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<インタビュー>にしな、新曲「クランベリージャムをかけて」にかけた想いと、みんなと作り上げた同タイトルのツアーを振り返る

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Interview&Text: 松本侃士
Photo:松岡一哲(ヘッダーバナー)/renzo masuda(ライブフォト)

 6月末から約1か月間にわたり、にしなの全国ライブハウス・ツアー【クランベリージャムをかけて】が開催された。ツアーファイナルの舞台は、彼女のワンマンライブ史上最大規模となった会場Zepp DiverCity。もともと同ツアーの最終公演は7月26日の予定であったが、ツアーの途中で27日の公演が追加で発表され、Zepp公演2daysが実現する運びとなった。そうした流れは、今、彼女が、いかに多くのリスナーから熱い支持を集めているかを如実に伝えるものであったし、また、同ツアーの終了後には、来年2月から4月にかけて計12,000名を動員予定の大規模ツアーを開催することが発表された。彼女の今後のさらなる躍進に期待せずにはいられない。

 今回は、にしなにインタビューを行い、ツアータイトルを冠した新曲「クランベリージャムをかけて」に込めた想いについて聞きながら、彼女自身が確かな手応えと充実感を得たというライブハウス・ツアーについて振り返ってもらった。にしなにとってライブとは何か。今後、どのようなライブを作りあげていきたいのか。彼女のライブ観に、ぜひ多くの方に触れてほしい。

“甘じょっぱさ”を意識したライブハウス・ツアーを振り返って

――ツアーのMCで、先に「クランベリージャムをかけて」というツアータイトルが決まっていたと話されていましたが、まず、今回のツアータイトルを思いついた経緯について教えてください。


にしな:ツアーのずっと前に、まずどんなツアータイトルがいいか考えたんですけど、その時に「クランベリージャムをかけて」って可愛いなってなんとなく候補として挙げていたんです。後付けなのか、無意識的に思っていたのかは分からないんですけど、今回のライブハウス・ツアーは、甘じょっぱい感じを大切にしたいと思っていて、いくつかあった候補の中から最終的に「これが一番合うなぁ」と思って決めました。 少し遡るんですけど、ツアータイトルを決める前に、犬を抱っこしてアー写を撮っていて。その時にたまたま知ったんですけど、写真を撮った時に目が赤く光ることをクランベリーというらしくて、いろいろ繋がるなあと感じたことをよく覚えています。

――甘じょっぱいという言葉は、文字通り、甘いとしょっぱいという2つの要素が一緒になったものだと思いますが、なぜこの言葉を大切にしようと思ったのでしょうか?


にしな:ライブってすごく楽しくてスイートな時間だけど、それだけではなくて、特にライブハウスという空間には、しょっぱさというか刺激的な感じがあると思っています。今回のツアーをどう楽しんでもらおうかと考えた時に、一緒になってごちゃっと楽しめるライブにしたいっていう思いが強くあって、そういう意味の甘いとしょっぱいですね。例えば、年明けから春にかけて周った弾き語りツアーの時は、みんなで一緒に歌う試みもしたんですけど、どちらかというと、一緒にぷかぷかと浮かんでいるような、お互いに優しく眺め合っているみたいな感じだったんです。今回のライブハウス・ツアーでは、もっとみんなが一緒になって歌えるようにするにはどうしたらいいか、一緒にライブを作っていくためにはどうしたらいいのかな、すごく考えました。



――実際に6月からライブハウス・ツアーを周ってみて、どのようなことを感じましたか?


にしな:素直に、すごい楽しいなっていうのが一番の気持ちです。私自身、どちらかというとライブを観に行った時にわーって手を上げたりするのが苦手なタイプなんです。ライブの観客って、演者に似たりするじゃないですか(笑)。なので、皆さんの中にも私と同じタイプの方がいたと思いますし、きっと世代的にも声出しOKのライブが初めての方もいただろうから、どうしたら自分も楽しめて、みんなも楽しめるか、ツアー中ずっと模索し続けていました。

――ツアーを周る過程で、どのような試行錯誤やブラッシュアップがあったのでしょうか?


