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<インタビュー>ジャンク フジヤマ、時流の追い風も受けつつ新たな高みを示した最新作を語る
その歌声に惚れ込んだスーパー・ドラマーの故・村上〝ポンタ〟秀一がメジャー・デビュー前からライブやレコ―ディングに参加し、70年代後半から80年代にかけての山下達郎などをストレートに現代に継承した音楽性で支持されてきたジャンクフジヤマ。8月2日にリリースされる最新アルバム『DREAMIN’』は、日本のシティ・ポップ再評価が世界的に進む前からそのサウンドに真っ向から取り組んできた実力の高さと、若いメンバーを迎えて刷新されたバンドのグルーヴが同居した好仕上がりとなっている。すでに10年以上のキャリアを重ね、時流の追い風も受けつつ新たな高みを示した最新作とそれに続くツアーについて、ボーカルのジャンクフジヤマこと藤木直史に語ってもらった。(Interview & Text:Hidesumi Yoshimoto)
「最新アルバムは“夏サウンド”の中にもいろんな夏が詰まっている」
――2020年11月にオリジナル・アルバムとしては7年ぶりだった『Happiness』をリリースして以降は、昨年7月の『SHINE』を経て順調なペースでの最新アルバム『DREAMIN’』となります。以前と比べると、どこか吹っ切れたところでもあったのかな?と思うほどですが。
ジャンク フジヤマ:作詞・作曲、アレンジを含めて全部一緒にやれる神谷樹くんがパートナーとして見つかったことで、よりスピーディーに作品の制作できるようになりましたね。あとは、自分自身がやりたいこともハッキリしてきて。アルバムのリリースが空いていた期間も、ライブ活動をしつつジャズの曲をカバーしたアルバムを出したりしていたんですけど、そういうことを経ながら、作っていきたいものを明確にしていきました。
――神谷さんは7歳くらい年下だそうで(注:藤木が83年、神谷は90年生まれ)、同じような音楽を好きでもまた違った感覚を持っていたりするんじゃないですか?
ジャンク フジヤマ:そうですね。彼はヒップホップも好きで、実際に曲の捉え方とか感覚に違いがありました。でも、一緒に組むにあたっては、同じ感覚を持っているというよりは、新しい風を吹き込んでくれた方がいいというのがあったので。従来の自分がやってきたスタイルにプラス・アルファで“あ、そういう聴き方もできるんだ!”という新しい発見や捉え方があったことに意味があったと思いますね。
――なるほど。神谷さんというパートナーが見つかったことで、作品をカタチにしていくスピードも必然的に上がったというか。
ジャンク フジヤマ:最初の頃はまだ距離感が掴めないというか、どういうサウンドを作っていけばいいのかお互いにわからないところもあったんですけど、この何年か重ねてやっていくうちにお互いに何を求めているのかがハッキリしてきたことが、今のスピード感に繋がっているかなと
――『DREAMIN’』は神谷さんとの体制になってから3枚目のアルバムで、基本的には前2作の流れを継承した感じだと思いますが、2枚を経て今回はこうしたいという点などはありましたか?
ジャンク フジヤマ:曲書きの部分では、今までに一度も一緒にやったことがなかった山川恵津子さんに作曲を頼んで、僕の歌の低音域の響きの良さを強調できる楽曲を作っていただきたいとお願いして上がってきたのが、9曲目の「UTOPIA」という曲ですね。難しい曲なんですけど、うまくハマったかなと思います。
――それに続くラストの10曲目の「君は薔薇より美しい」のカヴァーと併せて、特に終盤は意外なアプローチが強めというか。前2作と通底する〝夏〟のムードはキープしつつも、随所にそれだけじゃない顔が見えてくるようなアルバムになっていますね。
ジャンク フジヤマ:まぁ、今回は“夏サウンド”の中にもいろんな夏が詰まっているかな、というのはあって。路地裏の夏だったり、繁華街、ビーチ、リゾート、山、川といろんな場所の夏が1枚の中に入っていて、甘酸っぱい青春の香りもすれば、大人の街も入っているような作品になったと思います。
――確かに、曲ごとのシチュエーションや想起される情景は、1曲ごとに多彩ですね。
ジャンク フジヤマ:同じ夏でも、またそれぞれに違った場面で表現されているとは思います。
――サウンド面でも、ファンクや80年代テイストの強いグルーヴィーな楽曲もあれば、夏の終わりから秋の手前のようなムードのものもあって幅広い印象です。
ジャンク フジヤマ:サウンド面に関しては(神谷)樹くんに任せているところがあるんですが、僕も要所要所で意見は言いつつ。例えば今回だと「君は薔薇より美しい」をカバーしましたけども、僕の中では16ビートを立たせたライトなサウンドで、キリンジさんや冨田ラボさんのようなイメージでやりたかったので、最初からそれを彼に伝えて〝じゃあ、それでいきましょう〟ということになりました。
――「君は薔薇より美しい」は、原曲に近い感じでやると少し重厚になり過ぎそうですもんね。
ジャンク フジヤマ:16ビート寄りにすることによって、軽いサウンドに持っていきましたね。
――今回の10曲の中で、出来上がってみてとりわけご本人的に印象深かった曲などは?
