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<コラム>フー・ファイターズは止まらない 大切な人へ捧ぐアルバム『バット・ヒア・ウィ・アー』でバンドの健在ぶりを証明



コラム

Text:鈴木喜之
Photo:Scarlet Page

 

 フー・ファイターズが、ニュー・アルバム『バット・ヒア・ウィ・アー』をリリースした。昨年3月にツアー先の南米コロンビアで、ドラマーのテイラー・ホーキンスが急逝するという悲劇に見舞われたバンドにとって、あまりにも重い意味を背負った作品となったことは間違いない。

 思い起こせば、2021年2月に発表された前作『メディスン・アット・ミッドナイト』は、彼らが絶好調であることを改めて印象付ける快作だった。続けて、ディー・ジーズ名義でビー・ジーズのディスコ!なカバー作品『ヘイル・サテン(Hail Satin)』(※ビー・ジーズのイメージ=サテンと、悪魔のサタンをかけたダジャレ)を出したり、『スタジオ666』なんていうホラー・コメディ映画を撮ったりするなど、その悪ノリにはいっそう拍車がかかっている。バンド結成から25年を超えて、勢い衰えるどころか、さらなる加速を見せながら、そのまま同年には遂に【ロックの殿堂】入りも果たした。そんなところに、思いもかけぬ悲劇が起きてしまった。



 中心メンバーであるデイヴ・グロールにとって、テイラー・ホーキンスがどれほど大事な存在であったかは、ファンならばよく知っていることだと思う。そして、数か月後には、デイヴの母親ヴァージニア・グロールも亡くなってしまった。

 それでもデイヴ・グロールと仲間たちは、巨大な喪失を抱えつつも、だからこそ音楽へと向き合い、それを形にすることを選んだのだ。

 「ヴァージニアとテイラーに捧げる」と記されたアルバムの収録曲の歌詞には、最も大切だった人へ向けた哀悼の気持ちが赤裸々なまでに綴られており、胸を締め付けられそうになる。ただ、そうした言葉がのせられる音楽は、ひたすら悲痛なものになっているわけではない。



 先行公開された1曲目の「レスキュード」では「今夜、俺を救ってくれ!」と叫んでいるが、曲自体は「これぞフー・ファイターズ!」と感じさせる力強いハード・ロックだし、続く2曲目「アンダー・ユー」も<乗り越えた/そう、俺は乗り越えつつあるんだ/いいや、これを乗り越えることなんてない>と歌いながら、生き生きとした軽快感に溢れている。

 さらにアルバムを聴き進んでいって驚かされるのは、典型的なFF流ロック・ナンバーばかりでなく、ソングライティングやサウンドプロダクション面での新機軸が次々と溢れ出してくることだ。「ヒアリング・ヴォイシズ」終盤でピアノをフィーチャーしたデモっぽい音源に切り替わる技や、タイトル曲「バット・ヒア・ウィ・アー」におけるシンバルの音色とか要所要所にかまされるシャウトの処理の仕方など、細かい工夫にも惹かれる。

 タイトなビートからの展開が熱い「ナッシング・アット・オール」、愛娘ヴァイオレット・グロールとのデュエットが美しい「ショー・ミー・ハウ」、こんな曲を書けるようになったのか!と感嘆してしまうほど聴きごたえ満点の「ビヨンド・ミー」、そして10分を超す長尺の大曲「ザ・ティーチャー」(※デイヴの母親は教師だった)と、確かな前進を示してみせる楽曲がずらりと並ぶ。そこから辿り着いた最終曲「レスト」(「おやすみ」と呼びかけるアコースティック弾き語り、では終わらない……)まで聴き終えたリスナーは、深い感動に包まれること必至だろう。




Foo Fighters - The Teacher


 昨秋9月には、英ロンドンのウェンブリー・スタジアムと米ロサンゼルスのフォーラムで、それぞれ錚々たるゲストを迎えたテイラーのトリビュート・イベントが大々的に開催されたが、その後から本格的なレコーディングに入ったと思われるタイムスケジュールを考えれば、ただでさえ普通ではいられないような空気の中、これだけの力作を短期間に完成させたことは、素直に驚嘆すべきことだ。

 前々作『コンクリート・アンド・ゴールド』、前作『メディスン・アット・ミッドナイト』に引き続き、今回もグレッグ・カースティンがプロデュースを担当しており、近年そのカースティンとともに、バンドの音楽性を拡充する方向性を追求してきた経験が、このような状況でも大きな成果をもたらしたのは確かだろう。まさにタイトル通り「まだ俺たちは、ここにいる」とバンドの健在ぶりを示すには十分すぎる内容だ。



 アルバムのリリースに伴い、すでに大々的なツアーも開始されている。それに先駆けて、リハーサルの模様も全世界配信で披露された。そこでは、チャド・スミス(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)、トミー・リー(モトリー・クルー)、ダニー・ケアリー(トゥール)といったスーパー・ドラマーたちが登場して思わせぶりな小芝居を見せる、いかにもフー・ファイターズらしい茶目っ気に満ちた演出を経て、新ドラマーはジョシュ・フリーズが務めることも明らかになった。

 「最強の助っ人ドラマー」と称されるジョシュは、これまでにスティング、ガンズ・アンド・ローゼズ、ヴァンダルズ、ザ・リプレイスメンツ、ア・パーフェクト・サークルなど数多くのバンドでプレイしてきた百戦錬磨のキャリアを持ち、当然のように素晴らしい技量を備えたドラマーだ。単に上手いというだけでなく、テイラー・ホーキンスとは同郷の仲良しだった彼が、後任を担うには最適任であることは間違いない。

 これまでに行われたライヴでは、過去にジョシュが叩いた実績のあるナイン・インチ・ネイルズやディーヴォの曲を演奏するような場面も見られたという。数えきれないほどのセッションワークをこなしてきたジョッシュだけに、今後どんなカバーが披露されることになるのかも、フー・ファイターズのライヴでのお楽しみのひとつになったりするのかもしれない。

 また、テイラーのリード・ヴォーカル曲「コールド・デイ・イン・ザ・サン」をデイヴがアコースティック弾き語りで歌ったことなども伝えられる一方、デイヴの娘ヴァイオレットに加え、テイラーの息子であるシェーン・ホーキンスも舞台に上がり、亡き父のドラムを叩く堂々たる勇姿を見せたそうだ。あくまで個人的な推測でしかないが……ジョシュ・フリーズはツアー・サポートという役割が本来のスタイルであり、必ずしも正式メンバーとしての加入でなくとも不本意な扱いにはならないため、もしかしたらジョシュは、将来的に後任となる人間がしっかり育つまで、最高の中継ぎを務めることになるのではないだろうか。いずれにせよ、現在のフー・ファイターズからは、先代のロック・ミュージックに対するリスペクトを体現しながら、未来を担う若い世代にそのバトンを繋げようとする意思が伝わってくる。

 すでに今年7月の【フジロック・フェスティバル】でもヘッドライナーを務めることが発表されているが、そこではどんなパフォーマンスを見せてくれるのか、今から楽しみでならない。テイラーがフー・ファイターズ参加以前にバックを勤めていたアラニス・モリセットも同日の出演が決定しており、きっと、アジアの地におけるテイラー・トリビュートの場として、注目すべきステージになることは確実だ。

 最愛の人を失った傷がそう簡単に癒えるわけはない。しかし、その痛みに耐える、というよりも、その痛みを抱きしめて自分の人生を生き続けていくような感じで、フー・ファイターズは活動を続けていってくれるはずだ。その姿を、これからもずっと見届けていきたい。



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