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<インタビュー>ホロライブEnglishの小鳥遊キアラ、ありのままの自分を語る理由/多彩な表情を込めた1stアルバム『Point of View』

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Interview:Takuto Ueda

 ホロライブEnglish所属のVTuber、小鳥遊キアラが1stアルバム『Point of View』をリリースした。アルバムは全10曲入りで、そのうちの5曲はアルバムのために用意された新録曲となっている。

 リード曲「Pineapple」はトロピカルなサマーソングで、ミュージック・ビデオでも楽しげなダンスを披露。一方で「The Great Wanderer」や「Retrospective」は、うちに秘める葛藤や悲しみ、彼女のネガティブな想いを前景化させたナンバーで、様々な表情の小鳥遊キアラが詰まった一枚になっている。

 2020年にホロライブEnglishの初期グループ“ホロライブEnglish -Myth-”の一員としてデビュー、今年2月には3Dお披露目も果たした彼女の新たな挑戦について、音楽にかける情熱や、そこに込められたファンへの想いについて、本人に話を聞いた。

運命を感じたホロライブのオーディション

――小鳥遊さんは2020年にホロライブEnglishの初期メンバーとしてデビュー。当時、どんな想いで活動を始めたのでしょうか?

小鳥遊キアラ:たぶん同期のメンバーたちも同じだったと思いますが、こんなに成功するとは思っていませんでした。当時から日本のホロライブは有名でしたが、海外ではまだ注目されていなかった気がします。例えば日本のアニメは海外でも人気ですが、英語だと違和感があるので吹き替えではなく日本語のボイスで見たいという人が多いんです。だったら英語で話すVTuberも違和感があるんじゃないかと私は思っていて。でも、デビューしたらたくさんの方々に注目していただけてびっくりしました。人生が一気に変わりましたね。

――英語圏におけるVTuber自体の知名度もそこまで高くなかった?

小鳥遊キアラ:そうですね。でも、ホロライブEnglish -Myth-がデビューしたときに「待ってた」という反応をたくさんいただけて、それで「英語でも大丈夫なんだ」と思いました。私はホロライブ以外のVTuberさんともよく会話するのですが、「ホロライブEnglish -Myth- の影響でVTuberになろうと思いました」と言ってくれる方がけっこういるんです。なので、私はホロライブEnglish -Myth-の存在を誇りに思っています。

――そんなキアラさんが憧れたり、刺激を受けたVTuberは?

小鳥遊キアラ:最初にホロライブの存在を知ったきっかけは白上フブキさんです。フブキ先輩のイラストレーター、みと先生が好きで。それで「VTuberって何だ?」と思って見てみたらすごく面白くて、一気にはまってしまいました。その頃、私は1年間限定のビザで日本に住んでいたのですが、ちょうどコロナ禍が始まってしまったんです。でも、そこで母国に帰ってしまったら日本に戻ってこれないので、コロナが落ち着くまで待つしかない状況で、けっこう落ち込んでしまって。そんなときに兎田ぺこら先輩の配信を見て惚れてしまって、アーカイブの一番古いやつまで遡って、全部の配信を見ました。毎日そうやって元気をもらっていたら、ホロライブEnglishのオーディションが始まって「これ運命じゃん」と思って応募しました。

――オーディションに対する自信はどれぐらいありましたか?

小鳥遊キアラ:何時間もぺこら先輩の配信を見てきたので、VTuberとして必要なスキルはなんとなく分かっていたつもりでした。あと、私は歌や踊りのスキルを磨いていたので、もしパフォーマンスを披露する機会があっても大丈夫だと思っていて。ほかにもトークや語学力にも自信があったので、モチベーションはすごく高くて、1日でオーディションの書類を書き上げて、動画も撮影から編集まで終わらせました。

――歌やダンスのスキルを磨いていたというのは?

小鳥遊キアラ:昔からハロー!プロジェクトが好きだったんです。自分もアイドルになりたいと思っていた時期もありました。なので、歌やダンスは練習していたんです。

――キアラさんから見て、VTuberの魅力はどんなところにあると思いますか?

