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<インタビュー>“記憶を音楽にする”歌い手のいない音楽プロジェクト・MIMiNARIとは? 新作『厭わないEP』を軸に彼らの音楽性を紐解く

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Interview & Text:沖さやこ

 コンポーザーのnariとshamを中心に2022年に結成された、「記憶を音楽にする」をテーマに曲ごとに異なるボーカリストをフィーチャリングする音楽プロジェクト・MIMiNARI。最新作『厭わないEP』は、TVアニメ『あやかしトライアングル』のEDテーマ「厭わない」で同アニメのキャストを務める声優の富田美憂と市ノ瀬加那を、それ以外の楽曲ではDUSTCELLのボーカルEMA、シンガーソングライターのりりあ。、ハコニワリリィのKotohaといったインターネット/SNSシーンを中心にキャリアをスタートさせたアーティストをボーカリストとして招いている。

 今年4月からは「#デモ曲チャレンジ」と称し毎週金曜日にMIMiNARIの各SNSで未発表曲のサビ部分を投稿するなど、精力的に興味深い試みを続けている彼ら。元々は様々なジャンルのアーティストに楽曲を提供する音楽作家としても活躍していた両名は、どんな思いのもとMIMiNARIでの活動を行っているのだろうか。様々な視点からこのユニットを解析していった。

女性ボーカルを起用することで、自分のイメージを超えたい

――shamさんがnariさんを誘い、2022年にMIMiNARIが結成されました。ふたりで曲作りをするなかで“記憶を音楽にする”というコンセプトが見えてきたそうですね。


nari:手探りで一緒に曲作りをするなかで、自分たちが作る楽曲に共通していたのが“記憶が楽曲になっている”ということだったんですよね。MIMiNARIというユニット名も含めて、いろいろ浮かび上がってきた点を線にして、今のコンセプトに落ち着きました。

sham:フックがある、一見ネガティブな意味と取れるようなアーティスト名にしたかったんです。僕の家でふたりで名前を考えていたときに、nariさんがパッと思いついて「耳鳴りってどう?」と言ってくれたんですよね。それで耳鳴りから連想するものを考えると「自分の身体の中だけで鳴っている音」「自分にしか聞こえない音」に行きついたので、「記憶」というコンセプトと親和性が高いなと思ったんです。

nari:記憶ってはっきりしてるようで、曖昧なものだと思うんです。同じ時間を過ごした人同士でも捉え方は全然違うし、年月が経っていくとどんどん事実からズレてくる。そういったものも全部含めて、音楽にしていけたらいいなという思いがあったんですよね。

――MIMiNARIの音楽には「透明感」、「残響」、「儚さ」などのキーワードも挙げられますが、これらはnariさんとshamさんの元来持ち合わせてきたセンスや感覚なのでしょうか?


sham:あんまり意識はしていなかったんですけど、僕らがもともと持っていたものがそれらのキーワードだったんですよね。『言えないEP』の4曲を聴くと、他のアーティストの方に楽曲提供する時にはなかなか出せない、もともと自分たちが持っていたものが出せている感覚があります。「ふたりで一緒にやろう」と決めて立ち上げたので、MIMiNARIは本当にやりたいことをやろうというところからスタートしているユニットなんです。

――表現欲求に忠実なアウトプットが欲しかったということですね。


sham:オーダーに沿ったものではなく、ゼロから実験的に音楽を作っていく場が欲しいというのと、ご一緒する機会が多いnariさんと一緒にやってみたいという初期衝動が生んだのがMIMiNARIです。そのスタートアップとしてしっくりきたサウンドが「儚さ」や「透明感」で。「耳鳴り」というエッジの効いたワードとのギャップもまた面白いのかなとかも思ったんですよね。

nari:バンドマンからキャリアをスタートして、様々な形で音楽に携わる中で「新しいことを始めたいな」と思いつつ、勇気が出なくて足踏みしていたところにshamから声を掛けてもらったんです。くすぶっていた僕の欲求を、shamが揺さぶってくれました。




消えない feat.春茶 / MIMiNARI:Music Video




――MIMiNARIは曲ごとにボーカリストが異なり、全員が女性シンガーです。このあたりは表現欲求とどのようなつながりがあるのでしょうか。


sham:あくまでも僕らの音楽コンセプトを軸にして、いろんな人に参加していただく形式が新しいんじゃないかということで、曲ごとに違うボーカリストに参加してもらうことになりました。あと、nariさんも僕も、もともと女性アーティストの方に楽曲提供をすることが多くて。

nari:バンドマン時代は自分が歌うことも多かったんですけど、自分で自分の曲の仮歌を入れると、自分すぎて少し冷めてしまうところがあったんですよね。でもどんなに自分のことを書いても、女性シンガーさんに歌ってもらうとすごく新鮮で、いい曲に聴こえるという錯覚に陥れるという(笑)。

