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<インタビュー>RIKIMARU おとぎ話のようなフルアルバム『CLOWN OR CROWN』に込めたメッセージと挑戦
Interview & Text:高橋梓
9月7日、RIKIMARUが1stフルアルバム『CLOWN OR CROWN』をリリースする。同作はWARPs PROJECTからINTO1の活動を経た彼が今夏スタートさせるソロプロジェクト名と同タイトルであり、プロジェクト始動の皮切りでもある。このプロジェクト、アルバムを通してRIKIMARUはどんな表現を見せてくれるのだろうか。本人にじっくり語ってもらった。
ソロプロジェクトを始めた理由
――今回スタートさせるソロプロジェクトは「自身が表現者として活動していく意味の体現とその目的達成を追求しながら、視聴体験者とお互いの思考を共有するプロジェクト」とのことです。なぜこういった試みをしようと考えたのでしょうか?
RIKIMARU:以前は「爽やか」「青春」といったイメージがありました。それはそれで楽しく活動をしていたのですが、RIKIMARUというひとりの人間と考えると、そのイメージとはリンクしないと思っていたんです。どちらかというと、「クレイジー」というイメージが合うのかなって。なので、そのイメージに寄せた作品を発信していきたいと思ったのがきっかけです。楽曲も、恋愛などではなく社会問題や人間関係を描いて、聴いた人が共感できるようにしていこうと考え、このプロジェクトをスタートさせました。
――作品テイストの好みも、「クレイジー」寄りだったり?
RIKIMARU:そうですね。あとは「ダーク」なども好きです。しかも、なんとなくの雰囲気だけではなく、ちゃんとメッセージが込められているものがより好きですね。
――では、このソロプロジェクトではRIKIMARUさんが表現する「クレイジー」な世界観が見られる、と。
RIKIMARU:僕がどこまで表現できるかはまだわかりませんが、そういった世界観を作れるように全力で取り組んでいくつもりです。もしファンミーティングをやるにしても、“笑顔でハートを作る”みたいなことは実はちょっと苦手かもしれないです(笑)。グッズも世界観に沿ったものを作ろうと考えているので、期待して待っていてほしいです。
――その第1弾として1stアルバム『CLOWN OR CROWN』をリリースされます。このタイトルにはどんな意味が込められているのでしょうか。
RIKIMARU:まずCLOWNはピエロ、CROWNは王冠=王様という意味です。僕が設定したのは、耳が聞こえないピエロと目が見えない王様。ピエロは自由やクレイジーの象徴で、自分の世界に浸っているから人の話を聞かない。王様は暗いお城の中にいて、周りの世界が見えていない。外の人たちがどんな生活をしているのかわからないというイメージです。それぞれ世界観も、見えている世界も全く違うふたりをテーマに据えました。それに沿って、僕自身が見たもの、感じたもの、人から聞いたことをストーリーとして楽曲にしています。たとえば、最近ではネット上で誹謗中傷をする人が増えていますよね。その書き込みを見るとどうしても傷ついてしまいますが、「書き込んでいる人は退屈な人。そんな人は放っておこう」というメッセージが込められた楽曲もあります。
――社会風刺的な作品なのですね。
RIKIMARU:そうですね。でも、ただ深刻で重いだけではなくて、共感できる部分も大きいと思います。捉え方によっては別のストーリーにも見えるんですよ。『CLOWN OR CROWN』には、耳が聞こえないピエロと目が見えない王様がお互いに持っている情報や感覚を伝え合うという設定もあるので、リスナーさんもそれぞれが感じたものを共有し合ってみてほしいです。
――そのお話を聞くと、「もっと視野を広げよう」というメッセージが込められているようにも感じられます。
RIKIMARU:はい。たとえば、僕はネットに書かれていることの8割は嘘だと思っていて(笑)。多数意見が真実ではなく、少数意見が正しいこともありますよね。ましてや、見えているもの全てが真実でもない。その是非を判断するのは自分次第ですが、視点を変えてみるといろんな世界が広がるというのも伝えたいことのひとつでしたね。
――おっしゃる通りです。