小鳥遊キアラ:もともと普通の配信者にはあまり興味がなくて。なんだろう、リアルすぎたのかな。でも、ホロライブのVTuberはいつも元気で癒やされるし、自分の好きなアニメ系のビジュアルだったのも大きいかもしれません。特にぺこら先輩は、ゲームをやっているときもいろんな話をしてくれるし、いつも100%なテンションで見ていて飽きないし、とにかく可愛い。ホロライブのタレントは現実の悲しい話をあまりしないイメージですよね。そういうプロフェッショナルなところもすごくいいと思います。

――では、キアラさんがVTuberとして活動してきた3年間を振り返って、特に印象に残っている思い出は?

小鳥遊キアラ:これは今年の話ですが、3Dデビューに向けて、ホロライブEnglish -Myth- のメンバーとしばらく日本で準備していたんです。一緒に“ホロライブEnglish -Myth-ハウス”に住んで、スタジオに行ったり、ご飯を食べたり、夜中にコンビニに行ったり。日本のホロライブやホロライブインドネシアのメンバーは同じ国に住んでいるので、お互いに会うことがよくありますが、英語圏は広いのでホロライブEnglishのみんなと会える機会はなかなかないんです。なので、この日本にいた期間は、メンバー同士の距離を縮められた大切な時間でした。

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いろんな視点を描いた1stアルバム

――先ほどハロー!プロジェクトがお好きという話もありましたが、幼い頃はどんな音楽を聴いて育ったんですか?

小鳥遊キアラ:親の影響で聴くようになったのはブラック・アイド・ピーズです。「Don't Phunk With My Heart」や「Don't Lie」をずっと聴いていました。あとはパラモアとかケリー・クラークソン。ラジオで流れる誰でも知ってるようなメインストリームのアーティストですね。今回のアルバムに入っている「Retrospective」はパラモアを意識した曲です。ちょっとロックっぽくしたくて。ただ、歌を乗せてみたらどちらかといえばエヴァネッセンスっぽい感じになりました(笑)。

――昔の音楽ルーツがちゃんと反映されているんですね。最近のアーティストだと?

小鳥遊キアラ:今一番はまっているのは、K-POPのアーティストさんですね。TWICEとかNewJeansとか。アメリカの音楽からも影響されつつ、ちゃんと自分の持ち味を追加したのが今のK-POPだと思っていて。それが世界中で人気を集めているし、私自身もはまってしまったので、こういう曲も作ってみたいなと思いました。

――たしかにK-POPライクな楽曲も収録されている。今回のアルバム『Point of View』ですが、どんなコンセプトを掲げて作り上げていったのでしょう?

小鳥遊キアラ:過去に出したシングル「HINOTORI」や「Heart Challenger」は日本語の曲で、J-POPやアニソンやアイドルを意識した曲だったんです。そういう音楽が個人的にも大好きだったので。でも、やっぱりホロライブEnglishなので「英語で歌ってほしい」という声もあって。あと、ホロライブの中にはアニソンやアイドルっぽい曲を歌っているVTuberがほかにもたくさんいたので、そういう音楽とは違っていて、なおかつ自分に合った楽曲を作ることに挑戦してみようと思ったんです。

――新録曲はすべて全編英語詞になっていますね。

小鳥遊キアラ:そうなんです。でも、「HINOTORI」や「Heart Challenger」も気に入ってくれた方はたくさんいたし、私自身も大好きなので、過去の自分の歴史や活動に対する感謝とか、そういう要素もちゃんと入れて、キアラのいろんな視点、いろんな“Point of View”の曲を集めた作品にしてみました。




HINOTORI - Takanashi Kiara (Official Music Video)



Heart Challenger - Takanashi Kiara (Official Music Video)


――せっかくなので新録曲を中心に詳しくうかがっていけたらと思います。まずは2曲目に収録されている「Love Rush」について。とてもポジティブなムードをまとった楽曲です。

小鳥遊キアラ:この曲は雰囲気的には「Heart Challenger」に近い曲です。ただ、「Heart Challenger」は恋の歌でしたが、この「Love Rush」はリスナーの皆さんへの感謝の気持ち、「今まで支えてきてくれてありがとう」「君たちがいなかったら続けてこれなかった」という気持ちを込めた歌詞になっています。私自身も歌っていると感動してしまう曲で、とても深い意味を持った曲です。

――サウンドについては?