にしな:例えば演出面でいうと、本編の最後で新曲「クランベリージャムをかけて」を披露する時、ツアーの途中で、「フロアに風船をたくさん落としてみようかな」というアイデアが出て。というのも、お客さんが体を動かす上ではきっと何かしらのきっかけが必要で、上から風船が降ってきたら、皆さんが自ずと動かなきゃいけない状態になるのではないかと思って。スタッフの皆さんに風船を膨らませてもらって、ツアーの途中から演出として追加しました。声出しについても、一度でも声を出せさえすればその後に声を出すハードルが下がると思ったので、どうしたらお客さんが声を出しやすくなるか、段階を経ていろいろトライしました。

――ツアーのセミファイナル、およびファイナルにあたるZepp DiverCity公演を観たのですが、ライブ全編を通して、にしなさんが何度もお客さんにマイクを託していた光景が強く印象に残っています。




にしな:私、初めてフロアにマイクを向けました。一回やってしまった後は、もうずっと向けていたいみたいな感じになりました(笑)。最初は、ライブを観に来てくださっている皆さんなので仲間だという気持ちはありつつ、マイクを向けても誰も歌ってくれなかったらどうしようという気持ちもあって。マイクを向けるのにもわりと勇気がいるんですけど、結果的にみんな楽しそうに歌ってくれて、ちゃんと声が聞こえてきて。それを体験すると、もう全部歌ってくださいって気持ちになりました。

――ライブの演出面でいうと、リビングルームのようなステージセットもとても印象的で、親密な空気感が伝わってきました。何より、歌いながらソファーからジャンプしたり、クッションを投げたりするにしなさんがすごく楽しそうで、また、床には犬のおもちゃが歩いていたりひっくり返ったりしていましたね。



にしな:スタッフの皆さんに、「ガレージの部屋」を作りたいというイメージを伝えさせてもらいました。ちょっと散らかっていて、自分の動きでさらに散らかしていけるセットがいいなと思って。

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ライブでみんなのタガが外れるきっかけになる曲にしたい

――続いて、Zepp DiverCity公演の直前に配信リリースされた新曲「クランベリージャムをかけて」について聞かせてください。今回は、100回嘔吐さんとの共作になっていますね。


にしな:先ほど、甘じょっぱいという言葉についてお話しさせて頂きましたが、今回の曲は、可愛いけどあまのじゃく感があると思っていて、そうした部分について、嘔吐さんが作ってる曲にすごく通ずるものを感じていました。あと、自分自身がどんな音にしたいかイメージした時に、嘔吐さんが鳴らしてる音がすごくはまりそうだなと思って、今回プロデュースをお願いしました。一番最初にお会いした時に、何よりも先に「ライブで盛り上がれるような楽曲」とお伝えしたのを覚えています。

――にしなさんが最初に作ったデモ曲はどのような仕上がりだったのですか?


にしな:ギターの弾き語りのデモなんですけど、たしかBメロがなくて、それ以外はほとんど完成していた気がします。私、いつも曲を作る時にBメロが抜けがちなんです。展開を変える構想がなかなか浮かばなくて。今回は、オケを作って頂けたらその上にメロを乗せます、みたいな感じで仕上げていきました。



――にしなさんは、これまでも様々なクリエイター、プロデューサーとタッグを組んで楽曲を制作してきましたが、ご自身の制作スタイルとして、そうしたコライトに近い作り方は合っていると思いますか?


にしな:そうですね、一人だとけっこう煮詰まったり、同じような展開になりがちだったりするので、いろんな知識やノウハウをお持ちの方から「こんなのどう?」って提案していただけると、また違う自分にも出会えますし、楽しいですね。

その一方で、自分の曲でもありつつ、タッグを組んで一緒にやる以上は、相手の曲でもあると思うので、自分の中のイメージをアバウトに伝えた後は、もう本当に好き勝手やって頂くのが一番だと思っています。

――完成版を初めて聴いた時のファースト・インプレッションについて振り返ってみて、いかがですか?


にしな:何回かラリーを繰り返しながら完成形に近付けていくパターンもあるんですけど、今回は、もう一発目を聴いた時からすごいはまってるなあっていう気持ちでした。

――今回の新曲の曲名をツアータイトルと同じものにしようという発想は、制作過程で出てきたものですか?


にしな:レコーディングが終わって、「そろそろ曲名を決めなきゃやばいです」というタイミングになってから決めました。他にも、英語版の「With Cranberry Jam」や、サビの歌詞の「クランベリージャムジャム」、あと、シンプルに「ジャム」なども候補として挙がっていたりしたんですけど、自分自身の今回のツアーに対する思い入れも含めて、ツアータイトルと同じにしました。



――今回のツアーで実際にこの曲を披露してみて、どのような手応えを感じましたか?


