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<コラム>星街すいせい&TAKU INOUEによるMidnight Grand Orchestra、新たな音世界へ連れ出す2ndミニアルバム『Starpeggio』
Text:田中久勝
©︎ VIA/TOY'S FACTORY , ©︎ 2016 COVER Corp.
独立しながら更新を続けるふたつのクリエイティビティ
昨年3月に始動したホロライブ所属のVTuber・星街すいせいと、サウンドプロデューサー・TAKU INOUEによる音楽プロジェクト、“ミドグラ”ことMidnight Grand Orchestra。同年7月に発表した1stミニアルバム『Overture』は、TAKU INOUEのコンセプチュアルで斬新な音世界が提示され、エレクトロニック・ポップを起点にディスコチューンからミドルチューンまで楽しませてくれる、スペースオペラとでもいうべき、宇宙を旅する物語性を強く感じさせてくれる壮大かつファンタジックな作品だった。多くのファンがその体験したことがない音楽によって、新たな世界へと連れ出され、衝撃を受けた。
それから約1年5カ月、ミドグラから2ndミニアルバム『Starpeggio』が届けられた。そこには星街すいせいとTAKU INOUEというふたつのクリエイティビティが、独立しながら更新を続け、ミドグラという場所で融合した瞬間、強い光を放つ――そんなイメージが浮かんでくるプロダクツが詰まっている。
2nd MINI ALBUM『Starpeggio』クロスフェード・ムービー
結論からいうと、どこまでも美しいアルバム。そしてエレクトロニック・ダンスミュージック+オーケストラサウンドの、ひとつの到達点なのでは?と思わせてくれるほどの深い感動を運んできてくれるアルバム、いやミニアルバムだ。そう、この作品はミニアルバムと謳いながらも重厚感、満足度はフルアルバムに匹敵する。
1曲目の「Midnight Mission」は、まるで触れたら壊れそうな繊細な世界を感じさてくれつつ、徐々に壮大な音像で包み込んでくれ、ドキドキ、ワクワクを与えてくれる。新たなミドグラの世界を開拓し、その物語の幕開けに相応しい胸が躍る一曲だ。<光速じゃ足りない さあ><未開の世界へ>と、星街に手を引かれ、夜を駆け抜けていくようなアッパーチューン「Moonlightspeed」(『モスバーガー』タイアップソング)、イントロのストリングスからグッと掴まれ、アップダウンの激しいテンポに翻弄されながらヤミツキになってしまう「Midnight Mission」。攻撃的なサウンドの「Igniter」は極上の疾走感を生み、洗練されたクールなサウンドの中で、流れる星のような美しい軌道を描くギターが印象的だ。
「Midnight Mission」ミュージック・ビデオ
「Igniter」ミュージック・ビデオ
星街のボーカルが16ビートを攻める「Blackhole Dancehall」は、その歌によってトラックのグルーヴがさらに強化されるような感覚。ドープなサウンドと、ピアノとストリングスの音色が融合し、アウトロの清々しさも相まって、抜群の温度感になって伝わってきてクセになる。そこからの広大な宇宙の中をたゆたうような感覚になるインスト「Starppegio」への緩急に“やられる”リスナーが多いのではないだろうか。前半とは打って変わって凛とした佇まいの音色のピアノと、豊かな弦の音、少ない音数で芳醇なサウンドを構築している。TAKU INOUEのクリエイティビティには改めて感服するしかない。
この冬の時季は三大流星群の一つ「ふたご座流星群」の活動が極大となり、12月14日夜から15日の明け方にかけて見頃を迎えるこのタイミングで<100年先の彗星の日もここで待つから>と歌う「ソリロキー」の、なんともロマンティックな世界観の素晴らしさ。星街の時に静謐な、時にエモーショナルなボーカルとストリングスが重なり生まれる、心地いいグルーヴに抱きしめられるような感覚を覚える。100年先も残っているであろう名曲が生まれた。
ライターとしてはいかがなものかと思うが、この作品を聴いて、クセになる、ヤミツキになるという言葉を何度使ったかわからないが、一番中毒性を感じるのはラストの「夜を待つよ」だろう。ラジオのチューニングのノイズからスタートし、ファンキーなギターが跳ねるビートを作る、ディスコティックなサウンドのギミックの効いたダンスポップだ。サビの<夜を待つよ 夜を待つよ>というフレーズのリフレインがその中毒性を高める。
「夜を待つよ」ミュージック・ビデオ
『Starpeggio』という作品を聴いて、改めてアルバムというのは一曲目から順番に聴いていくものなんだと実感。その構成美というか、アーティストが込めた思いを120%感じるにはやはり一枚通して聴くことで、感動が何倍にも増幅する。デジタル時代の今、音楽はどんな聴き方もできる環境だが、一曲一曲の温度感は次の曲へのバトンになっているし、アーティストのメッセージがラストの曲までしっかりと繋がっている。
星街のエレクトリックでエネルジェティック、時にチルなボーカルが“艶”となってアルバム全体に輝きを与え、様々な色を感じさせてくれる。またその言葉がリズムとなってTAKU INOUEが作るサウンドにグルーヴをプラスし、間口を広げている。その逆も然りで、TAKU INOUEが作るサウンドが、星街の歌に奥行きを与え、リスナーの心の深いところまで届けることができる。
技術の進歩により、2次元・3次元の壁を軽々と越えて、様々なアーティストのコラボレーションが増えつつあるが、YOASOBIしかり、ヨルシカしかり、男性のコンポーザー、サウンドプロデューサーと女性ボーカルの組み合わせは、冒頭にも書いたが、ふたつの圧倒的なクリエイティビティ、それぞれがそれぞれで進化を続けながら、交差した瞬間激しい光を放つ。しかし交差してもなおその個性は個性のまま、ひとつの作品の中でも独立した力を発揮し続ける。
『Starpeggio』は「Star」と「Arpeggio」の造語だと想像するが、二人の音楽、感性を和音として融合させるのではなく、それぞれの矜持や意志を貫くことで、“結果的”に誰にも真似ができない唯一無二の素敵な音楽になった――そう考えるとまだまだ謎多き“ミドグラ”というアーティストと、その音楽の真髄に少しは近づくことができるのかもしれない。
Starpeggio
2023/12/13 RELEASE
TFCC-81055 ¥ 2,750(税込)
Disc01
- 01.Light The Light
- 02.Moonlightspeed
- 03.Midnight Mission
- 04.Igniter
- 05.Blackhole Dancehall
- 06.Starpeggio
- 07.ソリロキー
- 08.夜を待つよ
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