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<コラム>生まれ変わった名曲&現代的アプローチの新曲を多数収録、日米キャストの個性光る『リトル・マーメイド』OST



コラム

Text:村上ひさし

 全国公開中の実写版 『リトル・マーメイド』。ひと足先に封切られた海外では既に記録破りの大ヒットとなり、全米では実写版『アラジン』(2019)を超えるビッグスタートを切っている。その色褪せない感動を呼ぶストーリー、実写ならではの迫力の映像などが絶賛されているが、音楽も負けないくらい重要なポイントだ。


(C) 2023 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

 1989年(日本では91年)に公開されたアニメーション版『リトル・マーメイド』は、サウンドトラック・アルバムも大ヒットを記録、全米だけで600万枚以上を売り上げた。【アカデミー賞】で<歌曲賞>(「アンダー・ザ・シー」)と<作曲賞>に輝き、【グラミー賞】や【ゴールデン・グローブ賞】でも受賞を果たした。人魚姫アリエルの美しい歌声は主人公のみならず、鑑賞した全ての人をうっとり魅了。陽気なトロピカルムード満載の「アンダー・ザ・シー」などの名曲は、夏を彩る定番曲として親しまれてきた。


(C) 2023 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

 今回の実写版『リトル・マーメイド』においては、89年のアニメーション版で音楽を担当したアラン・メンケンが再び参加している。メンケンといえば『美女と野獣』(1991)、『アラジン』(1992)、『ポカホンタス』(1995)、『ヘラクレス』(1997)、『塔の上のラプンツェル』(2010)といったアニメーション作品の音楽、『ニュージーズ』(1992)、『魔法にかけられて』(2007)などのミュージカル作品の音楽を手掛けてきたディズニー・レジェンド。その彼が往年の名曲をアップデートし、新たな息吹を吹き込んでいる。さらに故ハワード・アッシュマンに代わり、ブロードウェイ・ミュージカル『ハミルトン』(2015)や、『モアナと伝説の海』(2016)、『ミラベルと魔法だらけの家』(2021)などのディズニー音楽を手掛けるリン=マニュエル・ミランダも作詞で参加。3曲の新曲が書き下ろされている。

 早くから注目を集めたヒロインの人魚姫アリエル役には、ハリー・ベイリーが抜擢。長編映画にはこれが初主演となる彼女だが、歌手としては既に多くの実績を積んでいる。姉妹デュオのクロイ&ハリーとして、これまでに2枚のアルバムをリリース。【グラミー賞】では<新人賞>を含めて5回ノミネートを受ける実力派。あのビヨンセが大いに肩入れしているのも頷けよう。ロブ・マーシャル監督をして「誰よりも美しい歌声をもつ人魚姫アリエルを体現できるのは、彼女しかいなかった」とまで絶賛させたハリー。オーディションでは「パート・オブ・ユア・ワールド」を完璧に歌い上げ、「彼女こそがアリエルだ」と監督に確信させたという。クロイ&ハリーでは、ネオソウル/オルタナティブR&B寄りの楽曲を歌ってきた彼女だが、ここでは86人編成のオーケストラをバックにアリエルに成り切った見事な歌唱で圧倒する。


 新たに書き下ろされた3曲の新曲の中で、特に耳目を集めるのがハリーの歌う「何もかも初めて」と題されたブロードウェイを思わせるミュージカル・ナンバーだ。アリエルが人間社会を初めて体験し、美しく変身していくシーンの映像と相まって、ワクワク胸がときめかずにいられない。ハリーも、ここぞとばかりに伸びやかな美声を響き渡らせて本領を発揮。ミュージカルの定番曲となりそうだ。

 陽気でコミカルな新曲「スカットル・スクープ!!」も、ハイライトのひとつ。スカットル役のオークワフィナ(『フェアウェル』、『クレイジー・リッチ!』)と、カニのセバスチャン役のダヴィード・ディグス(ミュージカル『ハミルトン』、『ワンダー 君は太陽』)がラップを交えて、絶妙な掛け合いを聴かせてくれる。リン=マニュエル・ミランダならではの現代的アプローチと言えそうだ。


 ダヴィード・ディグスは、前述の「アンダー・ザ・シー」でも躍動感溢れる素晴らしい歌を聴かせてくれる。また魔女アースラ役のメリッサ・マッカーシー、王子エリック役のジョナ・ハウアー=キングも、役柄に徹した個性的な歌で楽しませてくれる。


 そして、もちろん日本語吹替版の歌は、よりダイレクトに情感やキャラクターの個性を伝えてくれるだろう。アリエル役の豊原江理佳の涼やかで伸びやか歌声は、事前に公表されたミュージック・ビデオでも確認された通り。アリエルの芯の強さが、凛とした歌声から伺える。アメリカ本国のスタッフも絶賛だったという。


 王子エリック役の海宝直人は人間味溢れる歌をエモーショナルに披露し、魔女アースラ役の浦嶋りんこは、恐ろしい企みをおどろおどろしく歌い上げる。またカニのセバスチャン役の木村昇はコミカルな調子で物語の案内役を務め、スカットル役の高乃麗は、高速ラップで笑わせる。といったように日本版にも実力派が勢揃い。映画を日本語吹替版で観た人は、きっと英語版が気になるだろうし、その逆も然り。アルバムで両方のバージョンを聴き比べても楽しいはずだ。

 その他、「キス・ザ・ガール」のアイランド・バンドによる演奏、「市場」のスコアなど、カリブ海を思わせるトロピカル・サウンドが満載されているのも聴きどころだ。耳を傾けているだけで、カリブのビーチやディズニーリゾートに行った気分が味わえるのではないだろうか。

 

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