Special
<インタビュー>五十路のLGBTシンガー・黒田美呼、“後悔したのは一度だけ”その半生とCDデビュー~2ndシングルを語る
昨年、49歳にしてシンガーデビューした黒田美呼。幼稚園児ごろから性別違和感を感じつつ多様な音楽を聴いて育ち、大学からはメタルドラマーとして活動。その後、IT会社に就職するも34歳で歌舞伎町へ転職。現在はバーを経営しながら、LGBT課題に取り組むNPO団体で理事を務める一面も併せ持つ。“50年間で後悔したのは一度だけ”と語るその半生と、リリースされた2ndシングルについて語ってもらった。
幼少期はリカちゃん人形&おままごと/大学時代はメタルドラマー/IT会社員から歌舞伎町へ
--まずはプロフィール的なところからお伺いしたいのですが、どんな幼少期を過ごされたのですか?
黒田美呼:小さい頃は、女の子によく間違えられていましたね。あと祖母や母の化粧品で勝手にメイクしたりしていたそうです。遊びといえば、リカちゃん人形、おままごとでした。なんせまだファミコンが発売されていませんでしたからね(笑)。--小学生時代は沢田研二、RCサクセション、レッド・ツェッペリンに憧れたそうですが、それぞれどんなところに憧れていたんですか?
黒田美呼:初めて祖父に買ってもらったレコードが沢田研二さんの「勝手にしやがれ」だったんです。当時、『8時だョ!全員集合』とかに沢田研二さんが出ていて、綺麗な男の人だなぁって思ってました。その後ラジオでRCサクセションの「雨上がりの夜空に」を聞いて、カッコイイ曲だなってなってモノマネとかしていたそうです。その時はRCがメイクするバンドだっていうことは知らなかったですね(笑)。レッド・ツェッペリンに関しては、「移民の歌」と「天国への階段」を聞いて、ジョン・ボーナムのパワードラムにもの凄い衝撃を感じましたね。まだ小学生なのに(笑)。--中学・高校・大学時代はどんな音楽を聴いて育ったんですか?
黒田美呼:めっちゃ色々聞きましたけど、中学時代は邦楽ならTHE BLUE HEARTS、すかんち。洋楽はクイーンでしたね。高校時代は何故かパンクバンドに目覚めて、ザ・クラッシュ、ラモーンズを。大学時代は、ブラック・サバス、メタリカ、モーターヘッド、エアロスミス、人間椅子とかのヘヴィ・メタルを中心に…ホント色々聞いてますね(笑)。あと、モーニング娘。はめっちゃ聴いてました(笑)。--大学時代はメタルバンドでドラマーをされていたとか。
黒田美呼:ホントはベースをやりたかったんですよ。でも、弦楽器が弾けなくて…。ボーカルかドラムかを選んだ結果、ドラムをやってました(笑)。そして、どんどん深みにハマりましたね(笑)。ドラマーとして、ビル・ワード(ブラック・サバス)、ジョン・ボーナム(レッド・ツェッペリン)、ラーズ・ウルリッヒ(メタリカ)、恒岡章さん(Hi-STANDARD)に影響されました。--当時どんな活動をされていたんですか?
黒田美呼:大学のサークルで主にブラック・サバスのコピーバンドをやっていて、2か月に一回くらいのペースでライブをしていました。卒業してからは、色んなアマチュアバンドさんに声を掛けてもらって叩いてましたね。でも、それだけでは生活できなかったのでアルバイトしながらですけど…。しばらくはフリーターしながらドラムを叩いていたんですが、それだけで生活していくのはかなりきつかったので、しばらくして就職しました。就職してからは音楽は完全に聴く専門になりましたね。
--その後、30歳の時に性別の違和感を感じられたとのことですが、何か具体的にきっかけとなる事があったんですか?
黒田美呼:初めて性別違和感を感じたのは、もっと昔なんです。それこそ幼稚園児くらいの時だと思います。ハッキリと性別違和感なんだなってわかったのが、30歳の頃です。なので、特にきっかけっていうのはないですね。元々、ユニセックスな服装ばかりでしたしね。--34歳の時に新宿歌舞伎町のニューハーフショーパブに就職されますが、会社員をやめようと決意するきっかけが何かあったんですか?
