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<インタビュー>いきものがかり “新しい姿になる自分を肯定”する新作『うれしくて/ときめき』、そして再確認したJ-POPの魅力
Interview & Text:森朋之
Photo:堀内彩香
2023年、水野良樹、吉岡聖恵で新たなスタートを切った“いきものがかり”から、両A面シングル『うれしくて/ときめき』が届けられた。「うれしくて」(『映画プリキュアオールスターズF』主題歌/サウンドプロデュース:蔦谷好位置)、「ときめき」(プリキュア20周年記念ソング、TVアニメ『キボウノチカラ~オトナプリキュア’23~』オープニングテーマ/サウンドプロデュース:島田昌典)を収めた本作について、水野、吉岡に語ってもらった。
2人体制初のフリーライブ、そして夏フェスへの出演
――今年5月に神奈川県海老名市のビナウォークでフリーライブ【2人体制で“STAR”トしまSHOW!!】を開催。2人体制になって最初のライブでしたが、手ごたえはどうでしたか?
吉岡聖恵:本当に2人だけのライブだったので、新鮮でしたね。始まる前は「本当に人が集まってくれるのかな」と思ってたんですけど、8,000人も集まってくれて。リハーサルのときは「本番で泣いちゃうんじゃないか」って思ってたんですよ。でも、ステージに立って、お客さんの顔を見たら自然と笑顔になれたので、しっかり楽しめていたんだなって。
水野良樹:「2人きりのライブのスタイルを作らないといけないな」と思ってたんですよね。普段はバンドと一緒にステージに立つことが多いんですけど、コアな部分というか、2人で舞台に立っても大丈夫という形を作っておきたいなと。(フリーライブは)基本的に僕の鍵盤と吉岡の歌というスタイルで、全国から集まってくれたファンのみなさんの空気のなかで、しっかり歌を届けられた実感があって。すごくありがたかったし、ホッとしましたね。
――今年は夏フェスにも出演しています。
吉岡:そうなんですよ。最初はJ-WAVEのイベント(【J-WAVE presents INSPIRE TOKYO 2023 ~Best Music & Market~】)だったんですけど、思った以上にウェルカムというか、みなさんに受け入れていただいて。すごく盛り上がってくれて、「いきものがかりを知っててくれる方が多いんだな」って感じましたね。いきものがかりの曲、すごい!って思いました(笑)。
水野:どんな感じになるのかわからなかったんですけど、ステージに立ってみたら、「そうそう、こんな感じだったな」って。自然といきものがかりのモードになるというか、MCの喋り方とかもいろいろ思い出してきて。みなさんが曲を知っていてくれていたのも嬉しかったですね。
新しいスタイルになっていく自分たちを肯定できる曲にしたい
――そして、2人体制になって最初のシングルがリリースされます。『映画プリキュアオールスターズF』主題歌「うれしくて」、プリキュア20周年記念ソング&TVアニメ『キボウノチカラ~オトナプリキュア’23~』オープニングテーマ「ときめき」による両A面シングルですが、先に制作されたのは「ときめき」だとか。
水野:そうですね。『プリキュア』が20周年を迎えて、その記念ソングを作ってほしいというありがたいお話をいただいて。それが去年の初夏くらいかな。初期の『プリキュア』を見ていた方々は20~30代になってきて。それぞれの人生を生きていくなかで、「もう一度プリキュアに励まされる、今の自分を認められるということをテーマにしたい」というお話があったんですね。それは自分たちにもリンクできるのかなと。僕らもグループとしての形が変わって、独立したり、いろいろと環境が変化してきて。以前よりもさらに“吉岡が歌う”ということを意識するようになったし、新しいスタイルになっていく自分たちを肯定できる曲にしたいという気持ちもありました。
吉岡:そう、自分のこととしても歌えるんですよね。もちろん『プリキュア』の20周年のために制作した曲なんですが、自分自身に重ねられるところもすごくあって。私のことでいうと、この曲のレコーディングはちょうど出産に向かっていく時期だったんですね。そのことも含めて、今リーダー(水野)が言ったように自分を肯定できる感じがあったし、それは声色にもすごく出てるんじゃないかなと。どんな状況の人にも響いて、ポジティブになれる曲なので、しっかり気持ちを込めて歌いました。
――特に冒頭の2行〈世界はいまきらめくよ/わたしがそう決めたから〉の自己肯定感はすごいなと。
水野:ありがとうございます。SNSが発展して、いろんな人の声によって自分の価値観が決まっちゃうことも多いと思うんですよ。「みんながいいと言ってるから」とか「他の人も責めてるからOK」とか。自分自身で価値を決める、自分の人生の物語を書いていくということが、実はやりづらい世の中じゃないかなと。今の世界にはいろいろと大変なこともあるけど、この曲については“私がいいと思ってるんだから、それでいい”ということを書きたくて。
――今の社会の雰囲気も反映されている?
