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<インタビュー>King Gnuが『CEREMONY』を終えてたどり着いた場所――4年ぶりAL『THE GREATEST UNKNOWN』での変化、見えてきた“世界”【MONTHLY FEATURE】

インタビューバナー

Interview & Text: 小川智宏


 Billboard JAPANが注目するアーティスト・作品をマンスリーでピックアップするシリーズ“MONTHLY FEATURE”。今月は11月29日に約4年ぶりとなるニューアルバム『THE GREATEST UNKNOWN』をリリースしたKing Gnuのインタビューをお届けする。

 2019年にリリースされた前作『CEREMONY』がヒットチャートを席巻し、名実ともに日本のトップバンドとなったKing Gnu。その後はアリーナツアー、東京ドームでのワンマン2DAYS、そして今年5月から開催された大阪と横浜でのスタジアムツアーと、まさに「King」の名にふさわしいビッグスケールの活動を続けてきた彼らだが、今作はこれまでの「バンドとして日本のシーンでのし上がっていく」という物語の先で、本来のKing Gnuのクリエイティビティを爆発させたようなアルバムとなっている。

「バンド」というフォーマットから自由になり、だからこそ、よりこの4人ならではの音に迫ることができた今作で、彼らが表現しようと思ったものとは何だったのか。この先の未来像も含め、King Gnuという傑出したバンドが今立っている場所を自ら解き明かしてもらった。

『CEREMONY』より“もっと自由に”なったアルバム

――『THE GREATEST UNKNOWN』、本当にすごいアルバムだと思います。みなさんの手応えはいかがですか。

井口理:そうですね……前作『CEREMONY』でいったん、King GnuのJ-POPに対しての“答え”みたいなものを提示して、そこからまたカウンターでこういうアルバムを作ろうっていう気持ちがあったんですけど、それがしっかりと形になったんじゃないかなと思いますね。出来上がったのを聴いて、すごくいいアルバムだなって思いました。

勢喜遊:今回、僕は今までのようにドラムを叩くだけみたいなことではなくなってきているというか、ドラムはほぼ叩いてないんですよ。何か新しいことに挑戦できたなっていう感じですね。

新井和輝:タイアップの曲が多いし、このバンドは曲によっての振れ幅もすごく大きいので、4年ぶりにアルバムにする作業をやる中では「本当にアルバムになるのかな」みたいな心配も大きかったんですけど、いざ完成してみたら、1本で聴けるものに仕上がったという実感はあって。すごくほっとしたという感覚がいちばん強いかなと思います。


――常田さんはどうですか?

常田大希:すごくバンドの成長も個々人の成長も感じられたなって感じで、ほっとしています。


――『CEREMONY』のときの達成感とは質が違いますか?

常田:やっぱり全然違いますね。『CEREMONY』のときは売れてデカくなっていくということにあまりに翻弄されたというか、余裕もなかったし、視野も狭かったし。そこは今回、かなり修正しました。もちろん全部思い入れがある曲ですけど、当時気に入らなかったこととかを丁寧に潰しつつ、自分の制作の仕方だとか、作るものにもっとフォーカスして作れたと思います。


――今作のビジョンというのはいつぐらいから見えていたんですか?

常田:『THE GREATEST UNKNOWN』というタイトルをつけたのが4年前、『CEREMONY』が終わったタイミングだったんです。「やっぱり今のままじゃいけないな」というような危機感とか焦りみたいなものは、怒涛の勢いでスターダムを駆け上がっている時期にフラストレーションとしてすごくあったので。もう一回、ステージ上でスポットライトに照らされて見た視点じゃない、『CEREMONY』のジャケットに描かれているようなステージ上から“じゃない”視点をちゃんと強く持って生きていきたいなと、そのときから思っていましたね。


――心の内ではそういう思いを持ちながら、実際にはアリーナツアーをやって、東京ドームをやって、スタジアムツアーをやってという、まさにバンドとしてスターダムにのし上がっていく過程を踏んできた。それが『CEREMONY』のタームだったんですね。

