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<インタビュー>マカロニえんぴつ、メジャー2ndアルバム『大人の涙』に表れた自信
マカロニえんぴつが、メジャー2ndアルバム『大人の涙』を8月30日にリリースした。
“大人になった瞬間のような曲たち”が集まったという今作には、ドラマ『100万回 言えばよかった』主題歌「リンジュー・ラヴ」、TVアニメ『サマータイムレンダ』1stオープニング・テーマ「星が泳ぐ」などの既発曲に加え、アルバム初収録の「嵐の番い鳥」「Frozen My Love」「ありあまる日々」など、全13曲が収録されている。
メジャー1stアルバム『ハッピーエンドへの期待は』から約1年半。アリーナライブや大型フェスへの出演を経て、改めてプリミティブなモードに回帰したという本作について、メンバー4人に話を訊いた。バンドの近況から、それに伴う音作りとソングライティングの変化、『STAR WARS』熱が再燃したはっとりが辿り着いたひとつの人生観など、『大人の涙』のクリエイティブの欠片がそこかしこに散らばるインタビューとなった。(Interview:天野史彬/Photo:堀内彩香)
メンバー:はっとり(Vo./Gt.)/高野 賢也(Ba./Cho.)/田辺 由明(Gt./Cho.)/長谷川 大喜(Key./Cho.)
自信がついたことで表れた変化
――新作『大人の涙』は、今のマカロニえんぴつが非常に充実した状態にあること、そして、メンバーであるみなさんがそんなマカロニえんぴつに誇りを持っていることが伝わってくる、非常に清々しいアルバムだと思いました。まず“大人の涙”という言葉は「だれもわるくない」に出てくるフレーズでもありますが、何故、この言葉をタイトルにしたのでしょうか?
はっとり:いつも誰かにお願いしたいと思うくらいアルバムのタイトルを付けるのが苦手なんですけど、今回は「だれもわるくない」の歌詞を書いている段階から、この言葉に肩入れしていたんですよね。子供のうちは自分のためにしか泣かないけど、人の痛みに共鳴して泣いた瞬間に、人は大人になるような気がして。大人になった瞬間のような曲たちが詰まったアルバムになったと思うんです、今回は。
――前作『ハッピーエンドへの期待は』からの約1年半で、そうした“大人になった瞬間のような曲たち”が集まったのは、何故なのだと思いますか?
はっとり:バンドが進めば進むほど、「純粋になりたい」と思うことが増えました。感受性の部分でも、経験を積むことで感動が鈍くなってしまうことに不安があって。歳をとることが、感動から逃げることに繋がるのだとしたら、それは悲しいなと思うんです。毎年ツアーをやって、レコーディングをやって、それを「これがロックバンドの仕事だからね~」なんて言いながらやっていたくないんですよ。もっと感動に敏感になりたいし、もっと人の痛みに敏感になりたいと思うことが増えた。だからかなと思います。
――この約1年半の間に『たましいの居場所』と『wheel of life』という2作のEPを出されていますが、その2作を通じて、バンドがプリミティブなモードに回帰している印象も受けました。田辺さん、長谷川さん、高野さんは、この1年半で自分自身が変化したと感じる部分、その中でも特に、『大人の涙』に反映されたと感じる部分を挙げるとすれば、どんなポイントが浮かびますか?
田辺:『ハッピーエンド~』以降で言うと、初めて日本武道館を経験したり、大阪城ホールに出たり、初めて【FUJI ROCK FESTIVAL】に出たり、去年はいっぱいライブをやったんですよね。ミュージシャンとして憧れだったステージを経験して、そういう中で作ったのが『たましいの居場所』や『wheel of life』であり、今回のアルバムで。そういう意味で達成感はあるし、やっぱりライブをいっぱいやることで、自信がつきました。人数制限もなくなったじゃないですか。たくさんのお客さんに応援してもらうと、やっぱり、自信がつくものなんだなと思います。説得力も出せるようになったのかな?
はっとり:なってるよ。弾き姿も堂々としてきたもん。
――先日、ZeppDiver Cityでのライブを拝見しましたけど、1曲目「PRAY.」の1音目から説得力が凄まじかったです。本当に、鳥肌が立つような音でした。
はっとり:ホントですか、嬉しい。機材がよくなったのもあるし、今までPAの人ともしっかりとコミュニケーション取れていない部分もあったんです。そういう面で、「伝えなきゃ伝わらない」ということは、ここ最近のツアーで勉強になりましたね。「長くやっていればわかってくれる」と思っちゃいけなくて、「こういう音を出したいんだ」ということを頑張って言語化して伝えると、長年一緒にやっているPAの人に「そういうことだったのか」と言ってもらえたりして。
――ちょっと脱線しますけど、マカロニえんぴつはどんな音をライブにおいて目指していると言えますか?
