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<インタビュー>神はサイコロを振らない、楽曲たちの焦点は自身でなくリスナーへ――ニューアルバム『心海』

インタビューバナー

Interview & Text:上野三樹
Photo:筒浦奨太
ヘアメイク:荒木美穂
スタイリスト:石黒亮一(ota office)


 9月27日に2ndフルアルバム『心海』をリリースする、神はサイコロを振らない。前作『事象の地平線』から約1年半ぶりとなる今作は「カラー・リリィの恋文」(NHK Eテレ TVアニメーション『アオアシ』第2クールエンディングテーマ)、「Division」(Nintendo Switch完全新作アクションRPG 『FREDERICA (フレデリカ)』主題歌)、「六畳の電波塔」(神はサイコロを振らない ✕ Rin音コラボレーションソング)、「修羅の巷」(TBS系日曜劇場『ラストマン―全盲の捜査官―』挿入歌)など全13曲収録。人に伝わる音楽とはどういうものかを模索しながら「言葉では表現できない人の感情や、目視できないものを大事にしたい」という想いを込めて作られた。だからこそ音楽的なたくさんの新たな挑戦が、ひとつの説得力を持って鳴り響く1枚に仕上がっている。メンバー4人に今作と、その後に控えている全国ツアーについても語ってもらった。

 左から:桐木岳貢(Ba)、柳田周作(Vo)、黒川亮介(Dr)、吉田喜一(Gt)

「自分ではなく聴いてくれる人の心にフォーカス」

――この夏はフェスやイベント出演でお忙しかったんじゃないですか。

柳田:怒涛の日々でしたね。大阪、東京、北海道で3日連続ライブをしたり。初出演の【RISING SUN ROCK FESTIVAL 2023 in EZO】では「神サイのこと初めて観る人ー?」って聞いたら9割ぐらいの人が手をあげていたんですけど、後ろの方まで人がいっぱいで、どの曲をやってもすごく盛り上がってくれて。バラード中の1サビ終わりに拍手をもらえたりして、嬉しかったですね。演奏をしている側が感動しちゃいました。


――そんな夏を経て、2ndフルアルバム『心海』がリリースされます。前回の取材で、今回のアルバムについて「実験的なことをして神サイの武器をたくさん集めたような内容にしたい」とおっしゃっていました。まさにそんな作品になったと思いますが、制作はいかがでしたか。

柳田:新録の6〜7曲に関しては、もうここ2〜3か月で一気に録り終えたので、本当に今の神サイの鮮度みたいなものがギュッと凝縮されているものになったと思います。特に7月は1本もライブをせずに制作をしていました。



『心海』全曲試聴 Trailer


――インスト曲「Into the deep」で幕を開けた後、2曲目の「What’s a Pop?」が今作のテーマを真正面から歌った内容だと感じました。

柳田:そうですね。人に伝えるためにはどうしたらいいんだろうってことをとにかく模索していました。それは今に始まった話じゃなくて、インディーズの頃からずっと考えていることで、最初はすごく暗い曲ばっかりのバンドだったんですよ。それなのに「なんでお客さんは盛り上がらねえんだ」ってジレンマを感じていて。でもあるとき、それってシンプルに曲が伝わってないからだってことに気がついて、別な方向性も取り入れた曲を作り始めたりして。そうやって少しずつ自分の殻も破りながら、曲作りでは自分ではなく聴いてくれる人の心にフォーカスするように変わっていったんです。なので「What’s a Pop?」のポップというのはジャンルのことではなく、人に伝わる音楽ということを意味しています。


――そういう意味でのポップを意識しないと、自分の心を掘るような曲ばかりになってしまうと。

柳田:そうなんですよね。ネガティブな曲になりがちなんですけど、その反面、ライブをするとお客さんがすごく幸せそうに、泣いたり笑ったりしている顔を見て、もっと幸せにしてあげたいと思って。バンドが成長していくにつれてお客さんも増えていって、そのお客さんたちが、僕が曲を書くときの変化をくれたんだと思います。楽しげな曲でも泣いてる子とかもいるし、そういう、人がグッとくる瞬間ってなんだろうって考えながら作ったアルバムです。そうなんですよね。ネガティブな曲になりがちなんですけど、その反面、ライブをするとお客さんがすごく幸せそうに、泣いたり笑ったりしている顔を見て、もっと幸せにしてあげたいと思って。バンドが成長していくにつれてお客さんも増えていって、そのお客さんたちが、僕が曲を書くときの変化をくれたんだと思います。楽しげな曲でも泣いてる子とかもいるし、そういう、人がグッとくる瞬間ってなんだろうって考えながら作ったアルバムです。