ジャンク フジヤマ:5曲目の「あれはたしかSEPTEMBER」は、一番最初に曲が上がってきた時には書いた本人(作詞・作曲は神谷)もそこまでは思っていなかったんですけど。ミックスの前にコーラスなどを足して終わった段階のものを聴いた時にものすごく広がるものがあったので、今回のアルバムの推し曲はコレだなとなりましたね。海沿いの坂道を勢いよく自転車で下っているようなイメージがすぐ浮かんできたし、景色がすぐ浮かんでくるのは、僕らがやっているようなジャンルでは必須条件なので、サウンド面でも歌詞の面でもこの曲を〝推し曲〟にチョイスしています。ただ、取材などを受けていても〝この曲がイイ〟という意見はバラバラなので、アルバム1枚を通していろんな人に届く作品になったんじゃないかと思っています。
▲ ジャンク フジヤマ「あれはたしかSEPTEMBER 」(MUSIC VIDEO)
「僕のライブって、世代を越えた楽しみ方ができるんじゃないかな」
――ところで、70年代後半から80年代にかけての山下達郎に代表されるような日本のシティ・ポップは、最近に海外でも広く聴かれるようになって。ジャンクフジヤマは、時流に関係なく10年以上前からそんな音に真っ向から取り組んできたわけですが。近年のそうした潮流について思うところや、今回のアルバムに反映させたことがあれば聞かせてもらえますか?
ジャンク フジヤマ:要するに、そういう70~80年代サウンドというのは、もともと世代的に僕よりも随分と上の方々になるわけですけど、日常的に街でかかっていたし、日常的にみんなが聴いていたサウンドなわけですよね。それが巡り巡って今また、当時を知る方々も当然楽しめるし、若者も聴いて楽しめる音楽になったわけですけど、ちょうど僕らの世代が10代から20代前半だった頃って、70~80年代のサウンドが一番軽視されていた時期だったんですよね。
――確かに、2000年代の前半あたりというのは、今は高騰している日本のシティ・ポップ系のアナログ盤はほぼ見向きもされていなかったですね(笑)。ま、あえて掘っている人もいましたけども。
ジャンク フジヤマ:もちろん〝いや、そんなことないよ!〟って方もいたかもしれないですけど、僕らが学生の頃は周りでそのあたりを聴いている人はほとんどいなかったですね。でも、僕はその頃から〝いや、音楽の一番楽しい部分はこの時代に詰まっている〟と心から思って続けてきて、今の若者たちがこういうサウンドを聴いても垣根なく楽しんでもらえるようになったのは、ありがたいことですね。
――そんな世間的な〝シティ・ポップ再評価〟の追い風も得る一方で、ジャンクフジヤマのサウンド自体も、良い意味で変わってきた部分もあるのではないかと思いますが。
ジャンク フジヤマ:まぁ、ガムシャラにやっていた時代から比べると落ち着きが出てきたかな、というのはあると思いますね。歌の部分でもパフォーマンスの部分でも、特にステージでの落ち着きが出てきたのは重要で、客観的に自分のことを見ながら表現していくということがだんだんとわかりつつあるし、出来るようになってきたかなと。周りの音をしっかり聴いて反応して、気持ちが上がってくる部分もあるんですけど、そこで上がり過ぎずにコントロールしなきゃいけない立場になってきたというか(笑)。ベテランの方と一緒にやっても、若者と一緒にやっても、その真ん中に立って引っ張っていかなきゃいけない存在になってきましたね、だんだんと。最近はそんな風に思っております。
――以前のジャンクフジヤマといえば、村上〝ポンタ〟秀一さんをはじめとする上の世代の大物と肩を並べてやっているイメージが強かったですが、今のメンバーはむしろ年下が主体になってきているようですし。
ジャンク フジヤマ:若者のバンドでもベテランのバンドでも求めるものは一緒なんですけど、やっぱりポンタさんや岡沢(章)さんレベルのものがパッと出来るようになるわけではないので、伸びしろも考えつつ一緒に頑張っていきましょうという感じでやっています。なので、観に来てくれる方々にも、若者たちがどうやってもがいて育っていくのかという姿を観てほしいですし、同世代の方々も70~80年代のサウンドをリアルタイムで聴いてきた方々も一緒に楽しめる音になっていると思います。だから、僕のライブって親子で観に来てくれる方もいらっしゃるし、世代を越えた楽しみ方ができるんじゃないかなと。
――8月14日(月)にビルボードライブ大阪、25日(金)に東京のCOTTON CLUBで行われる『DREAMIN’』のリリース・ツアーを楽しみにしています。
ジャンク フジヤマ:自分より年下のメンバーだけのバンドでツアーを廻るのは今回が初めてなので、どんな化学反応が起こるのかを楽しみにしていてもらえれば!
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