黒田美呼:音楽をやめて就職した先っていうのがITの会社で、契約社員で働いていました。しばらくしてITの大企業からお声をいただき、そちらに転職したんですが、その大企業のITスキルがかなり低いと思ってしまったんです。その時に、この国のIT業界に絶望を感じ、システムエンジニアをやめようと思いました。丁度その頃、歌舞伎町のニューハーフショーパブに女装してお客さんとして行っていたんですが、そこのナンバーワンの子にふとした時に「あたし、アンタみたいなのと働きたいわ」って言ってもらえたんです。それで、性別違和感もハッキリわかっていたことですし、ここで働かせてもらおうって思ったんです。
--当時はまだまだLGBTの方々への理解度がなかった時代だったと思います。いろいろご苦労されたのでは?
黒田美呼:それが何もないんです(笑)。もしかしたら、あったのかもしれないですけど、覚えていないっていうことは、何もなかったんだと思いますよ。- 35歳でバー開業/LGBT課題に取り組む団体で理事/49歳でシンガーデビュー
- Next >
リリース情報
関連リンク
35歳でバー開業/LGBT課題に取り組む団体で理事/49歳でシンガーデビュー
--翌年、35歳の時にご自身でバーを開業し、今では3店舗を経営されているそうですね。
黒田美呼:大阪は先日閉店しまして、今は東京と名古屋の2店舗ですね(苦笑)。今も、毎日苦労の連続です(笑)。--ちなみに、4月にメタリカの新譜がリリースされた際にはお店で流していたようですが、ロックバーと化すこともあるんですね(笑)。
黒田美呼:ありますね、お客様からカラオケリクエストされることもありますので。アルバム『72シーズンズ』はしばらくかけていました(笑)。--そのメタリカの新作『72シーズンズ』は原点回帰した内容でしたが、黒田さん的にはどんな感想でしたか?
黒田美呼:感想…こんなん言ったらアレなんですけど、実は(2016年リリースの前作)『ハードワイアード…トゥ・セルフディストラクト』の方があたし的には好みでしたね(笑)。--現在はLGBTの方々の職場環境を整備するNPO法人“WEDA”で理事を務められているそうですね。そこではどういった活動をされているんですか?
黒田美呼:WEDAは、職場環境におけるLGBT課題への取り組みを行う団体なんですが、性的少数派であっても「雇用機会」や「人事評価」が公平に保たれ、正当に職務能力を発揮できる環境を整えていくことを目的に活動しています。活動内容は多岐に渡りますが、現在は主に企業への情報提供と当事者からの相談対応を行なっています。よく企業の方から「具体的に(当事者に対して)どのような点に配慮や対応をすべきでしょうか?」という相談を受けるんですが、企業ごとに異なるシチュエーションを具体例として示し、なるべくわかりやすい形でアドバイスします。それと、一過性の啓発で終わらないよう、社内ルールの適用や就業規則への落とし込みなどを提案したりと、企業が安心してそれを実施できるよう、多くの士業の先生とも連携して協力を行なっているんです。私は仕事柄、毎日異なる当事者の方とお話しをしています。14年前、新宿二丁目に店舗を構え、現在は東京と名古屋の2店舗になるんですが、飲食店という性質上、当事者から本音が出ることも日常茶飯事です。私ほど多数の当事者と接している人間は少ないと思いますね。このような当事者のリアルな声をWEDAにフィードバックして、企業のLGBT配慮対策に役立てていただけるよう協力しています。
--そんな活動もされるなか、2022年9月には当時49歳でシンガーとしてCDデビューされました。デビューに至った経緯を教えてください。
黒田美呼:2020年コロナ禍の真っ只中に、現プロデューサーと知り合ったのがきっかけです。その縁で、(シンガーソングライターの)間々田優さんにあたしの19歳の頃をモチーフにした曲「こんなもんじゃない」を作っていただいて、その曲でシンガーデビューしてみないかとお誘いをいただいたのが更なるきっかけですね。--そのデビューシングル「こんなもんじゃない」への反応はいかがでしたか?
黒田美呼:めっちゃビックリされましたね(笑)。しばらくお会いしていなかったお客様から連絡来たりもしました。--「こんなもんじゃない」リリース後、アーティストとしてはどんな活動をされていたんですか?
黒田美呼:大阪で【PSYCHO CIRCUS】というライブイベントを主催したり、新宿中央公園で開催されたLGBT系のイベントなどで歌ったり…、イベントに呼ばれるようになりましたね。リリース情報
関連リンク
女性・男性両目線の2ndシングルリリース/現在50歳、後悔したのは一度だけ
--そんな前作から1年、2ndシングル「ケダモノ」を9月6日にリリースします。前作では生き様みないなものを歌う明確なメッセージがありましたが、今作はいかがですか?