――4曲目の「Division」はNintendo Switchの新作アクションRPG『FREDERICA(フレデリカ)』の主題歌として書き下ろされたそうですが、どんな制作でしたか。

柳田:ゲームのストーリーが言葉を失ってしまった世界のファンタジーなんです。現代社会は言葉ひとつで人を救うこともできるし、人を傷つけることもできる。SNSでも言葉の集団リンチみたいなことが日常的に起こっているのが本当に僕は許せないので、せめて神サイの音楽を聴いてくれる人たちのコミュニティからちょっとずつ変えていきたいというか。みんなが優しい気持ちになってくれたらいいなという問題提起をしている曲です。ゲームの登場人物に寄り添って歌詞を書いたんですけど、僕が書いた歌詞に呼応してオープニングのアニメーションが追加された部分もあったと制作サイドの方から聞きました。書いてよかったな、夢があるなって思いました。

吉田:僕らはみんなゲームが好きなので、『FREDERICA(フレデリカ)』のオープニング映像がめちゃくちゃカッコよく仕上がって、本当に嬉しいです。



『FREDERICA(フレデリカ)』オープニングムービー



「Division」ミュージック・ビデオ


――7曲目の「僕にあって君にないもの」はテーマ的に、「修羅の巷」と同時期に書かれたものかなと思ったんですが。

柳田:そうなんです。この曲のポテンシャルはめちゃくちゃ高いと思っているので、たくさん聴いてくれたら嬉しいです。

黒川:この曲のアレンジはめちゃくちゃシンプルに、ドラムはキックとスネアとハイハットの3点だけで演奏しています。プリプロの段階で亀田さんに「シンバルもいらないでしょ」ってアドバイスをいただいて、どんどんシンプルになっていきました。技術的にも丸裸にされるとごまかしきれないみたいなところもあるので、自分でもよくやったなと思います(笑)。<僕にあって君にないもの>というフレーズはこのアルバムの中でも特に耳に残ります。


――8曲目の「スピリタス・レイク」は編曲を手掛けたYaffleさんらしいアレンジだなと思ったんですが、どのようにバンドサウンドに落とし込んでいったんですか。

黒川:デモの段階では打ち込みで入ってたドラムやベースをレコーディングまでになんとか自分の中で形にしなきゃいけなかったんですけど、今までの自分の引き出しにないものばかりだったので、すごく苦労しました。でもレコーディング当日にYaffleさんに「自由にやって欲しい」と言われて、違うフレーズをいきなりぶちこんでみたり。その過程がすごくクリエイティブで楽しかったです。

桐木:そのぶんドラム的なリズムキープの役割をベースが担っている曲です。ライブで演奏しても面白いんじゃないかなと思います。

柳田:Yaffleさんはトップクリエイターとして活躍されている方なので、デモの段階でアレンジが計算され尽くしてるんだなと感じました。レコーディングでは「好きなようにして欲しい」と言ってくれるものの、アレンジの全てに意味があるので、僕らがオリジナリティを加えるときにもちゃんと意味を理解しながらやらなきゃいけなくて。「スピリタス・レイク」の制作はそこが難所だったし、僕らの新しい扉をたくさん開かせてもらった、すごい経験ができたなと思います。


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アルバム『心海』を引っ提げたツアーに向けて


――かなり充実の制作だったと思いますが、2ndフルアルバム『心海』は神サイにとってどんな作品になりましたか。

桐木:すごくパーソナルな人間味溢れたアルバムになったと思います。いろんなジャンルといろんなテーマがあるのでたくさんの人に何か刺さる曲が1曲以上はあるんじゃないかな。そして曲の更なる完成度を見せるのはライブだと思ってるので、僕らの表情やパフォーマンスを含めたこのアルバムをライブで感じてもらえたら嬉しいです。