常田:そうですね。もともとKing Gnuがそういうコンセプトでもあったので。

井口:でも、『CEREMONY』はシングルの寄せ集めって言ったらあれだけど、結構1曲1曲、タイアップに対してぶつけた熱を集めたアルバムだったし、そのスピード感についていけなかったりとかもして。そんな『CEREMONY』が出た後に、まだ何も曲が出揃ってない段階でこのタイトルがついて、やっぱりそこに従うじゃないですけど、もっと自由に、無名な自分を思い出してというか、大衆を意識しないっていうことを念頭に置けたというのがすごくよかったんじゃないですかね。

新井:うん。アルバムを出すにあたっての制作フローも『CEREMONY』と今回では決定的に違うんです。『CEREMONY』のときは“仕上げなきゃいけない曲”みたいなのが、常田の中で固まっていない状態でバンドに共有されて、アレンジも決まっていないけど今日レコーディングしないと……っていう曲もあったし。でも今回は、そういう意味では自分たち各々の中で各々の落としどころがあるアルバムというか。なんか結構、生活の延長線上で作って、今も進んでいる感じなんですよね。前は「『CEREMONY』終わった、ドカーン」みたいな感じだったので。

常田:「ドカーン」って?

新井:アルバムを作った、で、もう燃え尽きたみたいな感覚。でも今回は、たぶん精神衛生上よかったっていうことなんだと思うんですけど、もちろん集中力も精神力も使って臨んではいるんですけど、各々に落としどころがついているぶん、生活の延長でやれている感覚がすごくある。だからすごく充実感もあるけど、燃え尽きてはいないというか。


――『CEREMONY』のときは確かに、思いっきり武装して「行くぞ」っていう感じがありましたよね。

勢喜:確かに。

新井:そう。とにかくがむしゃらに走ってるみたいな感じだったんで、その前借り感というか、そのぶん後でドッとくるものが正直あったんです。今回も結局アルバムの制作が結構ギリギリになって、今は完成してすぐドームツアーのリハみたいな状況なんですけど、それにそこまで「うわー」ってなってないというか。意外とスルッとリハーサルだねっていうところに移行できている感覚が、個人的にあります。


――その違いはどこから生まれてくるものなんですか?

新井:制作フローが前と違うというところがいちばんだと思うんですよね。具体的には常田のスタジオができて、今回は分業制で曲を作っていくようになって。多いときは4、5曲並行して作ってるみたいな状況もあったんですけど、そうやって各々が自分の持ち場に完全に集中してやっていたので、自分と向き合う時間も多くなった。スタジオに4人で集まって制作すると、4人とも疲れている中で「これでまあいいか、じゃあ次」って流せちゃう部分もあったかもしれないんですけど、理の歌のアプローチとか、遊の打ち込みのアプローチとかにはやっぱり時間がかかるものなので、そういう従来のやり方だとそもそもちょっと無理があったんだろうなっていう。

常田:うん。それこそ俺も、自分のスタジオで作業して組み上げていくっていうほうがもともと性に合ってるし、スタジオで、4人で集まってリズム隊からちょっとずつ録っていって、上モノでなんとか辻褄を合わせるみたいな期間がKing Gnuにもちょっとあったんですけど、それが本来の作家性ではないなと思っていたので。今回はその新しいフローにみんなが適応してきてくれた。たぶん各々にとってもそれが合ってたんじゃないかな。

勢喜:うん、望んでたところはあった。集まってやると、楽器の性質上毎回ドラムを最初に録らないといけないんですけど、もっと後のほうがいいの出るなとずっと思っていたので。

常田:これまではバンドっていうフォーマットにちょっと縛られすぎてた。バンドっていうのは、たとえば遊がちゃんと生でドラムを叩かなきゃいけないとか、そういうのが縛りとして生まれると思われがちなんだけど、共通認識として俺たちはそこに美意識を持ってるわけじゃないし、結果完成した音がかっこよかったら別にOKじゃない?っていう認識は4人で持てているので、だとしたらなおさらそこに縛られる必要はないなと。その反省を生かしてるって感じかな。もっと自由にやらなきゃいけないし、そうじゃないと新しい音にならないから、よりストイックにそこと向き合っていきたいなって思いました。当初のKing Gnuってそうだったので、ある意味、個々が進化してそこに還ったっていう感じですかね。

勢喜:ロックバンドの形に縛られに行ってたけど――。

常田:ライブとかも紐付いてるから、そこで演奏している4人とかも想像しすぎちゃうけど、この4人は何でも持っていけるメンバーなので、たとえば「SPECIALZ」で遊がビートを作っていなかったとしても、ステージ上で鳴らした時に説得力を出せればいいわけで。そこはみんな自信がついたんだと思います。変なエゴみたいなのが減って。


――井口さんは今作を作るにあたってのアプローチはどんなふうにやっていきました?