RIKIMARU:それと、「CLOWN」と「CROWN」ってスペルがLかRかの違いだけなんです。僕は中国で「Liwan」と呼ばれていて、日本語での名前は「RIKIMARU」。よく「普段喋っている時は“Liwan”、踊ると“RIKIMARU”」と言われます。僕を指すふたつの呼び名も、頭文字を見るとLとRなんですよね。これには後から気づいたんですけど、面白い偶然でした。
――RIKIMARUさんを多面的に見られる作品になっているのかもしれませんね。そんな『CLOWN OR CROWN』の収録曲「TALKIN'BOUT」は7月27日に先行リリースされました。この曲にはどんな意味が込められているのでしょうか。
RIKIMARU:先程も言った通り、最近ネット上でのいじめや暴言で苦しんでいる人が多くなっていますよね。しかも悪口を書く人はアイコンも設定されていない、悪口を書くためだけに作られたアカウントということも多く、顔も見えない、何者かもわからない人であることが珍しくありません。しかも、そういった悪口は嬉しい話よりも実は少ないんですよね。数は多くないけれど、人間は悪い意見が気になってしまうのでどうしても気を取られてしまうんです。自分の周りにいる人はいいことや嬉しいことを言っているのに、耳に入らなくなってしまう。そうではなく、いいことに目を向けよう、悪口は言わせておけばいいというテーマで作りました。
――そういった問題は特に最近目立っていますよね。そこを改めて問題視している、と。
RIKIMARU:ネットで悪口を言っている人って、実はストレス発散しているだけの人もいるんですよね。そのターゲットにされてしまうって、事故みたいなものですよね。なかなか難しいところではありますが、やっぱり「気にしない」がいちばんだと思うんです。悪い意見に引っ張られてしまうと、自分を見失ってしまうじゃないですか。それを伝えたいんです。自分であることをいちばん大切にしてほしいです。
――ソロプロジェクト全体のテーマソングのようにも感じられます。
RIKIMARU:それもあります。世の中の物事って噂話から広がっていくことが多いですよね。そういう意味でも“始まり”としてこの曲が良いのかな、と。目次のように、「今から起きていることを話し始めますよ」という意味も込めていたので、アルバムの1曲目に収録しました。
――しかも、何度もブラッシュアップしながら作り上げられたとか。
RIKIMARU:今回のアルバム制作を始める前までは、僕の声はまだまだ子供っぽいというか、芸術性がないというか、そういったことを思っていました。ただ歌っている感じなんですね。知り合いの音楽関係者に聴かせても、「歌の技術は上手くなってきたけど、感情がない」と言われます。僕自身も、アーティスティックな声ではないと感じていたので、レコーディングは1行ずつ何回も録っていきました。今までであればコーラスパートを含めて3時間で1曲録り終わっていたのですが、今回はメロディラインだけで5時間かかりました。あと、歌っていくうちに「僕ってこういう声も出るんだ」という新しい声も出始めて。それを使ってみたくなって、また録り直したりして。
――こだわりがすごいです。
RIKIMARU:「TALKIN'BOUT」に限らずなのですが、今回のアルバムはレコーディング期間が10日間しかありませんでした。なので、お昼にスタジオに入って、翌日の朝10時までレコーディングして、4時間くらい仮眠を取ってまたスタジオに行って……ということもありましたね。アメリカでレコーディングをしたのですが、そのプロデューサーも「夜通しレコーディングしたのは初めて」と言っていました(笑)。それでも皆さんが協力してくれて、助けられましたね。
――RIKIMARUさんの喉の強さにも驚きです。
RIKIMARU:僕、人生で一度も声が枯れたことがないんです。それに、知り合いの韓国人アーティストが、寝ずに頑張って死ぬ気でやっていると言っていたので、負けてられないな、と。周りと協力しながら今あるベストを尽くして出来上がった作品です。
初めて自分の昔の生徒に振り付けをしてもらったんですけど、新しい経験でした
――「TALKIN'BOUT」に関しては、MVもYouTubeにアップされています。見どころを教えてください。