吉田:今回の制作を通じて、自分の頭の中で鳴っているギターの音が出せなくて葛藤していたんですけど、今までの固定概念や常識を取っ払って1からトライしてみようという前向きな気持ちになれました。クリエイティブであり続けるために、これからもどんどん今あるものを壊していかなきゃなっていうのを決心できたアルバムになりました。

黒川:僕は『事象の地平線』のときにはドラムプレイヤーとしてどうあるかより、曲にマッチするドラムを叩きたいという気持ちが強かったんですけど。今回のアルバムでは、そういう気持ちも残しつつ、新たな自分を創造するようにしながら音楽と向き合ってプレイすることができました。今後もどんどん新しい自分になれるなと思えたアルバムになりました。

柳田:メジャーというシーンで、これだけエゴを詰め合わせたような作品をリリースできることが相当ありがたいことだなと思います。自分の想いを形にして皆さんに聴いてもらえる機会を与えてもらえて、ホールツアーという舞台も用意してもらえた、こんなに幸せな音楽人生あっていいのかなって最近は本当にそう思っています。ファンの方たちに早く聴いてもらいたくて、毎日うずうずしています。


――いろんな人を巻き込んでいく説得力のある曲たちを1曲1曲、書けたからこそですね。

柳田:そうですね、曲単位の説得力って以前と比べたら段違いに上がってると思います。新しい挑戦をするにしても、ちゃんと自分たちの中に落とし込んで噛み砕いてっていう作業をした上で完成させてきたんで。リリース前ですけど、すごい作品ができてしまったなと自分たちで思っています。



――9月には香川と福岡で【神はサイコロを振らないExtra Live 2023 “Advance to 『心海パラドックス』”】、10月からは全国ホールツアー【神はサイコロを振らないLive Tour 2023『心海パラドックス』】が開催されます。どんな内容にしたいですか。

柳田:9月の2公演に関しては、ホールツアーに向けての前夜祭みたいな感じで、ライブハウスならではの見せ方とセットリストでやりたいと思っています。ホールツアーは10月28日の大阪・オリックス劇場を皮切りに、12月17日の東京国際フォーラムホールAまで8公演、駆け抜けます。アルバム『心海』の曲たちがこのツアーを通じて成長していくと思うのでぜひ観にきてもらいたいですね。

黒川:アルバム制作を通じて個人的にも新たな扉を開いた感じがしているので、ライブでも無我の境地に入りたいなと思っています(笑)。

吉田:「僕にあって君にないもの」のギターソロは僕のルーツであるUKロックのテイストを思い切り出せたのが良かったなと思ってるんですけど。僕のギターソロの後に柳田のギターソロが入ってきて<共鳴し合って>という歌詞にもリンクしているので、ぜひライブでも注目してほしいです。

柳田:2人で背中合わせて弾きたいよね(笑)。

桐木:僕は逆に最近、目立つことよりも裏方として支えることに美学を感じているので、「What’s a Pop?」などで派手ではないけど曲全体をしっかりまとめるようなプレイを発揮できたらと思っています。

柳田:今は僕らメンバー全員、音楽やバンドに対する熱量がすごく高いので、早くこのアルバム『心海』を引っ提げたツアーで表現したいです。神サイってどうなりたいんだろう? みたいなことを自分たちで模索しながら走り続けてきて、その様を1つの形にしたものがアルバム『心海』だし、その後のツアーでそれを更に色濃く出せるんじゃないかなと思っています。演出やパフォーマンスもとんでもないことになると思うし、老若男女がみんな楽しめるライブをやりますのでぜひ来てください。


神はサイコロを振らない「心海」

心海

2023/09/27 RELEASE
TYCT-60209 ¥ 3,300(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.Into the deep
  2. 02.What’s a Pop?
  3. 03.カラー・リリィの恋文
  4. 04.Division
  5. 05.六畳の電波塔
  6. 06.修羅の巷
  7. 07.僕にあって君にないもの
  8. 08.スピリタス・レイク
  9. 09.朝靄に溶ける
  10. 10.Popcorn ’n’ Magic!
  11. 11.キラキラ
  12. 12.夜間飛行
  13. 13.告白

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