合はすごく大切になるんですよね。神田さんはミュージカルでも音の埋め方はもちろん、自由に動いた方が効果的なところも完璧についてきてくれます。その辺はオペラよりも若干、ミュージカルの方が自由なんですけど、その自由を持ちつつ、オペラの形式もしっかりと理解されていて、まさに「オペラ×ミュージカル」ができる、本当に類いまれなエレクトーン奏者だと思います。

今井:神田さんはオーケストラの音を全部、担当しているわけだからね。すごいよね。

――コンサートでオペラやミュージカルの曲を歌われる時は、どんなふうに気持ちを乗せていらっしゃるのでしょうか?

中井:僕はガラコンサートが大好きなんです。次々にオペラの名シーンやアリアを聴かせてくれるというのが。音楽大学を目指した時に、オムニバスCDを買って「この曲は、このクラシックだったんだ」と、初めて曲が頭の中で結びついたことにワクワクしていました。なので、今回のコンサートでは、街中で聴いたことがあるメロディが実はオペラだった、実はミュージカルの曲だったんだ、ということを味わえるような作りにしています。オペラもミュージカルも、いいとこ取りです。だからこそ一球入魂といいますか、その中で役として演じ、歌います。僕はJ-POPも歌わせていただくので、中井智彦として歌詞の温かさなどを歌いたいなと思ったりするのですが、ミュージカルを歌わせていただくときは、その役として浮かんでくる情景をお客様にお見せすることに集中したいと思います。




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役の感情を入れ込みながらも、混じり気のない唯一無二の声を

――歌うときは、どういうところに着目していらっしゃるんですか?

今井:『BS日本・こころの歌』(BS日テレ)というテレビ番組に出させていただくようになって、日本の歌謡曲やオールディーズなど、いろいろな歌に挑戦させていただいています。僕はオペラ歌手という根幹があるので、発声自体は変えるつもりはなくて。城でも築くの?というようなどっしりとした土台が自分の中にあるので、自分の何かを崩したりとか、変えたりということはしないです。ただ、たとえばポップスでもちょっと語らなきゃいけないようなときは、もう少し言葉に寄り添ったものにしています。

中井:僕も発声をかなり大切にしているのですが、大学時代にブロードウェイに行ってミュージカルを観た時に感じたのは、演技でした。演技は「演じよう」という力みがあると固まってしまうので、演じようとすることよりも、その人としてしゃべらないと成立しない。その人の持っている声を力みで変えても演技がうまくいかないんですよ。特にミュージカルを志す方にアドバイスを求められたときは、普段しゃべっている声で、そのまま歌うようにと伝えます。そのしゃべっている声が、今井さんの場合はクラシックの素養がしっかりとあるので、台詞と歌、すべてが一本しっかりと通っています。だからこそ盤石な土台を持っている説得力のある歌い手になる。そして今井さんのピアニッシモが僕は大好き!

今井:ありがとう。一番大事なところだからね。



中井:それは今井さんが言葉を大切にしているからこそだと思うんです。僕は今井さんがオペラを演じている姿を観るのがすごく好きで。演じ方がブレないんですよ。演技でも無駄な何かをやるのではなくて、そこにしっかりと存在している。役として力が抜けている。僕はそれこそが演技の真髄だと思っています。そうなった時に出る声はリアルなんですよね。僕も演技をやればやるほど、勉強すれば勉強するほど、自分の本当の声に重きを置いています。このシチュエーションで、僕ならどう歌うか、どう踊るのか。なので「圧倒的に歌を聴かせよう」ではなく、「この人がこの脚本を受け取ったら、こうなるよね」という自然な演技から生まれる歌を目指しています。

今井:しかも、いろんな色を混ぜすぎると濁っちゃうから、コントラストがなくなってくるんですよね。色としては、やっぱりビビッドの方がいいですから。中井の演技には、本当にその色がパン!と出ています。僕はそこが中井の大好きなところで。変な色が混ざってこないのが、中井の素晴らしいところだと思います。

中井:色を混ぜて、自分の色ではないものを出そうとするとブレるんですよね。自分とは全然違う役だからといって色を塗りすぎちゃうと、実が見えなくなりますね。

――それは楽譜に書いてあることをそのまま歌うことと同じですか?

