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<インタビュー>アツキタケトモが目指す“居場所”とは、自ら選曲したプレイリストも公開



アツキタケトモインタビュー

Interview & Text: 上野三樹
Photos: 筒浦奨太

 作詞・作曲・編曲を自ら手掛ける新世代の音楽家、アツキタケトモが8月9日に「自演奴」を配信リリースした。目まぐるしい展開と多様な音楽性をミックスして、人間の歪さを表現し、そして肯定する。今回のインタビューでは、そんな彼の音楽性はどんな風に作られていったのかを語ってもらった。自ら選曲してくれたプレイリスト「アツキタケトモを形成した音楽たち」と共に、彼の音楽世界を楽しんでもらいたい。

――アツキタケトモさんが音楽を作り始めたのはいつ頃、どんな形でしたか?

アツキタケトモ:まだ3~4歳の物心ついたばかりの頃から自分で作った歌をアカペラで歌うような子どもでした(笑)。歌だけでなく、オケも自分の頭の中で鳴っていたので、そのうちノートにアルバム10曲分のタイトルを書いて、ストップウォッチでタイムを測りながら部屋でひとり歌ったりするようになりました。小さい頃からそういうことをするのが趣味で、当時はモーニング娘。が大好きだったので漠然と歌手になりたい気持ちがあったんだと思います。

――そこから音楽スキルはどんな風に磨かれていくんですか?

アツキタケトモ:小5でカセットレコーダーを入手してアカペラの歌を録音するようになって、中1のときにキーボードを買ってもらったことをきっかけにコード進行を覚えました。中2からアコギの弾き語りを始めてからは、高橋優さんとか秦基博さん、スガシカオさんのようなシンガーソングライターに影響を受けて。高校生に入るとPro Toolsを使って、弾き語りに打ち込みでアレンジを加えたものを作るようになりました。

 その流れで当時、高橋優さんをプロデュースされていた浅田信一さんのTwitterにオリジナル曲の動画を送ったら浅田さんが反応してくださって。それをきっかけに、その次の年にはレコード会社からのリリースも経験しました。

――かなりの急展開だったんですね。

アツキタケトモ:アコースティック・ギターを手にして1~2年でデビューできたのは、自分でも想像していなかったことです。その後、そのプロジェクトが終わると、僕はMr.Childrenやオアシスがロックの原体験というか、バンドへの憧れもあったので、大学時代はずっとバンドをやっていたのですが、卒業のタイミングで解散して。

――大学を卒業してからはどんなふうに過ごしていたんですか?

アツキタケトモ:高校のときに1回デビューしたという自信もあったし「俺は音楽で食ってくしかない」みたいな頑固さもあって、「音楽で何か形にするので1~2年、時間をください」と親を説得して、ひたすら引きこもって音楽制作をしていました。そんな中、コロナ禍に入って、バイト先のお店も閉まったし、僕はもうすでにずっと自粛しているような生活を送っていましたから、曲を作ることに専念しました。その後に制作を始めて1か月でアツキタケトモとして初めて『無口な人』という1stアルバムを作って、それがきっかけで今のレーベルや事務所チームとも知り合うことができたんです。

――新曲「自演奴」は「音楽で負のエネルギーを放出したかった」ということですが、どんな制作でしたか?

アツキタケトモ:コロナ禍を経て、少し外に出やすくなった今の時代のムードがある中で、お酒を飲んで酔っ払って、フラフラになりながら家に帰ったりしていて。コロナ禍のときには家に引きこもっているからこそ理性的でいられたというか、自分を律せざるを得ない空気があったけど、それがなくなって帰り道に「あ、今の俺しょうもねえ」とか「なんかくだらねえ人間だな」と感じてしまったんですよね。それを喚き散らすようなエネルギーや肉体性みたいなものをこのタイミングで曲にしたかったんです。しょうもない部分なんて、絶対誰しもあると思うし、本能的な欲求に支配されている自分と、欲求が満たされたときの理性的な部分の二面性をサウンドでも表現したかったんです。


