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<インタビュー>TikTokで大人気のAJRが初来日、ヒットメイカーたちの頭の中は?
Interview & Text: 村上ひさし
Photos: Yuma Totsuka
ニューヨーク発のポップ・ロック・トリオ、AJRが5月に開催された【GREENROOM FESTIVAL'23】出演のため来日した。アダム(ベース/ボーカル)、ジャック(ボーカル/ギター)、ライアン(ウクレレ/ピアノ/ボーカル)の3兄弟から成るAJR。バンド名は、それぞれの名の頭文字から取られている。2006年に活動をスタートさせ、D.I.Y.精神に則った音楽性と活動で、じわじわと人気を拡大。3rdアルバム『Neotheater』(2019)と4thアルバム『OK ORCHESTRA』(2021)は、共に全米チャートでトップ10入りを果たし、Apple CMにも起用された2020年のシングル「Bang!」も大ヒット(全米8位を記録)。日本ではTikTokで人気の「World’s Smallest Violin」や「The Good Part」で知る人も多いはず。初めての日本をエンジョイする3人に話を訊いた。
左から:アダム、ジャック、ライアン
――初めての日本はどうですか?
ジャック:2日ほど前に到着したのかな。それ以来、寿司にラーメン……とにかく食べまくって、東京の街を歩き回ってます(笑)。
ライアン:東京が最高だって、いろんな人から聞いていたから、ずっと来てみたかったんです。実際に来てみたら、噂に違わず最高で、想像していた以上でした。
アダム:ニューヨークで育った僕たちがよく耳にしていたのが、ニューヨークに匹敵する街は世界で東京だけだってこと。本当にそうだと思います。
――明日は【GREENROOM FESTIVAL'23】に出演されます。どのようなライブを披露する予定ですか?
ジャック:エネルギッシュでエキサイティングなものを届けたいと思っています。ラウドなサウンドと、高速で変わっていく映像やライトを使って、思いっきり楽しんでもらえるライブにするつもりです。
――アメリカでのライブでは、曲作りのプロセスを紹介していくパートがありますよね。とても面白くて興味深いです。ああいったシアター的な見せ方は、どこからヒントを得たものですか?
ライアン:あのアイデアを思いついたのは、6年ほど前で、繰り返しやっていく中で次第に進化を重ねて、いまの形になりました。僕たちもだんだん慣れてきて、いろんな曲についての制作プロセスを解説しています。『TED Talks』って日本でも知られている? あの『TED Talks』のようなレクチャーのスタイルでやったらどうかな、というのが、そもそものアイデアでした。ファンのみんなにも曲作りのプロセスを知ってもらえるし、興味深いかなと思って。退屈な音楽の授業みたいなものにはしたくなかったので、満足できるスタイルになるまでは、けっこう時間もかかりました。とにかくみんなに楽しんでもらいたいんですよね。明日のライブでも披露するつもりです。
――2021年のアルバム『OK ORCHESTRA』に収録の「Ordinaryish People」では、ブルーマン・グループと共演されてましたよね。
ジャック:地元ニューヨークでは、やはり彼らはビッグな存在なんですよ。僕たちも幼い頃から彼らのショーを観に行ってましたし、ノンストップで楽しませてくれます。観客を一瞬たりとも退屈させない。その見せ方は僕たちも大いに参考にさせてもらっています。僕たちから連絡したのか、彼らからだったのか、よく覚えてはいませんが、お互いにコンタクトが取れて、彼らが曲を気に入ってくれて意気投合して、共演が実現しました。ステージでも共演したんですよ。すごく楽しかったです。
――AJRのサウンドを言葉で説明するとすれば?
ライアン:ブロードウェイの影響と、ヒップホップとビーチ・ボーイズ。その3つを掛け合わせたら、僕たちのサウンドという気がします。ビーチ・ボーイズに関しては、彼らのようなハーモニーとハッピーな感じ。たとえ悲しいことを歌っていてもハッピーなんですよね(笑)。
――AJRは曲によってジャンルが異なっているので、ジャンルで説明しようとすると、なかなか難しいですよね。
ジャック:さまざまなジャンルの、さまざまな要素を取り入れて、ひとつに混ぜ合わせようと僕たちは心がけています。特にトレンドを重視しているわけでも、避けているわけでもありません。ただ自分たちがやりたいことを、やってるだけ。ポップミュージックが大好きなのは確かですが、同時にヒップホップやカントリーも好きですし、バンジョーをはじめとするいろんな楽器も大好きです。
――多彩な楽器が用いられているうえ、あちこちから奇妙な電子音や効果音も飛び出します。どのような発想でプロデュースを進めているのですか?
