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<インタビュー>Atomic Skipper、過去と今の自分たちを投影したメジャーデビューアルバム『Orbital』

インタビューバナー

 2014年に静岡で結成された4人組ロックバンド、Atomic Skipper。女性ピンボーカルの中野未悠のエネルギッシュな歌声と聴く人の胸を熱くさせるバンドサウンドを武器にライブハウスを湧かせてきた彼らが、5月24日、1stアルバム『Orbital』をリリースするとともにメジャーデビューした。バンドの名刺代わりと言える作品には、新曲はもちろん、バンドにとって大切な曲の再録版も収録されている。今回のインタビューでは、全14曲の中から、現体制で初めてリリースした曲「ディアマイフレンド」、バンドの新たな顔になるであろうリードトラック「ココロ」をピックアップ。2曲の制作エピソードを振り返るとともに、バンドのアティチュードを語ってもらった。(Interview & Text:蜂須賀ちなみ / Photo:興梠真穂 )

「目の前のお客さんに“届ける”というよりも“ぶつける”という感覚」

――Atomic Skipperは高校の軽音楽部内で結成されたバンドなんですよね。

神門弘也(Gt./Cho.):音楽の趣味が近かった僕と久米くんと当時のドラマー(※現ドラムの松本は2019年に加入)で「一緒にバンドやろっか」と始まったバンドです。Green Dayとかのコピーやっていたんですけど、3人とも歌うのは嫌だということで、部内で一番歌の上手い中野を誘うことにしたんです。

中野未悠(Vo.):私は元々YUIさんやmiwaさんのようなシンガーソングライターに憧れていたんです。だけどギターを買うために楽器屋に行ったら、アコースティックギターよりもエレキギターの方がカッコよく見えて……。


――ついエレキギターを買ってしまったと。

中野:はい(笑)。バンドに誘ってもらった当時は本当に軽い気持ちで「いいよ」と返事したんですよ。友達と趣味で始めたバンドが、今でも続いているなんて不思議な気持ちです。



中野未悠(Vo.)

――そんなバンドがメジャーデビュー。メジャーデビューを機にやってみたいことはありますか?

久米利弥(Ba./Cho.):僕は深夜帯にラジオ番組をやりたいです。

神門:リズム隊2人でね。

久米:そうそう。ボーカリストとソングライターに比べるとリズム隊の2人はちょっと注目されづらいので、深夜帯で才能を開花させたいです(笑)。

中野:あとは、ワンマンツアーをやってみたいなと。

松本和希(Dr./Cho.):今後チーム内でコミュニケーションをとっていく中でやりたいことはどんどん出てきそうだなと思ってます。


――確かにそうですね。曲や詞を書いているのは神門さんなんですね。

神門:最初の3曲くらいは中野が書いていたんですけど、それ以降はずっと僕が書いています。他のアーティストさんの曲を聴いているうちに、「この曲は俺の気持ちに寄り添ってくれないな」とか、「この曲で言っていることを俺は考えたことがなかったけど、確かにすごくいい考え方だな」と思うようになっていったんです。それはその曲がいい/悪いという話ではなく、自分の感性に合う/合わないという話だと思うんですが、だったら受け取る側じゃなくて、発信する側になりたいなと思いました。

中野:神門の書く歌詞は、私の見ている世界を広げてくれるんです。自分の考えを言い当ててもらったような感覚になることもあれば、「そういう考えもあるんだ? じゃあ私はそれに対してどう思うだろう?」と考えさせられることもあって。最初はそれを自分の歌に通し込むのが大変でしたけど、リリースを重ねるごとに、気持ちを込めて歌うことができるようになっていきました。このスタイルで長いことやってきたので、今ではお互い分かり合えるようになってきていますね。



神門弘也(Gt./Cho.)

――神門さん、歌詞を書く上で意識していることはありますか?