井口:今回はすごく幅広いなと自分では思っていて。クラシックを学んだときの自分も入っているし、最近聴いているR&Bとかの要素も入っているし、もちろん1stアルバム(『Tokyo Rendez-Vous』)のような歌唱もしてるし。時代、時代の歌みたいなのが、ちゃんとアルバムとして成立してるのかなと思いますね。さっきから話が出ているように、大希のスタジオが完成して……僕は気質的には、ひとりで砂遊びをしてるのがいちばん性に合ってるというか、砂場にいろんな人がいてもそこに目移りするんじゃなくて、人目を気にせず砂団子を作っていくっていうのが合ってるなって改めて思いました。そのほうが遊びを込めやすいというか、自分を出しやすかった。だから『CEREMONY』ではできなかった遊びの部分みたいなのがすごく入ってるんじゃないかなと。



King Gnu 4th ALBUM「THE GREATEST UNKNOWN」Teaser Movie

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“今の感覚”を出した「SPECIALZ」

――それは本当にそうだと思いますし、歌だけじゃなくて曲そのものもそういう感じなんですよね。それこそスタジアムツアー【CLOSING CEREMONY】が終わって最初に出てきたのが「SPECIALZ」だったわけですけど、あれこそまさに人目を気にしていないというか、すごくアグレッシブな曲だと思うんですよ。バンドサウンドではないし、ビートもグルーヴも重いし。でもそれも結果的にちゃんとポップなものとして受け入れられていった。そこはみなさんにとっても手応えがあったんじゃないですか?

常田:でも、そういうことに関しては意外と冷静で。根本的にそんなにキャッチーな人間じゃないと思ってるので、いろんなタイミングがよかっただけだよなと(笑)。


――そうなんですか?

勢喜:めちゃくちゃ冷静(笑)。

常田:まあでも、それを説得力を持って出せるKing Gnuを4人で育ててこれたっていうのはあると思うんですけど。


――まさにそういうことですよね。ああいう曲をあのタイミングで、しかもアニメ『呪術廻戦』「渋谷事変」のオープニング・テーマとして出せるKing Gnuになれたという。

常田:うん、そうそう。

新井:だからある意味、『CEREMONY』で自由を手に入れたんだよね。あそこで不自由を体験したから。

常田:それはある。



SPECIALZ / King Gnu

――その「SPECIALZ」は日本だけでなく海外でも聴かれているんですよね。ビルボードジャパンでは今年の9月から“Global Japan Songs Excl. Japan”という新しいチャートを公開しているんですが、それはUSビルボードのグローバルチャート“Global 200”から日本市場の数字を抜いた、つまり“海外で聴かれている日本の音楽”のランキングなんです。そこで「SPECIALZ」は、チャート開始以来トップ3にチャートインし続けている。それも面白い現象だなって思うんです。

常田:金入ってきそうやな(笑)。でも、すごいね。


――King Gnuはどちらかというとドメスティックにフォーカスしてやってきたバンドだと思うんですけど、そのタガを外したときにそういう違った動きが生まれてくるというのも面白いですね。

常田:それこそ今年、冬から春にかけて海外に行って向こうのアーティストとやっていた時に、こういうサウンドのトラックを作ったときの反応がめちゃめちゃよかったので。こういうビート感のあんまり聴いたことのない感じというか、インダストリアルな感じって、やっぱりどこ行っても強いしかっけえよなっていう感触はあって。じゃあ、かっこいいと思ってるんだからそれをKing Gnuでもやろうぜっていう。だから、自分の今の感覚、今興味があったり今ヒップだなって思ったりする感覚とすごい近い状態のものを出せてるっていうか。その感覚をもっとストレートにダイレクトにバンドに反映させなきゃいけないし、そうしたほうが楽しいっていうモードではありますね。