ライアン:そもそも頭の中で聴こえる音を取り出すのではなくて、作っている間に、次第に形になっていくことが多いです。この音を加えて、あの楽器を加えてというように、上塗りしていく感じですね。色が加わっていくにつれ、だんだん完成形がはっきり見えてきます。
ジャック:でも作った音の90%は使い物にならないんですよね。ソングライターの中には、曲作りのプロセスを楽しむ人、好きな人もいるけれど、僕たちはあまりそういうタイプではないです(笑)。曲作り自体はそれほど好きじゃないんです。でも時々すごいマジックが起こって、素晴らしい曲が誕生するんです。そしたら全ての苦労が報われます。
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――TikTokで「World's Smallest Violin」や「The Good Part」が突然人気になって、バイラルヒットとなりました、どんなふうに受け止めましたか?
ジャック:最初はすごくビックリしましたが、よく考えると、僕たちがやろうとしている音楽はそもそもTikTok向きなんだということに気付きました。つまり初めて耳にしたとき、聴いたことのないサウンドでハッとしたり、耳に残ったりする音楽。それが僕たちが追い求めているサウンドです。TikTokで人気が出たのはラッキーでしたが、たまたま僕たちの音楽性とも一致していたのかなと。それもラッキーでしたね。
――次のアルバムの制作には取り掛かっていますか?
ジャック:ちょうどソングライティングを終えたところです。全ての曲を書き上げました。年内にリリースできればいいなと考えています。
ライアン:5作目のアルバムになるので、これまでやったことの繰り返しにならないように、その点は留意しています。「こういう曲は前にもあった」と気付いて既に却下した曲もけっこうあるんです。コロナ禍のパンデミック中に、自分たちの内面を見つめる機会が多くあったので、これまでになくエモーショナルな曲が増えているように思います。SNSでは明かしてこなかった私生活のこと、家族の問題など、いろいろ考えさせられることも多かったので、そんな心境が反映されています。
――既に3曲が公表されています。「The Dumb Song」は、完成までに1年半かかったとミュージック・ビデオの中で明かされていますが、実際のところはどうですか?
ジャック:いやいや、本当に1年半かかったんですよ(苦笑)。アルバム『Neotheater』のときには、3年ほどかかった曲もありました。もちろん毎日、その曲だけに取り組んでるわけではないけれど、いい曲を作るためには、けっこう苦労がありますね。大半の曲はライアンと僕が作っているのですが、壁にぶつかり、自分たちの限界に挑戦しないことには、そこそこの程度の曲しか生まれないんです。一旦時間を置いて、映画を観たり、スキーに行って気分を変えたり。そうしている間に、ホーンセクションのいいアイデアが浮かんだりすることもあります。
アダム:その間も、僕たちはずっとビデオを撮影していたから「The Dumb Song」のMVとして編集しました。アルバム制作の全てのプロセスが映像で残っているんですよ。
――「The DJ Is Crying For Help」で歌われているのは、DJに限った話ではありませんよね。
ジャック:はい。大学生のときは、パーティーをして、遊びまくって、「人生ってこんなに楽しいんだ、これがずっと続くんだ」と思っていたら、とんでもなかったということを僕たちは描きたかったんです(笑)。大人になるってどういうことか、という話ですね。DJは単なる例えで、学生時代にあんなに人気者だったDJが、大人になったら人生の目標を失ってしまっている、という、多かれ少なかれ、みんなが感じている気持ちを歌っています。僕たちの実体験というよりも、みんなの気持ちの代弁ですね。
――デビュー以来、ずっと自分たちのインディーレーベルからリリースされていましたが(日本はメジャーを介したことも)、この度メジャーのマーキュリーと契約されました。何か心境の変化でもあったのでしょうか。
ライアン:これまでの16年間、僕たちがインディバンドとして活動してきたのは、特に業界の知り合いもいなかったので、必要に迫られてという感じでした。金銭的に限られた中で音楽を制作したり、プロモーターを見つけたり、自分たちで全ての仕事を覚えて、学んで、やってきました。特にレコード会社の手も借りず、何とかやれていましたが、僕たちもそこそこビッグになったので、そろそろ次のレベルに進む時期かなと。もっとビッグなマシンに乗ってみる冒険もいいかなと考えました。
ジャック:次のレベルというのは、テレビ番組に出たり、もっと大きなステージに立ったりと、自分たちだけでは実現できないことに挑戦したいからです。実際、メジャー契約した途端に、TVトーク番組『レイト・ナイト・ウィズ・ジミー・ファロン』に出られました。いっそう僕たちの音楽を広めたいんです。マディソン・スクエア・ガーデンのステージに立つのも夢ですね。フェスなどでは、あのステージに立っていますが、今度はヘッドライナーとしてステージに立ちたいんです。
アダム:そう、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンは世界中の誰もが知っている、耳にしたことのある特別な会場です。ニューヨークは僕たちの街ですから、僕たちにとってもあの会場には、特別な思い入れがあるんです。