はっとり:基本、「綺麗にしたくない」ということですかね。綺麗と汚いにも細かいニュアンスがあるんですけど、いぶし銀な感じにはしたいんですよ。骨太な感じ。
田辺:ポップスバンドではなくて、あくまでもロックバンドの音像でいたい、というかね。
はっとり:要は、諸先輩っぽい音(笑)。ユニコーンであり、ウルフルズであり、そういう先輩たちの音を間近で聴いて、「こっちこっち、これを頑張って出したい!」と思ったんだよなぁ。
――なるほど。長谷川さんは、この1年半の変化に関してはどうですか?
長谷川:今までは、アレンジの面で「これでいいのかな?」と思いながら自分の案を出すことが多かったんですけど、やっぱり対バンやフェスを経験してきたからか、今回の『大人の涙』では、自分の中で「これがやりたい」というものが芽生えました。11年目にして、ついに(笑)。
はっとり:素晴らしいね。
長谷川:自分が考えることに、自信がついたのかな。「これでいかせてもらおうかな」みたいに思えるようになった。そういう意識の変化が自分の中であって。前までは、自分はあまりフレーズを考えることが得意じゃないと思っていたんです。でも、たとえば「リンジュー・ラヴ」の途中のストリングスアレンジも考えさせてもらったんですけど、こういう部分って、今までだったらはっとりくんが考えていたんですよ。それをそのまま弾いていたんだけど、今回は僕が考えさせてもらって。それで作ったフレーズをみんなに聴かせたら「『暴れん坊将軍』みたいだ」って言われて(笑)。
一同:(笑)。
はっとり:その時の音色もあったと思うよ(笑)。やっぱり、ロックに必要なのは“トンマ”だと思うので。大ちゃんにそのつもりはなかったと思うけど(笑)、トンマだったよ。それがカッコよかった。それで、「合格!」って。
長谷川:あれから僕の中の何かが吹っ切れて、フレーズを考えるのが、むしろ好きになった。「PRAY.」のイントロを考えるのも楽しかったし、「嵐の番い鳥」のイントロも考えさせてもらって。
はっとり:俺のいちゃもんが減ったよね。だって、いいんだもん、そのままで。
――高野さんはどうですか?
高野:ベースとドラムって最初に録るので、録り終わるとやることがなくなるというか、今までは、「できることがないな」と勝手に決めつけていたんです。リズムを取り終わると、レコーディングを2、3歩引いたところで見ている感じになっちゃっていたんですけど、今回は、この4人全員とエンジニアの池内(亮)さんとかきんちゃんも含めて、ひとつの楽器のアレンジに対してかける熱量が上がった感じがしていて。
はっとり:最近、ミックスを4人でやるようになったしね。それまではずっと俺ひとりでやっていたから。
高野:そうそう。みんなでひとつの楽器をじっくりと聴きながらレコーディングするから、ミックスでの理解度も高まったし、ミックスの作業速度も早まっていて。そういう部分でも、今回のアルバムは前回のアルバムとは違うものになっていると思いますね。
――ミックスを全員でやることにしたのは、どういった経緯があったんですか?
