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<コラム>アレステッド・ディベロップメント、ヒップホップ誕生50周年を祝す来日公演を開催 シーンを更新し続けるスーパー・グループが辿った軌跡
Text:長谷川町蔵 / Live Photo:Yuma Totsuka
ヒップホップのイメージを更新してきたパイオニア、アレステッド・ディベロップメントが2023年のグランド・フィナーレを飾るビルボードライブ・ツアーを開催する。コロナ禍を経て、久しぶりのカウントダウン公演が行われる今年は、ヒップホップ誕生から50周年を迎えた記念すべき年でもある。1992年の鮮烈なデビューから、フロントマンのスピーチを中心にシーンをアップデートし続けるスーパー・グループが、これまでに辿った軌跡を長谷川町蔵氏に解説してもらった。
アレステッド・ディベロップメントが、アルバム『3 Years, 5 Months and 2 Days in the Life Of...』を引っ提げてデビューしたのは、今から30年以上前の1992年のこと。筆者はリリース当時、リアルタイムで聴いているのだが、そのときの驚きときたら、なかった。
1992年といえば、ドクター・ドレー『The Chronic』やギャング・スター『Daily Operation』、ピート・ロック&CLスムーズ『Mecca and the Soul Brother』といった傑作ヒップホップ・アルバムが世に送り出された年でもある。ヒップホップ・ヘッズがこの並びを見たなら、シーンの主流がどんな感じだったか分かるはず。要するにヒップホップは「ニューヨークもしくはLAで生まれ育ったチョイワル男子が作っているハードな音楽」とみなされていたのだ。
ところがアレステッド・ディベロップメントは何から何まで違っていた。メンバーは男女混成、しかも当時60歳のババ・オジェがスピリチュアル・アドバイザーとして名を連ねるジェンダー&エイジ・フリー編成。アルバムスリーブは、カラフルな民族衣装のようなコスチュームを身に纏った彼らが、野原でチルしている姿を撮ったものだった。音楽の独自性はそれ以上。ざっくりとしたオーガニックなトラックに乗って、中心人物のスピーチは、歌に限りなく近いメロディアスなフロウで、アフリカ系の団結や文化の素晴らしさを謳いあげていたのだから。
そんな型破りな『3 Years, 5 Months and 2 Days in the Life Of...』からは、テネシー州で過ごした少年時代の思い出を慈しむ「Tennessee」をはじめ、「People Everyday」「Mr. Wendal」の3曲が、ビルボードのHot 100でトップ10ヒットを記録し、グラミー賞では最優秀新人賞と最優秀ラップ・パフォーマンス賞の二冠を獲得。加えてスパイク・リー監督の大作映画『マルコムX』にはテーマソングとして「Revolution」を提供したことで、彼らはシーンの頂点へと駆けあがった。
Arrested Development - Tennessee (Official Music Video)
実は彼らは南部とはいえ、大都市アトランタの出身。アーシーさの強調は今思えば、ヒップホップ・ファンに馴染みの薄かったアトランタを印象づける一種の戦略だったことが分かる。しかし彼らがこうした策を講じていなかったら、グッディー・モブやアウトキャストといったR&B色が強い地元の後輩ラップアクト、ディアンジェロやエリカ・バドゥといったネオソウル勢が世に出る時期はもっと遅れたはずだ。また後にソロシンガーとして成功を収めたディオンヌ・ファリスを筆頭とする女性メンバーの存在は、ローリン・ヒルを擁するフージーズやファーギーがいたブラック・アイド・ピーズといった男女混成グループに成功の門戸を開いたといえる。
そんな彼らだったが、デビュー作を深化させた力作『Zingalamaduni』を発表後の1994年に突如解散し、スピーチはソロアクトに転向する。ひとり苦闘していたこの時期、彼を支えていたのが、日本のファンだったことを我々はもっと誇っていいはずだ。
そこでの手応えをフィードバックしたスピーチは、グループを2001年に再始動。以降は自身のVagabond Productionsを拠点に、2〜3年に1枚のペースでアルバムを制作しながら、精力的な活動を展開している。目下の最新作は、今年3月に配信リリースしたミックステープ『On The Cutting Room Floor』。同作は普遍的なメッセージに力強さが加わり、ポジティブなバイブスがスピーカーから溢れ出てくるかのような仕上がりとなっている。今や「ヒップホップの首都」と呼ばれるようになったアトランタだけど、音楽的にはトラップ一辺倒なわけで、アレステッド・ディベロップメントのオルタナティブな視点が今こそ求められているのではないかとも感じさせてくれる。
こうしたレコーディング作品以上に現在の彼らの魅力になっているのが、ライブ・パフォーマンスの充実である。結成当初から生バンド編成にこだわっていた彼らは、アルバム一枚しかリリースしていない状態で『MTVアンプラグド』に呼ばれてパフォーマンスを披露。それが評判を呼んでアルバム『Unplugged』がリリースされるほど、パワフルなライブを披露していた。ライブバンドとしての輝きは再結成後の活動を通じて、ますます増し続けており、90年代の彼らを知らない若い音楽ファンも魅了している。 そんなアレステッド・ディベロップメントが12月に5年ぶりに来日、カウントダウン・ライブを含む公演を行なう。メンバーはスピーチに加え、前回公演にも同行していたワン・ラブ(ヴォーカル)、ターシャ・ラレイ(ヴォーカル)、ファリーダ(ヴォーカル、ダンス)、ジェイソン"ジェイ・ジェイ・ブギー"ライヘルト(ギター)、加えてキーボード、ベース、ドラムスの8人編成だ。
彼らがひとたびステージに現れ、歌い始めたなら、きっとポジティブでハッピーな祝祭空間が目前に出現するはず。COVID‐19がもたらした停滞から世界がようやく動きはじめた2023年のグランド・フィナーレ、そしてより良い年になるはずの(というか、なってほしい!)2024年の到来を彼らとともに祝おうではないか。
公演情報
Arrested Development
~Celebrating 50th year anniversary of Hip Hop~
2023年12月28日(木)神奈川・ビルボードライブ横浜
1st Stage Open 17:00 Start 18:00 / 2nd Stage Open 20:00 Start 21:00
公演詳細
2023年12月30日(土) 東京・ビルボードライブ東京
1st Stage Open 15:30 Start 16:30 / 2nd Stage Open 18:30 Start 19:30
2023年12月31日(日)東京・ビルボードライブ東京
1st Stage Open 18:30 Start 19:30 / 2nd Stage Open 22:00 Start 23:00 ※カウントダウン公演
公演詳細
2024年1月3日(水)大阪・ビルボードライブ大阪
1st Stage Open 15:30 Start 16:30 / 2nd Stage Open 18:30 Start 19:30
公演詳細
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