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<インタビュー>ビッケブランカ 世界各地のライブでの気づきと、感じた“マインド”を詰め込んだEP『Worldfly』
Interview & Text:高橋梓
Photo:堀内彩香
10月25日、ビッケブランカがEP『Worldfly』をリリースする。2023年春以降、ビッケブランカは海外で数々のライブ、イベントに参加してきた。同作にはその経験から得たインスピレーションを落とし込んだ楽曲が収録されている。そんな同作からは、どんな景色が見えてくるのだろうか。楽曲についてはもちろん、彼から見た海外についても話を聞いた。
海外で得た“インスピレーション”とは
――まずはEP『Worldfly』が完成した今の心境から教えてください。
ビッケブランカ:とても清々しい気持ちです。何かをやり遂げた瞬間というのは、代えがたい気持ちよさがありますよね。それに『Worldfly』は直前の体験が曲になっているので、フレッシュな感覚もあります。
――海外にいた時に得たインスピレーションが曲になっているとのことですが、この「インスピレーション」とは具体的にどんなものなのでしょうか。
ビッケブランカ:マインドですね。「向こうの音楽で使われている楽器に影響を受けました!」とかではない。生き方やマインドを感じ取りました。たとえば、シチリアの人はいい意味で「どうでもいい」と思って生きているし。サウジアラビアの人はサウジアラビアという王国の進化についていけていなくて、でもついていけないことを別に悪いとは思っていない。フランスは未だにどこかプライドがあって、そのプライドと国の風紀が乖離していたんですよね。それが、国が国民のプライドに追いついてきたことで高尚な国として成立しつつある。そういう風潮と、その場にいる人の人間性からインスピレーションを受けました。
――それはどういった時に感じたのでしょうか。
ビッケブランカ:イベントのスタッフさんや、ファンの方とコミュニケーションを取っていて感じることが多かったです。なので楽曲だけでなく、僕自身の価値観にもめちゃくちゃ影響を受けました。たとえば、日本人は考えすぎているな、とか。元々日本人に対してそういう印象は持っていましたが、実際に海外に行ってみると受け取る情報の深さが全然違くて。改めてそう思いました。
――特に衝撃を受けたことは?
ビッケブランカ:シチリアの人たちかな。本当に幸せそうに生きていて、最高でした。シチリアといえば「優雅」とか「ゆったり時間が流れている」という印象があるじゃないですか。本当にそのまんま。心優しくて、「地元の奴らとずっと仲間!」みたいな(笑)。日本だとあまりないですよね。本当に狭いコミュニティが広がっている田舎に行けばそういう感覚があるのかもしれないですけど、シチリアという、ヨーロッパのど真ん中でその価値観が広がっているのがすごい。“余裕”のスケール感が違います。
――ライブにおいても違いがありそうです。ビッケさんは国内でも多くのライブをやられているので、より大きな違いを感じたのでは?
ビッケブランカ:全く違いますね。みんなが同じ動きをしないです。日本の場合は、ライブ中オーディエンスのみんなが同じ動きをしますよね。周りが手を上げたら手を上げる、手を横に揺らしたら横に揺らす。これは日本の特徴だと思います。でも海外は関係ないんです。周りが普通に音楽を聴いていても、自分の好きなパートが来たら飛び跳ねながら「来た! 今の俺が好きなとこ!」ってやるし。自分の幸せと喜びに実直です。
――たしかにライブ中、周りと動きがずれると、どこか「恥ずかしい」と思ってしまう節はあります。
ビッケブランカ:日本はね。それが良くないところでもあり、良いところでもありますよね。
革命 / ビッケブランカ
――ビッケさんにとって、ライブが“やりやすい”国はあるんでしょうか。
ビッケブランカ:今回で言えばイタリアかな。海外も日本も楽しいんですよ。異常な歓迎を感じますし。フランスとかもすごかったんです。フランスって、パリ・サンジェルマンっていう強いサッカーチームがあるんですね。その応援歌があるんですけど、それ(を歌うこと)は最高の賛辞で。僕のライブでもその応援歌を歌ってくれた時には嬉しかったですね。でも、イタリアはもっとむき出しな感じなんです。オーディエンスはパリの半分くらいで、2000人いないくらい。それでもパリと同じくらいのパワフルさがありました。それにライブ終了後、オーディエンスのところに行ってサインを書いたりしていたんですよ。その時に、オーディエンスの女の子が僕を口説いてくるんです。向こうのスラングを使って。その時は意味がわからなかったのですが、後から調べてそういう意味だったんだって。なんと大きな魚を逃したんだと思いました(笑)。
――開放的なイタリアのイメージ通りです(笑)。これまでも海外と関わりがあったと思いますが、今年だからこそ得られた要素も多そうです。