水野:堅苦しく言うとそうなんですけどね(笑)。『プリキュア』のことでいうと、女の子が主人公のアニメ作品で、戦闘シーンがあるものって当時はあまりなかったらしいんですよ。そういうパワフルな躍動感を表現したいという気持ちもあったんですよね。
――サウンドにも躍動感があって。サウンドプロデュースは島田昌典さんです。
水野:キラキラした感じとパワー感の両方を出したかったんですよね。島田さんはすべてを几帳面に作るというより、しっかり構築しつつ、バンド感も大事にしている方で。この曲をお任せできるのは島田さんだなって思ったんですよね。
壮大な一曲「うれしくて」に込めた“お互いを認める”というメッセージ
――なるほど。「うれしくて」のサウンドプロデュースは蔦谷好位置さん。この曲のオーケストレーションはすごいですね。
水野:そうなんですよ。蔦谷さんからデモ音源が届いたときに、レコーディングの費用が気になっちゃいました(笑)。
吉岡:(笑)。参加してくれたミュージシャンは、今までいちばん多いかも。60名くらいだよね?
水野:うん。曲を作ったときから壮大さを目指していたというか。ジョン・ウィリアムズが作曲した【ロサンゼルス・オリンピック】のファンファーレみたいなサウンドをイメージしていたんです。『プリキュア』のキャラクターが大勢登場する映画なので、みんなの声が重なっていくようなパートも欲しくて。
吉岡:いちばん最初のデモ音源はリーダー(水野)のピアノと歌だけだったんですけど、その時点ですごく伝わるものがあって、「いい曲だな」って思って。最後のほうはかなり声を張って歌ってるんですけど、こういうメロディも今までなかった気がしますね。歌詞に関しては、“お互いを認める”というところがすごくあって。わかり得ないことも大事にしたうえで認め合うというのかな。明るい曲ではあるんですけど、繊細なところもしっかりあるんですよね。
水野:曲の制作にあたって、映画のシナリオを読ませていただいて。そこから大事な部分を抽出して(歌詞に反映させる)という感じでした。吉岡が言った通り“お互いを認める”ということなんですけど、簡単なことではないと思っていて。それぞれの正義があって、誰かに頼るにも勇気が必要だよねということを楽しく、やわらかく呼びかけるように伝えられないかなと。
――〈“わかりあえないこと“を大事にして/ひとつにならないでいい〉というフレーズも印象的でした。
水野:単純に“みんなでひとつになろう”ということではなくて。みんなバラバラでいいし、そのなかで結びつきながら何かの問題や状況に立ち向かっていくというのかな。『プリキュア』の物語から離れたところでも、そういうことを感じてもらえる曲にしたかったんですよね。
――大きい曲ですよね。尺も6分を超えていて。
水野:長くなっちゃうんですよね(笑)。サビはじまりで、Aメロ、Bメロもしっかりあって、転調して、大サビがあって。全部盛りです(笑)。
2人が考える“J-POPの魅力”
――J-POPの特徴がしっかり出ている曲だと思います。お2人にとって、J-POPの面白さ、魅力とは?
