Billboard JAPAN


Special

<わたしたちと音楽 Vol.20>chelmico 二人だから変わらないこと、変わってきたこと

インタビューバナー

 米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。

 今回はゲストにchelmicoが登場。ラップを始める前から友達同士だった二人は、chelmicoとして活動をスタートしメジャー・デビュー、音楽フェスティバルへの出演、憧れのアーティストとの共演など様々な夢を叶えてきた。今年で結成から7年、友達になってからは10周年を迎える。これまでの歩みを振り返ってみると、二人だから乗り越えられてきたことがたくさん見つかった。(Interview & Text:Rio Hirai[SOW SWEET PUBLISHING] / Photo: Miu Kurashima )

舐められていると感じても、 カッコいいことをしている自信があった

――【ともだち10周年ライブ】を控えているお二人は、10代の後半からの10年間という多感な時期を共に過ごしてきました。ユニットとして活動を始めるきっかけを聞かせてください。

Mamiko:確かに! 青春だね。

Rachel:そうだね、青春だねー。友達だったMamikoとラップを始めたのは、私がイベントで5分くらいの出し物をしなくちゃいけなくなって、「ラップしようよ」と誘ったのがきっかけ。

Mamiko:当時、私は高校3年生で受験勉強中でした。RachelにLINEで誘われて、最初は「やらないよ」って言ったんだよね(笑)。でも「思い出作りに、1回だけなら」と考え直してやってみることにしたんです。2人ともRIP SLYMEが好きで「どのメンバーのどのバースが良いか」まで語り合ってカラオケに行く約束もしていたから、その延長くらいの気持ちで始めてみたらそれがめっちゃ楽しかったんだよね。


――当時は今よりもラップをやっている女性は限られていたと思いますが、2人で突然始めることにハードルはなかったですか?

Mamiko:2人組でやっている人はさらにいなかったから、「いけるっしょ」と思っていたかも。でも舐められやすかったですね。自分たちで歌詞を考えていないと思われていて、「誰が歌詞書いているの?」と言われたり……。

Rachel:私がライブでチェキを撮ったりしていたのも原因かもしれない。でもアイドルと言われることは別にいいんですけれど、明らかに何か違う文脈で見られているのは感じていたよね。日常に小さな嫌味が潜んでいたりとか、何かちょっと軽んじられているというか……でも自分たちで歌詞も書いているし、カッコいいことをやっている自信はあったから、ちゃんと曲を聞いたりライブを見てほしいなと思ってた。

Mamiko:私はライブでは今よりも強気なことも言っていたかもしれない。でもその当時の記憶があんまりないんだよね。chelmicoを始めるまで部活にも入ったことがなくて、誰かと共同作業をする経験もないから、ラップを始めてすごく楽しくて熱中してた。だから何かムカつくことがあってもライブ中に発散していたし、例えば「わざわざ“フィメール”ラッパーというのはなんでなの?」と思ったら、そのままそれをMCで言ってましたね。

気さくでポップで明るくても、 言いたいことは言わなくちゃ

――そうやって解消していたんですね。その時感じていた違和感については、お二人の間でも話すことはあったんですか?

Rachel:よく話したよね。「なんか(態度が)変だったよね」と違和感を共有して、舐められているのを感じたら「(ライブで)絶対かまそう!」と鼓舞し合った。そうして前に進めたのは、2人組だからこそですね。

Mamiko:思ったことは全部自分で言わないといけないから、1人で活動している人はタフだよね。一方で、2人だと私たちの間だけで完結しちゃうこともあるから、今思えばそれだけじゃなくてちゃんと解決する方法を考えれば良かったかもしれないな。例えばムカつくことを言ってきた人に、「ムカつきました」と言ったり。

Rachel:「言われたら嫌な気持ちになる」というのも、相手に言わないと伝わらないからね。こう思えるようになったのは、2人で続けてきて今があるからだけど……今は気さく過ぎちゃって(笑)。

Mamiko:私たち、気さくだもんね(笑)。最初から「怖そうな人たち」だったら驚かれないかもしれないけれど、今私たちがピリついたらきっとめっちゃ怖いよ! ポップに明るくやってきちゃったから、何か言うハードルが上がってしまっているのかも。親しみやすいと思ってもらえるのは良いけれど、言いたいことは言わないと。


――ライブのMCでも言いたいことを言っていた時期があるように、お二人らしい伝え方はきっとあるんでしょうね。では、この場を借りて何か言うとしたら?

