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<コラム>スピッツの新しい代表曲「美しい鰭」から見るバンドのあくなき挑戦と“楽曲の持つ力”
Text:柴那典
スピッツがヒットチャートを賑わせている。
5月17日に3年半ぶりとなるニュー・アルバム『ひみつスタジオ』をリリースした彼ら。スピッツと言えば「ロビンソン」や「チェリー」などエバーグリーンな名曲の数々を思い浮かべる人も多いと思うが、むしろ注目すべきトピックは、アルバム収録の新曲「美しい鰭」がストリーミングサービスを中心に大きな反響を巻き起こしているということ。YOASOBIやOfficial髭男dismやVaundyなど新世代のアーティストに並び、今、音楽シーンのトレンドの最前線で破竹の勢いを見せているのである。
チャート・アクションの数字も目覚ましい。4月12日にリリースされた先行シングル「美しい鰭」はBillboard JAPAN 総合ソング・チャート“JAPAN Hot 100”で初登場2位を記録。その後も6週連続でトップ5入りする順調な推移を続け、2023年5月24日公開(集計期間:2023年5月15日~5月21日)の最新チャートでは総合2位となっている。なかでも目立つのがストリーミング指標の好調さだ。週間再生回数は1,000万回を突破し、首位を走るYOASOBI「アイドル」に続いて3週連続で2位となっている。
1991年のデビューから、活動休止することもなく、メンバーチェンジもなく、数々のヒットソングを世に送り出し、“国民的バンド”として長いキャリアを築いてきたスピッツ。ここ最近、そのファン層はさらに幅広い世代に広がっている。90年代から彼らのことを追ってきたリスナーだけでなく、10代や20代の若い世代のファンが一段と増えているのである。
ストリーミングサービスのランキングからもそのことが見てとれる。LINE MUSICが発表した2023年4月の「10代トレンドランキング」では、「美しい鰭」は4位にランクイン。1位はYOASOBI「アイドル」、2位は百足&韻マン「君のまま」、3位は優里「ビリミリオン」と若年層に人気のアーティストが並ぶ中、これだけキャリアのあるアーティストが「10代トレンドランキング」の上位にランクインするのは異例のことと言える。
もちろん、その理由としては、この曲が劇場版『名探偵コナン 黒鉄の魚影』の主題歌として書き下ろされたということが大きいだろう。4月14日に公開された映画はシリーズ史上初の興行収入100億円を突破する記録的なヒットとなっている。物語に寄り添い感動の余韻を残すこの曲は、『名探偵コナン』のファンにも評判を呼び、映画のヒットと共に話題を広げていった。
「美しい鰭」ミュージックビデオ
ただ、タイアップの話題性はあくまできっかけにすぎない。リリースから1か月以上が経った今も週間再生回数が上昇し、浸透し続けている理由は、やはり曲の持つパワーにある。思わず口ずさんでしまうキャッチーなメロディ、躍動的なリズム、草野マサムネの優しい歌声と、スピッツの魅力を真正面から詰め込んだこの曲。一度聴くと再び聴きたくなる。何度聴いても飽きない新鮮さを持っている。そういう楽曲の持つ力がロングヒットの原動力になっている。松居大悟が監督をつとめ、スピッツのファンとして知られる上白石萌歌が出演したこの曲のミュージック・ビデオも注目を集めた。
アルバム『ひみつスタジオ』も、17枚目のアルバムとは思えないくらいのフレッシュな作品になっている。
収録曲の中でも、特にみずみずしい情感を感じさせてくれるのが、「ときめきpart1」。映画『水は海に向かって流れる』の主題歌として書き下ろされた美しいメロディの1曲だ。
「ときめきpart1」ミュージックビデオ
他にも劇場版『きのう何食べた?』の主題歌「大好物」、2021年TBSテレビ系『news23』のエンディング・テーマ「紫の夜を越えて」などのタイアップ曲を収録した本作。アルバム収録の新曲では、「跳べ」や「めぐりめぐって」などの疾走感あふれるエネルギッシュなロックナンバーが印象的だ。
その背景には、コロナ禍を経た制作状況もあったようだ。『AERA』2023年5月29号に掲載されたインタビューでは、草野マサムネは「ここ数年、世の中が明るくなかったじゃないですか。だから余計に明るい作品を届けたいと思ったところはありますね。自分たちも演奏したり歌ったりして元気が出る曲がいいなって」と語っている。
ライブどころかメンバー同士が会うこともできなかった日々を経たことで、バンドの音楽へのモチベーションも一新されたようだ。同誌のインタビューで、リーダーでベーシストの田村明浩は「バンドを始めた頃の初期衝動みたいなものがよみがえった感じがした」、ギタリストの三輪テツヤは「今回は久しぶりっていうこともあって、そういう楽しさが音にも出てるかなとは思う」、ドラマーの﨑山龍男は「個人的には、コロナをはさんでちょっと原点回帰できた部分もあるかなって思います」と語っている。そういう、4人が音を合わせる純粋な喜びが、アルバムには刻み込まれている。
そんなアルバムのハイライトの一つとなっているのが「オバケのロックバンド」。草野マサムネだけでなく、三輪テツヤ、田村明浩、﨑山龍男と、メンバー全員が代わる代わる歌う一曲だ。<毒も癒しも 真心込めて>と、スピッツというバンドのアイデンティティを素朴なメロディで歌い上げている。
アルバムのセールスも好調だ。2023年5月24日公開(集計期間:2023年5月15日~5月21日)のBillboard JAPANダウンロード・アルバム・チャート“Download Albums”では首位を獲得。Billboard JAPAN週間アルバム・セールス・チャート“Top Albums Sales”でもSnow Manの『i DO ME』に続く2位となった。
ロングヒットはこの先も続くだろう。デビューから33年目を迎えた今年になって、スピッツは、その“全盛期”を更新し続けている。奇跡的なことだと思う。
リリース情報
アルバム『ひみつスタジオ』
- 2023/5/17 RELEASE
<デラックスエディション UNIVERSAL MUSIC STORE限定盤(完全限定生産)(2SHM-CD+1Blu-ray+グッズ)>
PDCJ-1140 8,480円(tax out)
<デラックスエディション UNIVERSAL MUSIC STORE限定盤(完全限定生産)(2SHM-CD+1DVD+グッズ)>
PDCJ-1141 7,980円(tax out)
<初回限定盤(SHM-CD+Blu-ray)>
UPCH-7647 5,280円(tax out)
<初回限定盤(SHM-CD+DVD)>
UPCH-7648 4,780円(tax out)
<通常盤(CD)>
UPCH-2256 3,000円(tax out)
<カセットテープ>
UPTH-1601 3,000円(tax out)
<アナログ盤(完全限定生産)(2LP(重量盤))>
※2023/5/31 RELEASE
UPJH-9092/3 3,980円(tax out)
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