――理性と本能もそうですし、ひとりの人間でもいろんな面を持って生きていると思うんですけど。この歌詞にもあるように、SNS上のやり取りってなんでこんなに冷静になれないんだろうと思ったりすることありますよね。

アツキタケトモ:男性が性欲に支配されているときの何も考えられない感じと、マジレスして燃え上がっているときって近い気がしていて。もう単純に本能ですよね。頭で考えるより反射的に体や心が勝手に暴走してしまうような。「自演奴」の歌詞に性のモチーフとSNSのモチーフの両方が入っているのは、僕はそこに共通性を感じているからで。たとえどんなに尊敬する人でも、何らかのきっかけで「こういうこと言っちゃうんだ?」とがっかりしちゃう側面が出るときもある。でも、それを擁護もしたくないけど、ただ断罪するだけでいい方向に向かうのかと言ったら、それも違う気がするし。そのへんの難しさや矛盾を音楽で描きたかったんです。

――ご自身が今を生きる中で感じている情けなさや憤り、そして不安が詰まっているんですね。

アツキタケトモ:テレビでもSNSでも、ひとつのゴシップで芸能人が転落していくさまとか目の当たりにするわけじゃないですか。その一発で全てを断罪する感じが僕は結構きついなと思っていて。それは芸能人の話かもしれないけど、自分の人間関係でもそういうことって起こりうるなと。例えば飲み会でちょっと空気読めない発言をしちゃったときに「この人、『こいつキモいから二度と会いたくない』って内心思ってるんじゃないか?」とか。そういう一発退場、レッドカードみたいな気持ちになって「もしかしたら、もうこの場に俺は呼ばれないかも」ってめちゃくちゃ怖くなっちゃう。芸能ニュースとか見てると、自分も叩かれてるような感覚に陥る瞬間があったりします。その「はいジ・エンド!」「もう終わりです!」っていう感覚をこの曲で叫びたかったんです。

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――過去に「Family」という曲でも、玄関を開けて中に踏み込まないとわからないような家族の内情をあけすけに歌われていました。日常において他人には隠したくなるような感情も音楽にしようとする、その想いはどんなものですか?

アツキタケトモ:日本における家族ソングって大抵、「家族のぬくもり」とか「家族っていいものだよね」という価値観で歌われていて。その側面ももちろんあるし否定するつもりもないですけど、実際は互いの悪口を言う夫婦は多いし、子どもも成長するにつれ親に対して猜疑心が生まれたりもする。実際にはそうした負の部分ってたくさんあるはずなのに、歌になると美しいところだけを切り取りがちだなと思って。そうなると自分の家族内でいさかいが起きたときに、「家族ってこんなに冷たくていいのかな?」とか、「うちの家族ギスギスしてるけどダメなのかな?」っていう孤独感が生まれる気がするんです。家族のわだかまりをちゃんと表現した歌があることで、温かい家族を無理に演じたりしなくてもいいと思えたり、居場所や救いになればいいなと。「Family」は家族を題材にしていますけど、僕は音楽を通して基本的にはそういうことを表現していきたいんですね。「自演奴」も誰かが自分のことをしょうもないなと思ったときに自分を責めずにいられたり、誰にでもあることだよねと思えたりできたらいいなって。世の中に美しいものはもういっぱいあるから、あえてそうではない恥部を晒すことで、つまり人に言えないことを歌うことで、自分が誰かの恥部を肯定できたら。否定されたり否定したりを繰り返していると逃げ道がなくなっちゃうから、そういう居場所になりたいんです。