神門:人の心には波があると思うんです。例えば今すごく調子がよかったとしても、あんまり上手くいかない日もある。そうやって変化していく心の輪郭を捉えられるような歌詞を書きたいといつも意識しています。


――だからこそ神門さんは、歌詞の中で自分の情けない部分や捻くれた部分もさらけ出しているんですね。例えば、失恋ソングを作ってみたら、その後自分も実際に失恋をしてしまったという変わったエピソードを持つ「ブルー・シー・ブルー」という曲もあれば、<別に君に宛てる詩じゃないよ>と歌っているのに「ディアマイフレンド」というタイトルの曲もある。

神門:あはははは。「ディアマイフレンド」は、高校を卒業したばかりの多感な時期に書いた曲なんですよ。今までは学校に行けば友達に会えたけど、就職した友達もいれば大学に進学した友達もいて、話していても「きっとそんなこともあるよね」「まあ、俺分からないけど」と突き放すような言い方を、突き放すつもりなんてないのに自然としちゃったり。当時は“友達”観が変化していくような感覚や、戸惑いがあったんでしょうね。でも、今喋りながら思ったんですけど、根本は変わってないかもしれないです。新曲の「1998」にある<たらればの話で盛り上がった/居酒屋の帰り道の途中で/不意に思い出したんだ/初恋のあの子はどうなった?>という歌詞でも、“置いていかれているような気がするし、置いていっているような気もするし、寂しい”ということを歌っているので。



――歌詞に寂しさが滲み出ていても、この4人で鳴らし、中野さんが歌えばポジティブなメッセージソングになるというのがAtomic Skipperの個性ですよね。

神門:僕じゃなくて中野が歌うことでメッセージ性が変わるということは、僕自身、めちゃめちゃ感じています。例えば「アンセムソング」も「全然平気じゃないって」と始まるけど、中野が歌えばポジティブな曲になる。すごい才能ですよね。

久米:中野のボーカルはすごいですよ。ライブをする時、僕ら楽器隊は目の前のお客さんに“届ける”というよりも“ぶつける”という感覚でやっているんですけど、そうしないと、うちのボーカルには勝てないので(笑)。

中野:(笑)。そう言ってもらえて嬉しい。

久米:神門が作詞作曲した歌を中野が表現することで、神門一人で表現するのではもしかしたら現れなかったかもしれない、別の側面が見えてくることもあるんですよね。それが僕たちの強みだということはずっと前から気づいていたと思うんですが、はっきりと自覚したのは『人間讃歌』(2021年4月リリースの2ndミニアルバム)を制作していた頃でした。僕ら、高校を卒業してからの3年間は会社員をしながらバンドをやっていたんですけど、2020年春に勤めていた会社をやめたんです。これからバンド一本でやっていくぞ!というタイミングだったものの、コロナが流行し、ツアーができなくなり……自分と向き合う時間が必然的に増えたんですよね。その時に改めてバンドの強みに気づき、僕はベーシストとして、ポジティブな雰囲気を支えるためのベースラインやコーラスワークを制作したいと考えるようになりました。


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  1. 「過去の自分に伝えたいメッセージでもある」
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「過去の自分に伝えたいメッセージでもある」

――ここからは、アルバム収録曲について聞かせてください。まず、収録曲中最も古くからある曲「ディアマイフレンド」は今回収録するにあたって再録したんですよね。

神門:はい。「ディアマイフレンド」は元々、和希の加入発表と同時にリリースした「平成のあとがき」というデモに入っていた曲でした。和希が加入するまではサポートとして何人かの人にドラムを叩いてもらっていて、和希もその中の一人だったんですけど、彼とは異様に波長が合うなということで、「正式にメンバーになってもらえたら嬉しいよね」という話をメンバー3人の間ではしていたんです。だから僕らは和希が入ってくれて嬉しかったし、きっとお客さんも、また新しく動き出したAtomic Skipperのことを希望を持って見てくれていたと思うんです。再出発の曲ということで思い出深い曲なんですけど、今回「Orbital」というアルバムをリリースして、メジャーデビューしますというまた新しい“出発”のタイミングなので、この曲は絶対入れたいなと。昔の曲に対して恥ずかしく思うこともあるんですよ。あの頃の自分は未熟だったなって。だけどこの曲は当時の俺や、当時の周りの人を支えていたんだから、きっと十分価値があるんだよなと思えるようになったのも、再録しようと思った理由の一つです。

松本:昔の音源を聴くと恥ずかしくなっちゃうのは分かるな。それこそ僕は(「平成のあとがき」収録の)「ディアマイフレンド」が人生で2回目のレコーディングだったので、荒削りな部分が多かったと思っていて。なので、今回のOrbital ver.ではフレーズを一新して、全体的にアップグレードさせました。他の楽曲で使ったことのあるフレーズをあえて使ったりしているので、ぜひ見つけてみてほしいです。



久米利弥(Ba./Cho.)

