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<インタビュー>YOASOBIが語る「アイドル」誕生秘話、完璧で究極な“アイ”への想い【MONTHLY FEATURE】
Interview:Takuto Ueda
Billboard JAPANが注目するアーティスト・作品をマンスリーでピックアップするシリーズ“MONTHLY FEATURE”。今月は、小説を音楽にするユニット、YOASOBIのインタビューをお届けする。
彼らの最新シングル「アイドル」が今、とにかくセンセーショナルだ。現在放送中のTVアニメ『【推しの子】』のオープニング主題歌に起用されているこの曲は、以前から原作のファンだったというAyaseが同作からインスパイアされ、タイアップ決定前からすでに作っていたというデモソングが原型となっている。歌詞は、原作者の赤坂アカ書き下ろしの小説『45510』をもとに考えられた。
生々しくリアルな描写で芸能界の光と影を描く『【推しの子】』は、アニメ放送開始前から大きな話題を呼んでいた。そのオープニング主題歌となる「アイドル」も、情報解禁後すぐさま注目され、アニメ放送開始と同日4月12日にリリースされると、4月19日に公開された“Billboard JAPAN Hot 100”では初登場首位を獲得、現在もトップの座を守り続けている。
そんな「アイドル」の制作秘話や、直木賞作家とのコラボ企画から生まれた『はじめての - EP』、そしてライブに対する考え方や現在開催中の【YOASOBI ARENA TOUR 2023 “電光石火”】の手応えについて、二人に話を聞いた。
「この芸能界において嘘は武器だ」
地方都市で働く産婦人科医・ゴロー。
ある日"推し"のアイドル「B小町」のアイが彼の前に現れた。
彼女はある禁断の秘密を抱えており…。
そんな二人の"最悪"の出会いから、運命が動き出していく―。
(TVアニメ『【推しの子】』公式サイトより)
挑戦の化学反応『はじめての - EP』
――まずは『はじめての - EP』について。島本理生、辻村深月、宮部みゆき、森絵都の直木賞作家4名とのコラボ企画で、それぞれが書き下ろした原作小説をもとにした楽曲が収録されています。2022年2月に始動したプロジェクトですが、ついにパッケージ作品が完成しましたね。
Ayase:楽曲が聴けるCDと原作の小説が一緒に入っているので、コラボの集大成というか、“小説を音楽にするユニットYOASOBI”の全てを詰めた作品になりました。始動から1年くらい経っているのですごく達成感があります。
ikura:これだけ長いプロジェクトも初めてだよね。
Ayase:本当に「やりきったな」という感じです。
ikura:結成して間もない頃から「こういうことをしたいね」という話はしていて。4年目を走っている今のYOASOBIの真骨頂だと思いますし、何よりも素晴らしい原作小説を書いていただいたからこそ、すごく大事な財産になったプロジェクトだと思います。
――YOASOBIとしても“はじめてのこと”にチャレンジした4曲だと思うのですが、制作を振り返って印象に残っていることはありますか?
Ayase:まず全体を通して“その瞬間に僕が表現したい曲”をそのまま書かせてもらったというか。例えば「ミスター」のときはシティポップをやりたかったし、最後の「セブンティーン」ではラウドな雰囲気の曲をそろそろ作りたいなと思っていた頃で。原作小説のテーマが“はじめて〇〇したときに読む物語”で、作家の皆さんも初挑戦的なことに取り組んでくださったので、僕らとしても躊躇いなく振り切ってやることができました。いろいろな引き出しが増えた4曲だと思います。いい化学反応が生まれたなって。
YOASOBI「ミスター」Official Music Video
YOASOBI「セブンティーン」Official Music Video
――作家の皆さんが意欲的に向き合ってくれたからこそ、YOASOBIも安心して挑戦できたわけですね。
Ayase:本当にそうですね。すごく楽しかったです。
ikura:辻村さんと対談させていただいたとき、戦隊モノみたいにそれぞれの強みが光っているとおっしゃっていたんですけど、本当にその表現がぴったりだなと思いました。
Ayase:“はじめての”という一つのテーマのもとに集まって、全員が遊びながら上手に化学反応を起こした結果、すごく立体的な世界が生まれたというか。いろいろなメディアミックスをしていくYOASOBIにとって、めちゃくちゃいい形のプロジェクトにすることができたし、今までやってきたことの代名詞にもなるなって。
――コンプリート盤にはライブ映像も収録。初めてYOASOBIに触れる入り口としてもぴったりな商品です。
Ayase:文芸的な要素も含んでいるので、親御さんが子供にプレゼントしてくれるようなこともあるのかなと思っています。
ikura:そういえば英語の先生が、YOASOBIの曲を英語版と日本語版で聴き比べて、どういう意味合いから小説とリンクしているか、みたいな授業をしてくださっていると聞いたことがあって。
Ayase:すご。それ、めっちゃむずくない?