ビッケブランカ:そうですね。やっぱりライブをやれたことは大きいです。これまでライブをしに行けた国って、中国だけだったんですよ。音楽で人に接することができたのはいちばん大きな変化で、それによって「音楽に垣根はない」ということをより強く感じました。言語すら越えてくる、というか。みんな日本語が聞きたいんですよね。中国でライブをした時もそうだったのですが、現地のライブスタッフに言われたのが「みんな日本語を聴きたがるから、日本語を喋ってくれ」でした。逆にその国の言葉を勉強して話すって、的はずれな可能性があるんだな、と。でも確かに、フランス人アーティストが来日したら、その人のフランス語が聞きたくありません? 歌も同じ。みんな日本語の歌を真似して歌いたいんだなって。
EP「Worldfly」Live Digest (2023.10.25 Release)
――なるほど。
ビッケブランカ:外国人アーティストがその土地の言語を話してくれて嬉しいっていう心理も、もちろんあると思いますよ。特に日本だと、寄り添ってくれたという事実に喜ぶことが多いですよね。ただ、外国の場合は“その人がその人らしくある姿”に感動すると聞きました。
――そのあたりにも国民性が出るんですね。ビッケさんは海外から高い人気を獲得されていますが、ご自身のどんな部分が刺さっていると分析されますか?
ビッケブランカ:最初にくるのはやっぱり、楽曲だと思います。ただ、あれだけライブで賛辞をもらえるのはパーソナリティの部分も少なからずあるのかな、と。僕はたまたま英語が話せるので、お披露目会ではなく“ライブ”ができるんですよね。お披露目会っていうのは、たとえばフランスに行って、フランス語でちょっと挨拶して、台本通りの言葉を英語や日本語で言って、「次はこの曲」って演奏して、 「au revoir, Paris!」で終わっちゃうこと。そうじゃなくて、僕はその場で会話ができているんです。「どうせみんな聞きたい曲があるんだろう? タイトルを叫んでみてくれ」「そんな小さい声じゃこの再生ボタン押さねぇぞ、いいのか!?」みたいなやり取りができるので、ちゃんとライブになっているというか。それがパリ・サンジェルマンの(応援歌での)讃辞につながったのかなと分析しています。
――そのお話を聞くと、言語力があるのは相当大きいですよね。
ビッケブランカ:母親の影響で小学校の頃から英語教育を受けていたのですが、やっぱり英語が話せるのはアドバンテージですね。ただ、イタリアは言語を気にしないんですよ。僕はイタリア語が話せないので英語で話すのですが、イタリア人はそこまで英語が話せないんです。でも関係なくブワーッっと喋るから、僕も関係なく喋るっていう。これはやっぱり国民性ですよね。「Very congratulation」って言われて。意味不明(笑)。でも「めっちゃ最高だって言ってるのが伝わるからいいだろ!」って。そう平気で言えるのがイタリア人なんですよね。
リリース情報
公演情報
【Vicke Blanka presents RAINBOW ROAD -翔-】
2023年12月28日(木) 東京・TOKYO DOME CITY HALL
OPEN 17:30/ START 18:30
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“ハートフルな曲”「Bitter」
――私たち日本人は気にしすぎているのかもしれませんね。こうした経験が落とし込まれた楽曲が詰まったEPの1曲目「Bitter」は映画『親のお金は誰のもの 法定相続人』の主題歌です。この楽曲はどんな流れで制作されたのでしょうか。
ビッケブランカ:主題歌が流れない映画を見て、ここで流れる音楽ってどんなものなんだろうと想像していたのですが、観賞後に監督とお話しをさせていただいて「ハートフルな曲がいい、それ以外のテーマはないから自由に作ってください」という言葉をもらいました。そもそも映画のテーマが“家族愛”や“家族”といったもので、僕も家族好きということもあって、スムーズに制作できましたね。
Bitter / ビッケブランカ
――では、あまり悩まれなかった、と。
ビッケブランカ:悩みはしなかったかな。ただ、穏やかな気持ちで曲を作るために、鬼怒川温泉で制作をしました。映画の舞台が伊勢志摩なんですけど、遠くて行けなくて。ドラマの撮影が鬼怒川であったので、入り日の5日前くらいに入って旅館の中で作りました。環境を変えたことで、穏やかな気持ちで制作できたと思います。それに、目の前に川が流れていたのもよかったです。映画は海が舞台なので、水辺という共通点もありましたし、旅館の周りに森があったので、自然を感じられて。疑似“伊勢志摩体験”ができたと思います。
楽曲に「インスピレーションを盛り込む」作業
――それ以外の楽曲には、先程お話ししていただいたように海外で得たインスピレーションが盛り込まれていますが、「楽曲にインスピレーションを盛り込む」とはどんな作業をするのですか?
