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<インタビュー>EXILE TAKAHIRO、自分の歌を見つける“探検”――久々のニューアルバム『EXPLORE』を語る
Interview & Text:高橋梓
Photo:Yuma Totsuka
EXILE TAKAHIROが、9月6日にニューアルバム『EXPLORE』をリリースする。同作は、ミニアルバム『All-The-Time Memories』から約6年ぶり、フルアルバム『the VISIONALUX』からは約8年ぶりのリリースとなり、2018年からのソロワークを収録したオリジナル楽曲盤とEXILE RESPECT盤のCD2枚組という豪華な内容。そこで、ソロ活動10周年のタイミングでリリースされる同作に込められた思い、そして自身の“歌”について、本人に話を聞いてみた。
久々のソロアルバム
――『EXPLORE』は、前作から間が空いてのリリースとなります。このタイミングでリリースすることになった経緯を教えてください。
TAKAHIRO:6年前にミニアルバムをリリースして以降もソロ活動をやらせていただいていたので、「アルバムをまた作りたいな」というざっくりとしたイメージはあったんです。でも、コロナ禍になって大変な時代になってしまったり、新しいEXILEの形を見せていかなければならない時期があったりして、具体的に話が進んでいたわけではありませんでした。僕はこれまでソロ活動をするうえで、EXILEの活動を最優先にしてきました。「ソロ活動があるので、この時期はEXILEの活動ができません」ということにだけは絶対にならないように気をつけていて。そうやってEXILEに集中していたらあっという間に月日が過ぎてしまって、気づけばソロ活動10周年を迎えていました。実は僕、今年がソロ活動10周年だと全く気づいていなくて。スタッフさんに言われて知ったくらいです。
――お忙しかったから、失念していたのかもしれませんね。
TAKAHIRO:そうなのかもしれません。漠然とイメージしていたアルバムを作りましょうという話になって、少しずつスタッフの皆さんとイメージを固めていく中で曲数が揃ってきて。今年の4月から、初のソロツアー【EXILE TAKAHIRO LIVE TOUR "TAKAHIRO 道の駅 2023" ~Road to EXPLORE~】をやらせていただくことになっていたので、それが終わって一段落した9月6日にリリースするのが、ファンの皆さんがいちばん喜んでくださるのかなと考えて今に至ります。
――アルバムのタイトル『EXPLORE』は「探検」という意味ですが、どんな意図があるのでしょうか。
TAKAHIRO:今回収録される未発表曲「EXPLORE」からのインスパイアが大きいかもしれません。「EXPLORE」は2年半くらい前にできあがっていた楽曲なんですが、改めて聞いているうちにアルバムリリースにまつわる流れのアイデアや、「物語っぽくしたい」という考えが浮かんできたんです。それでツアー名もちょっとした匂わせで「~Road to EXPLORE~」とサブタイトルとして掲げて、その中でアルバムリリースを発表して。そして9月21日におこなう“夢”の武道館ライブ【EXILE TAKAHIRO 武道館 LIVE 2023 "EXPLORE"】も見据えていました。そうした点と点が、線になったらいいなと思いましたし、それが「探検」になるのかなと。年単位のスケジュールが自分の中でアイデアとして浮かんできたので、「EXPLORE」を早い時期に作り終えていて本当によかったなと思います。
――その楽曲「EXPLORE」は、TAKAHIROさんが作詞作曲を手掛けられています。
TAKAHIRO:はい。この曲はコロナ禍に入って少し経った頃に、すごく虚しさや、もどかしさを感じて作った曲です。コロナ禍では、今までの当たり前がなくなってしまいましたよね。人と会うこともできない、会話もできない、ご飯も食べに行けない、お酒を飲み交わすことなんてもっとできない。
――おっしゃる通りです。