ikura:そもそもYOASOBIって音楽だけじゃなく、小説やイラストやムービーとか、ジャンルを超えていろんな作品に触れるための入口として機能するプロジェクトというコンセプトがあったから、本当に集大成的な感じはしますね。
リリース情報
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『【推しの子】』芸能界の光と影
――その一方で、現在放送中のTVアニメ『【推しの子】』ではオープニング主題歌「アイドル」が起用され、爆発的なヒットを記録中です。Ayaseさんはもともと原作のファンだったんですよね?
Ayase:そうですね。本当にびっくりでした。『【推しの子】』は自分でたまたま見つけた作品で、最新話まで一気に読んだあと、「何かを生み出したい」という創作意欲がものすごく湧いてきて、そのままインスパイアされながらばーっと曲を書いたんです。約1年半前のことなんですけど、それが結果的に「アイドル」になったので、本当に奇跡的な巡り合わせですね。
――その時点で現在の「アイドル」の原型ができていた?
Ayase:というか、ほぼ一緒です。もちろん歌詞は全然違うんですけど。YOASOBIとして発表する予定もなかったので、ボカロとかで出そうかなと考えていました。それを数日前に思い出して、当時のメモを読み返したら「とにかくケンカが強い女の子」と書いてあって。
――へぇ!
Ayase:最強無敵のケンカが強いバトルガール、でも何かしらの闇を抱えている、みたいな。すごくぼやっとした設定なんですけど、それ以外は聴いてくれた人に空想で楽しんでもらう曲にする、というのがテーマとしてあって。それが“最強無敵のアイドル”になりました。なので、サビの<究極のアイドル>のメロディで<究極の奥義>と歌っていて。
ikura:あはは、そうなんだ! めっちゃ新情報じゃん。
Ayase:タイトルも「究極の奥義」にするつもりだった。
――『ストリートファイター』的な(笑)。
Ayase:そうそう、まさに。春麗みたいな。だから、最初はちょっとチャイナっぽい曲調だったんですよ。それから時間を経て、正式に楽曲としてリリースして、これだけたくさんの人に聴いてもらえているのが感慨深いです。
――ikuraさんはオファー後に『【推しの子】』を読み始めたんですよね。どんな部分に魅力を感じましたか?
ikura:ここまで芸能界の光と闇がリアルに描かれていることにまず驚きました。しかも、それがアイドルという、人々が偶像として崇拝するような存在をテーマにしている。もちろん自分はアイドルをやっているわけではないので違う部分もありつつ、やっぱり重なる部分もたくさんあって。
――4月12日のアニメ第1話は90分拡大放送。その最後で待っていた衝撃的な展開をはじめ、人々に夢を見させる煌びやかな芸能界の負の側面について考えさせられる内容です。
ikura:アーティストが活動をしていくなかで精神的に傷つけられてしまうことって、今の時代では珍しいことではないし、自分も少なからずそういう経験はあって。この作品を通して、世間の人たちの芸能界を見る目線だったり、アイドルという存在についての考え方も変わっていくんじゃないかなと思います。
Ayase:ものすごい解像度ですよね。とはいえ、多くの人はこれをフィクションとして見るんだろうけど、むしろ現実はこれ以上にキツいものだったりもするんだぜ、とも思ったり。だからこそ、自分も同じような仕事をしている人間であるにもかかわらず、「グロい世界だな」とちょっと俯瞰的に見ているところがあるんですよ。なので、作詞に関しては、まず芸能の世界や人前に立つお仕事について、原稿用紙何枚かにばーっと自分の考えを書き起こすことから始めて。
――自分の中で新しい発見とかありました?