――(笑)。女性ボーカルを起用しつつも、MIMiNARIの音楽自体は性別に左右されていない印象もありました。


nari:女性が歌う楽曲を作るとなると想像しながら書くこともあるんですけど、曲を書くうえでの大前提として嘘をつきたくないんですよね。そのうえでいいメロディラインはないか、いい切り口はないか……と手探りしながらそれをたぐり寄せるように曲作りをしているんです。曲作りのなかで自分の意図しないところに行きたいんですよね。自分の「いい曲ができた」の予想やイメージを超えたいんです。

――バンドの場合、ソングライターが作ったものをバンドメンバー全員で合わせると、それぞれのセンスやアイデアが合わさって新しいものが生まれると言いますよね。nariさんはそういうバンドマジックに近いものを求めているのかも。


nari:やっぱりバンド育ちの影響はあるんだろうなと思います。だからMIMiNARIはリズム隊を生楽器で録ることが多いんですよね。リズム隊の方々にはデモを元にご自身のアイデアを自由に取り入れていただいているので、こちらが想像していなかったフレーズが入ってくることが多いんです。それが面白いんですよね。

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前作よりもチャレンジングなEPに

――『言えないEP』と『厭わないEP』はMIMiNARI結成1年目に制作された楽曲が収録されていて、表題曲は書き下ろしのアニメタイアップ曲という共通点を持ちつつ、『厭わないEP』は『言えないEP』ではやっていないことを積極的に取り込んでいる、カラフルな作風という印象を受けました。


sham:『言えないEP』は「言えない feat.asmi」を中心に比較的統一されたものになったので、『厭わないEP』ではもう少しチャレンジングなことをしたいというサブテーマがありましたね。バランスを取るというよりは、挑戦的なことをやってみたかったんです。

nari:いつも作品のコンセプトは決めていないんです。TVアニメ『あやかしトライアングル』のEDテーマとして「厭わない feat.富田美憂, 市ノ瀬加那」という曲ができたので、それと対になる世界観の「足りない feat. Kotoha」を作って。じゃああと2曲は別のカラーを持った曲がいいよね、という発想で生まれた4曲が『厭わないEP』には収録されてますね。




厭わない feat. 富田美憂,市ノ瀬加那 / MIMiNARI:Music Video(TVアニメ『あやかしトライアングル』エンディングテーマ)




――これまでは恋愛がテーマになった曲が多いですが、「褪せないfeat.りりあ。」はちょっと違う切り口ですよね。歌詞のワードから察するに、絵描きやクリエイターの心情を描いたものなのかなと。


nari:今は亡くなっている、とある偉大なアニメ作家さんのヒストリーを観たり読んだりするなかで、イメージして書き綴っていった楽曲です。いつも先にトラックを作ってから作詞の相談をするんですけど、「これまでにない切り口は何かな?」と考えて出てきたのがこのテーマですね。僕らは曲名を「~ない」で縛っているので、まずタイトルから決めて曲作りをするんです。それで「褪せない」という言葉から、「褪せないものってなんだろう?」と考えていくなかで、その人をテーマに歌詞を書こうと思ったんですよね。

sham:タイトルを考えるのが、僕らの曲作りの第1関門です(笑)。




褪せない feat. りりあ。 / MIMiNARI:Music Video




――ははは。タイトルを「~ない」縛りにしたきっかけというと?


sham:「言えない feat.asmi」ができたときですね。

nari:たくさんデモを作っているなかで、いちばん最初に作品として完成したのが「言えない」なんです。TVアニメ『彼女、お借りします』のEDテーマだったので、原作を読んだ時に「すべてのキャラクターが言えないことを持っているな」と思ったところから「言えない」というタイトルを思いついて、この先も「~ない」というタイトルで書いてみることにしたんです。でもこれがやってみると結構大変で(笑)。




言えない feat.asmi / MIMiNARI:Music Video(TVアニメ『彼女、お借りします』第2期エンディングテーマ)




sham:毎回ひねり出してます(笑)。「記憶を音楽にする」というコンセプトやいろんな制限のなかで、今までにやったことがない切り口でどう表現していくのかを探すのが、MIMiNARIの曲作りなのかなと思っていますね。

――リリースの時系列は前後しますが、『言えないEP』と『厭わないEP』の楽曲の後に生まれたのが、「しくない feat.水槽」と「きゃない feat.麻婆豆腐」なんですよね。この2曲はMIMiNARIのニューフェーズとして象徴的なのではないかと思いました。


nari:「しくない」は作りながら「どういう感じに落とし込めるんだろう……」とすごく不安だったんですよ。というのも、この曲は今までの経験則や成功したセオリーで作ってないんですよね。水槽さんの声が乗って、一気に自分のイメージを超えて曲が完成して。すごくお気に入りの1曲になりました。

sham:「しくない」ができたとき、想像の域を超えたり、予定調和から1歩踏み出すからこそ手応えを得られるんだなと感じたんです。今後の制作のヒントにもなりましたね。

