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<インタビュー>鈴木慶一が語る「鈴木マツヲ」とこれからの音楽人生

インタビューバナー

 鈴木慶一が松尾清憲と結成した話題のポップ・ユニット=鈴木マツヲ。6月21日に1stアルバム『ONE HIT WONDER』をリリースし、初のライブをビルボードライブで飾る。 ムーンライダーズとして精力的に活動を続けながら、様々なユニットでも活躍する鈴木慶一に、新ユニットと創作意欲に溢れる現在の心境を聞いた。(Interview & Text:佐野郷子/photo:Takashi Noguchi (San Drago))

ポップに振り切ることができた松尾清憲とのユニット

 結成48年を迎えるムーンライダーズの活動と並行して様々なユニットでも活躍する鈴木慶一が、「鈴木マツヲ」としてビルボードライブのステージに立つ。「鈴木マツヲ」は、鈴木慶一と松尾清憲が結成した新たなユニットで、6月21日に1stアルバム『ONE HIT WONDER』をリリース。共に1951年生まれの長いキャリアを重ねた二人が紡ぐ極上のポップネスが、レコ発となる初のライブでどんなマジックを起こしてくれるのか? 期待が膨らむ中、多彩な活動を精力的に続ける鈴木慶一の「現在地」を探ってみた。


鈴木:私の音楽人生でやり残していたことを考えたとき、死ぬまでにやっておきたいことの一つが松尾清憲くんとユニットを組むことだった。


 水面下で「鈴木マツヲ」が始動したのは世界中をパンデミックが覆った時期。


鈴木:デモテープは二人で合わせて20曲くらい作ったかな。レコーディングも演奏も少しずつ2年かけて二人で行い、選曲は音楽出版社の方にお任せしました。そういうところがブリル・ビルディングっぽいでしょ?


 ブリル・ビルディングとは、ニューヨークのブロードウェイにある音楽出版社やスタジオが入るビルディングの名称。1950年代後半から60年代にかけてバート・バカラックやキャロル・キングなど数多くのソングライターを輩出、多くの名曲、ヒットソングを生み出した。


鈴木:松尾くんは80年代から音楽出版社でたくさんの曲を書いてきた人だからね。
二人でユニットを始めようとしたときから松尾スズキさんに敬意を表した鈴木マツヲというユニット名も、『ONE HIT WONDER』=直訳すると"一発屋"というコンセプトとタイトルも決まりだった。


 これまでも二人はソングライターとして多くのアーティストに楽曲を提供しているが、あえて"一発屋"と称して曲を作るとは、何とも大胆不敵!


鈴木:そう。"一発屋"だから、恥じらいも見栄も脱ぎ捨て、思いきりポップに振り切ることができたんです。少しくらい下世話でもいいし、どこかで聴いたことがあるメロディーでもいいんじゃないかって。


ムーンライダーズではできないピュアな遊び心

 アルバムの鈴木・松尾による10曲は共作も含め、驚くほどポップかつスイート。ソロ・デビュー曲「愛しのロージー」から優れたポップセンスに定評のある松尾清憲はともかく、鈴木慶一がこれほどキャッチーな曲を響かせてくれるとは嬉しい誤算(?)。


鈴木:私の場合、アヴァンギャルドな側面もあり、ムーンライダーズでインプロビゼーション・アルバムを作ったばかりでもあるんだけど、松尾くんと組むと一気にポップ・フィールドに持っていかれるし、切ないラヴソングも書ける。それは自分にすごく良い刺激と効果をもたらした。




 玉石混淆のポップ・ミュージックを60年代から浴びるように聴いてきた二人のセンスが炸裂する『ONE HIT WONDER』には、忘れかけていたピュアなポップ精神が宿っている。


鈴木:ザ・バンドなんかを熱心に聴いて、指標にしていた頃はバブルガム・ミュージックなんてバカにしていたのにね。ところが、それを今、改めて聴いてみるとワンヒット・ワンダーと呼ばれるだけのキラリと光る良さがあるんだ。これはムーンライダーズのときは決して出てこないものだね。


 とはいえ、そこはひねくれてナンボのムーンライダーズの御仁。随所に一筋縄でいかないセンスを感じさせるのはさすが。


鈴木:セイラーやルパート・ホルムズあたりの70年代半ばのモダン・ポップというかアート・スクール系ポップのイメージもあるかな。松尾くんとは彼が在籍していたCINEMAのプロデュースや、ムーンライダーズが音楽を手がけた『綿の国星』のイメージ・アルバムでも歌ってもらっているし、40年来の付き合いになる。同い年なので聴いてきた音楽や趣味嗜好が共有できるのも大きかった。


 杉真理とのBOXやピカデリー・サーカスでも知られるポップ職人・松尾清憲とタッグを組むことで、「今までポップ・ミュージックに対してかけていたリミッターを外すことができた」とも。