Mamiko:うーん、「“◯◯っぽい”っていうの良くないよ!」って言いたいかな。そう言われた相手にも、名前を引き合いに出された相手にも失礼だよね。そうやってカテゴライズしちゃうんじゃなくて、ちゃんと解像度を上げて耳を使ったらもっと楽しくなると思う。自分はどんな音楽が好きなのかわかるし、そこから枝分かれしていろいろなことが見えてくるはず。


chelmicoの活動が好きだから、 ライフステージが変わっても止まりたくない

――2020年には「Easy Breezy」がヒットし、2021年にはRachelさんが第一子を出産しました。女性にとって妊娠・出産は大きな出来事だと思いますが、chelmicoは何か変化しましたか?

Mamiko:あまり変わらないかも。Rachelから話を聞いた時は純粋に「おめでとう!」と思ったよ。Rachelがchelmicoの活動をすごく好きなのも知っていたから、止まるのは嫌だろうなとか、私のこともすごく好きなのも知っていたから「まみちゃんに迷惑かけてる」と考えるだろうなとか思ったから、あくまでも変わらず、ずっと普通にしていました。

Rachel:Mamikoが普通にしてくれているのが、すごく嬉しかったですね。ちょうどコロナ禍で有観客のライブもできなかった時期だけど、生配信のライブも続けていたしできる限りのことをしていました。


――Rachelさん自身は、子供を持ったことで何か心境に変化はありましたか?

Rachel:これまでも「こういう人がいたらいいな」という思いを持って活動してきて、出産してからはそこに「社会に対してどうあるか」という思いが少し入ってきた感じ。基本は変わらないけれど、子供の未来に向けてどういう音楽が流行っていたら嬉しいか想像するようにもなりました。あとは、「お金がいる!」と思って『3億円』という曲を作ったり……出産すると出産一時金というのがもらえるんだけど、それだけじゃ足りない(笑)。Mamikoは何か変わった?

Mamiko:私は、あまり人のことを気にしなくなってきたかな。大人になるにつれ、素直なほうが楽だと思うようになった。歌詞を書くのも、初めの頃は照れくさい気持ちもあったんだけれど、自分を出したほうがみんなも喜んでくれるし自分も楽になれる。それを続けてみて知った。最近はむしろ、周りの目を気にしなくなってきたのが怖いくらいかも。「こんなに大勢の前で、大声で歌ってるよ」という事実に改めて驚いたりしています(笑)。

Rachel:何かを決めるときも、周りの様子を窺わずに自分の意見をちゃんと言うようになったよね。頼もしくて、ありがたいです。

Mamiko:Rachelも、優しくなったよね。前から優しかったけれど、少しだけ派手に物を言ったり、パフォーマンスが尖っていた瞬間もあったんだけど。それが丸くなった。

Rachel:それは自覚があるかもしれない。でも逆にもどかしい気もしているんだよね。前みたいに人のこと考えずに言えちゃったり、決めちゃったりしたほうが楽かなって。でも、そうやって2人が少しずつ歩み寄ってるのかもしれないね。


“売れる”ってどんなことなのか これからも2人で探っていきたい

――お話を聞いていると、一緒にいるから変化にも気がつけるし、お互いが変化することでうまくいっているように見えますね。そうやって変わってきたお二人ですが、昔の自分たちにアドバイスをするとしたら?

Rachel:「もっと曲を作ったほうがいい」って言います。

Mamiko:本当にそれ!(笑)

Rachel:人の曲のカバーとかしなくて良いから、もっと曲をたくさん作らないとライブで困る! 当時は全く気にしていなかったし、焦りもなかったけれどね。

Mamiko:あとは「人と比べなくて良いよ」かな。良くも悪くも人と比べてストレスを溜めていたけれど、そんなことをしているよりも自分を信じてやったほうが良い。


――でもそうして、7年活動を続けている間にお二人はさまざまな夢を叶えてきました。これから先の目標はありますか?

Mamiko:たくさん聞かれる曲をもっと作っていきたいです。「◯週連続チャート1位!」って、言われてみたいな。

Rachel:普通に売れたいですね。でもその“売れる”が何かよくわかっていないから、それはMamikoやスタッフと一緒に考えていけたらな。海外ツアーとかもやってみたいよね。


――Billboard JAPANのチャートも、男性アーティストが過半数を占める結果が何年も続いているんです。どうしたら、女性アーティストがもっと活躍しやすくなると思いますか?

Rachel:音楽フェスティバルやイベントでも、女性アーティストが少ない現場はたくさんあります。そういう中で出演させてもらえるのはありがたいけれど、活躍する女性が増えていくには活躍している女性を目にする機会が増えるのも大切だと思う。「自分でもできるかも」と思うことが、チャンスを広げてくれるはずだしね。

Mamiko:自分たちが主催するならば男女比を意識したりするかもしれないけれど……。

Rachel:やってみたいね! 面白いが人いっぱいいるからなぁ。

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