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<インタビュー>スタジオ地図代表取締役社長&ミュージックスーパーバイザーが語る、細田守監督作品を未来に残すためのニュー・プロジェクトの目的



スタジオ地図インタビュー

 昨年8月に東京国際フォーラムで開催された【スタジオ地図シネマティックオーケストラ2022〜『竜とそばかすの姫』公開1周年記念〜】。スタジオ地図・細田守監督の劇場6作品の名場面を彩る名曲の数々をオーケストラで奏でる一夜限りのコンサートを収録したライブ盤『スタジオ地図 Music Journey Vol.1 - シネマティックオーケストラ2022』が発売された。

 『時をかける少女』や『おおかみこどもの雨と雪』『竜とそばかすの姫』など細田守監督の劇場6作品を、大スクリーンに映し出される各作品の名場面と、マエストロ栗田博文のタクトのもと、東京フィルハーモニー交響楽団の迫力の生演奏で聞かせるオムニバス形式。ゲストとして『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』『未来のミライ』の音楽を担当した高木正勝(ピアノ)、主題歌を担当したヴォーカリスト奥華子とアン・サリーも特別出演するなど、大好評を博したコンサートの模様を余すところなく収録している。

 これまで一貫して「映像と音楽」にこだわり続けてきた細田守。その貴重な作品を、今後どう残していこうと考えているのか。細田の作品を制作・プロデュースするために設立されたアニメ制作会社「スタジオ地図」の代表取締役である齋藤佑佳と、スタジオ地図作品の音楽制作と管理を行う「株式会社CHIZU Music Supervision」の代表でミュージックスーパーバイザーの千陽崇之に話を聞いた。(Interview & Text: 黒田隆憲)

――『スタジオ地図 Music Journey Vol.1 - シネマティックオーケストラ2022』は、2022年8月に東京国際フォーラムで初開催されたシネマオーケストラコンサート【スタジオ地図 シネマティックオーケストラ2022】の模様を収録したものです。まずは、このコンサートを開催するまでの経緯を教えてください。

齋藤佑佳:2016年に、企画制作会社であるPROMAXさんから「『サマーウォーズ』のフィルムコンサートをやりませんか?」というお話を最初にいただいたんです。そこから準備を重ね、2020年に公開予定でチケットも売り出してほぼ完売だったのですが、あいにくコロナ禍で公演中止になってしまいました。その後に改めて、今回のお話をソニーミュージックさん含めたチームで「やりましょう」と。

 ただ、今回は『サマーウォーズ』だけでなく、細田守監督の劇場6作品。それぞれ出資の座組みも違えば劇伴作家も違い、歌い手さんも含めて色々な権利が絡み合う形で、東京国際フォーラム ホールAという大きな会場で「本当にできるのか?」と不安な面もたくさんあったのですが、スタッフや出演者の方々のご協力はもちろん、お客さまが細田監督作品を大事にし続けてくださったおかげで、チケット発売から1か月ほどでソールドアウトしました。音楽プロジェクト『スタジオ地図 Music Journey』としては、本当に幸先のいいスタートを切ることができたと思っています。

――栗田博文さん指揮、東京フィルハーモニー交響楽団オーケストラの演奏はどのようにして決まったのでしょうか?

齋藤:そこも、『サマーウォーズ』のシネマオーケストラコンサートの企画段階で栗田さんと東京フィルにオファーさせていただき、直前までその座組みで準備を進めていました。その流れで今回もお願いしたのですが、『サマーウォーズ』1本をシネマコンサートとして上映するのと、6作品の本編映像を流しながら、それに合わせてアレンジし直した劇伴を演奏するのとでは、カロリーの高さがかなり違うわけです。しかも3月に最初のミーティングが行われ、本番は8月でしたからおよそ半年で形にしていくのはなかなか大変でしたね。

――今回のオーケストラアレンジはどのように行ったのでしょうか?