――そういう意味では、このアルバムを聴いていてすごくいいなと思ったのが、「IKAROS」「W●RKAHOLIC」「):阿修羅:(」という新曲と、シングルから大きく形を変えた「千両役者」が連なる中盤の部分がしっかりアルバムのハイライトになっているところなんですよね。これだけシングル曲がある中で、いちばんパーソナルで、音楽的にも今やりたいことっていうのがストレートに出ている曲たちがちゃんと主役になっているというのはいいことだなと。「):阿修羅:(」とかめちゃくちゃいいですよね。

常田:新しいラインですよね。これもバンドで録ってたら絶対にならないフォームになってるから。King Gnuのここからのモードじゃないですか。

新井:アルバム制作のなかでも、さっき話したようなフローをちゃんと取ることができるようになったのは、この4年で見たら本当に最後のほうなんで。ここ5か月くらいの話なんですよ。

常田:既発曲もそのフローに乗せて考えたよね。だからアレンジも変えました。


――それでいうと、逆に「逆夢」とか「雨燦々」「BOY」をあえてリアレンジせずに入れたというのはどうしてなんだろうとも思ったんですが。

常田:あんまりアレンジしようがないくらいガチガチに歌ものとして作り込んでる曲だったので、すごく変えづらかったんです。アルバムのトーンに馴染ませるのが難しいかな、入れられるかなって思ってたけど、「雨燦々」って意外といい曲だな、とも思って(笑)。「雨燦々」は東京ドームのライブ(【King Gnu Live at TOKYO DOME】)ですごく好きになったんですけど、そういうところもたぶん4年前じゃ気づかないチョイスができてるというか。それも本当にライブだとか、客と作り上げた4年間ではあると思うので、それをちゃんとパッケージできてるかな。


――そういうアルバムを携えて、来年はドームツアーが待っています。これほど今のモードを注ぎ込んだ作品がどうライブに還元されるのかというのもすごく楽しみです。

新井:結構いいツアーになるんじゃないかなって思いますね。ライブでやる上でのアレンジも変わるし、その作業を今してるんですけど、それも楽しく進んでいるので。いい意味で裏切れるなと思っているし、まだやっとセットリストが決まるかなぐらいの段階なんですけどいいセットになっていると思うし(※取材は11月頭に実施)。アルバムと同じようにツアーでも満足感みたいな感覚を得られるのかなと思ってますね。

勢喜:やっぱり、ライブを経て曲が育っている例がもういくつもあるので。なおさら今回の曲たちはめちゃくちゃ伸びしろがあるなと感じていて。ツアーが終わるタイミングが『THE GREATEST UNKNOWN』が完成するタイミングなのかなと思うので、楽しみですね。


――あと、常田さんが今回のツアーを終えたら拠点を移すとか動き方が変わるとかって発信していて、ファンはざわついていますけど。具体的にどうなるのかは言えないと思いますが、根っこにはどういう考えがあるんですか?

常田:1stアルバムの『Tokyo Rendez-Vous』を出してからのこの5年、あまりに休まなさすぎたんで、ちょっとこのフローで生きていくのは健全じゃないなって感じていて。そのサイクルから一回見直したほうがいいなということです。『CEREMONY』のときはあえてルートに乗って、できるだけ音源を売るっていうことに注力しまくったんですけど、海外ではビヨンセが1年間リハーサル期間を取って【コーチェラ】に出てくるわけですよ。あんな化け物みたいなレベルの人がそうやってるのに、このフローで生きてたら勝てるわけないじゃないですか。それを根本から見直さなきゃいけないなっていう時期が来てますね。


――日本がどうとか海外がどうとかではなく、音楽やる以上【コーチェラ】のビヨンセと勝負するんだっていう考え方でやっていくということですよね。

常田:ちゃんと同じ土俵で――別にああ歌うとかいう話じゃなく、作品を作る人間として、やっぱりそういう向き合い方というか、消費のされなさをしたいなという。このアルバムでそれができたかは置いといて、そうやって生きていきたいですね。


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