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<インタビュー>Aimer、“大切な人を守りたい”と願う新曲「白色蜉蝣」と、『Open α Door』リリース以降に変化した現在のモードとは
Interview:森朋之
Aimerからニューシングル『白色蜉蝣』が届けられた。
表題曲「白色蜉蝣」(NHKドラマ10『大奥Season2』主題歌)は、“大切な人を守りたい”という普遍的な願いを描いたバラードナンバー。ストリングスを軸にしたサウンドメイク、凛とした強さと抒情性を感じさせるボーカルなど、Aimerの豊かな音楽性を実感できる楽曲だ。
さらに彼女の現在の思いが込められているという楽曲「Overdrive」「Sweet Igloo」も収録。アルバム『Open α Door』以降のモードを反映した本作について、Aimer自身の言葉で語ってもらった。
時代を越えて共通する想い
――まずはこの秋開催されたファンクラブツアー【Aimer Fan Club Tour "Chambre d’hote"】について聞かせてください。約5年ぶりのファンクラブツアーでしたが、Aimerさんにとってはどんなツアーになりましたか?
Aimer:この5年間、本当にいろいろなことがありました。決して平坦な道ではありませんでしたが、どこかのツアーのタイミングでファンクラブに入ってくれたり、「残響散歌」で興味を持ってくれた方もいて。いろんな方がいらっしゃるなかで、ファンクラブツアーでは、距離が近いライブをやりたいなと思っていました。アリーナ、ホールなどの規模の大きい会場のライブは、ステージと客席が物理的に距離も遠かったということもあって。今回はそういうものを「ガンガンガン!」という感じで壊していきたくて。
――壁を壊してしまいたい、と。普段のツアーよりもリラックスしていましたか?
Aimer:距離の近さもそうですが、客席から声を出せるようになったので、私が何か喋ったときにちゃんと答えが返ってくるのは大きかったと思います。あと、「いつものライブではやらないこともやってみよう」という気持ちもあって。ファンクラブツアーで歌ったカバー曲も、たぶん今回だけだと思います。
――バンドメンバーと一緒にダンスを披露したり、確かにいつものツアーとはだいぶ違っていましたよね。いろんな国や地域から来ている方もいらっしゃって。
Aimer:そうなんですよ。アジアからもそうだし、ヨーロッパから来てくれた人もいて。ブラジルの方もいたんです。30時間以上かけてきてくれるなんて、本当にすごいことだなって。
――では、ニューシングル「白色蜉蝣」について。表題曲「白色蜉蝣」はNHKドラマ10『大奥Season2』主題歌ですが、制作の入り口はどんなところだったのでしょうか?
Aimer:まずはドラマの脚本と原作のマンガを読むところからですね。すごく面白くて、すぐに引き込まれて。江戸時代の末期のお話ですけど、世の中の価値観が一変するほどの激動の時代ということでは、今と通じるところがあるのかなと。将軍もそうだし、物語のなかに登場する人たちも、それぞれ形は違っても「大切なもの、大切な人を守りたい」という思いを持っている。そういう真っ直ぐな決意とともに生きるって素敵だなと思ったし、その思いをちゃんと曲にしたかったんです。
――現代とリンクする部分があるというのが大事なポイントだったんですね。
Aimer:ドラマで描かれているのは開国するかどうかで揺れている時代なんですけど、先は未知なことだらけで、日本がどうなっていくのかまったくわからない。その状況は今の世の中と似ていると思うんです。コロナがまさにそうで、「1つのウィルスによって世界が一変する」みたいな経験をしたわけじゃないですか。今もいい変化、悪い変化を含めて、何かの要因で思いもよらないことが起きるんだなって肌で感じていて。そういう状況のなかで「大切な人を守りたい」というのは、もちろん私自身にもあるんです。音楽を聴いてくれる人もそうだし、チームのみんなに対しても……。ここ数年、そういう思いを新たにしている人は、すごく多いと思うんです。大切な人を思う気持ちは時代を超えてずっとつながっているし、それをしっかり伝えられる曲にしたいという思いもありました。
――なるほど。美しいストリングスの音も印象的ですが、Aimerさんはこの曲のサウンドに対してどんなイメージを持っていますか?