はっとり:俺とエンジニアの1対1でやるのはつまらないなと思っちゃって。それに、「この時、あのアンプ使ったなぁ」とか「この音、出すのに苦労したな」とか、ひとりで思い出に耽りながらミックスするのは勿体ないなと思っていたんです。最後の作業くらい、みんなで共有できた方がいいだろうなと思ったし、あと単純に、ひとりでやるのはしんどい(笑)。俺がミックスやっている時、「あいつら、今頃寝てんだろうな」と思うと、ムカついてきちゃって。
高野・田辺・長谷川:(笑)。
はっとり:それで、ある時から「4人でミックスやろうよ」って。自然とシフトしていきましたね。実際、楽になりました。自分にかかる負荷が減ったから。
みんな自分の居場所があるうえで、淋しがっている
――4人全員が一丸となって作った作品であることは、音を聴いても伝わってきます。それゆえに、と言いますか、はっとりさんのパーソナルな部分というのも、『ハッピーエンド~』以上に色濃く浮かび上がっているアルバムのような気がしたんですけど、そう言われると、ご自身的にはどうでしょうか。
はっとり:まぁ確かに、メンバーに任せる部分が増えたので、心置きなく、自分のパーソナルを注ぎ込める、という部分はあったかもしれないですね。それに、単純に「自分とは?」ということを見つめる機会が増えた気もします。コロナで余計なことを考える時期があって、そこから希望が見えてきて、また以前のように世間が騒がしく動き始めて。有事の時には目立っていた自分だけど、みんながそれぞれのことで手いっぱいになったら、自分だけが置いていかれるような、そんな寂しさもなくはなかったから。動かないと、いないことになっちゃう……この気持ちって、コロナ以前の自分が感じていたものと似ているんですよ。メジャーデビューする前の感じ。当時は、「素通り素通り」ってずっと言っていたんですけどね。「素通りされている」って。「いること」を訴えかけないと。いないことになっちゃうのが、淋しいし、怖いし。
――はっとりさんは、もうそこにはいないのではないですか?
はっとり:もちろん、僕はもうそこを1回あがっているんです。「お前、もうそれはないよ」と言われるんですよ、絶対。たしかに、ない。ないんだけど、あがったなりの不安はあるっていう。だから……このアルバムは、自分を見つめる歌が多いですね。淋しい人間の歌が多いです。
――なるほど。
はっとり:淋しいんだけど、淋しぶっているわけでもない。本当は幸せな人間なんですよ、歌の中の人たちはみんな。みんな自分の居場所があるんです。あるうえで、淋しがっている。以前は「淋しぶっている」キャラクターがいたこともありましたよ。淋しいことに酔っているというかね。それか、本当に居場所がない人の歌。そういう歌が多かったんです。でも今回は、「居場所があるのに、何故そんなに淋しいの?」っていう。それでも、俺は「この人たちの気持ち、わかるなぁ」という感じがするんですよね。愛着があるし、救いようがなくはない。むしろ、救えそうな感じがする。少なくとも、昔よりも、圧倒的に歌詞の筆は進みやすくなりました。
――1曲目「悲しみはバスに乗って」は、初っ端から新たな名曲の誕生という感じがしました。昔からマカロニえんぴつを追いかけている人が聴いても、あるいは、「なんでもないよ、」などのヒットを通してマカロニえんぴつを知った人が聴いても、全員を納得させることができるような名曲だなと。絶対に聴く人の心を掴む、という気概のある1曲目だなと思いました。
はっとり:「悲しみはバスに乗って」に着手したのは制作の終わりの方で、「愛の波」をリリースした直後なんです。「よし、じゃあアルバムのリード曲もう1曲行ってみよう!」って(スタッフに)言われたんですよね。「自信ないです」って言っちゃって、すげえ空気悪くなっちゃって。
一同:(笑)。
はっとり:空気悪くするの好きだからいいんですけどね。……でもまぁ、自分がいじけているだけだと気づき、自分が社会人であることにも気づき(笑)、「やらなきゃいけない時がある」と。それで、クリエイティブ雑巾のまだ絞り切っていなかった部分をギュギュっと絞ったら垂れてきた一粒が、この曲です。ちょうどこの頃、立て続けに曲を録っていた時期で、満身創痍で作ったから、上手く脱力できた気もするんですよね。
――疲れていた分、余計なことを考えずに済んだというか。
はっとり:結果的に、超良い曲になりましたね。俺は特に出だしが好きなんです。出だしからサビまでが超好き。実はテンポが不定期に、はやる気持ちを表現するように、ちょっとずつ上がっているんですよ。サビまでの間に、BPMが5くらい上がっている。不思議な感じのAメロなんです。普通、何小節って区切って考えるけど、歌ってみてまとめたら微妙な小節数になったし、展開やコード進行も、キリは別によくない。後からアレンジで整えてはいるけど。でも、「この不思議さやキリの悪さって、会話と一緒じゃん」と思って。台本通りに喋っていない会話。表現者って本当はそういうものを作りたいんですよ。
――整理される前のリアルなものですよね。
はっとり:でも、やっぱり売り物を作るとなると、どうしてもキリがいいものをこっちも求めちゃうんですよね。「作らなきゃ」って思っちゃう。でも、この曲はそこを1回フラットにできた気がする。素敵な歌詞もかけたしね。語りかけるような歌詞を書けたと思う。
――語りかけるような歌詞というのは、何故そういうものを書こうとしたんだと思いますか?
