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<インタビュー>「ことわざに腹が立って曲を書いた」怒りを原動力にする韓国の実力派シンガーソングライター、イ・スンユンが初来日

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 “実力はあるのに無名な歌手を発掘する”という、韓国で大人気のオーディション番組『シングアゲイン』で優勝し注目されるようになった、シンガーソングライターのイ・スンユンが初来日。10月26日に、東京・Zepp Hanedaで【2023 LEE SEUNG YOON CONCERT IN TOKYO『DOCKING』】を開催する。

 彼が音楽を始めるきっかけとなったブリットポップに影響を受けたというサウンドと、日常を独自の視線で切り取った歌詞が、イ・スンユンというアーティストの唯一無二の世界観を構築している。今年2月には韓国ツアーで全国をめぐり、4月に初の海外公演となる台湾でのコンサートも開催。日本でもじわじわと注目され始めている彼に、自身の音楽の根幹と日本公演について話を聞いた。(Interview & Text :尹秀姫)

「特別な一瞬を集めながら生きていきたい」

――イ・スンユンさんがどんなアーティストなのか、そして音楽を始めたきっかけについて教えてください。

イ・スンユン:僕は韓国のシンガーソングライターで、バンド的なサウンドをベースに、自分がやりたいと思ったさまざまなジャンルの音楽をやっています。なので、特に決まったスタイルというものはないですね。音楽を始めたきっかけは、中学生くらいの頃にブリットポップの映像を観たこと。バンド音楽をやりたいと思って音楽を始めました。当時はコールドプレイやオアシス、U2など、UKロックバンドが好きでしたね。


――音楽以外で好きだったもので、ご自身の音楽に影響を受けたものはありますか?

イ・スンユン:子どもの頃は『ハリー・ポッター』や『指輪物語』が好きでした。日本の作品も好きで、漫画だと『20世紀少年』や『SLAM DUNK』、それに是枝裕和監督の映画もたくさん観ています。映画でいうと、僕はストーリーよりもその作品のムードや感性、情緒を重視するタイプですね。当時はただ自分が好きなものを観ていただけで、こういった作品が僕に音楽的な影響を与えたかどうかはわかりませんが、そこから少しずつ影響を受けていたかもしれないですね。それが僕の音楽に直接役に立ったかはわかりませんが、作品を観て、登場人物たちに感情移入しながら、自分ではない人生を生きたり、自分以外の人の感情について学んだりした、という感じです。


――曲を作る上で、どんなことからインスピレーションを得ていますか?

イ・スンユン:僕はインスピレーションという言葉をあまり使わないですね。日常で思い出ついた言葉や感情をメモして、それらを編んで曲を作るタイプです。普段からメモすることが習慣になっているので、なかなか携帯を変えられないんですよ(笑)。


――音楽を通じて伝えたいと思っていることはなんですか?

イ・スンユン:「特別な人になりたい。でも僕たちはとりたてて特別なわけではない。だから特別な一瞬を集めながら生きていきたい」というのが僕の音楽に一貫しているテーマなのかもしれません。


――今まで作った曲の中で特別に思い入れのある曲、曲を作る過程が印象に残っている曲はありますか?

イ・スンユン:僕は怒りが曲作りの原動力になるタイプです。韓国には「魚屋の恥さらしはイイダコがさせる(愚行は仲間にまで恥をかかせる)」ということわざがあるんですが、このことわざに腹が立って「A Puff of Cloud」という曲を書いたんですよ。そんなふうに、日常でよく使われている言葉について、なぜこんな表現をするんだろうとあらためて考えてみたりして、歌詞を書いています。世の中をシニカルに眺めています(笑)。




――一番気に入っている歌詞はなんですか?

イ・スンユン:今年リリースした「Shelter Of Dreams」という曲は、歌詞がうまく書けたなと自負しています(笑)。特に気に入っているのは〈針の先にはいつもあなたがいる〉という歌詞で。夢って、一般的にはこの時間の先にあるものだと思われがちですが、実際には今この場所が夢になるんですよ。でも一般的には、自分と夢をかけ離れたものとして捉えている気がして……。「結局、自分が目指していた夢というのはここなんだな」ということに気づいて、それについて書いた曲です。夢ははるか彼方にあると思って、そこを目指して走っていくと、失うものがあまりにも多いんですよ。だから、今ここを見つめながら生きていこう、という想いを歌詞にしました。



▲[OFFICIAL MV] ✵ 이승윤 2nd Full Length Album 꿈의 거처 ✵


――歌詞を書く時、経験をもとにするタイプですか? それともいろんな人生を想像しながら書くタイプですか?