小鳥遊キアラ:この曲を作ってくれた五条下位さんは、かっこいい曲も可愛い曲も作れるので、けっこう頼りにしていて。今回は「Heart Challenger」みたいな可愛らしい曲にもう一度挑戦したいと伝えていました。でも、ちょっと違う雰囲気も欲しかったので、日本のfhanaさんのような要素も入れたくて。バイオリンの音色などはまさにfhanaさんのイメージです。

――次の曲「The Great Wanderer」は打って変わってシリアスな世界観。

小鳥遊キアラ:最初にインストゥルメンタルを聴いたとき、少し寂しい雰囲気を感じたのでそういう想いを歌詞にしようと思いました。寂しかったり悲しかったり、そういう気持ちになるのが人生だと思うし、だからこそ聴いてくれる方々にも共感してもらえると思ったんです。ただ、この曲にはもうひとつの視点があって。私がよく感じることなのですが、VTuberはバーチャルな存在なので、ファンとリアルに会って接することができない。それってけっこう寂しいじゃないですか。インターネットを通してでしか触れることができないというのは、もちろんVTuberの良いところでもありますが、たまにその壁を壊したくなるときがあるんです。そういうVTuberの世界の悩みも入れてみました。

――<Did I lose my way/I can’t see the day>といったフレーズには、キアラさん自身のもどかしさ、葛藤や憂鬱も滲んでいますね。

小鳥遊キアラ:この3年間、もちろん楽しい思い出もたくさんありましたが、同時に寂しく感じた日々もあって。少し恥ずかしいですが、そういう自分自身の気持ちも歌詞にしてみたかったんです。メンバーやリスナーに対して、そしてこのVTuberという世界に対する想いも込めています。

――ボーカルもすごくエモーショナルです。

小鳥遊キアラ:今までの曲ではそこまでエモーショナルに歌う必要がなかったのですが、この曲ではちゃんと雰囲気を出したかったので、サビ前はあえて落ち着いた感じで歌っていて。サビがくると一気にビートも盛り上がるので、ボーカルも感情を込めた歌い方にしてみました。

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リアルで個人的な物語

――続く「Retrospective」。先ほどリファレンスとしてパラモアの名前も挙がりましたが、どんなふうに制作を進めていきましたか?

小鳥遊キアラ:「Retrospective」はこのアルバムの中で一番、自分の落ち込んでいる気持ちが込められています。やり直したくてもやり直せない過去の失敗とか、自分に足りないものとか、そういう悩みばかりでポジティブなエンディングはありません。でも、たまにはそういう曲があってもいいと思います。自分が悲しいとき、元気になれる曲ではなく、悲しいままでいられる曲を聴きたいことってあるじゃないですか。リスナーの皆さんにもそういう気分のときに聴いてもらえたらいいなと思っています。

――レコーディングはいかがでしたか?

小鳥遊キアラ:カラオケ配信でパラモアやエヴァネッセンスみたいな曲を歌うとよく褒めてもらえるんです。「キアラの声にすごく合う」って。ちなみに、もともと歌のメロディーは全然違うものだったんです。英語で自然に歌える、もっと洋楽っぽいメロディーにしたいと思って、歌詞を書いてくれたmoniiさんに新しく考えてもらって。その結果、すごくエヴァネッセンスっぽくなってドラマチックな歌い方になったんですね。レコーディングのときは顔の表情まで苦しそうな感じで、すごく感情を込めて歌えたのが楽しかったです。

――「The Great Wanderer」にしろ「Retrospective」にしろ、ネガティブな感情や経験をポジティブに変換するのではなく、ありのまま表現できるのは音楽ならではのデトックス方法なのかもしれませんね。

小鳥遊キアラ:そうですね。吐き出せるきっかけです。VTuberってみんなを癒やすような存在だと私は思うのですが、このアルバムではせっかくなのでリアルな自分を見せたくて、怖がらずに挑戦してみました。私はわりとオープンに感情を出すタイプではありますが、それでもこういう想いを表に出すのは難しいですよね。でも、「Retrospective」みたいな曲をみんなが気に入ってくれて、音楽ならそういう感情を語ってもいいんだと気づけたので、今後も自分の個人的な物語を表現していけたらいいなと思います。