水野:たぶん情報量が過剰なんですよね。Aメロ、Bメロ、サビという構成がしっかりある曲が多いし、コード進行や展開を含めて、“定型感のある複雑さ”がひとつの特徴じゃないかなと。それはたぶん、リズムを基調としていないからなんですよね。あとは“メロディ史上主義”なところもあって。歌が中心にあるというか。はっきりと母音が聴こえて、とにかくメロディが伝えるように心がけるというのは、吉岡がずっとやってきたことでもありますね。
吉岡:そうだね。
水野:リズムを基調としていなくて、とにかく歌が大事というのが、海外の方にとってはユニークに感じるんじゃないかな。しかもJ-POPは、海外から輸入したものをローカライズしてるんですよ。外から入ってきたものを組み合わせて、独自に発展させたというか。日本文化の面白さですよね。
――確かに、日本の文化の在り方そのものかも。
吉岡:そういう音楽を信じて、ずっとやり続けているのがいきものがかりだと思うんですよね。私もJ-POPばかり聴いてきたし、そのなかで育っていて。なので海外の方からどう思われているのか、逆に興味があります(笑)。「ユニークだな」と思ってもらえるなら嬉しいです。
――いきものがかりの「ブルーバード」(TVアニメ『NARUTO -ナルト- 疾風伝』オープニング・テーマ)は海外のリスナーに聴かれている楽曲のひとつです。
水野:「海外で聴いた」という話もよく耳に入ってくるんですよ。ウィーンに旅行した知り合いが「喫茶店で『ブルーバード』が流れてたよ」と教えてくれたことがあって。海外のミュージシャンがカバーしてくれてたり、中国のオーディション番組で女の子が歌ってくれて、みんなが盛り上がってたり。
吉岡:学生時代の後輩が中南米にいて。「ブルーバード」を聴いてたら、現地の学生が「知ってる」って言ってたよってメールをくれたり。インスタのフォロワーも、海外の方がけっこう多いんですよ。
水野:うん。海外のDJの方から「『ブルーバード』をミックスしていいか」とDMが来て、担当の連絡先を教えたこともありました(笑)。一昨年、bilibili(中国の動画配信サービス)主催のイベント(【Bilibili Macro Link 2021】)に参加させてもらったときも、「ブルーバード」に対する反応が大きくて。海外からのライブのオファーも増えてるんですよ。
――海外のリスナーにもっと届けたいという気持ちも?
水野:もちろん届いてほしいです。ずっと前から言っているんですけど、J-POPがJ-POPのまんまで出ていけたらいいなと思っていて。
――日本語の歌詞や楽曲の構成を含めて、“そのまま”聴いてもらうのがベストだと。
水野:そうですね。そのほうが勝てると思うので。
吉岡:海外の方に聴いてもらえること自体、すごく嬉しいですからね。デビューしたとき、まさか海外の人たちに届けられるなんて思ってなかったので。ビックリです(笑)。
――今は新作に向けた制作中だとか。
水野:はい。フェスにも出つつ、レコーディングもやってます。過去に作った曲を掘り起こすこともやってるんですが、5月のフリーライブ以降に作った新しい曲もあって。アレンジャーの方、ミュージシャンの方を含めて、ありがたいことに新しい出会いも結構あるんですよ。この数年間、吉岡はソロ活動をしていたし、僕もいろいろな仕事をさせてもらって。そのなかで出会った人たちにいきものがかりの制作に参加してもらうこともあるし、かなり新鮮な感じですね。
吉岡:そうだね。これまで通りのやり方を繰り返しているというより、新しいトライを続けているというか。ぜひ楽しみにしていてほしいです。
うれしくて/ときめき
2023/09/13 RELEASE
ESCL-5852 ¥ 1,320(税込)
Disc01
- 01.うれしくて
- 02.ときめき
- 03.うれしくて -instrumental-
- 04.ときめき -instrumental-
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