Ayase:思っている以上に不満を感じることもあるなと思いました(笑)。応援してくれているファンのみんなには感謝しかないけど、芸能界そのものには納得できない瞬間がもちろんたくさんあるわけで。それでも僕らはクリエイターなので、0から作品を作って発信できるぶん、助けられていることもあって。例えばアイドルや声優の方々のような、たくさんの人と一緒に一つの作品を作り上げていくタイプのお仕事をされている方々には、たぶん僕らとはまったく違う、計り知れない苦労があると思っていて。そういうことをすごく考えましたね。
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アイへの想い「アイドル」
――「アイドル」の原作小説は、赤坂アカ先生が書き下ろした『45510』です。内容は、アイとともに苺プロダクション所属アイドルグループ“B小町”として活動していた元メンバーの視点から描かれた物語でした。これについてはどんなやり取りがありましたか?
Ayase:初稿をいただいたあとに実際にお会いして打ち合わせをしつつ、特に作品の視点についてはリクエストを出させていただいたりしました。僕がどうしてもアイを主人公にしたくて。ただ、アイとは、その本質は誰も知りえない存在だからこそ究極なんだ、ということが赤坂先生とお話しするなかで理解できた部分でもあって。その落としどころとして、赤坂先生からB小町の子から見たアイの姿や出来事をベースにした現在公開されている小説の原型をいただいて、これであればアイの神秘性を守りつつ、僕もアイのことを想いながら曲にできるなって。素晴らしい小説に仕上げていただけて感謝です。
――歌詞を読み進めていくと、前半はおっしゃる通り、他者の視点から見たアイが描かれていて。でも、後半はアイの視点に移り変わって、彼女の秘密が少しだけ明かされる。「アイドル」の制作において、アクアとルビーの存在はどのように解釈するつもりでしたか?
Ayase:アクアとルビーに関しては、“この二人がいる”という事実が全てでした。この楽曲ではアニメにおける1話の最後、あの瞬間までのことだけを描いていて。アイが生きていたときに思っていたこと、起きた出来事、そしてアクアとルビーに対する愛を語る、そんな楽曲がその後もずっとオープニング主題歌として歌われ続けば、いつまでもアイのことを忘れないし、彼女の存在が伝説になっていくと思ったんですよね。
YOASOBI「アイドル」 Official Music Video
――ikuraさんはこの曲の歌詞をどう受け取りましたか?
ikura:前半がアイとは違う視点なので、最初はどういう声色やニュアンスを作ればいいのか分からなくて。第三者の視点から見ているからこそ、偶像としてのアイを確立できる、という歌詞には感動しつつ、やっぱり難しいなと思って。いろいろ悩んだ結果、これは自分の中だけで決めると作品に対するリスペクトに欠けちゃうかもしれないと思ったので、まずはメロディのラインを覚えて、ラップの参考になるような音楽も聴きつつ、声色はレコーディングと同時並行で一から考えていくという、今まであまりやったことがない方法で挑みました。
Ayase:ラップのパートに関しては、最初はごりごりな方向性でいこうと思っていたんですけど、ikuraはラッパーというわけではないので、いろいろとアプローチを探った結果、本場のヒップホップを真似するわけではなく、誰よりもかわいいラップをしてもらうのが正解だなって。最初のイメージから、実際に歌ってもらって変えた部分もたくさんありますね。
ikura:“ちょっと狂った感じの歌い回し”とか。
Ayase:あぁ、そういう言葉遣いをしていたね。ラップの語尾の部分はそういうニュアンスをつけてもらって。「ちょっとやり過ぎかな」とか言いつつも、意外とそれぐらいがちょうどよかったりして。
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YOASOBIは「まだまだ成長期」
――サウンドメイクの着想については?