Aimer:実はこの曲、ギターがほとんど入っていないんです。こういう曲調だと、ギターの音で壁を作ることが多いんですけど、その手法をあえて使わず、ストリングスとドラム、ベースなどで構成していて。プロデューサーの玉井健二(agehasprings)さんとも話していたんですが、ギターの壁を作らないことをこの曲の象徴にしたかったんですよね。『大奥』にはいろいろな“壁”が存在しているけど、「壁の中と外で同じ想いを抱いている」ということにもすごく感銘を受けたんです。なので「白色蜉蝣」でも、壁を取っ払ってあげたいなと。その結果、間奏だけギターが入っているという不思議な構造の曲になりました。
――すごく興味深いです。ギターの壁を作らないと、歌うにも影響がありそうですね。
Aimer:ギターの支えがないぶん、歌に対する比重が多くなるというか。特にサビに関しては、「どれくらいの熱量で歌えばいいだろう」ということをかなり意識していましたね。今だからできる表現だなって。
自分が自分のままでいれば、新しい道が開けるはず
――「白色蜉蝣」はファンクラブツアーでも披露されていましたが、手ごたえはどうでした?
Aimer:この曲、歌詞の言葉数がかなり多いんです。メロディラインに対して入れられるだけ入れたというか。もっと少なくすることもできたんだけど、言葉でメロを作っていく形にしたかったんですよ。言葉とともに成り立っているメロディだし、1回でも間違えたら終わりといいますか、戻れない感じがあって。それくらい熱量がある曲ですね。
――カップリングも個性的な楽曲が揃っています。シングルの2曲目「Overdrive」はエッジが効いたアッパーチューン。めちゃくちゃカッコいいですね!
Aimer:ありがとうございます。この曲のデモ音源は、BPMがさらに10くらい速かったんですよ。「このテンポだとライブでやれないかも」というくらい激しい曲が原型だったんですが、尖ったところや疾走感を残しつつ形にしていきました。歌詞に関しては、<走れ 走れ>もそうですけど、すごくシンプルな言葉を乗せていて。今の自分の、前作のアルバム『Open α Door』をリリースしてからの心境が出ているというのかな。「白色蜉蝣」もそうですけど、今一度真っ白になって、ここから一歩一歩進んでいこうという気持ちになっているんです。
――『Open α Door』を作り上げたことで、アーティストとしてのモードが変わった?
Aimer:『Open α Door』は自分にとっていろんな扉を開けてみた作品だったんです。でも、「光輝く特別なドアが開いた」という感じはなくて、むしろ「この先も今まで通りに歩いていけばいい」と思えた。自分が自分のままでいれば、これまでの10年とまったく同じことにならないし、新しい道が開けるはずだって。
――「Overdrive」には、<想像と違ったとしても 新しい道がまた開かれるから 駆け出そう このまま>という歌詞もありますね。
Aimer:それは自分を大きく変えるような挑戦ではなくて、オーバードライブ(ギターの音を歪ませたり、音量を上げるエフェクター)を踏むような感覚に近くて。自分のまま新しいことに挑戦することが大事なんじゃないか、という曲にしたかったんです。過剰な自信があるわけでもなく、特別すごいことをしてやろうみたいなモードでもなくて、一歩ずつ進んでいけば、それが自分の道筋になるという感じです。身の丈のまま進んでいくというか。
――身の丈でがんばるしかないですからね、結局は。
Aimer:私はデビューしたときから「自分の部屋で紡いだ音楽を、同じ思いを持っている人と共有したい」と思っていて。それは今も変わっていないし、自分のアイデンティティみたいなものを大切にしながら進んでいきたいなと。そのためには、自分自身の道のりに付き合うだけの長い心を持っていないとダメだと思うんです。これまでの積み重ねだったり、紡いできたものがなかったら、「この先も一歩一歩進んでいきたい」とは言えないので。
――素晴らしいです。「Overdrive」はライブでも盛り上がりそうですね。