黒田美呼:実は昨年の11月頃に若い男の子にナンパされて…その際、とあるシーンで急にフレーズが頭に降りてきたんです。その時に実際にあったことと感情で、15分くらいで作ったモチーフが元なんです(笑)。今あたしには片思いの男の人がいるんですけど、この曲のサビみたいな状況になっています(笑)。男性でも、女性でも、LGBTでも、恋愛って人を“ケダモノ”に変えるものだと思うんですよ。そんな曲です。--作詞は黒田さんご自身で手掛けられています。曲があがる前に黒田さんの詞のテーマが先にあったんですか?
黒田美呼:詞やモチーフが先ですね。--前作でサウンドプロデューサーを務めた黒崎ジョン氏が、今作2曲の作曲を手掛けていますね。同氏に依頼された理由はありますか?
黒田美呼:ジョンさんをKing & Princeやベッド・インさんなどへの曲提供などで存じていたのもありますし、作品それぞれに感じる歌謡チックな雰囲気も大好きですし、何よりももの凄くアーティストに向き合ってくれるのがジョンさんでして…。とても大好きなんです。--ブルージーだった前作から一転、今回の表題曲「ケダモノ」はジャジーでおしゃれな楽曲に仕上がっています。曲をもらった時いかがでしたか?
黒田美呼:心が濡れましたね。「こんなもんじゃない」の時もそうだったんですけど、完成された楽曲を聞くと、心が濡れる感覚と、ものすごいプレッシャーを感じるんです。まだシンガーとしては新人ですので(笑)。--「ケダモノ」は女性目線、カップリングの「かくれんぼ」は男性目線の愛の歌ですが、対照的な2曲を通してシングル作品としてのコンセプトみたいなものがあるんですか?
黒田美呼:そうですね、女性目線と男性目線、両方を表現したかったんです。そういうのを歌うのに一番適していると思いますよ(笑)。--カップリングの「かくれんぼ」で伝えたいこと、コンセプトはありますか?
黒田美呼:この曲は、日本の四季を表現する言葉の美しさ、生と死、喜びと哀しみ、それらを表現した歌なんです。あたしは、手塚治虫作品が大好きなんですけど、その世界観をモチーフにしました。--世界を見ると、音楽界でもレディー・ガガやマイリー・サイラスといったLGBT支援を公言する存在があり、昔に比べLGBTの方々への理解が増したような気がします。一方、日本では著名人やアーティストがなかなか個人的な見解や、それこそ自身の性的アイデンティティについて発言しにくい環境だと思います。この辺について、当事者であり表現者である黒田さんはどう感じられていますか?
黒田美呼:先日も、AAAの與真司郎さんが、ゲイであることをカミングアウトされていましたね。とても勇気がいることですし、すごく尊敬しています。でも、どうしても隠して生きていきたい人っていうのもいるんです。そういった方もいるんだっていうのは、理解していただきたいと思いますね。以前、テレビのワイドショーに出演した時に言ったんですけど、我々がLGBTだからといって、特別扱いを求めてるわけではないんですよ。もちろんそういう特別扱いを受けたい方もいるんでしょうけど。特別扱い=差別だと思っています。LGBTだろうが、男性だろうが、女性だろうが、いわれなき差別をうけていい人間なんて一人もいないんですよね。--今の時代、いろんな困難に直面して悩み苦しむ方が多いと思います。50年間、紆余曲折ありながらもポジティブに生きてこられた黒田さんからアドバイス、伝えたいことはありますか?
黒田美呼:うーん…めっちゃ上から目線になってしまいそうなんですけど、あたしって50年間後悔したことって一回しかないんですよ(乗馬をやめたことです)。なので、すごくポジティブな人間に見えるかもですけど、ネガティブになるときもありますよ(笑)。特に恋愛中なんですけどね。あと、一つ伝えたいことがあるとするならば、“You are not the only one”ということですね。これはガンズ・アンド・ローゼズの「November Rain」という曲の歌詞なんですけど、どんな苦境にあっても、どんな哀しみにあっても、ひとりぼっちじゃないんだよっていうのは伝えたいですね。--最後に、Billboard JAPAN読者にメッセージをお願いします。
黒田美呼:はい、Billboard JAPANを読んでいる皆様、初めまして黒田美呼です。この度、2ndシングル「ケダモノ」を発売させていただくことになりました!是非聴いてみてください!そして、あたしのスマホの中には、あと25曲ほどの詞やモチーフがプールしてありますので、今後の活動にも是非ご期待ください!「こんなもんじゃない」、「ケダモノ」を聴いていただき、このインタビューを読んでいただき、黒田美呼ってどんな人間なんだろう??って思っていただけましたら、是非新宿二丁目にお越しください!会いに行ける系五十路ニューハーフシンガーです(笑)。リリース情報
関連リンク
関連商品