ビッケブランカ:現地の人たちの人間性を落とし込んでいます。たとえば「Luca」。これはイタリア・シチリアがテーマで、楽器はドラムとベースとピアノしか使われていません。たった3つで構成されていて、3人いれば再現できるんです。歌詞の内容を見ると、人生は無意味だから流れに任せればいいというようなことを言っています。なぜそういう曲にしたかというと、シチリアの人は本当にそうやって生きているから。人生に意味を求めようとすらしていなくて、その瞬間が幸せで仲間がいればいいんだ、という人たちがめちゃくちゃ手の込んだサウンドを作ることはないじゃないですか。だから3つの楽器で十分。
――なるほど……!
ビッケブランカ:「Sad In Saudi Arabia」はサウジアラビアのマインドを入れています。大人しいけど奥の方に熱意があるというか、サウジアラビアという国の爆発力を秘めているイメージ。だから「秘めたる炎」というテーマがあって。国民もそうです。ライブをやってどれだけ盛り上げても、みんな座って見ているんですよ。演劇を見るみたいに。でも終わったらウワーッとスタンディングオベーションがすごくて。それが彼らのマナーなんです。落ち着いているというか、律されているというか。それを出したくて、規則正しいリズムを入れていて。しかも空気が本当に乾燥していたので、リバーブでそれを表現しました。
――そういったことを表現できるのは、今まで積み重ねてきたスキルあってこそですね。
ビッケブランカ:そうなのかもしれません。表現方法をたくさん知っているので、ベストなものをチョイスして作り上げていくイメージです。
――そういった表現方法はどうやって増やしているのですか?
ビッケブランカ:曲を聴く、かな。昨日、浮腫むと覚悟してラーメンを食べたんです。そこで流れていた曲が良くて、Shazamで調べたけど出てこなくて。歌詞を聞き取って調べたらmoumoonの曲でした。そんな風に「このメロディ面白いな」というのをなんとなく頭に残しておくんです。イタリアでタクシーに乗った時も、イタリアの曲が流れていたので運転手さんに「今、これがイタリアで流行ってるの?」って質問して。そうしたら「これは古い曲だけど、未だにみんな好きなんだ。若者も好きな曲」って教えてもらいました。それで「イタリアは古い曲=ダサい、としないんだ」という新しい知識がつきました。そういう感じで経験値を積んでいます。生きているだけでどんどん蓄積されていきますね。
――常にアンテナが立っている状態なんですね。そんなビッケさんでも制作に苦労した曲はあるのでしょうか?
ビッケブランカ:「Snake」は苦労したかな。この曲を作っていた時はすごく忙しくて、時差ボケがあったり、寝れていない状態だったりしたんです。脳みそがちょっとだるい状態ですね。でも、その分焦燥感のあるサウンドができたのかな、と。
Snake / ビッケブランカ
――全てを作品に反映していくのですね。無駄がない。
ビッケブランカ:流れに身を任せています。不機嫌なときにしか作れない曲もありますしね。機嫌良くなろうという努力が時間の無駄になる可能性もありますから。逆に最後の「Worldfly」なんかはスムーズでしたよ。2時間で作りました。ある日の夜9時からレコーディングだったのですが、その日の夕方に作って。厳密に言えば、制作期間を3日もらっていたのですが、なんとなく頭の中で考えていただけで、最初の2日は寝てたり、ステーキ食べに行ったり、別のことをしていました(笑)。
――そういう制作パターンは割と多いのですか?
ビッケブランカ:多いです。ギリギリまで怠けるタイプ。しかも、それでできるという成功体験を積んでしまったから、きっとまたギリギリで曲を書き上げることが出てくるでしょうね。スタッフさんからは「早く曲をくれ」って言われます(笑)。
――そうして制作されたEPのリリースはもちろん、12月には、スペシャルイベント第2弾『RAINBOW ROAD -翔-』が開催されます。
ビッケブランカ:『Worldfly』のライブではありませんが、明らかにそのマインドで望むことになると思います。だいぶ色とりどりになりそうですね。いろんな仕掛けをしていこうと考えています。年に1回のお祭りなので、楽しんでいただけるような表現を目下模索中です。
リリース情報
公演情報
【Vicke Blanka presents RAINBOW ROAD -翔-】
2023年12月28日(木) 東京・TOKYO DOME CITY HALL
OPEN 17:30/ START 18:30
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