Aimer:そうなったらいいなと思ってます。ドラムの宮川(剛)さんにがんばっていただいて(笑)。
――Aimerさんの楽曲、ライブで演奏するためには技術が必要ですからね。
Aimer:今「がんばっていただいて」なんて言いましたけど、宮川さんのドラム、大好きなんですよ。本当に素晴らしいメンバーの方に参加していただいてるし、もう5年くらい一緒にやっていて。楽曲制作のときも、玉井さんと「ライブでやるとき、どういう感じになるかな」と話したりもしますね。
手作りの居場所を大切にしたい
――3曲目の「Sweet Igloo」は、穏やかで優しいメロディが心に残るミディアムバラード。“Igloo”はもともと、イヌイットが住居にしていた雪で作ったシェルターのことですね。
Aimer:はい。その言葉自体に特別な意味を持たせているわけではなくて、手作りの居場所の象徴なんです。この曲にも今の自分の心境が素直に出ていて。デモ音源を何度も聴いていて、なんかこう、すごくいい気持になったんです。フワッと浄化してくれるような曲だなと思ったし、「今自分が思っていることを歌にしよう」という気持ちが芽生えて。
――“手作りの居場所”は、Aimerさんにとってどんなイメージなんですか?
Aimer:デビューから10年以上経ちましたけど、そのなかにはいろんな時代があって。さっきも言ったように決して平坦ではなかったんですが、ずっと一緒にいてくれる人がいるって、すごいことだと思うんです。「そういう人たちと一緒にいる居場所って何だろう?」と考えると、立派な建物とか、きらびやかな場所じゃなくてもいいんです。歌詞にもあるように、小さい燈を一緒に灯せるような、手作りの居場所があればそれでいいなって。大切な人と一緒に音楽を通してつながる。それを繰り返していくことがいちばん大事だし、そのことを曲にしたかったんですよね。それも「Overdrive」と同じで、今まで辿ってきた道があるから、「手作りの居場所でいいんだ」と思えたのかなと。
――Aimerさん自身のリアルな感情を込めた歌詞を歌うと、どうしても気持ちが入りますよね。
Aimer:もちろん自分の気持ちも込めているんですけど、「Sweet Igloo」はできるだけ優しく歌いたくて。デモ音源を聴いたときに抱いた感覚をそのまま残したいというのかな。もともとあった温かさや優しさを壊したくなかったし、そうすることで小さな燈が聴く人に届いてくれたらいいなって。ドラマチックに歌い上げるというより、 そっと優しく、今の居場所を壊さないように、という思いで歌っています。
――楽曲に対するファースト・インプレッションをしっかり守りたい、と。
Aimer:本当にいろいろな曲を歌わせてもらってますけど、私とその曲の原体験みたいなものは大事にしたいので。クリエイターの方から受け取ったものを増幅させる形で伝わったらいいなという気持ちもあります。それが一緒に音楽を作っている者としての一つの役割なのかなって。
――シングル「白色蜉蝣」のリリースは12月。ちなみにAimerさんにとっての、冬の楽しみって何でしょう?
Aimer:うーん、なんだろう(笑)。外は寒いので、やっぱり部屋のなかでヌクヌクするのは格別ですよね。乾燥するし、体調管理は大変なんですけど、情緒的な面ではすごく好きなんです。冷たい空気だったり、冬の雰囲気が創作意欲につながるというか。切ない曲もそうだし、ちょっと重めな曲も冬だったら許される気がするので(笑)。いろんなアイデアだったり、ちょっとしたことを書き留めておくにはいちばんいい季節ですよね。クリスマスの時期も好きです。ああいうメルヘンなイベントが許されるのも、やっぱり冬だからだと思うんですよ。幻想的でロマンティックな雰囲気に浸れるのもそうだし。
――冬に似合うAimerさんの曲もたくさんありますよね。
Aimer:「冬になると聴きたくなります」と言われることもあって、うれしいですね。今回のシングルのジャケットも白だし、冬に合うかも。寒い日、部屋にこもってるときにも聴いてほしいです。
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