――「しくない feat.水槽」は「消えない feat.春茶」の主人公の続編とのことですが、同時にMIMiNARIというユニットの生き様が曲になっているようにも感じました。心の奥にある感情を歌にする水槽さんの声の力もあって、おふたりの独白のようにも受け取れたんです。


nari:「しくない」はそういうニュアンスが強いかもしれないです。MIMiNARIが1周年を迎えるタイミングでリリースしようとは決めていたので、「消えない」とのリンクは考えていたんですけど、歌詞の“帰れない2人”は僕が昔から好きな曲のタイトルを引用していて(※井上陽水の「帰れない二人」)。それ以外にも実体験の描写も入れているところもあります。MIMiNARIの中では生々しさが強いほうかもしれないですね。

sham:物語の切り口とタイトルありきで曲を作っていくんですけど、そのなかでどんどんエモくなってきて、曲に自分を重ね合わせながら曲を書いていくことも全然ありますね。「しくない」みたいにあれだけピアノのリフレインが入る曲もMIMiNARIでは初めてでした。

nari:曲自体は「しくない」より「きゃない」が先にできていて。だから『厭わないEP』の4曲を作った後に、言葉遊びを重視した「きゃない」を作れたことは僕ら的にも大きかったんですよね。あれがあったから「しくない」が作れたんだと思います。




しくない feat. 水槽 / MIMiNARI:Music Video




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「“#デモ曲チャレンジ”は血を吐きながら作ってます(笑)」

――「きゃない feat.麻婆豆腐」や「褪せない feat.りりあ。」は2023年4月から毎週金曜にアップされている「#デモ曲チャレンジ」にて先駆けて公開された楽曲でしたよね。「#デモ曲チャレンジ」を始めた理由とは?


sham:もっとフットワークを軽く、短いスパンでサビだけでもいいので、もっとたくさんの曲をお届けしたいなと思ったのと、リスナーの皆さんとの交流の1つのきっかけにしたいという想いで「#デモ曲チャレンジ」を始めました。EPには入れられずにいたストック曲はたくさんあるし、せっかくだから聴いていただきたかったんですよね。







nari:「デモ曲」と言いつつ、こうやって発表していくサイクルができたことで、そのまま作品にもしてもOKのクオリティのデモを作るようになってきて。ランナーズハイみたいな気持ちよさが出てきました(笑)。

sham:楽しみながらも、血を吐きながら作ってます(笑)。「デモ曲チャレンジ」だから、タイトルも「~ない」縛りではなく仮タイトルみたいな感じにしていて。作品では出せない面も出していけてるかなという実感はありますね。リスナーの皆さんからも「この曲をフルで聴きたい」というようなコメントも頂けたりして、これをきっかけに楽曲リリースに繋げていければと思っています。

nari:「#デモ曲チャレンジ」では女の子目線の楽曲に振り切って作ってみた曲も多いので、それもトライのひとつです。「#デモ曲チャレンジ」から数曲フルサイズに拡張してるんですけど、かなり印象が変わったかなと感じていて。どんどん自由な制作になってきています。

――楽曲然り、今回のお話然り、おふたりは「MIMiNARIだからできる新しい切り口」を大事にしてらっしゃるんだなと感じました。

nari:1年半経ってそれが徐々にできるようになってきた、そういう勇気が持てるようになってきた実感はありますね。最初はやっぱりどこか経験則に基づく整ったものを作ろうとしていたんですけど、やってないことにどんどんチャレンジしていこうという意識はかなり強くなっています。最近僕の中でチャイナっぽい音がマイブームなので、最近「#デモ曲チャレンジ」用に制作している楽曲はそのテイストが色濃く出てますね(笑)。

sham:今年10月から放送予定のTVアニメ『ひきこまり吸血姫の悶々』のEDテーマに書き下ろした「眠れない feat.楠木ともり」も、ボーカルの楠木ともりさんと色々なディスカッションを重ねて作った楽曲だったので、すごく刺激的な制作だったんですよね。この曲を作ったことで、より自由にトライできるようになったところは大きいかも。

nari:うんうん。「眠れない」に背中を押されたところはかなりありますね。楠木さんがやりたい音楽性や好きなアーティストさんを教えてくださって、僕の好みと結構近かったから作りやすくて。ボーカルの重ね方、テンポ感、歌詞の世界観も今までMIMiNARIとして出した楽曲とは結構違うので、楠木さんのおかげで新しい切り口が生まれました。




TVアニメ『ひきこまり吸血姫の悶々』第2弾PV




――これまでの傾向から察するに、年内のうちには「眠れないfeat.楠木ともり」を表題曲にした『眠れないEP』が出るということですね。

sham:あははは、そうですね。音数の少ない、ボーカルが引き立った楽曲になったので、また新境地を感じていただけると思います。今もたくさん曲作りをしていて、最近はボーカリストを務めてくださったファンの方やアニメのファンの方以外にも届けられるように、TikTokなどのショート動画で使ってもらいやすい曲の構成にしたりしていて。もっといろんな人に知ってもらえるように頑張りたいですね。

nari:あとはライブだね。asmiさんは先んじてご自身のライブで「言えない」を披露してくれたけど、僕らはいまだにステージに立てていない(笑)。

sham:ほんとに! ライブの方も皆さんに良い形で見て頂けるよう、日々構想中です。これからも聴いてくださる皆さんはもちろん、僕ら自身も予想を超えられるものをお届けできるようにしていきたいですね。

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