Ayase:とりあえずGHOSTEMANEみたいな強いローが出したくて。去年、インドネシアでライブさせてもらったとき、Rich Brianのパフォーマンスを見て、トラップの音を生で聴いたときのローの鳴りに圧倒されて、ぶっ飛んだんですね。とにかく気持ちよくて。「これ、俺もライブで出したい」と思って、ついに808ベースを入れました。ライブで鳴らしたいサウンドというのは意識しましたね。
Rich Brian - Slow Down Turbo | LIVE at Head in the Clouds Jakarta 2022
――ガールクラッシュ的なラップもより際立ちますよね。同時に、コーラスも相まってどこかシンフォニックで大仰なサウンドスケープも浮かび上がってくる。
Ayase:そうですね。だからなのか、Twitterで「Ayaseはメタラーだ」ってめっちゃ書かれるんですよ(笑)。でも、ここで声を大にして言いたいんですけど、僕はメタルではなくハードコアがルーツなんです!
――ラップパートはハードコア・パンク的なブレイクダウンを彷彿とさせますよね。
Ayase:ちゃんとビートダウンもしてますからね。いつでも僕はハードコア・スピリッツを掲げているつもりです。
――目まぐるしく変化していく曲展開に対して、ikuraさんの流動的なボーカル・アプローチもしっかり対応している。YOASOBIの新境地ともいえる楽曲に仕上がっていると思います。
ikura:メロディの部分ではかわいらしいアイドルを表現しつつ、ラップのパートではダークな感じも出していて、その光と影みたいな二面性は今までの曲にはあまりなかったと思うし、ライブ・パフォーマンスでもしっかり体現しようと意識しています。
――先日のTikTokライブでは最後に披露していましたね。
Ayase:この曲は本当にライブの現場で聴いてほしいと思います。専用のSEも作ったし、音響さんにも爆音にしてくれと頼んでいるので。ツアー初日はガイシホールが吹き飛んだかと思いました(笑)。この曲のライブでの手応えとかパフォーマンスの楽しさが分かったことによって、今年の夏フェスへのモチベーションもすごく上がりましたね。
――2021年末の日本武道館ワンマン直後のインタビューで、Ayaseさんは2022年の展望として「ライブバンドとしてのYOASOBIを屈強なものにしていく」「フェスで勝つバンド」とおっしゃっていました。その最初のマイルストーンになったのが【ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2022】。YOASOBIの夏フェスデビューでしたよね。
Ayase:去年のロッキンに関しては、やっぱりまだ手探りなところがあって。フェスに出て、トリを任せていただいて、あれだけたくさんのお客さんの前に立った、その状況がとにかく楽しかったので、初々しくも気持ちよく、爽快感のあるライブができた思い出があります。ただ、それからアリーナツアーや海外フェスも経験したので、やっぱり今が一番タフな状態です。楽曲やパフォーマンスの強度、クオリティをしっかり仕上げた状態で、きっとフェスにいる耳の肥えたお客さんにも立ち向かっていけるんじゃないかなって。
ikura:去年の夏フェスは、メンタルもフィジカルも120%で臨んだうえで、お客さんに助けられた部分もすごくあって。今やっているアリーナツアーでは、もっとバンドとしてお客さんを引っ張っていって、そのうえで一つになるライブというのを強化中です。その状態で夏フェスにお邪魔したとき、ツアーと違ってYOASOBIのファン以外のお客さんもいるなかで、どれだけ一緒になって楽しめるか、今からわくわくしますし、それと同時にフェスは戦いの場でもあると思うので、引き続き“勝てるバンド”を目指します。まだまだ成長期なので、それを乗り越えてタフな姿を見せていけたらいいなと思います。
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