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<インタビュー>ソロ来日公演の開催が迫るドラン・ジョーンズ、故郷とダニー・ハサウェイに宛てたソウルフルなラブレター

インタビューバナー

ミシシッピ川が旋回し、きつく曲がるのを辿っていくと
堤防のせいで自由に身動きが取れなくなり
ルイジアナのアチャファラヤ湿地のちいさな場所
ヒラリーヴィルが見つかるだろう

この場所は南北戦争の賠償として
それを受け取った八人の奴隷によって建てられた
訪れる人たちは今でも、太陽の下で光を浴びている背の高い
スプライト・グリーンのサトウキビに挨拶される
おばあちゃんに初めてヒラリーヴィルに来た時のことを尋ねると
答えはいつも同じだった
「あんたが一番住みたい場所だよ」
(Durand Jones 「The Place You’d Most Want To Live」)


 昨年の来日公演も記憶に新しいネオ・ソウル・バンド、ドラン・ジョーンズ&ジ・インディケーションズのフロントマンによる初のソロ・アルバム『Wait Til I Get Over』には、 ドラン・ジョーンズ本人のそんな語りが挿入されている。ルイジアナ州ニューオリンズで生まれたドランは、幼い頃に母親が家を去り、父親と共に祖母の暮らす郊外のちいさな町ヒラリーヴィルにやってくるが、トレーラーハウスでの貧しい暮らしは恥ずかしく思っており、その特別さに気づいたのは、成長した彼が町を離れた後だったという。また、ヒラリーヴィルは敬虔なクリスチャンのコミュニティで、毎週日曜に通っていた教会で牧師から同性愛を固く禁じられていたというドランは、ずっと人に言えない悩みを抱えていたのだ。そんな彼が他ならぬ故郷をテーマにし、“ルイジアナの7月のマグノリアのように、甘く刺激的な香りのするレコードにしたかった”という本作について、まもなく始まるジャパン・ツアーを前に話してくれた。(Interview:清水祐也)

『Wait Til I Get Over』へ込めた想い

――これから始まるツアーの最初の場所に日本を選んでくれて、とても光栄です。インディケーションズとの昨年の来日公演はいかがでしたか?

ドラン・ジョーンズ(以下、ドラン):本当にありがとう。光栄なのは僕のほうだよ。前回の日本公演は、すごくほろ苦いものだった。成田空港で飛行機から降りた瞬間に兄弟から電話があって、継母が亡くなったことを伝えられたんだ。彼女は僕が4歳の頃から、人生の一部だった。ステージに立つのはとても辛かったけど、みんなが楽しい時間を過ごせるように最善を尽くしたよ。空き時間にクラブから離れて、ずっと歩きながら彼女のことを考えてたんだ。彼女の一周忌に戻ってこられるのは、何より素敵なことだ。この旅は、彼女からの何かの知らせなんだと思う。今回は最高の時間を過ごせるようにってね。


――ソロ・アルバム『Wait Til I Get Over』はあなたの故郷ヒラリーヴィルについて歌ったものですが、17歳の時にその場所を離れて、24歳の時に戻ってきた理由は何だったのでしょう?

ドラン:ヒラリーヴィルを離れたのは、音楽で学位を取るためだったんだ。僕は2012年に、サウスイースタン・ルイジアナ大学で音楽教育の学位を取得した。ビル・エヴァンスが通っていたことで知られる学校なんだよ。その後で僕は、音楽課程の修士号を取るためにインディアナ大学へ行った。そこは世界でも最高の音楽学校のひとつとされているんだ。修士号を取ったことは僕の人生でも一番大変なことだったけど、同時に困難でもあった。


――ヒラリーヴィルには2020年の終わりまで暮らしていたそうですが、現在はテキサス州のサン・アントニオに住んでいるそうですね。引っ越した理由は何だったのでしょう? いつかはまたヒラリーヴィルに戻りたいと思いますか?

ドラン:ヒラリーヴィルに戻ったのは、2014年に教育課程を終えた後で、どこにも行く場所がなかったから。長く留まるつもりはなかったんだけど、行ったり来たりで、結局2020年までいることになった。パンデミックと隔離期間中にそこにいるうちに、腰を落ち着ける前にもっと見たり、発見したい場所が世界中にあるって気づいたんだ。もしもその時が来たら、どこかヒラリーヴィルの近くに移りたいって思ってるよ。


――「That Feeling」は、あなたが初めてバイセクシャルであることをカミング・アウトした曲だそうですね。故郷のヒラリーヴィルから離れたことで、そのことを告白しやすくなった部分もあったのでしょうか? あなたの父親や、ヒラリーヴィルの人たちから何か反響はありましたか?

ドラン:ヒラリーヴィルを去ったことで、それはすごく楽になった。とても楽にしてくれたね。僕は自分自身をさらけ出して、弱さを見せられる人たちに囲まれているから。彼らは僕が自分の中にある不安定さを克服するのを助けてくれたし、僕自身の物語や真実を語るように勇気づけてくれた。ヒラリーヴィルにいる友達や家族からも、たくさんのポジティヴな反応をもらっているよ。父親からの反応はまだもらってないけどね。彼はとても寡黙で、あまり多くを語らない人だから。僕の音楽を気に入ったってことは伝えてくれたよ。そう言うだけでも、彼にとっては大変なことだったってわかるからね。


――収録曲のタイトルにもなっている「Gerri Marie」と「Sadie」という人たちについて教えてくれますか?