TAKAHIRO:「僕らアーティストは皆さんの生活に直接的に関わる存在ではない。なんて無力なんだ」と思ったら、本当に虚しくなってきてしまって。でもそんな中でどうやってモチベーションを保って過ごしていこうかと考えた時に、いつかやってくる明るい未来を想像するしかないと思ったんです。それは勝手に向こうから来てくれるわけではない。自分たちが何かを変えて、作り上げていかなければ今までのような時代は戻ってこない、と。そう思うようになった時に、自分を律するためというか、気合いを入れ直すために作ったのが「EXPLORE」でした。
――なるほど。だからこの曲からはエネルギーを感じるんですね。
TAKAHIRO:苦しくて、虚しくて、歯がゆくて、もどかしい今だからこそ、そのエネルギーを前向きなものに変えなきゃという気持ちで作ったので、それが伝わると嬉しいです。制作過程の話でいうと、まずいつもステージでギターを弾いてもらっている木島(靖夫)さんと連絡を取って、「振り切った曲が作りたいです」とお伝えしました。実は、結構前に「EXPLORE」のギターリフの部分のデモを木島さんからもらっていたので、「制作に取り掛かります」と伝えてメロと歌詞を作り始めて。それをブラッシュアップしながら構成を練っていった形です。コロナ禍だったからこそ、しっかりと集中して、時間を取って作れた部分はありますね。あらかた出来上がった時に、もうひとつ刺激が欲しいと思い、ACE OF SPADESの(宮上)元克さんが叩いてくださったらかっこよくなるぞ、と。ダメ元で聞いてみようと連絡をしたら二つ返事でOKをいただけました。イントロがドラムから始まっているのも、元克さんが叩いてくださるからこそ思いついたアイデアなんです。ミュージシャンありきで作り上げられた楽曲と言っても過言ではないです。
――最初に拝聴した時、TAKAHIROさんの趣味が反映された曲だなぁと感じたのですが、そこにリスペクトするミュージシャンの方も加わってこの形になった、と。
TAKAHIRO:そうです、僕の趣味まんまです(笑)。僕の好きなものをミュージシャンの方に頼って具現化してもらいました。
――「Happy Birthday」もロックテイストで、作詞をTAKAHIROさん、作曲は木島さんと共作されていますね。
TAKAHIRO:この曲も、昔から木島さんと一緒に温めていた楽曲です。最初のサックスのリフなんかは僕がボイスメモで歌って録って、木島さんに「このメロにしたい」と相談していて。なので、最初はサックスじゃなくてエレキだったんです。それで一回出来上がって、ソロツアーで初披露したんです。その時のサックスの入ったアレンジが理想的すぎて、音源を聴いた時に寂しくなっちゃって。音源にもどうしてもサックスの音を入れたくて、ステージでも吹いてくれている庵原(良司)さんにお願いしました。
――ライブからの逆輸入!
TAKAHIRO:そうです(笑)。作詞としては、やっぱりコロナ禍の影響がありましたね。あの頃は誕生日も集まって祝っていられない状態でしたよね。年に一度しかない誕生日を祝えないって、大人ならまだしも、子どもの頃の誕生日会ってすごく強い思い出になるじゃないですか。それができないのは寂しいなと。僕のソロ曲で誕生日ソングはなかったですし、年中歌えるハッピーソングを作ってみたいと思って出来上がった楽曲です。
――ファンの方にとっては定番のバースデーソングになりそうです。そして「THIS IS LOVE」は、また雰囲気がガラッと変わりますね。
TAKAHIRO:この曲は、元々僕がバラード好きということもあって選んだ曲です。EXILEにあるようでないバラードですし、どこか80年代を感じる部分もあります。ちょっとレトロな雰囲気が逆に新しいですよね。それでいてメロディはド直球の王道バラード。「これは歌いたい」と思ったんですが、自分で詞を書いてしまったら自分のイメージ通りにしかならない。もう少し深みとロマンのある詩的な歌詞がいいと思ったので、これまでもお世話になっていた小竹(正人)さんに歌詞をお願いしました。
――おなじみの小竹さん。
TAKAHIRO:そう、“おだちゃん”。おだちゃんは作詞をする上で、言葉を紡いでいく中で絶対に“譜割り”と言われる弾数だけは守ると聞いたことがあって。でも、文字数が限られてくると選べる言葉も限られるじゃないですか。なのに「ここはこの言葉にしたいからメロを変えて、譜割りを変えて欲しい」と言ったことが一度もないんです。一度、「縛りがある中でどうやって書いてるんですか?」と聞いたら、「どうにか絞り出してる」って(笑)。僕は、そのポリシーや音楽に寄り添った発想が好きなんです。
――音楽に対するリスペクトを感じますね。