齋藤:基本的には当時の細田監督作品の音楽家の方々が全員、クリエイティブ面で参加してくださいました。

――今回、『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)、『バケモノの子』(2015年)そして『未来のミライ』(2018年)の音楽を手掛けた高木正勝さんが、自らピアノで参加されていたのがとても印象的でした。

齋藤:実は、今から6年ほど前に開催された高木正勝さんと京都市交響楽団のコンサートで、スタジオ地図の作品を取り上げていただいていたんです。とても素晴らしい内容でしたので、我々のシネマコンサートにもぜひ出演していただきたいと思ってオファーいたしました。当時はまだ『未来のミライ』が公開されていなかったので、『おおかみ〜』『バケモノの子』からの楽曲をベースにセットリストを組んだものでした。今回は、『未来のミライ』も含めた3作品をコンサートで演奏していただいたという経緯です。


▲高木正勝

――実際に開催してみて、どのような反響がありましたか?

齋藤:多くの方たちから「もう一度、映画を観直したくなった」というお声をいただけたことは何よりの喜びでした。細田監督作品における音楽の素晴らしさを、この【スタジオ地図 シネマティックオーケストラ2022】で再認識していただき、そこからまた映画へと戻っていく流れを作れたのであれば「やってよかった」と心から思えます。

 冒頭にも申し上げましたとおり、本当に多くの方々から長きにわたって細田監督作品が愛され続けていることを実感しましたし、そのことを細田監督自身も喜んでいました。思えば『時をかける少女』は2006年公開ですから、かれこれ17年前の作品です。そうした過去の作品を、いかにして古びないようお届けしていくかが、我々のプロジェクトの目的の一つなのですが、何よりお客さまが、ご自身の心の中で細田監督作品をずっとアップデートし続けてくださっていたのだなと今回思い知らされましたね。

――なるほど。

齋藤:今回は、コロナ禍での開催だったため「声出し」などはできなかったのですが、「コンサート」という形でみなさんのお顔や、熱量を持って楽しんでくださっている姿を目の当たりにすることができたことは、我々にとって本当に大きな喜びでした。観客の皆さんに参加していただくライブ演出は次回の課題ということで、楽しみにしていてほしいです。何せ、初めての経験だったのでどんな演出をしたらいいのか本当に手探りの部分も多かったんですよね。今後はみなさまのお声も参考にさせていただきつつ、このプロジェクトを続けていけたらいいなと思っています。


奥華子「変わらないもの」

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――細田作品の制作エピソードで何か印象に残っていることはありますか?

齋藤:スタジオ地図を立ち上げ、高木さんと最初にやらせていただいた作品が『おおかみこどもの雨と雪』で、そこから3作をご一緒しているのですが、監督が絵コンテを描きあげたのが確か公開の前年で、その年末に初めて高木さんにオファーさせていただいたんです。年内ギリギリに打ち合わせをして、翌年7月には公開しているので半年しか時間がなかったわけですね。

 そんなギリギリのスケジュールの中、最初に高木さんから送られてきたラフ楽曲が「きときと-四本足の踊り」でした。高木さんのピアノのアルペジオと、雪山を雨と雪が駆け抜けるシーンとのシンクロ率がものすごくて。監督、スタッフ一同、最初に聞いた時に思わず「うおー!!」と叫んだのは記憶に鮮明に残っていますね。今回、それを高木さんのオリジナルのアレンジで、最後オケと一緒にどんどん盛り上がっていくところはハイライトの一つでした。当日緊張しながら本番の演奏を見ていた私も、思わず興奮してしまいましたね。


高木正勝「きときと-四本足の踊り」

――「映像と音楽の融合」という意味では、最新作『竜とそばかすの姫』が現時点での最高峰です。ミュージックスーパーバイザーである千陽さんは、この作品とどのように関わったのですか?

