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<コラム>「リカ」がバイラルヒット中のロックバンド=SIX LOUNGEとは? その“挑戦”の歴史と未来



コラム

Text:沖さやこ

 〈追い風を味方につけた僕はもう独りじゃない〉と「キタカゼ」で歌っていた彼らが、まさにその歌詞を現実のものにしている。2022年に結成10周年を迎えた大分発の3ピースバンド、SIX LOUNGE。2015年の全国デビュー以降、ライブハウスで熱い支持を集めてきた彼らの音楽が、今年の夏から急速にSNSを通じてその外にまで響き渡っている。彼らに追い風が吹いてきた背景と、初期曲「リカ」が7年の時を経て若者の共感を集める理由とは一体何なのか。バンドの生い立ちと特性から紐解いてゆく。

 ヤマグチユウモリ(Gt. / Vo.)は小学生でギターと出会い、父親の友人から教えてもらった吉田拓郎や井上陽水の弾き語りを始め、中学時代には斉藤和義にのめり込む。ナガマツシンタロウ(Dr. / Cho.)は、祖母の影響で小学生からクイーンを聴き始め、ボーカルよりも目立つロジャー・テイラーのプレイに魅了されたことでドラムを始め、中学時代は洋楽のハードロックやメタルに傾倒。そんな思春期を過ごしたふたりが高校で出会い、2012年にSIX LOUNGEは結成された。

 10代ながらに大分で名だたるツアーバンドとの競演で経験を積んだふたりは、ベーシストが脱退した2015年、高校の1年後輩にあたるイワオリク(Ba. / Cho.)をバンドに招き入れる。イワオも幼少期から両親の好む洋楽を中心に聴き続け、中学時代にテレビで観たレッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーに影響を受けてベースを始めたという生い立ちを持つ。つまり3人共通して、時代を超えて愛されている音楽の影響を多分に受けているのだ。そして大分のインディーズシーンは、ロックンロールバンドが多いことでも知られている。歌謡曲の系譜にある憂いのあるメロディと、無骨で泥くささもある日本語ギターロックで構成されたSIX LOUNGEの音楽は、彼らのルーツと大分のシーンが育んだものと言えるだろう。


「俺のロックンロール 」 (ONE MAN LIVE“LOVE”at SHIBUYA CLUB QUATTRO 2017.12.05) / SIX LOUNGE


 イワオの加入からほどなくして、My Hair is BadやHump Backなどを輩出したインディーズレーベル、THE NINTH APOLLOから全国デビューを果たすと、対バンライブやサーキットイベントなどの精力的なライブ活動によりSIX LOUNGEの名は瞬く間に全国区となった。2018年のメジャーデビュー以降、その音楽性はより広がりを見せ、結成10周年を迎えた2022年にレーベルを移籍する。自分たちの音楽を愛する人たちに音楽を届けるだけでなく、さらに広く届くための挑戦を続ける決断をしたのだ。

 移籍1作目の『ジュネス』は、外部の編曲家が入った楽曲やレーベルから出されたテーマに沿って楽曲を提出するなど、大胆でフレッシュなトライが多い作品となった。さらに今年3月にリリースしたTVアニメ『僕のヒーローアカデミア』6期第2クールのエンディング・テーマを表題にしたシングル『キタカゼ』は、これまでリーチしなかった層のリスナーを着実に増やす。「リカ」が注目を集めるきっかけは、そのタイミングで舞い込んだ。


キタカゼ / SIX LOUNGE


 2023年3月、aikoが音楽番組『Love music』に出演した際、「すごいと思ったラブソングの歌詞3選」としてSIX LOUNGEの「リカ」をレコメンドした。彼女は数年前からたびたびラジオなどで同曲を紹介していたが、選出のテーマなども相まって視聴者により大きなインパクトを与えた。

