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<コラム>ジャミロクワイの表現を支えた、最たるキーボード奏者マット・ジョンソン――現在までの軌跡を紐解く
Text:佐藤英輔
ジェイ・ケイ率いる大人気UKジャジー・ソウル・ユニットであるジャミロクワイの2000年代のアルバム作りに、重要側近として関与している技ありキーボード奏者、マット・ジョンソン。彼が指を這わせれば、UKソウル/ジャズの粋と誉が溢れ出るかのような逸材が、アシッド・ジャズ期以降の名シンガー/プレイヤーたちを擁するリーダー公演をついに行う。
アシッド・ジャズ。そんな呼称が英国から出てきたのは、1980年代後期のことだ。ジャズやソウルを同時代的視点のもと拾い直し、フランクに享受しよう。そうした態度を持つDJ/プロデューサーやバンド群が続々と頭角をあらわし、それは確かなムーヴメントとなった。
そして、そうした動きのなか一番成功した存在がジェイ・ケイのプロジェクトであるジャミロクワイだろう。その名もアシッド・ジャズ・レーベルから1992年にデビュー・シングルを出し、翌年にはエピックからメジャー・デビューして、彼らは一気にスターダムを駆け上がる。米国グラミー賞も受賞したし、彼らの1999年の東京公演は東京ドームで2日間だった! まさしく、彼らの表現には時代の風が舞っていた。
マット・ジョンソンは、ジャミロクワイに2002年以降に関わっているキーボード奏者/ソングライター/プロデューサーだ。彼はずっと鍵盤を担当したトビー・スミスと入れ替わる形で、ジャミロクワイに加入。よりキーボードがサウンド全体で果たす役割が増した通算5作目となる『ダイナマイト』(2005年)、『ロック・ダスト・ライト・スター』(2010年)、そして『オートマトン』(2017年)と、ここのところの3作品に彼は関与している。とくに2010年作と2017作では収録曲の多くがジェイ・ケイとマットの共作曲であり、近作『オートマトン』には共同プロデューサーやエンジニアとしてもクレジット。まさに彼は、2000年代のジャミロクワイの表現を支える最たる人物と言っていいだろう。
そんなマット・ジョンソンは1969年生まれ。父親がミュージシャンだったこともありいつも音楽が家で流れ、彼は1歳半からピアノを弾き出したという。そして、マットは様々な音楽に伸び伸びと触れ、マルチな才を獲得。英国の音楽テクノロジー月刊誌である“SOUND ON SOUND”は「この20年間で最も才能があり、多彩なキーボード奏者の一人」と、彼のことを昨年激賞している。
さて、マットはコロナ禍にあった2020年夏に、リーダー作『ウィズ・ザ・ミュージック』をリリースした。1970年代後期のハービー・ハンコックを思い出させるヴォコーダー使いも気持ちのいい四つ打ち曲、E.W.&F.をメロウに現代化したようなポップ曲、ブラジル的陰影を巧みに昇華させたインストゥルメンタルなど、そこには知識と技を介した、ダンサブルでアーバンな表現が様々な形で出された。
かような彼が、自己プロジェクトでやって来る。そのショウは自らのリーダー作やジャミロクワイへの貢献の様が明解に注ぎ込まれたものとなり、UKジャジー・ソウル様式のヴァリエーションを指し示すものとなるだろう。そして、そうした期待を増大させるのがキャリア豊かな同行者たちだ。
キーボードとヴォーカルを担当するマットに加えて、ヴァレリー・エティエンヌとヘイゼル・フェルナンデスがシンガーとして今回は同行する。ヴァレリーはそれこそジャイルス・ピーターソンが主宰するトーキング・ラウドの中核を担ったガリアーノのシンガーで、その流れを継ぐトゥ・バンクス・オブ・フォーでも複数回来日している、アシッド・ジャズ期以降を代表する女性シンガーだ。一方、やはり英国ソウル界で活動しているヘイゼルはインターナショナルな活動をしている作曲家の鷺巣詩郎のプロジェクトにも参画している。
また、同行する演奏陣も心強い面々だ。ギターのアンドリュー・スミスは、ヴィヴァリー・ナイト、ミスティーク、アンダーウルヴスなど英国ソウル/クラブ・ミュージックに関わってきている奏者であり、ジェイムズ・テイラー・カルテットやガリアーノ、インコグニートらのアルバムに録音参加しているベーシストのアーニー・マッコーンは、アシッド・ジャズ興隆期から活躍する辣腕奏者だ。そして、デリック・マッケンジーは2000年代初頭からジャミロクワイで叩いているドラマーで、まさにマットとは昵懇の関係にある。なお、このリズム・セクションは『ウィズ・ザ・ミュージック』でも屋台骨を担っていた。
R&B、ジャズ、クラブ・ミュージックといった様々な音楽の勘所を熟知する才人ならではの機微がマットの指先から溢れ出て、それらはアダルトなのに胸騒ぎ感も持つ情緒豊かな表現に結実する。マット・ジョンソンと経験豊かな仲間たちによるライヴは、これまで積み上げられてきたUKソウル/ジャズの美点と誉を鮮やかに浮き上がらせてくれるに違いない。
“僕の向かう場所の指針を示してくれた大きな存在。”
JQ [Nulbarich]
大好きなJamiroquaiの存在は
僕の音楽の幅を広げてくれました。
そして僕の向かう場所の指針を示してくれた大きな存在。
そんなJamiroquaiのサポートアクトをさせてもらった経験はNulbarichにとって最大の誇りです。
そして、そのメンバーMatt Johnsonの2020年にリリースされた世界観全開のソロアルバムを聴かせて頂き、僕のバイブスが上がっていた最中での来日はとても嬉しいニュースです。
日本に来てくれて本当にありがとうございます。
見逃すなかれ。
公演情報
Matt Johnson from Jamiroquai
Matt Johnson, Valerie Etienne, Hazel Fernandes, Andrew Smith, Ernie McKone and Derrick Mckenzie
2023年7月24日(月) ビルボードライブ大阪
1st:Open 16:30 Start 17:30
2nd:Open 19:30 Start 20:30
公演詳細
2023年7月26日(水) ビルボードライブ東京
1st:Open 16:30 Start 17:30
2nd:Open 19:30 Start 20:30
公演詳細
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