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<インタビュー>「にじさんじ」所属の緑仙、活動5年の進化が投影されたミニアルバム『パラグラム』
Interview & Text:小町碧音
今年6月にソロメジャーデビューを発表し、活動5周年を迎えたVTuberグループ「にじさんじ」所属の緑仙が、10月4日、メジャー1stミニアルバム 『パラグラム』をリリースする。
タイアップを3作収録した今作の1曲目を飾るのは「WE ARE YOU」。2023年 ベガルタ仙台応援ソングだ。正真正銘のサポーターであると公言する緑仙の熱い想いが真っ直ぐに伝わる曲をはじめとした『パラグラム』は、様々な緑仙の表情が飛び出す作品になっている。まさに5年間で変化したものが明確になったインタビューだった。
メジャーデビューを迎えて
――2018年にVTuberとしての活動を始めるまでのVTuberシーンについて、まずは簡単に教えてください。
緑仙:2017年末までのVTuberムーブメントを牽引してくださったのが、バーチャルYouTuber四天王(キズナアイ、電脳少女シロ、ミライアカリ、バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさん、輝夜月)と呼ばれる方々でした。その後、2018年2月に僕の所属する「にじさんじ」が始動してから、「にじさんじ」所属の月ノ美兎さんが配信スタイルを広めてバズったことがあって。VTuberの定義が議論された同年に僕もVTuberデビューをしました。
――VTuberになろうと思ったきっかけはなんだったんですか?
緑仙:クリエイターさんが1つの表現方法としてVTuberを選択することができる時代になったことで表現において手段の幅が広がった感じがすごく面白いなと思ったんです。もともと80年代のアニソンが好きだった僕の当時の悩みは、自分の年齢に近い同じ趣味を持った人がめちゃくちゃ少なかったことでした。なので、VTuberになってインターネットを通すことで、同じ趣味の友達がたくさん増やせるんじゃないかと思ったのが大きかったです。
――緑仙さんは現在21歳です。80年代のアニソンを聴く世代ではないかと。
緑仙:小学生の時に一番仲良くなった友達が初めて貸してくれた漫画が、『ハイスクール!奇面組』と『ドラゴンボール』だったんですね。僕にとっての漫画の入口がその2冊だったので、昔の漫画だからと毛嫌いすることもなく、普通に面白いと思って全部読みました。『ハイスクール!奇面組』のオープニングとエンディング曲を歌っていたのは、おニャン子クラブの2人組派生ユニットのうしろゆびさされ組だったので、その流れでおニャン子クラブの曲も聴くようになって、最終的にはおニャン子クラブの曲を手がけた秋元康さんの手がけたほかのアニソンを聴くようになっていくという。音楽が複合的にいろんなコンテンツに繋がっていることを知ってからは、アニメ、漫画も監督目線で見るようになりました(笑)。「このアニメに出演されている声優さんは、若い頃どんなアニメに出演されていたんだろう?」と、どんどん昔の作品を巡る循環ができて今に至りますね(笑)。
――興味を持ったものには突き進んでいくアクティブな一面もあるのでしょうか。
緑仙:2018年頃の緑仙のイメージは口下手で人見知りだったと思います。経験上、話すことで人を傷つけることがあって。話すのが得意じゃないからこそ、どうすればもっと良くなるかを考えること自体はすごく好きだったので、中学生の頃は、歌以外にもイラストとか漫画にもチャレンジすることで自分にとっての最善の表現方法を探っていきました。そのなかでたまたま自分の想いが伝わりやすかったのが歌だったんです。
――今はオリジナル楽曲も制作されています。いろんな音楽クリエイターの方と曲について話し合う場面も増えてきたと思うんですが、活動面に対するご自身の成長を感じていますか?
緑仙:昨年の10月からラジオ番組(JFN系列 全国34局ネットFMラジオ番組『AuDee CONNECT』の毎週火曜日のパーソナリティを担当)を任せていただけたのも、周りの大人の評価が変わったことが大きいのかなと感じています。演者が100人以上いる「にじさんじ」の中で自分を選んでいただけたのは、ある種、外部の人間と話をしても問題がないと、判断していただいている証かなと。ただ、自分自身ではそこまでの実感はないです。
――今年は6月に開催された初のソロライブ【緑仙 1st LIVE「Ryushen」】でメジャーデビューを発表されました。メジャーデビュー前と後で意識の違いはありますか?