 それを機にじわじわと同曲がクチコミで広がると、その伝播はTikTokにまで派生する。7月からリップシンクや弾き語り投稿が増え、200万人以上のフォロワーを持つ有名インフルエンサーも「リカ」を使い始めるなど、“SNSバズ”が巻き起こる。8月に配信リリースされた再録バージョンの「リカ」はストリーミングでの再生数を軒並み伸ばし、9月からはSpotifyの公式プレイリスト「Buzz Tracker #バズトラ」でSIX LOUNGEがフィーチャーされるなど、現在進行形でこの現象は発展し続けている。


 「リカ」が注目を集めた理由はいくつかあるが、まずはaikoも言及していたその詞世界だ。“ふたりだけの世界”を過剰なまでに突き詰めた閉鎖的な共依存関係と、独占欲と狂気的な情念が綴られており、なかでもパンチラインの〈君だけは幸せにさせないよ〉は、どんなに穏やかな日常や幸せを諦めてもリカだけは手放さないという宣言にも捉えられる。すべて“僕”からリカへの語り掛けで構成され、ゆえに聴き手は自分が他者から強く必要とされているような感覚にも陥る。歪むほどに強い愛情は、愛されている実感をより濃密に味わえるのだろう。Saucy Dogの「シンデレラガール」やマカロニえんぴつの「なんでもないよ、」しかり、綺麗事だけではない生々しい本心で描かれた詞世界は、ユーザーの本音が出やすいSNSと親和性も高い。

 その詞をよりロマンチックに彩るのがヤマグチのボーカルである。アンニュイでありながらぶれない芯の太さを感じさせ、たくましさと色気を兼ね揃えた歌声と、日本のフォークや歌謡曲の系譜にあるレンジが広く憂いのあるメロディは、恋愛の甘さとほろ苦さ、耽美さをありありと映し出す。それと近い理由で多くの支持を集めているアーティストとして、Vaundyなどが挙げられるだろう。3ピースでストイックに叩き上げられた演奏力に加え、卓越した歌とメロディだけでも聴き手を楽曲の世界へ引き込める力があるからこそ「リカ」の詞世界は輝き、聴き手はそこに陶酔できるのだ。

 なお「リカ」は、Billboard JAPANのTikTok上における楽曲人気を測るチャート“TikTok Weekly Top 20” 9月13日公開分にて、堂々の1位を獲得。来年2024年2月には『僕のヒーローアカデミア』主題歌ライブ【ANI-ROCK FES. 2024「僕のヒーローアカデミア PLUS ULTRA LIVE」】の出演も控えており、一層注目を集めるだろう。


リカ / SIX LOUNGE


 「抱えてきたものを手放したとき、新しい人生が動き出す」と誰かが言っていた。経験を重ねると同時に凝り固まってきた考え方を手放し、身軽になったSIX LOUNGEが新しい要素を吸収しながら挑戦を重ねてきたからこそ、「リカ」というバンドの初期曲が注目されるという“追い風”が起きたのだ。ニューアルバム『FANFARE』も、そんな彼らのポジティブな挑戦がみなぎっている。目標に向かってがむしゃらに突き進むロックンロール、ストリングスを用いたまっすぐで壮大なラブソング、酩酊状態を綴ったダンスロック、色欲に突き動かされるスローナンバーなど、どの楽曲もその世界の“究極”を描いている。愛する人や自身の理想に向かって、脇目も振らず走り抜けていく姿は傷だらけかつ汗まみれで美しい。そんな彼らの姿や音楽は、これからも我々の心を焦がし続けるだろう。


SIX LOUNGE「FANFARE」

FANFARE

2023/09/20 RELEASE
ESCL-5853/4 ¥ 4,950(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.アナーキー・イン・ザ・人生
  2. 02.俺たちのファンファーレ
  3. 03.キタカゼ
  4. 04.エバーグリーン
  5. 05.merry bad end
  6. 06.モモコ
  7. 07.宿酔
  8. 08.エニグマ
  9. 09.HAYABUSA
  10. 10.恋人よ
  11. 11.僕と心臓
  12. 12.骨
  13. 13.アジアの王様
  14. 14.Paper Plane
  15. 15.リカ
  16. 16.夢みた君が大好きだ

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