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<わたしたちと音楽 Vol.21>林 香里(H.I.P.代表) プロモーターとして、人として、私が選んできた道

インタビューバナー

 米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。

 今回は国内外のアーティストを手がけるプロモーター、株式会社ハヤシインターナショナルプロモーションズ(以下、H.I.P.)代表の林 香里さんがゲストに登場。2021年に現ポストに就任した彼女は、2022年10月にブルーノ・マーズ、12月にはマルーン5の来日公演を成功させたことで注目を集めた。それらの功績が称えられ、音楽ビジネスの成功を牽引した人に贈られる【2023 Billboard International Power Players】に選出、また2024年1月に再びブルーノ・マーズの来日公演を行うことも発表された。学生時代をロンドンで過ごし、現在はカリフォルニアを拠点にパワフルな活動を続ける彼女は、日本の音楽シーンをどう見つめているのか。(Interview & Text:Rio Hirai[SOW SWEET PUBLISHING])

みんな 「From Planet Earth.」だから
ジェンダーで分けて考えない

――【2023 Billboard International Power Players】への選出、おめでとうございます。

林 香里:ありがとうございます。H.I.P.は私の父が始めた会社で、【2023 Billboard International Power Players】は父と一緒に活躍していたような方々が受賞しているので、私がそこに名を連ねられるのを光栄に感じています。女性のプロモーターもそう多くはいないので、新しい世代としてこうして選出していただいて「(女性が)珍しいな」と目に留めていただき、フレッシュな風を送ることができれば、それも大変嬉しいですね。


――日本に限らず世界的にも女性のプロモーターは多くないのですね。

:そうですね。レコード会社のヴァイスプレジデントなどのポストでは、多くの女性を見るようになりましたが、毎日仕事で会話しているのは男性ばかりですが、お互い手加減なしでガンガンやり合ってます(笑)。


――どうして男性が多くなるのでしょうか。

:私たちの仕事は、国内外を跨いで進めていくので、時差にも対応しなくてはならず、日々プレッシャーの連続です。体力も必要ですし、メンタル的にも強くないとダメージが大きいですね。ただ、これからは、女性も増えていくと思っています。マルチタスクが得意な人には向いている仕事だと思います。


――この連載は、チャートにおけるジェンダーバランスの不均衡に注目してスタートしました。最近では音楽フェスティバルにおけるジェンダーバランスについても話題に上がります。林さんは、アーティストを招聘する際にジェンダーについて気にすることはありますか。

:正直に言えば、全くありません。ライブを企画する時にもプロモーションする時にも「女性だから、男性だから」と考えたことはないですね。


――この連載で様々な人と話をする中で、「世界でビヨンセやビリー・アイリッシュなど自分の主張を強く表明する女性アーティストが支持を集める一方で、日本では女性が何かを強く主張することが受け入れられづらい風潮があるのではないか」ということも話題に上がりました。アーティストを招聘するお立場として、何かそのような反応を感じた経験はありますか。

:自分の企画したコンサートで招聘する海外アーティストでそのようなことを感じたことはありませんが、確かに日本の女性アーティストを見ていると自分の主張があるかどうかというよりも、「かわいい」「かわいらしい」という需要が高いのかもしれませんね。アメリカでは、自己主張が強かったり、大胆で派手なパフォーマンスが「おもしろい」と捉えられて興味を引きます。


――林さんが、「女性だから、男性だから」という考え方をしないのには、何が影響していると思いますか?

:昔から、あまりジェンダーを意識しないように育てられたのかもしれません。「みんな、From Planet Earthなのに、なぜ、分けて考えなければいけないの?区別しなければいけないの?」とよく疑問に感じていました。もちろん、私も保守的な男性を前に、上手くコミュニケーションが取れないときがあります。でもそういう人と付き合うか否かは私自身が決めればいい。あくまでもそれは私のチョイスだと考えているので、気をとられずにいられるのかもしれません。


自由な環境を手に入れるには
“My Choice.”、自分自身で選択する

――女性のプロモーターが少ないというお話もありましたが、林さんのようにご活躍している人の姿を見て憧れる人もいると思います。プロモーターのお仕事に就こうと思ったのはどうしてですか。

:父と一緒によく彼が招聘したアーティストの公演に行って、彼が仕事する姿を良く見てました。当時は今よりもまだ海外の人がたくさんいるのが珍しかったものですから、多様な人に囲まれて働く姿が普通とは違って見えました。そうして、自分もやってみたいと思うようになったのだと思います。18歳の頃に、アシスタントとしてマライア・キャリーのドームツアーで仕事をしました。その時に「この道に進もう」と思い始めました。


――マライア・キャリーの公演のアシスタントからスタートしたというのは、すごいキャリアですね。そうして今、実際に憧れのプロモーターのお仕事に就き、どんなときにやりがいを感じていますか。

:小さいことでも大きいことでも、何かしらの壁にぶつかり続ける毎日です。でもその壁を乗り越えられた時、何かを達成できた時にはやはりやりがいを感じますね。


――林さんは、壁にぶつかったときにどのようにして乗り越えてきましたか。

:諦めずに道を探し続けます。ありとあらゆる道を。AがダメならB、CもDも、というように、徹底的に考え抜きます。

 頭が汗をかくくらい必死になり、ベストを尽くせば、必ず道は拓けます。諦めないことが一番大切。その姿勢を体現して見せてくれたのが父なんです。彼はいつも、決して目の前の現実から逃げずに、真摯に向き合って壁を突破してきた人でした。


――仕事を始めた頃の自分に何かアドバイスをするとしたら?

:「直感を大切にしなさい。」その時はまだ経験も少なくて自分の直感を信じられませんでした。ですが、今なら自分の直感が何より大切で、道しるべになることがわかります。仕事を始める前、学生だった私がイギリスに行こうと決めたのは、日本の社会に窮屈さを感じていたからだと思います。

 「女性は家事をする」というのが“普通”とされるようなことにも違和感がありました。当時若かった自分は冒険がしたかったし、ロンドンで生活し、たくさんの経験から学びました。そして、イギリスではキャリアを追うことに関して女性は男性と対等であると、そして男性は女性を後押しして、社会進出を応援する傾向が強いことを知りました。

 今はカリフォルニアに住んでいますが、私の周りには母であり、経営者である女性たちがたくさんいます。日本では子供を預けたり家事を人に託すのが最善ではないと捉える人が少なくないようですが、アメリカではそんなことはありません。女性がもっとこの業界で活躍できるようになるには、女性をサポートする環境が必須だと思います。


――そうですね、就業環境はもちろん意識改革も必要だと思います。それが職場でのジェンダーバランスにも直結しているように感じます。林さん自身は自由なマインドでいるために、気をつけていることはありますか?

:自由なシチュエーションを自ら意識して作るように努めています。例えば、パートナーを選ぶ時にも、「女性は家に入るもの」と考えない人を選ぶ。“My choice.”どんな時でも、選択権は自分自身にあることを忘れないようにしています。


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