緑仙:今までは楽曲制作をお願いする際に、どういう楽曲にしようかと話し合う中で、クリエイターさんに自分の断固な想いをぶつけて音楽を作っていた自覚があるんです。なのでリスナーさんからは、緑仙の辛い気持ちが直接伝わる歌詞が辛いとコメントをいただいたこともあって。自分自身の暗い感情が反映された暗い音楽が多かったんです。でも、メジャーデビューするにあたってたくさんの大人や、プロデューサーさんが制作側に入ったことで、だいぶ暗い表現がマイルドになったというか。リスナーさんからしても、聴きやすくなったんじゃないかなと思います。
- 「同じものでも見え方で変わるものはたくさんあると思っていて」
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「同じものでも見え方で変わるものはたくさんあると思っていて」
――ここからは、メジャー1stミニアルバム 『パラグラム』について聞かせてください。1曲目は、「WE ARE YOU」。緑仙さんはJリーグがお好きだそうですね。
緑仙:家族がサッカー好きなんです。スタジアムに向かう時は応援歌ではなくて、選手のコールを車内で流すほどのサッカー熱の強い家族のもと、幼少期を過ごしていたので、今回のタイアップに関しても、家族のみんなが喜んでくれていて。ベガルタ仙台の控えの方を含めた選手のサインをいただいたんですよ。僕はサポーターとしていろいろなチームを応援していて、そのうちの1つがベガルタ仙台だったので本当に嬉しかったですね。
――運命共同体に近い選手とサポーターの関係性がひしひしと伝わる歌詞になっていて、自然とサッカーの試合のリアルな風景が目に浮かんできました。
緑仙:実は、楽曲制作のために、まずベガルタ仙台とFC町田ゼルビアによるJ2開幕戦を観に行ったんです。そこで、Jリーグ事情、チームの状況、現地のサポーターの熱量、どういうサポーターさんがいるのかといった情報と併せて、当時現地で撮った映像を、作詞の藤林聖子さん、作曲のeba(廃墟系ポップユニットcadodeのメンバー)さんにX(旧Twitter)のDMで送りました。
――そんな努力のもと、生まれた歌詞だったんですね。
緑仙:公式応援歌はいろいろあるんですよね。その中でも自分にできることはなんだろう?と考えた時に、ただ背中を押すだけのかっこいい楽曲とか、サッカーでなくても誰にでも当てはまる応援歌よりも、サポーターの自分だからこその視点で言えることがあると思いました。現状J2に落ちているベガルタ仙台には、どんな状況でも前を見ることは決して忘れないでいてほしい、とどうしても伝えたかったんです。無責任にベガルタ仙台の背中を押したくはなかったので、尖った楽曲になりました。
「WE ARE YOU」ミュージック・ビデオ
――2曲目のピアノの音色が揺らめくジャジーサウンドの「アイムリドミ」からすでにボーカルの表情が豊かです。
緑仙:曲を書いたケンカイさんは1st EP『It'sLie』の中からぼろまるさんが作ってくださった「イツライ」と「君になりたいから」を聴いて、自分に「すごくいい曲だ」とDMを送ってくれたんです。そこから知り合って友人になってから、いつか一緒に作品を作りたいねと話をしていました。やっとその時が来たという感じです。ケンカイさんからは普段の雑談の中で、「歌うのが上手だから緑にはこういう曲を歌ってほしい」と言われることもあるし、僕の曲の好みも知ってくれているので、楽曲制作に関しては完全にお任せしました。ただ、実際完成した楽曲を受け取った時には、嘘やろ?挑戦状か?とびっくりして……(笑)。仲がいいからこそいけるだろうみたいなケンカイさんの遠慮のない圧を感じました。
――ポルカドットスティングレイさんとのコラボ曲「天誅」も今作の中では光っています。
緑仙:ポルカドットスティングレイさんはライブでカバーを披露させていただいたことも過去に2回ほどあって、ベースのウエムラさんとも今は活動を休止しているRain Drops(「にじさんじ」所属VTuberの中からオーディションで選ばれた緑仙含む6名から成る ボーカルユニット )で活動していた頃から交流があって。ファンとしてずっと好きなロックバンドだったんです。
「天誅」ミュージック・ビデオ
――楽曲に対しては、どのような要望を?
緑仙:「ポルカドットスティングレイさんのこの楽曲の何分何秒の音が好き」みたいな感じで自分の好きなところを雫さんに共有しました。暗すぎずカラッとしたイメージとか抽象的な表現をお伝えしたんですけど、すぐに理解してくれて嬉しかったです。
――制作中、初めて挑戦してみたことはありますか?