イ・スンユン:僕はほとんどの場合、自分の経験をもとにして書いていますね。自分の経験をあれこれ混ぜながら、一つの曲に仕上げています。なので「Shelter Of Dreams」にもそういう僕の経験が込められています。


――音楽が好きだった少年がどのようにしてアーティストになったのでしょう。

イ・スンユン:音楽を始めたきっかけは先ほども話した通りブリットポップで、僕もバンドの音楽を作ってみようと思って、作ってみたらできちゃったんですよ。それで、「僕って天才かも!?」と思って(笑)。それから音楽をやろうと思ったんですけど、誰かに歌を習ったり、楽器を習ったり、音楽の勉強をしたことはないんです。人前で歌うのが恥ずかしくて、家で一人、デモを作ってました。でもある日、一番上の兄に「お前は音楽をやるんだと言いながら、一人で部屋にいて何してるんだ」と怒られて、僕もついカッとなって2011年にTV番組『大学歌謡祭』に出て、そこから僕の音楽人生がスタートしました。


――ある意味、お兄さんに怒られたことがきっかけだったということですね。

イ・スンユン:兄は「いいかげん現実を見て勉強しろ」と音楽を諦めさせるつもりで怒ったんですが、僕は そんな兄に腹が立って、反抗する気持ちもあって歌謡祭に出たんですよね。ある意味、あの時怒ってくれた兄さんのおかげで今こうして音楽をしているので、感謝しています(笑)。


――音楽を始めて、今までで一番印象に残っているエピソードはなんですか?

イ・スンユン:「どうあっても自分の音楽をやるべきだ」と強く思ったきっかけがあります。以前、3日くらい地方に泊まってバスキング(ストリートライブ)したことがあるんですが、そこでは40〜50代の男性がカバー曲を歌っていて、キングと呼ばれるくらい大人気だったんですよ。その人がカバー曲を歌い始めると、100人くらい人が集まるんです。でも僕が自分の曲を歌っても、5人とか10人くらいしか集まらない。それでも僕は自分の歌を歌い続けました。そして、その男性に「なんでカバー曲を歌わないんだ。誰もお前の歌なんか聴かないのに」と言われたので、「それでも僕は自分の音楽がやりたいんです」と答えたんですよ。翌日、その男性が自分の歌を歌ったんです。そうしたら集まっていた人がどんどん抜けていって……。それで次からまたカバー曲を歌い始めました。それを見て、僕はこれからも自分の曲を歌い続けないといけないなと思ったんですよ。途中で人がどんどんいなくなる様を見たら、どうしても虚しくなるだろうなって。


――アーティストとして成長したと感じた瞬間はありますか?

イ・スンユン:アーティストとして知られるようになったのは、オーディション番組『シングアゲイン』に出演したおかげです。でも、もしこの番組の後も、番組で歌っていた曲だけをカバーして歌っていたら、先ほどの話のようになっていたんじゃないかと思います。だから僕は番組の後、すぐに自分の歌を歌い始めたんです。そのせいで番組当時ほどの拡散力はなかったけど、それでも地道にやってきて、今年の7月には韓国でアンコールコンサートを開催しました。その時、ファンの方が僕の歌を最初から最後まで一緒に歌ってくれたのを見て、「初心を守ってきて本当によかったな」と思ってすごく嬉しかったですし、感動しました。


――デビュー当初と今とで、音楽性やスタイルは変わりましたか?

イ・スンユン:今は、自分がやりたかったことができる環境になりましたね。昔はアコースティックギター一本で、一人で歌わなければいけなかったとしたら、今はいろんなサウンドが使えるようになりましたし。


――これからやってみたい音楽のジャンルはありますか?

イ・スンユン:100人くらいの合唱団と一緒にやりたいです(笑)。


――今までアーティストとして活動していて、一番大きな挑戦はなんでしたか?

イ・スンユン:最近リリースしたアルバム『Shelter Of Dreams』ですね。番組『シングアゲイン』が終わって、僕はどんな歌手になるべきか考えた時、自分がやりたい音楽を作るアーティストになりたいと思って、とにかくアルバムを作り始めたんですよ。このアルバムが世に出た後のことは考えずに、自分の世界をしっかり構築しよう、いいアルバムを作ろうと思って、がむしゃらにやりました。ただアルバムを作ることに集中しました。それは僕にとってかなり冒険だったし、挑戦だったと思います。




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これまでのツアーや来日公演について

――今年は韓国で全国ツアーを開催しました。ツアーで思い出に残っていることは?

イ・スンユン:これまでバスキングをしに全国をまわったことはありましたが、一つの公演をするために全国を回ったのは初めてなので、新鮮でした。アルバムって、ツアーで歌われることで完成するんだな、ということを強く感じましたね。スタジオでレコーディングして終わるんじゃなくて、アルバムを引っ提げたツアーをすることで、観客と一緒に成長させていくものなんだなということを実感しました。「Upon A Smile」という曲があるんですが、この曲は大きなスタジアムで歌うことを想像しながら作った曲なんですよ。僕の頭の中ではすごく大きな規模の曲だったんですが、実際に会場でみなさんと一緒に歌ったら、僕が思っていたよりずっと壮大な曲だったので、すごく感慨深かったです。他にも「Even If Things Fall Apart」という曲は、力を抜いてアコースティックギターだけで歌ったんですが、「この歌詞はこういう意味なんだな」と、僕が書いた曲なのに新しく感じられるものがあって。曲というのはライブで一緒に完成させるものなんだなという思いが刻まれました。



▲[MV] ❋ Lee Seung Yoon(이승윤) _ DS Vol.1 Upon A Smile(웃어주었어) ❋



▲[MV] LEE SEUNG YOON(이승윤) _ Even If Things Fall Apart(폐허가 된다 해도)


――先ほど、ツアーでファンの方々が一緒に歌ってくれたという話がありましたが、その声を聞きながらどんなことを感じましたか?