ドラン:ゲリ・マリーは僕のガールフレンドだったんだ。僕らは何年も前に別れて、ある時ニューオリンズで再会した。その週末に、僕らの愛は再燃したんだ。だけど、もう一度完全に愛し合うにはふさわしい時期じゃないことも知っていた。僕は彼女が何年もの間、僕にとってどんな意味を持っていたかを伝えるために、彼女に曲を書きたいと思ったんだ。セイディも僕がニューオリンズで知り合った人なんだけど、彼女は独身じゃなかった。不幸な結婚をしていたんだ。それは不倫関係で、僕はただ何かを感じるために、愛を探している馬鹿な子供だった。だけど僕は自分たちのしていることが間違いだってわかっていたから、やめることにしたんだよ。


――タイトル曲では教会の聖歌隊をあなたひとりの多重録音で再現していますが、成長期に教会に通っていたことは、あなたの音楽にどんな影響を与えましたか?

ドラン:多大な影響を与えてくれたよ。芸術的な野心があるわけじゃないけど、日曜日に教会にやって来て、曲の中に重荷を下ろす人たちに耳を傾けること。それは強烈な体験で、毎週日曜が来るのを楽しみにしていた。


――本作でダニー・ハサウェイの「Someday We’ll All Be Free」をカバーして、その上に警官の発砲によって犠牲になった人たちについてのラップを乗せようと思ったのはなぜでしょう?

ドラン:ダニーのその曲には、“きみの偉大な曲を歌って、それをずっと続けろ”っていう歌詞があるんだ。「Someday We’ll All Be Free」は僕の好きな曲で、自分が歌いたいってこともわかっていたけど、それを2023年に届けなくちゃいけなかった。ダニー・ハサウェイが闘っていたのと同じことのために闘っている、 この時代のアメリカにね。そうするために僕にとって重要だったのは、芸術的・文化的に現在のアメリカ音楽に多大な影響を与えているヒップホップを、 曲に取り入れることだった。そしてアメリカの警察の手で殺害された人たちの名前を、そこに含む必要があったんだ。彼らは彼らなりの人生を送っていたのに、警察が不当に命を奪った。僕はダニー・ハサウェイに、2023年の僕たちも、みんなが自由になる日のために闘ってるって知らせたかったんだ。


――ジェイムズ・ボールドウィンと並んで、ヨーコ・オノの著書『グレープフルーツ』を本作の影響に挙げていましたが、どんな影響を受けたのでしょう?

ドラン:ヨーコ・オノの『グレープフルーツ』には、「彼女を見た人々は彼女を知りたいと思い、そこに石しか残らなくなるまで、彼女の欠片を切り取った。それでも人々は、その石の中に何があるか知りたがった」というくだりがあるんだ。僕はそれにとても共鳴した。レコーディング・セッションの間ずっと、本のそのページを開いておいたんだよ。 ジェイムズ・ボールドウィンの『Just Above My Head』も、僕を触発してくれた本のひとつだ。彼はこの本一冊で、僕が自分のスピリチュアリティとセクシャリティを実感する手助けをしてくれた。自分の人生のページを読んでいるかのようだったよ。


――アルバムの参加ミュージシャンは、フォクシジェンのメンバーだったダイアン・コーヒーのバック・バンドでもありますが、どうやって彼らを集めたのでしょう?

ドラン:それは全て、ある日偶然に起きたんだ。まず始めに、僕はギタリストのドレイク・リッターと話して、彼がベン・ラムズダインを紹介してくれた。ドレイクはレコードで演奏とエンジニアをするのに、ベンが良い人選だと思ったんだ。それからマット・ロミーとグレン・マイヤーズが加わってくれた。このグループでやることにしたのは、親しい関係だったから。レコーディング・セッションの前に、僕は全員と個別に演奏したことがあったんだ。一緒に演奏をするために集まった時、それは本当に魔法のようだったよ。


――アルバムのジャケット写真を撮影した子供の頃の家が、先日火事で焼けてしまったと聞いてとても残念です。あなたのおばあさんの家はまだ残っているのでしょうか?

ドラン:おばあちゃんの家はまだ建っているよ。僕の兄弟は今でもそこに住んでいるんだ。



――あなたの命を救ってくれたという“オショウ”という名前の犬について教えてもらえますか? ジャケットに写っているのとは、また別の犬なのでしょうか?

ドラン:オショウは僕の友達の犬で、ある晩僕が寝ながら窒息しそうになったのを、起こして助けてくれたんだ。その晩のことで、彼にはずっと感謝してるんだよ! ジャケットに写っているのは別の犬なんだ。彼女もすごく可愛いんだよ。



――あなたは釣りとシーフードが好きだそうで、本作に影響を与えた音楽を集めたプレイリストにも“ドランのレシピ”というタイトルがついていますが、ヒラリーヴィルを思い出させてくれる料理があったら教えてください。

ドラン:茹でたザリガニ、スパイシーなカニ、ザリガニのエトフェ、ジャンバラヤ、豚足、七面鳥の首かな!




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