緑仙:ポルカドットスティングレイさん提供の「天誅」のレコーディングの際には、雫さんが「狭い空間だから邪魔だったらごめんね!」と言って、僕のいるレコーディングブースに一緒に入ってきてずっと横に居てくれたんです。「ここはこう歌うんだよ」とすぐに歌ってくれる環境で、何度も「上手い!上手い!歌が上手い!」と言ってくださって。ありがたいなと思いながら楽しく録っていました。ほかに楽曲提供してくださった方にもレコーディング現場には同席していただいたのですが、雫さんのパターンはなかったので、すごくドキドキしました。
ミニアルバム『パラグラム』XFD
――『パラグラム』を締めくくる「ジョークス」を制作されたのは、緑仙さんの2曲目のオリジナル曲「イツライ」を制作されたお馴染みのぼっちぼろまるさんです。
緑仙:そもそも自分のオリジナル曲を一番担当してくださっているのがぼろまるさんなんですよね。お互い頑張って有名になろうとよく話しているんですけど、自分のオリジナル曲の1曲目を担当してくださったYOASOBIのAyaseさんの名がここ数年で広がったこともあって、俺たちも頑張らなきゃねと最近さらにお互いが意識していたんです。その中で自分のメジャーデビューが決まって、ぼろまるさんも「おとせサンダー」で、めちゃくちゃバズって。クリエイターとしてお互い一緒に成長している感じがするし、僕の成長につながっているのがぼろまるさんだと思っています。「イツライ」も「ジョークス」もその時の自分の気持ちをぼろまるさんにお伝えして制作していただいていて。想いを汲み取ってくれるのが上手な方なので、一緒に制作をしていて楽しいです。
――「ジョークス」については具体的にどのようなお話をされたんですか?。
緑仙:現状の不平不満、幸せについてです。自分自身はVTuberという特殊な位置にいると思っているので、「自分が幸せになるためにはどうしたらいいんだろう?」と、幸せについて考える機会があって。永遠とそんな話をしていたら「ジョークス」ができあがりました。基本的にぼろまるさんは曲の最後を前向きな印象で締めることが多くて、今回もどうやって僕が幸せになれるかを考えて作ってくれたんだろうなと思える歌詞になっています。
――緑仙さんの歌唱表現に深みが増している今作は、全体的に大人びた印象を受けました。ご自身ではそのような実感はありますか?
緑仙:もしかすると自分では意図することなく大人になっているのかもしれません。実際、自分自身が好きなコンテンツが、40代の方が好きなものだったりもするので、これまでも無意識に背伸びしているところはあったはずなんです。そこに自分自身の年齢も伴って少しずつ追いついてきたのかなと思いますね。それこそ、某クリエイターさんには「緑仙は昔から尖りはちゃんと持っているけど、今は出すべき場所とそうでない場所をちゃんと選べるようになったよね」と先日言われたのを思い出しました。
「ジョークス」(#緑仙_1stLIVE Special Edit Ver.)
――とくに大人っぽさを感じる曲はありますか?
緑仙:圧倒的に「アイムリドミ」ですね。昔だったら「歌えなそうだからもう少し優しくしてほしい」と言ったりしていたと思うんです。でも、今ならいけるかもって。今までの経験値もあるし、これまでのケンカイさんとのやりとりの中で自分に自信がついていたので。チャレンジしてみようと思えたのは自分が成長したんだなと感じます。
――『パラグラム』において軸になっている想いはなんでしょうか。
緑仙:同じものでも見え方で変わるものはたくさんあると思っていて。よく自分が話すのがインターネットは見え方が変わるだけで大きく違って見えるということ。アカウントを変えるだけで別人のように振る舞えるじゃないですか。それはリアルでも一緒で、母親と友人に対しての態度は全く違うと思います。『パラグラム』もそれぞれの曲が色んなカラーを放っているんです。でも歌っているのは、たったひとりの緑仙。楽曲のベースにある思考は自分自身なので、一人の人間でもこれだけいろいろな顔が見せられることを伝えたいんです。リスナーのみんなには『パラグラム』から自分の好きなところを抽出することで情報が溢れすぎている世の中でも楽しい人生を送ってほしいなと思っています。
――では、最後に『パラグラム』を聴く方へのメッセージをお願いします。
緑仙:『パラグラム』にはいろいろな楽曲が入っていると思うかもしれません。でもしばらく聴いていると歌っている緑仙の考えが見えてくる面白いアルバムです。すべての曲を何度も聴くのも、その中から1つ気に入った曲だけをずっと聴くのでもいいし、僕の一部を好きになっていただけると嬉しいなと思います。
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