鈴木:心境の変化もあるでしょうね。この2、3年は鈴木マツヲと同時進行でムーンライダーズのアルバムで思う存分実験的なことや前衛的なことをやってきたから、ポップな曲ができると、これは鈴木マツヲ用だなとフォルダーを分けることができたんです。


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多彩なユニット活動と音楽を作り続ける源泉

 2022年にムーンライダーズは、11年ぶりのアルバム『It's the moooonriders』、今年3月には10時間超のインプロビゼーションを録音、編集した『Happenings Nine Months Time Ago in June 2022』をリリース。その一方、昨年12月には頭脳警察のPANTAと鈴木慶一が結成した伝説のユニット“P.K.O(Panta Keiichi Organization)”で配信シングル「クリスマスの後も」/「あの日は帰らない」を発表している。


鈴木:PANTAとの“P.K.O”も私の残りの音楽人生でやりたいことの一つだからね。PANTAも大病から復活して今は絶好調なので、“P.K.O”のレコーディングも本腰を入れますよ。


 近年も高橋幸宏とのTHE BEATNIKS、KERAと結成したNo Lie-Senseなど、鈴木慶一のユニット活動は多岐に及ぶ。音楽生活50年超えの音楽家のその旺盛な意欲と活力はどこから来るのだろう。


鈴木:コロナ禍で時間があったときも音楽を作り続けていたし、ここ最近はいなくなってしまう仲間のミュージシャンもいて、まだ実感はないものの、自分ができることは音楽を作ることしかないという思いはあるかな。失った何かを音楽を作ることで補完しているのかもしれない。


 今年に入って、高橋幸宏、ムーンライダーズの岡田徹と相次いで盟友を亡くし、その心中は察するに余り有るが、それでも音楽を作り続けることは止めない。創造の源泉は枯れることはない。


鈴木:依頼されて作る音楽もあるけど、それとは別に自発的にどんどん曲を作って、何に使うか分からなくてもフォルダーに入れておく。それが今や習慣化しているんですよ。そうすると自分は音楽をやっていると常に自覚できる。70を超えて、そこはますます大切になってきましたね。


毎回違うライブに挑むビルボードライブの鈴木慶一

 近年はムーンライダーズや様々なユニットでライブも精力的に行ってきた。昨年末にはムーンライダーズで「マニア・マニエラ+青空百景」のライブ、今年4月には狭山で開催されたハイドパーク・ミュージック・フェスティバルで岡田徹を追悼した演目で感動的なステージを披露したことも記憶に新しい。


鈴木:ライダーズに澤部渡くんと佐藤優介が参加してくれたことで、実験的なことが可能になり、ライブが活性化された。それにライブを前提にすると次のアイデアが出てくるんですよ。2020年のビルボードライブの『MOTHER MUSIC REVISITED』はまさにそうでした。


 ゲーム音楽「MOTHER」を多彩なゲストと共に新たに構築した『MOTHER MUSIC REVISITED』は、鈴木慶一が「死ぬまでにやりたかったこと」の一つでもあった。


鈴木:ライブは肉体だけでなく、どういう企画、構成、アレンジでいくかと頭をすごく使う作業でもある。2020年以降は毎回、違う内容のライブをやっているので、通常のパターンから脱することができた。その代わり練習やリハーサルに時間がかかるから大変だけどね。


 ビルボードライブのステージは、2016年のはちみつぱいが初。以降、THE BEATNIKS、No Lie-Sense、PANTA & HAL.EXTENDED、「鈴木慶一ミュージシャン生活50周年記念ライヴ」、去年の夏は「マニア・マニエラ Special Live」でムーンライダーズでも登場した。


鈴木:毎年のようにレアなライブをやっているんですよ。70代にもなると、ライブでは定番の曲を演奏する場合が多いんだろうけど、あえてそれはしない。今は自分でも驚くほどかつてなく真面目にライヴに取り組んでいるね。


 この夏は「鈴木マツヲ」として初のステージをビルボードライブで開催する。


鈴木:2ステージ制のライブは、コンセプチュアルな企画にはちょうど良いのかもしれない。鈴木マツヲは、まだアルバムが1枚しかないから収録曲以外にも二人でできる曲を考えています。バンドも女性ミュージシャンにお願いして、ロバート・パーマーの「恋におぼれて」のMVみたいにやってみたいね(笑)。




鈴木マツヲ「ONE HIT WONDER」

ONE HIT WONDER

2023/06/21 RELEASE
COCB-54357 ¥ 3,300(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.昼顔という名の街
  2. 02.恋人と別れる日の過ごしかた
  3. 03.恋人じゃないから
  4. 04.Sweetie(僕は鉋屑)
  5. 05.Complicated World
  6. 06.赤いヨット、黒いヨット
  7. 07.この恋はNon-Standard
  8. 08.10 Little Musicians
  9. 09.何マイルも離れて
  10. 10.あてはないけど、とりあえず西に

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