はっとり:何故というか、気持ちとしては、「久々に『ヤングアダルト』を書こう」というところがあって。それが最近、自分の中でできていないことだったし、みんなも「ヤングアダルト」を待っている気がしたから。今の俺が書く「ヤングアダルト」は、もしかしたら、こういう形だったっていうことなのかもしれない。
――強いて言うならば、「ヤングアダルト」と「悲しみはバスに乗って」に通じるものって、はっとりさんの中ではどのようなものなんだと思いますか?
はっとり:……孤独が一番注目を浴びている感じかなぁ。光が当たっていない影の場所にいる人間、そこに生えている雑草。そういうものに、スポットライトが当たっている感じ。でもね、これはマカロニえんぴつのどの曲にも言えるんですよね。
――たしかに、そうですね。
はっとり:言えるからこそ、説明するのが難しいですね。しかも、まだ「悲しみはバスに乗って」は、リリースされる前だから。曲って、リリースして、ツアーを回って、1年ぐらいしてようやく帰ってくるんですよ。「こんな曲だったんだ」って。曲って、受け手が育ててくれるんですよ、マジで。だから、まだこの曲のことを自分でもちゃんとわかっていない気もしている。でも、それが自然な気がします。
「笑い」の要素を含む楽曲を入れたい理由
――わかりました。あとたとえば「嵐の番い鳥」は……衝撃的な昭和歌謡風デュエットソングで、何より単純に、最後が長いなと思いました(笑)。
一同:(笑)。
はっとり:「長っ」と思ってもらえるところまで延ばしたし、「長すぎる」と思われないギリギリのところでやめました(笑)。
――マカロニえんぴつの作品において、こうした「笑い」の要素を含む楽曲が必要不可欠なのは、何故なんですか?
はっとり:何故なのか(笑)。
長谷川:寄り道なしで訊かれた(笑)。
田辺:でも、アルバムってこういうものだなって思うよね。
はっとり:最初についていった親鳥がユニコーンだったから(笑)。あれが正義だと思ったからね。バンドをやりたいと思ったのも、こういうことがしたいと思ったからだし。でも「おふざけ」という一言では済まされないんですよ。ユニコーンにしても、あれは芸術ですから。もっとこういう曲やりたいんですよ、本当は。真面目な曲と変な曲、半々くらいがいい(笑)。
――今作は、田辺さん作曲の「ペパーミント」が爽やかなフォークロックであったり、「ネクタリン」のようなダンスポップがあったり、高野さん作曲の「だれもわるくない」がEDMだったりと、様々な音楽的アイディアを1曲ごとに、軽やかに乗りこなしている印象がありますね。
はっとり:確かに、前は1曲の中で色を変えることに凝っていましたからね。でも今は、1曲ずつでどんな曲にしようか、ということを考えていて。普通、みんなそっちを最初にやるんですよ。僕らは最近それをやり始めたんですよ(笑)。
田辺:順番が逆なんだよね(笑)。
――ちなみに、「ペパーミント」の歌詞に出てくる「その日の天使」というフレーズは、中島らもさんのエッセイからですか。
はっとり:そうです、そうです。らもさん、大好きで。あの人の生前の言葉をよく聞いたりするんですよ。落ち着く声だし。あの人は、破天荒なんだけど、もの凄く整然と物事を見つめていた人だと思うんですよね。「その日の天使」っていうのは、「どんな人にでも、1日にひとりは天使がいるんだ」っていうことで。ふとした時に感じる幸せというか。それが凄くよくて、拝借しました。らもさんを読んでいた時は、凄く価値観を影響されましたね。
『大人の涙』へと繋がる「全部借り物でいいんじゃないか」という気持ち
――他に何かしら、はっとりさんが今作を作るうえで影響を受けたものや体験を挙げるとすると、どのようなものがありますか?