TAKAHIRO:そうなんです。あと、人が書いてくれた歌詞を噛み砕きながら歌うことで、アプローチも新しくなるんです。自分で歌詞を書くと、歌いながら書いてしまうので「ここのピッチ感は母音をこっちにしたい」とか「こっち方が歌いやすいな」とかを考えてしまうんです。そうすると、どうしても偏ってしまう。その偏りは「THIS IS LOVE」では全くありませんし、自分の世界観がさらに広がっていると思います。歌っていても、自分の中に宇宙が広がっているような不思議な感覚で。ライブが楽しみです。
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“僕の代表曲になってくれたらいいなと思う”曲
――そしてもう1曲、未発表曲の「Unconditional」はTAKAHIROさんの“推し曲”とお聞きしています。
TAKAHIRO:この曲は、僕の代表曲になってくれたらいいなと思うくらい気に入っています。デモを聴いた瞬間から「絶対に歌いたい」と言っていた曲で、作家さんにキープしてもらっていました。そして、この曲も自分の世界観を広げたいと思って、別の方に作詞をお願いしようと考えて。より世界観を広げるためにも、今までお願いしたことがなかったSUNNY BOYさんに依頼をしました。SUNNY BOYさんは英語が堪能な方なので、英単語もたくさん入れてオシャレにしつつ、強いメッセージがほしいとお伝えしたんです。
――広く深い愛情のようなものを感じました。
TAKAHIRO:そうなんです。というのも、SUNNY BOYさんもお子さんが生まれたばかりだったこともあって「今まで感じたことのない愛情を描いてみました」と。もう素敵すぎましたね。それにスタジオも一緒に入ってくださって、ボーカルディレクションもしてくれて。期待以上の作品ができました。MVも先日撮影したんですが、言うことなし! 素晴らしい出来だったので、ファンの皆さんにも楽しんでほしいです。
――ボーカルディレクションがあったとのことですが、いつもとは違ったアプローチをされたのでしょうか?
TAKAHIRO:そうですね、新たな発見だらけでした。細かいことを言うと、いつもならビブラートをかけるところも「かけないでいってみましょう」とか。そういったボーカルの積み方、アプローチ、歌の切り際、声の鳴り、全てにおいて「こんな自分もいるんだ」という発見を引っ張り出してもらいました。すごく勉強になりましたね。そういう発見があると、他の曲でも試したくなるんです。ちょうどレコーディングをしたのがソロツアー中だったので、色々試すこともできましたね。これだけ歌手として活動してきても、新しい発見や勉強すべきことがまだまだたくさんあるので、いろいろな方と楽曲を作るのは楽しいなと思って。意固地になって自分で作るとか、気の知れた人とだけ楽曲を作るとかではなく、この先もいろんな出会いをしていく中で、新しい自分とも出会えたらいいなと思いました。
EXILEの楽曲を愛し、届けるための「EXILE RESPECT」
――素晴らしい発見ですね。そして、DISC2はEXILEの楽曲をカバーしている「EXILE RESPECT盤」になっています。今回新たに「Everything」「羽1/2」「Ti Amo」が収録されますが、チョイスした理由を教えてください。
TAKAHIRO:これまで、ボーカリスト人生の半分くらいがスランプだったんです。半分以上かな。10年近く気持ちよく歌えたことがありませんでした。すると、EXILEの楽曲も歌うのが億劫になったり、歌えば歌うほどトラウマになってしまった曲もあったりして。でもそれはすごく悲しいこと。自分たちの楽曲でファンの方は喜んでくれているのに、自分が愛せていないのは失礼だと思ったんです。だからいつか心の底から自信を持って楽しんで歌えて、曲を愛して、それを届けられる領域に必ず行きたいと思うようになりました。そのために始めたのが、「EXILE RESPECT」という企画。新たな世界観のアレンジにして、自分のものにして送り届けようというものです。今回の「Everything」は僕のスタートの曲でもあるので、新しい風を吹き込んで極めたいという思いで選びましたね。ロック調の「Everything」、かなり気に入っています(笑)。
――TAKAHIROさんならではのアレンジに仕上がっていますよね。「羽1/2」はどうでしょうか?