イ・スンユン:みなさんと一緒に歌いやすいパートではないところで急にマイクを向けたりしても、歌詞を間違えながらも一生懸命歌ってくださって、本当にありがたくて、感動しました。テレビに出てから、こういうふうにツアーをできるようになるまで4年かかったんですが、やっとこの日が来たんだなと思って、嬉しかったですね。


――ファンの方の反応はいかがでしたか?

イ・スンユン:僕が番組で公演をしていたのがコロナ禍の真っ最中だったので、みなさんマスクをしていて、声も出せず……。だから僕はずっとファンの方の目元しか見たことがなかったんですよ。でも今回はマスクを外したみなさんの表情を見ることができました。僕はただ自分の歌を歌っているだけなのに、どうしてみんなこんなに幸せそうな表情をしているんだろうって、すごく感激しました。僕は、ファンの方のそんな表情をその時初めて見たので。


――台湾でもコンサートをしましたが、それが初めての海外公演ですか?

イ・スンユン:そうですね。オーディション番組に出ていた時、台湾にもファンの方がいるということを初めて知ったんですよ。それで、台湾でコンサートをしないかという話が来た時、観客がわずかしか集まらなくても行きますと言ったんです。でも思ったよりたくさんの方が来てくれて、すごく面白かったですし、その時も感激しましたね。


――台湾ではおいしいものを食べたり、楽しい思い出はできましたか?

イ・スンユン:台湾では、インターネットで事前に調べず、適当に歩いておいしそうなお店を見つけたら入ろうと思ってたんですけど、結局3時間歩き回っても見つからず。諦めてインターネットで見つけたお店に入りました(笑)。でも、そこの料理がイマイチで……。後で台湾のファンの方から、「他のお店に行くべきだったのに」って言われましたね。


――日本でのライブで楽しみにしていることはありますか?

イ・スンユン:日本に僕のファンがいるのかどうか、実はまだわからないんですよね。なので、日本でライブすることに対する期待はあるんですが、どんな公演になるかはまだわかりません。今のところ期待半分、ときめき半分ですね。日本語は、「こんにちは」「すいません」「ありがとう」「よろしくお願いします」くらいしかできません(笑)。韓国でもコンサートのタイトルにしていた【DOCKING】という名前をつけたのは、韓国のコンサートのエネルギーをそのまま日本にも持って行きたいから。今は一生懸命日本のコンサートのための準備をしています。



▲이승윤 | DOCKING ENCORE CONCERT 2023 (Full Ver. 4K) @ OLYMPIC HALL


――日本のファンの方に期待していることはありますか?

イ・スンユン:ただコンサートに来て、楽しんでもらえれば嬉しいです。僕も初めて日本へライブしに行くので、おたがい初対面ですし、挨拶するくらいの気持ちで臨みたいですね。日本はまだ僕にとって未知の場所なので、「次のライブもまた見たい」と思ってもらえる公演になったら嬉しいですし、僕も「また来たい」と思える公演になったらいいなと思っています。


――日本のファンは歌を一緒に歌うよりも、顔を見つめながら曲をじっくり聴くタイプの方が多いかも知れません。

イ・スンユン:じゃあ、僕も見つめ返しますね!


――日本には今回の公演で初めて来られるんですか?

イ・スンユン:子どもの頃にも日本に行ったことがあるそうなんですけど、あまり覚えてないんです。今年の6月に日本に遊びに行って、富士山に、登らず遠くから眺めて写真だけ撮りました(笑)。日本のコンビニにあった納豆のりまきがおいしくて、毎朝食べていました。


――今回、日本に来たらやってみたいこと、行ってみたいところはありますか?

イ・スンユン:僕は日本の漫画が大好きなので、日本語で書かれた漫画を読んでみたいです。『SLAM DUNK』が好きなので、湘北高校のある場所に行ってみようと思ったんですが、今は韓国人がいっぱい来ていると聞いてやめました(笑)。あとはホルモンが食べたいです。ホルモンと生ビール! 


――好きな日本のアーティストや曲は? コラボしてみたいアーティストはいますか?

イ・スンユン:ジブリ映画の音楽が好きで、特に『千と千尋の神隠し』のサウンドトラックはいいですよね。あとは、XGさん! XGの曲が大好きなんですよ。以前、音楽番組でご一緒したことがあって、その時はステージをこっそり見学しました(笑)。あ、でもコラボしたいと記事になるのは気が重いので、ノーコメントとしておいてください(笑)。


――日本のファンの方、そして読者の皆さんにメッセージをお願いします。

イ・スンユン:こうしてご挨拶する機会ができてとても嬉しいです。また会えたら嬉しいですし、せっかくなら今後もたくさん会えたら嬉しいです。「イ・スンユン」がどんなアーティストなのかは、『Shelter Of Dreams』を聴いてもらえればきっとわかっていただけると思います。ぜひ聴いてみてください。




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