――4曲目の「Sleep Talking」は打って変わって、難しいことは考えず音に身体を預けられるような楽曲です。

小鳥遊キアラ:実は「Sleep Talking」だけは、このアルバムのために書き下ろされた曲じゃないんです。2周年のときに「DO U」をリリースしたあと、KIRAさん、moniiさん、Johnnyさんのチームに「もっとK-POPっぽい曲を歌ってみたい」と相談したら、いくつかデモを送ってくれたんです。その中のひとつが「Sleep Talking」で。「え、待って。これすごく好きなんですけど!」って言って、今回のアルバムのベースになる曲として歌わせてもらうことになりました。

――ということは、アルバムの新録曲の中では一番古い曲?

小鳥遊キアラ:そうです。去年でした。こういうR&Bっぽい曲も挑戦してみたかったんです。アルバムのリード曲は「Pineapple」ですが、この「Sleep Talking」もある意味リード曲だと思っていて。ミュージック・ビデオも出す予定です。

――その「Pineapple」は、アルバムのオープニングを飾る1曲目。とにかく楽しくポップなナンバーですね。

小鳥遊キアラ:夏のパーティーのような曲で、ビーチで聴きたくなるような感じ。ミュージック・ビデオもビーチパーティーをテーマにしているのですが、ダンスシーンのためにアメリカに行って、同期のワトソン・アメリアちゃんのスタジオでモーションを撮らせてもらいました。

――特に見どころとして注目してもらいたいポイントがあれば教えてください。

小鳥遊キアラ:振り付けがけっこう難しくて、私もすごく苦労したのですが、ショート動画でサビのダンスをアップしたのでぜひ見てほしいです。動きがすごく速くて、一つひとつの振り付けを大きく踊るのが大変でした。




Pineapple - Takanashi Kiara (Official Music Video)


――アルバムは新録曲5曲が前半にまとまっていて、後半に既発のシングルが収録されています。それらのシングルに関して、キアラさんが特にチャレンジングだったと感じる曲を挙げるとしたら?

小鳥遊キアラ:英語曲のきっかけになった「SPARKS」と「DO U」は、どちらも同じチームの皆さんに作っていただいたのですが、特に「SPARKS」はほかの楽曲と比べると、録らなきゃいけない歌の数がすごく多くて。ハモリとかバックボーカルとか、歌声をある意味インストゥルメンタルとして使っているというか。なので作業は大変でしたが、そのおかげで聴いていて気持ちの良い曲になったと思うので、ひとつの発見になった曲です。

――キアラさんはご自身の歌声を客観視したとき、どんな個性や強みがあると思いますか?

小鳥遊キアラ:高い音はけっこう出せるのですが、逆に低い音はちょっと苦手で。「Pineapple」みたいな曲は自分に向いていると思っています。でも、今回のアルバムでは大人っぽい声にも挑戦してみたので、いろんな雰囲気の歌声を楽しんでもらえたらなと思います。




SPARKS - Takanashi Kiara (Official Music Video)



DO U - Takanashi Kiara (Official Music Video)


――憧れているシンガーはいますか?

小鳥遊キアラ:やっぱり最近はK-POPのアーティストさんですね。NewJeansとか、ソロアーティストではソンミさんやチョンハさん。前にコメントで「キアラはK-POPグループを一人でやってるような存在」と言ってもらえてうれしかったです。まだまだクオリティーは足りないと思いますが、少しでも憧れているシンガーたちのレベルに近づけるよう頑張りたいです。それにダンスもアピールできるので、自分の個性を活かせるジャンルだなと思っています。キアラポップ=K-POPとして表現できるようになりたいです。

――ライブ・パフォーマンスも楽しみです。

小鳥遊キアラ:YouTubeだけではなく、リアルでもソロライブはすごくやりたいです。私はすべての曲に振り付けしているし、いつでもパフォーマンスできるよう準備はしているので、いつかそういう舞台に立てるようにアピールしていこうと思います。でも、まずはアルバムをみんなに聴いてもらいたい。VTuberにあまり興味ない人にも。世界中の皆さんに少しでも近付けたらいいなと思っています。

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