今井:オペラは特に楽譜に忠実であることが大事です。楽譜には作曲者の意図が書かれているので、楽譜に書いてある記号やリズムを何一つ見落とさず、まずは体に入れる。ミュージカルはセリフもしゃべらなきゃいけないので、そんなに楽譜に忠実じゃなくてもいいんじゃないのかなと思いますが。

中井:ミュージカルも基本はまず楽譜です。楽譜に忠実にやった後に、どうしてもフェイクで表現したいときは作曲者に相談します。ミュージカルの場合は作曲者が存命の方が多いので、ディスカッションして変更することもあります。オペラは作曲家が亡くなっているので、ディスカッションができませんが、存命だったら演者とのディスカッションは絶対あったと思います。

――だからこそ楽譜に作曲者のメッセージが残っている。

今井:そう、楽譜に全部入っています。たとえばジュゼッペ・ヴェルディはどう思っていたのかなと考えた時は楽譜を読み込んで、さらに文献や書簡も調べます。先日、日生劇場でやらせていただいたヴェルディの『マクベス』なんかは、「僕の意見は聞かないでくれ。作曲家の意見じゃなくて、あれは台本作家の意見を聞くべきだ」とヴェルディが書いた書簡があり、「これはオペラじゃない。芝居でやってくれ」という箇所もありました。オペラも同じく見せるものですから、ヴェルディはそこを本当に大事にしていた。楽譜はもちろん、文献や書簡にも細かく書いてあるので、それらを手繰り寄せる感じです。



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ビルボードライブでオペラ×ミュージカルの真髄に迫る



――お二人は大学の同級生ですが、お互いにプロとして歌に向き合う姿に刺激を受けて、それが自分自身に還元されたという経験はありますか?

今井:たとえば、テレビの仕事などで歌う時に、「中井ってどうやってマイクを使っていたかな」とか、「どうやってしゃべるような歌いまわしをしていたかな」とか、参考にさせてもらうところがあるんだよね。

中井:そうなの!?

今井:マイクを使う技術だったりとか。オペラの場合は役に入りすぎると、それはそれでダメなんですよね。まず自分、「個」というのがあって、その個の声を楽しんでいくものなので。自分の声を残しながら、役を自分につけていかないといけないから、そういう時はいろんな埋没の仕方を考えるんです。たとえば鏡に自分の役が生きている時代背景の絵を貼ったり、演じるキャラクターを映したりして、「このキャラクターが自分を通り抜けた時に、役になって舞台に出ていく」というようなイメージしながら歌ったりするのですが、それを「やりすぎ」と言われる時もあって。そんな時に「あの人はどうやっていたかな?」と一番身近で考えられるのは中井なので、「ライブで中井はどうアプローチしていたかな」と思い出して、参考にさせてもらうことがすごくあります。

中井:なんか照れるな。ありがとう…!僕はミュージカルの歌唱指導もやらせてもらっているのですが、今井さんが「まず声があって、そこに“演じる”をくっつける」と言っていたじゃないですか。ミュージカルの場合はその逆で、「演じる」をくっつけた時にどういう声になるのか。今、持っている声をどう演技に反映させるのか。持っていない声を無理やり出そうとすると壊れちゃうんです。今井さんのように自分の発声を研究し続けている人の声はどんなに難しい演技を要求されても壊れないし、声の飛ばし方から、何ならホールの一番響く部分はどこか、ちゃんと感じ取って歌ってるでしょう?

今井:(頷く)

中井:そういう感覚って忘れちゃいけないと思うんです。まずは自分が自分らしくそこにいることが大事。だからこそ自分の体を研究する、自分の喉を研究する。自分にしか分からない声の感覚もあるし、だからこそ研究は面白いよね。

今井:そうそうそう。

中井:自分の声という楽器に向き合う今井さんを見ていたら、そういったことを怠ってはいけないなと痛感します。今回のライブは、それぞれの道に進んでからも、お互いを刺激し合ってきた二人だからこそお届けできるプログラムですし、オペラとミュージカルの新春ガラコンサートのようなライブにしたいと思います。バリトンの声をもった二人の化学変化を、会場で存分に味わってほしいです。






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