アツキタケトモを形成した音楽たち

M-1「Dance Dance Dance」Mr.Children
M-2「DADA」RADWIMPS
M-3「Supersonic」Oasis
M-4「自演奴」アツキタケトモ
M-5「Virtual lnsanity」Jamiroquai
M-6「Party People」スガシカオ
M-7「Outsider」アツキタケトモ
M-8「ズル休み」槇原敬之
M-9「The Wilhelm Scream」James Blake
M-10「Keep Your Name」Dirty Projectors
M-11「Period」アツキタケトモ
M-12「大切な人」SMILE
M-13「iMi」Bon Iver
M-14「カモフラージュ」アツキタケトモ




――なるほど。今回、ご自身が作っていただいたプレイリスト「アツキタケトモを形成した音楽たち」にもリアルなメッセージを放つアーティストが多い気がします。

アツキタケトモ:そういう意味ではスガシカオさんの歌詞とかから影響を受けています。人があまり吐き出せない部分をちゃんと歌詞にして、言語化してくれていることに僕自身が救われてきました。

――そして先ほどおっしゃっていた「ロックの原体験」的な曲も。

アツキタケトモ:そうですね。小学校のときにハロプロばっかり聴いていた僕は、親が聴いていたMr.Childrenに衝撃を受けました。この「Dance Dance Dance」のイントロのギターリフで僕の中のロックが目覚めたんですよね。ちなみにこのプレイリストはM-4、M-7、M-11、M-14がアツキタケトモの曲ですが、その曲たちの前にリストアップされている曲が、僕の曲に繋がっているような文脈で選びました。

――そうなんですね。Mr.ChildrenとRADWIMPSとオアシスがあり「自演奴」があるという、ご自身が受けた影響と新たな解釈が感じ取れておもしろいです。

アツキタケトモ:「Outsider」はスガさんの「Party People」のようなディスコチューンや中学時代から聴いているジャミロクワイからの影響で形成されています。槇原敬之さんは母が大ファンだったので自然と聴いていたんですけど。歌詞がAメロで出したモチーフをサビで回収したり、読み物としても面白いし、そういう部分で影響を受けてできたのが「Period」という曲だったりします。そして浅田さんのバンド、SMILEの曲も。高校時代に歌詞の美学みたいなものを学ばせてもらいましたし、僕も普遍的な曲を書きたいなと思って「カモフラージュ」を書きました。この曲を出したのが2021年だったんですけど、2021年における普遍的な曲のアレンジってどうあるべきなんだろうと考えたときに、ボン・イヴェールの音作りやフォーク感みたいなものってありだなと。だから「カモフラージュ」はSMILE meetsボン・イヴェールの感覚で作っているんです。

――ぜひこの曲順でプレイリストを楽しんでもらいたいですね。

アツキタケトモ:そうですね。この順番で聴くと、リファレンスと成果物みたいな感じで伝わりやすいかなと思います。

――ルーツと今の感覚を大事に融合しながら生まれるアツキタケトモの音楽が今後も楽しみです。

アツキタケトモ:僕がいろんなジャンルの音楽をやりたくなっちゃうのも人間の感情みたいなもので、昨日正しいと思っていたことが今日は全然違うとか、1年前は好きだったけど今は全然好きじゃないみたいな、そういう変化をそのまま音楽にしていきたいんです。だから僕の楽曲って展開が多いんですけど、その揺れ動くさまや、はっきりとこうだと言える強さもない、人間らしい歪さを歪なままデザインしていきたくて。だから整えすぎてもだめだし、歪なままというのも違うし、その匙加減を探しているんですが、今年は「NEGATIVE STEP」と「自演奴」でそれが徐々に形になっている気がします。今後もまた一歩踏み込んだことができそうな気がするので、追いかけてもらえたらと思います。

――近いうちに達成したい目標があれば教えてください。

アツキタケトモ:アルバムをそろそろ作りたいなと思っています。僕は幼少期からアルバム作りが好きなので(笑)。アツキタケトモってこういう音楽なんだって提示するためのアルバムを完成させることが当面の目標です。楽しみにしていてください。

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