はっとり:他だと、戦争のドキュメントを見たりとかかなぁ。どういう流れで第一次世界大戦がはじまって、それが第二次世界大戦に繋がっていって……とか。やっぱり、リアルタイムで国同士の大きな戦争が起こっているとなると、今を単純に憂うだけじゃなくて、「何故こうなったのか?」って、歴史を紐解くことで見えるものもあるから。そういうものを調べたり見たりもするんですけど、そうすると、ほんの100年前や80年前とかに、こんなことが普通にあったんだなと思って。そういうことに気づくと、感受性の部分で、そっちのほうに気持ちが沈んでいくんだけど、そういうドキュメント映像をひたすら見ていた時期が去年あって。そんな中で「TIME.」ができたり。そう思うと、ちゃんとその時々の自分の気持ちにフォーカスしている曲が多いですね。タイアップ曲にしても、それをちゃんとやれているなと思う。
――戦争は、やはり大きかったですか。
はっとり:やっぱり、衝撃でしたからね、実際に戦争が始まった時は。今は同時進行で現場の映像が見れちゃうし。あれ、全部命令でやっているんだって思うと……ねぇ? やっぱり、権力や力を持つと、人は勘違いしちゃうんだろうなと思う。「自分より下の人間を作っていい」とか、「敵には何をしてもいい」とか、思っちゃうんだろうなって。……そんなことを考えていると、最近『STAR WARS』熱が再燃したりして(笑)。
――(笑)。元々、お好きだったんですか?
はっとり:大好きだったんですよ。小さい頃から大好きで。毎週、レンタルのVHSを返しては借りてを繰り返してエピソード4、5、6をループしていたんです(笑)。大人になってから改めて見ると、ヨーダの言葉が熱いんですよね。「戦いで人は偉くならない」みたいな名言をサラッとはくんですよ。それって、要は監督のジョージ・ルーカスの信念ということじゃないですか。
――キャラクターは創作者の分身という側面がありますもんね。
はっとり:ジョージ・ルーカスの思っていることが素晴らしいなと思って。あと、『STAR WARS』にはフォースってあるじゃないですか。あれ、知らないやつは魔法みたいなものだと思うかもしれないけど、違いますからね。フォースって、その人の中にある、一番ゆるぎない中立な場所に発生するパワーのことなんですよ。まぁ要は、魔法みたいなものなんだけど(笑)。
一同:(笑)。
はっとり:悪でも善でもない、真ん中にあるものなんですよ、フォースって。でも、エゴが生まれること……それは奪われたくないものが増えたりすることもそうなんだけど、そうすると段々と、人は悪の道に行ってしまうんですよね。それはきっと、戦争の話も一緒で。土地を奪われたくないとか、お金を奪われたくないとか、頑なになって、それを死に物狂いで抱え込もうとすると、段々と悪の道に進んでしまう。それなら俺は、生きている間のすべては、全部借り物でいいんじゃないかと思った。この人生だって誰かに借りているんだと思えたら、モノにこだわらないし、金にこだわらないし、人種にこだわらないし、見た目にだってこだわらないし。ちょっと話が大袈裟になっちゃったけど、自分の心が動くものって、子供のころから変わっていないんだなと思って。子供の頃に『STAR WARS』が好きだったのって、きっとフォースとか、ああいう思想に惹かれたのかもしれないなって。
――「全部借り物でいいんじゃないか」という気持ちとか、『STAR WARS』のフォースに惹かれる感覚とか、そういう部分って、この『大人の涙』というアルバムに描かれる人の姿やアルバムのムードにも、どこかしらでリンクしたりするものはあると思いますか?
はっとり:うん、どの曲も飄々としているなと思いますからね。暑苦しい度合いがこれまでよりも減って、どの曲も、そつなくそこにいる感じがするんですよね。それが、今の俺にはちょうどいいなと思えますね。恩着せがましくもないし、説教臭くもない。人生って小さい絶望の連続だけど、「でも、そんなもんだよ、人生なんて所詮は」というくらいの生き方をしている人たちが、このアルバムにはいるなと思う。
――それは、何かを諦めている感じとも違いますよね、きっと。
はっとり:そうですね、どちらかというと、言い聞かせている感じですかね。
――そういう詩情が出ている面も含めて、素晴らしいアルバムだと思いました。マカロニえんぴつとして、新しい発想もたくさん出ているとも思いますし。
はっとり:できない方が、難しい方が、楽しいんですよ、何事も。新しいものを自分たちに課すことによって、誰に強制されるわけでもなく、勝手にヒーヒー言っているんですけど(笑)、それがいいんですよ。できた時、達成感があるし。作る時に「これをやればリスナーが喜ぶかな?」って発想ではやらないです。「俺らが楽しいことをやろう」っていう、それだけ。どのバンドもそうなのかなと思いますけどね。「どんなのが聴きたいですか?」って求められるものをアンケートしてから作るとか、そういう順序って美しくないと思うんですよ。「これを食ってほしい!」っていう、押し付け。そういう発想でいいと思う。モノを作るってそういうことですよね。
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