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<コラム>期待の歌姫ハリー・ベイリー、実写版『リトル・マーメイド』が示す新たなスタンダードに最適なワケとは



コラム

 6月9日に日本公開スタート、公開3日間で興行収入7億1,180万円をマークし、週末ランキングで初登場1位を記録した実写版『リトル・マーメイド』。本国アメリカでは初日の金曜を含めた3日間の興行収入は約9,550万ドル(日本円で約133億円)となり、『アラジン』超えの全米No.1の特大ヒットスタートを記録した。イギリスやヨーロッパ各国などでも好調なスタートを切っていることから、本作品に対する期待度の高さは明らかだ。

 人気が高いがゆえに、ディズニー・ルネッサンスを代表するアニメーション版の実写化の詳細が発表されたときは様々な論争を引き起こしたが、主人公アリエルを演じるハリー・ベイリーの歌声には、誰もが納得。彼女がいかに実写版アリエルの適役なのかを、キャリアを振り返りながら説いていく。(Text by 新谷洋子)

 日本での知名度こそまださほど高くないものの、アメリカではすでにZ世代を代表するポップ・アイコンかつマルチ・タレントの一人として、広く支持を勝ち取っているハリー・ベイリー。姉妹デュオのクロイ&ハリーの一員である彼女こそ、ディズニーの名作アニメーション映画のひとつ『リトル・マーメイド』を、公開から34年の年月を経て新しい世代に送り届けるという大役を委ねられた女性だ。

 現在はロサンゼルスで暮らしているが2000年にアトランタで生まれたハリーは、2歳年上の姉クロイ共々、子役俳優としてテレビドラマや映画で活躍。その傍らで、ギター(ハリー)やピアノ(クロイ)を練習し、一緒に曲を作って声を重ねて歌うようになった姉妹は、クロイ&ハリー(“Chloe×Halle”と表記する)と名乗って音楽活動をスタートする。YouTubeのチャンネルにアップしたカヴァー曲で話題を呼ぶのだが、やがて姉妹の歌はビヨンセの耳を捉え、彼女が自ら主宰するマネージメント会社兼レーベル=パークウッド・エンターテインメントと契約。2016年にEP『Sugar Symphony』で正式なデビューを果たし、ビヨンセのヴィジュアル・アルバム『レモネード』(2016年)に出演したり、彼女のツアーの前座を務めたりするなどして、偉大な先輩から多くを学ぶ機会を得た。


 その後ふたりは、自ら作詞作曲だけでなくプロダクションにも関わって作り上げた、2枚のアルバム――『The Kids Are Alright』(2018年)と『Ungodly Hour』(2020年)――を発表。R&Bを出発点にしながらもジャンルの枠に縛られておらず、姉妹ならではのナチュラルに絡み合う繊細で複雑なヴォーカル・ハーモニーを前面に押し出したこれらの作品は、ミニマルかつドリーミーなエクスペリメンタル・ポップをショウケースし、ふたりのミュージシャンシップと曲の完成度とオリジナリティはメディアの絶賛を浴びた。そして『The Kids Are Alright』は【第61回グラミー賞】で<最優秀新人賞>と<最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム賞>の2部門に、『Ungodly Hour』は【第63回グラミー賞】で<最優秀プログレッシヴR&Bアルバム賞>など3部門にノミネート。殊に、緻密に作り込んだサウンド表現で大幅な進化を見せた『Ungodly Hour』は、世界各地の主要メディアの年間ベスト・アルバム選の上位にランクインした。



 その『Ungodly Hour』がリリースされる頃にはハリーが『リトル・マーメイド』に主演することが報じられ、以来公開が待たれていたわけだが、話題を呼んだのは彼女の起用だけに留まらない。1989年に公開されたアニメーション版を実写化した本作は、ミュージカル映画の名人ロブ・マーシャル(『シカゴ』『イントゥ・ザ・ウッズ』)が監督。サウンドトラックには、同じくミュージカル界の奇才で『ハミルトン』や『イン・ザ・ハイツ』を生んだ戯曲家・作曲家・俳優のリン=マニュエル・ミランダが、アニメーション版の音楽も手掛けたディズニー作品でお馴染みの名匠アラン・メンケンと書き下ろした新曲がプラスされたほか、歌詞がアップデートされた曲もある。ハリーは前作から引き継いだ主題歌「パート・オブ・ユア・ワールド」のニュー・ヴァージョンや、新曲のひとつ「何もかも初めて」などで、広くそのヴォーカル力を見せ付けている。


 これらの曲は言うまでもなく、クロイ&ハリーのオルタナティヴ志向の作品とは一線を画す王道のミュージカル/ショウチューンのスタイルに則っており、定評ある美しいハイトーン・ヴォイスからフレッシュな魅力を引き出して、印象を刷新。新しいファンを獲得することは必至だ。今後の音楽活動についてはどういう動きを見せるのか不明ではあるが、クロイ&ハリーの新作も期待されるし、この先幾つか出演映画の公開が控えているハリー。役者として、ミュージシャンとして、底知れないポテンシャルを秘めている。

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