TAKAHIRO:これはEXILEファンだった頃から1位、2位を争うくらいカラオケで歌い込んでいた好きな曲。第一章の頃の楽曲で言うと「ただ...逢いたくて」のような王道バラードだけではなく、“ちょっとだけ隠れた名曲”が特に好きだったんです。そういった楽曲にEXILEの魅力を感じていたんですよね。この「EXILE RESPECT」には、“もう一度好きになりたい曲”と、“単純に好きな曲”が混ざっているんですけど、「羽1/2」は“単純に好きな曲”枠。素人時代から大好きだったので、僭越ながら精一杯カバーさせていただきました。
――残る「Ti Amo」もEXILEの代表曲のひとつです。
TAKAHIRO:これこそ、歌うのがいちばん難しかった楽曲でした。当時は若さもあって「Ti Amo」の魅力を引き出せていないのに、【第50回日本レコード大賞】大賞をいただくという自分の中での矛盾や歯がゆさがあって。「Ti Amo」を大好きになるまでは絶対に死ねないと思っていたくらい。今回アレンジが変わったこともそうなんですが、ここ数年ようやく歌を楽しめるようになったこともあって、それが功を奏したのか、ソロツアーでも歌ったのですが、大好きになりました。オリジナルアレンジでも早く歌いたいくらい。そういう意味では、「EXILE RESPECT」という企画を始めたきっかけと言っても過言ではない曲です。
――オリジナルアレンジでも、「EXILE RESPECT」バージョンでも、今までとは違ったTAKAHIROさんの歌声が楽しめそうです。そして、今年でソロ活動10周年を迎えられました。スランプだったというお話もありましたが、今、ご自身の歌声についてどう評価されていますか?
TAKAHIRO:大谷翔平選手の「憧れるのをやめましょう」じゃないんですけど、たくさんの大御所の方がいらっしゃる中で歌手活動をさせてもらっていると、どうしてもいろんな人に憧れるんです。そうなると、憧れの形になるために足りないところばかりを探してしまって、いいところを見出だせなくなる。足りないところばかりが目について、「歌手に向いていないんじゃないか」と思ってしまったり。でも一旦憧れるのをやめて、自分の歌としっかり向き合ってみたんですね。真似ごとをするのではなく、自分が好きなように歌ってみるということをレコーディングやリハーサルで試しているうちに、遠慮がなくなってきて。
――遠慮。
TAKAHIRO:要は、ここ最近は“無難に歌う”ということをしなくなったんです。ピッチを守る、音圧がボコボコしないように歌う、きれいに歌うということの前に、本来どういう歌が好きなのかを思い返してみて。うまい歌が好きなのか。そうじゃない。CDみたいな正確な歌が聞きたくてライブに行っていたのか。そうじゃない。それよりも魂が震える、心からの精一杯の歌、生き様が乗った歌が好きなんだよなと思い出すことができました。そうやって仕切り直してからは、発見が増えてきてようやく楽しくなってきたところです。
――なるほど。TAKAHIROさんの声って不思議に思っていたんです。単純に声質だけ聴いたらきれいで伸びやかな声で、いわゆるバラードに合う声ですよね。でも、ロック調の楽曲にも合うのはなんでなんだろう、と。今お話いただいたマインドがあるからこそ、ハードな楽曲にも合うのかなと感じました。
TAKAHIRO:そうなのかもしれません。プラスして、悔しい時期にACE OF SPADESの活動をやらせてもらっていたので、その活動や悔しさがバネになっているのもあるのかもしれないです。そろそろACE OF SPADESもやりたいんですよね。
――ぜひ!
TAKAHIRO:HISASHIさんに連絡してみようかな(笑)。でも、本当にいろんな活動が今の自分に繋がっていますね。たとえば、GLAYさんのライブには毎回行かせていただいているんです。ライブ終わりに楽屋でお話を聴くと、大御所中の大御所のあの方々が満足していないんです。TERUさんも「歌の発見があったから、今度飲みながらでも話そう」とおっしゃっていて。「こんなにすごい方なのに、まだ発見があるの!?」って(笑)。これだけやっている方々でも満足せずに、まだ発見をしながらワクワクしているんだと教わりました。それに、こうした交流もポジティブメンタルに繋がっているんですよね。いろんな方に囲まれて、本当にありがたいです。今は、歌っていて楽しいと心から思えています。これからも歌を楽しんでいきたいと思います。
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