千陽崇之:僕がクリエイティブを担当するようになったのは『竜とそばかすの姫』からなのですが、細田監督は音楽にも大変造詣が深く、作品の中でも非常にこだわりを持っていますし求めているレベルもかなり高い。それをどうやって実現可能なレベルに落とし込んでいくかがミュージックスーパーバイザーとしての腕の見せどころなのですが、『竜とそばかすの姫』は本当に難しくて悩むことが多かったです。

 まず主人公の設定そのものが「世界で売れている歌姫」として登場するわけですから、それに見合う「世界一の楽曲」を用意する必要があるわけです。監督と何度も話し合い、試行錯誤を繰り返しながら最終的には音楽監督も務めていただいた作曲家の岩崎太整さんを筆頭に「複数のコンポーザーを起用する」という形になりました。それが功を奏したといいますか、<U>というインターネット空間を舞台にした作品世界にもうまくハマったと思います。岩崎太整さんに加え、ルドウィグ・フォシェルさん、坂東祐大さん、挾間美帆さん、メインテーマ担当の常田大希さん含めた5人の作曲家と、歌唱と作詞を担当された中村佳穂さんが、非常に限られたスケジュールのなか頑張ってくださったおかげです。それに『竜とそばかすの姫』は音楽だけでなく、音響全体としても大変こだわっていて。セリフ、音響効果、音楽が一体となって映像を支える。今回、音響・音楽に特化した劇場上映も行いましたが、それも新たな「映画体験」をお届けできたかなと思っています。

――改めて、細田作品における音楽の重要性についてお聞かせください。

齋藤:アニメ制作の現場で、ポストプロダクションまで全て自分で手掛ける監督は本当に少ないんですよ。テレビシリーズには基本的に音響監督が別にいて、その人が音楽や芝居のディレクションをしたりするのですが、細田監督は全て自分でやる。映画の中で、監督が最終的にイメージする形における、音響が果たしている役割をものすごく重要視しているから、芝居の演出も自らするし、楽曲も作曲家と一緒に打ち合わせながら、どういう楽曲をどこにどう当てていくかを考えるんです。映画において、画作りと音楽・音響が同じくらい大事だと考えていると思いますね。

千陽:個人的な話ですが、細田監督と関わる前に『おおかみこどもの雨と雪』の音楽を高木さんが担当すると知った時、かなり興味深いと言いますか、高木さんの初期作品を聴いていたせいで当時僕の中ではどちらかと言うとエレクトロ寄りの音楽のイメージがあったので、どんな映画音楽になるんだろうって思いまして。それで劇場まで観に行って、打ちのめされるわけですが。凄いなって。美しいと思ったし、音楽にすごく心震わされました。高木さんと、作り上げた監督含め当時のスタッフの方々に対する羨望と尊敬の気持ちが、今ここにいることの大きな動機のひとつかもしれないですね。

――今後プロジェクトを通してどんなことに取り組んでいきたいと考えていますか? また、千陽さんは「株式会社CHIZU Music Supervision」としては、どんなビジョンを描いていますか?

齋藤:このプロジェクトを『スタジオ地図 Music Journey』と名付けたように、さまざまなジャンルの垣根を越えていくことを今後も目指したい。映画と音楽はもちろん、アニメーションと実写、世界と日本など、常にボーダーを意識しながら次の展開を模索していきたいと思っています。音楽と映画って意外と近いようで、言語が全く違っていることに、今回やってみて思い知らされましたし、我々としてもそのことにものすごく苦労しました。映画の人たちが考える音楽のカルチャーと、音楽の人が考える映画のカルチャーって、近しいところにあるだけに噛み合わないところも多かったりして。そういう中で、世界の「旅」をしながらいろんなボーダーを越えていくプロジェクトになるといいなと思っています。

千陽:僕は引き続き様々な映像音楽制作をメインに活動していきますが、今回のようなスタジオ地図のコンサート事業としては、単体の作品に焦点を当てるものもあるでしょうし、海外公演もいずれは展開したいですね。当然『Music Journey』のVol.2も企画していますので、スタジオ地図の音楽の財産を使った新たな表現を是非とも期待していてください。

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