RIKIMARU:ダンサーが目を隠しているんですけど、これは先程言った、顔の見えない何者かを表現しています。そのダンサーが後ろから迫ってきたり、僕を見たりしているようなシーンがあるのですが、実は僕のことはそんなに見ていないという。ただただ、つきまとっている感じを表現しているところです。あとは、MVを観てくれた方の反応を見ると、「そういう解釈をするんだ」という面白い発想もあって。たとえば、僕は白い服を着て赤い椅子に座っているんですね。その椅子の形がハートに見えることから、僕(の白い服)が包帯を表現しているという意見を見ました。傷ついたハートを包帯で包んでいる、と言っているのが面白かったですね。本当はそういう意図はなかったのですが、「いいな」と思って「その通りです」と言いました(笑)。
「TALKIN'BOUT」Music Video / RIKIMARU
――考察できるのもこの曲の醍醐味ですね。振り付けはYUMEKIさんが担当されています。
RIKIMARU:最近YUMEKIが活躍していて、ダンスもかっこいいと思ったのでお願いしました。特にサビとその次のダンスブレイクに注目してほしいです。かっこよく仕上がっていると思います。今回、初めて自分の昔の生徒に振り付けをしてもらったんですけど、新しい経験でした。自分のダンスは毎日見ているから何がすごいのかわからなくなってくるのですが、誰かの振りを踊ることで想像していない動きの順番があるし、勉強にもなります。自分のダンスの雰囲気が違って見えることもあって、新しい自分を見せるにはうってつけだったと思いました。
リリース情報
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ダンスを一切しないMV「I am Riki」
――そしてリード曲は「I am Riki」。
RIKIMARU:この曲は今まで歌ってきたジャンルと全く違う一曲です。これまではどちらかと言うとダンスをバンバン踊っていましたが、今回はダンスを一切しないでMVを撮りました。僕が伝えたストーリーをまとめていただいたドラマのような作品になっていて、演技もたくさんしています。ホラーテイストなので、ホラー映画を見て勉強したり。最初は演技をすることが恥ずかしかったのですが、いい作品を作りたいので頑張りました。
――RIKIMARUさんが伝えたストーリーとはどんな内容だったのでしょうか。
RIKIMARU:ストレスが溜まると「自分って何?」「自分は誰?」と思うことがあるんです。自分自身を理解していないから。そうなると、世界が全部暗く見えてしまう。「自分は今なんでこんなところでこんなことをしているんだろう」と訳がわからなくなってしまったりもして……。そういった心境を描いたストーリーですね。
「I am Riki」Music Video / RIKIMARU
――そのストーリーを作るまでに、RIKIMARUさんご自身が「自分は何者なのか」とある程度考えたと思います。どんな結論が出ましたか?
RIKIMARU:出なかったです(笑)。自分が何者なのか、完璧な自分像は見つかっていないのですが、『CLOWN OR CROWN』のようなダークな路線が合っているなとは改めて思いました。それに、僕はすごく飽き性なんですよ。今回のアルバムも今はいいと思っていますけど、後から聴いたらお笑い話になっているかもしれないですし(笑)。とりあえず今の自分に集中したいので、後先考えず今を楽しんでいたいですね。
――お話しいただいた2曲を含め、どの曲も明確なテーマがあります。こだわった点、大変だった点も多そうです。
RIKIMARU:こだわったのは、やはりテーマですね。アルバム全体の大きなテーマはあっても、全ての曲にストーリー性を持たせて、かつ大きなテーマにも合っているケースってあまりないと思うんです。そこを考えるのに半年くらいかかりました。
大変だったのは英語。今回はよりグローバルに僕を知ってほしかったので、歌詞はほとんど英語にしました。会話する分には伝わればいいですが、歌となると、発音がよくないと感情も入ってこない。もしかするとニュアンスも変わってしまうかもしれないですし。なので、アメリカの方と一緒に歌いながら「これならストーリーに合っている」「この感じだと感情が表現できないかも」という調整をするのが大変でした。
――まさに渾身の一作なのですね。では最後に、アルバムを聴く方へのメッセージをお願いします。
RIKIMARU:このアルバムは、おとぎ話のようなアルバムです。それぞれ1話、2話とストーリーがあるので、絵本を読む感覚で聴いていただけたら嬉しいです。それと、楽曲に入っているメッセージは「こうした方がいい」「ああしなさい」という押しつけではないので、「わかる!」と共感しながら面白く受け取ってもらえたらと思います。