にしな:Zepp DiverCity公演以外の公演については、みんなからすると全く聴いたことのない新曲を最後にやられるっていう感じなので、「おお、置き去りにしてるな…」という感じは正直ありました。ただ、その時は、そういうふうにカオスな空間を作っていくのが正解かなと思ったので、みんながポカーンとしてる間にめちゃくちゃにしてやるみたいな気持ちでした。また、きっと皆さんなら、これから一緒になってこの曲を成長させてくれるんだろうなって、なんとなく思っていました。

――その後、ツアーを進めていく中で、7月25日のにしなさんの誕生日にこの曲が配信リリースされて、その翌日から2日間にわたりZepp DiverCity公演が始まりました。その2公演においては、きっと多くのお客さんが新曲を聴いた上でライブに臨んでいたと思います。実際に、自由に体を揺らしたり、リズムを取っている人もたくさんいましたね。


にしな:もしかしたら、中には一緒に歌ってくれる人もいるかもしれないなあっていう気持ちでやってました。

――しかも上から風船がたくさん降ってきて、しっちゃかめっちゃかみたいな。


にしな:やることいっぱいで「ウオォぉぉ」みたいな(笑)。



――今後この曲は、にしなさんのライブにおいてどのような役割を担う楽曲になっていくと思いますか?


にしな:この曲が、みんなにとって、タガが外れるきっかけになったらいいなと思います。みんなでおかしくなる曲になっていってほしいです。

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不完全な自分をどんどん見せていきたい

――今回のライブハウス・ツアーが、ご自身にとってどのような意味合いを持つものであったかについて、改めて聞かせてください。


にしな:いろいろ手探りで進み続けてきた中で、これから自分がどういうライブを作っていきたいのか、また、自分自身、どのように音楽、ライブと向き合っていくのかが、やっと自分の中ではっきりしてきた感じがします。お客さんもそうですし、バンドメンバーだったり、一緒にライブを作ってくださるスタッフさんたちもそうですし、皆さんとグッと距離が縮まった気がしています。

――セミファイナル公演のMCで、にしなさんが、「ライブは、自分がお客さんに与える場ではなく、お客さんから受け取る場である」と言っていたのを思い出しました。


にしな:ただの人間なので、っていう気持ちがめちゃくちゃ強くて。私から何かを与えるわけじゃなくて、本当に皆さんから頂いているので。曲を聴いて頂いたり、ライブに遊びに来て頂いたりしている皆さんには、いつも本当にありがとうございますっていう言葉に尽きます。



――にしなさんの謙虚な人柄が改めて伝わってきます。


にしな:謙虚なんですかね。本当はいつも完璧でいられたら一番いいんですけど、私としては、常に人によりかかって生きているような感覚なんです。お客さんにも委ねるし、スタッフさんにも委ねるし。今回の新曲では、敵も味方も分かんないって歌ってますけど、分かんないんだったらもうみんなに委ねてこう、みたいな。不完全な自分をどんどん見せていきたいし、そのようにして、いろいろな人と一緒にライブを作っていけるような自分でいれたらなと思っています。

――不完全な自分を見せていきたいという想いは、ずっとご自身の価値観として変わらずあり続けているものなのか、それとも、最近になって芽生えてきたものなのかでいうと、どちらですか?


にしな:どっちかっていうと、ずっとそういうタイプですね。ハードルは高くない方がいい。なるべく下げていきたい(笑)。



――とはいえ、自分以外の他者に信じて託すことも、ある意味でとても勇気がいることだと思います。その意味で、今回のライブハウス・ツアーは、にしなさんにとってとても大きな意義のあるものだったのではないかと改めて思いました。来年からは、計12,000名動員の大規模ツアーが始まりますね。


にしな:ありがとうございます。私自身、ライブハウス・ツアーはすごく楽しかったですし、皆さんにも楽しんでもらえていたらいいなあっていう気持ちがあるからこそ、次は、もっと良くしたいですし、もっと楽しんでもらえるためには何をしようかな?と思っています。もちろん、そうできなかったらどうしようっていう不安も付きまとってはくるんですけど、だけど、すごい楽しみです。あまり気負いすぎても、それこそ自分らしさが出てこなくなるので、お客さんやスタッフさんに委ねつつ、自分も一生懸命やりつつ、楽しいものにできたらなと思います。

――ありがとうございます。ライブ活動についてお聞きしてきましたが、最後に、楽曲制作の面において、今後の展望などがあれば聞かせてください。


にしな:今回の新曲、SNSを見ると、「いい意味で、何言ってるか分かんない」ってけっこう言われてたりするんです(笑)。まあそういう曲、他にもいっぱいあると思うんですけど。先ほどの話と近いかもしれませんが、それぞれの曲をどう受け取るかは皆さんに委ねるというか、一つひとつの歌詞の意味が全て伝わらなくてもいいと思っていて。これからも訳が分からない曲も作り続けたいですし、もちろん丁寧に歌詞を伝えていく曲も作っていきたいです。これからも、何事にも囚われずに自由にやっていけたらなと思います。




にしな | クランベリージャムをかけて - Music Video




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