――「ココロ」はメジャーデビューアルバムのリード曲にふさわしいなと思いました。各楽器やボーカルのテイクからも、構成・アレンジ面からもみなさんの気合いが感じられます。とにかく様々なアイデアが詰まっていますよね。例えば、印象的な歌い出しがサビなのかと思いきや、そうではないことが聴き進めていくうちに判明していくという。

松本:そうなんです。あれは実はBメロなんです。

久米:展開が面白い曲だよね。

神門:この曲はワンコーラスができるまでに2~3ヶ月かかりました。まず、アルバムのリード曲を作ろうということで、初めに30曲くらい書いたんですよ。最終的にこの「ココロ」という曲をリード曲にしようと決めたものの、そこから今の形になるまでにもいろいろあって。元々はサビ始まりだったけど、スタッフさんから「この歌い出し、めちゃくちゃいいけど、サビじゃないと思う」と言われて、僕自身も「確かに」と思って。そこからひたすら考えていって、もう、ひいひい言いながら作っていました。

久米:ワンコーラスができたあとも大変だったよね。

神門:そう。ワンコーラス分のデモを作って「これでいける!」となった段階で、2人(久米、松本)にも投げて、それぞれDTMで打ち込んでいったんですけど、やりたいことがたくさんあった分、どうまとめようかという話になって。

久米:今までのリード曲はパワフルでライブ映えがする曲が多かったけど、「ココロ」はそれだけじゃなくて新しい感じがしたから、ちゃんとロジカルに考えながら、経験を重ねてきたことで培われたテクニカルな部分や音楽的な知識を踏まえて、形にしていきたいなと思ったんですよね。




「ココロ」ミュージックビデオ


神門:それに、3人とも天邪鬼だから、ワンコーラス分のデモを聴いたユニバーサルのスタッフさんから「ここまで来たら絶対いいものになるから、どんなアレンジしてもいいよ」と言われた時、「ちくしょう、やってやろう!」「この楽曲がこの楽曲である理由を作らなきゃ!」というマインドになっちゃって(笑)。そう考えると、もちろん全曲に熱量を注いでいるけど、この曲がここまで凝った感じになったのは、リード曲だからこそなのかもしれないです。

松本:お風呂に入っている時までこの曲について考えていました(笑)。

久米:2番のBメロなんてずっと考えてたよね?

松本:半日くらい考えてた。EDMのようにリズムが倍になっていく展開は僕以外のメンバーが考えたアイデアなんですけど、どう叩くべきか、最初はイメージがわかなかったんです。だけど、スタッフさんから「あれはあれでいいと思うよ。ドラマーじゃない人だからこその発想という感じがして面白い」という意見をもらって、「確かにな」と思って。そこからいろいろと考えていって、自分でも一番満足のいくアレンジに落とし込めたのでよかったです。

中野:私は都度都度(デモを)共有してもらっていたんですけど、3人が試行錯誤して、構成や歌詞がどんどん変わっていったデモを聴き込みながら、どうやって歌おうかと考える時間をとって。



松本和希(Dr./Cho.)

――考えている最中に曲がどんどん変わっていくのって、大変じゃないですか?

中野:大変でしたけど、そのおかげで引き出しが増えたというか。歌い方のバリエーションをいろいろと用意した状態でレコーディングに臨めた感覚はありました。歌詞も構成もアレンジも全部完成して、「これでレコーディングしましょう」というデモを聴いた時、「最高すぎる!」と思ったんですよ。なので、この曲を歌えることが嬉しくて、ワクワクしている気持ちをそのまま曲に乗せたいなと思いながら歌いました。このワクワクがリスナーの人にも届けば嬉しいですね。


――歌詞についてはいかがでしょう? バンド人生を歌った曲のように思えるのですが。

神門:<変わっていく中で変わらないものこそ/譲れない本当の貴方だ>という歌詞がすごくいいとスタッフさんから言われたんですけど、最初、僕にはその良さが分からなかったです。何も考えずに、自然と出てきた言葉だったので。だけど、この「Orbital」というアルバムには昔の曲も入っていて、しかもそれは再録によって新しいものに生まれ変わって……物事は巡っているんだなと、制作中に感じたんですね。それに気づいた時、「あ、この歌詞ってすごく本質的な言葉だったんだ」と分かって。じゃあその本質をどう深掘りしていくか、探っていった結果、こういう歌詞に行き着きました。


――<譲れない本当の貴方だ>と歌ってはいるけど、自分たちにとっては<譲れない本当の僕だ>に近い意味もあると。

神門:そうですね。<僕だ>にすると自分事になっちゃうから<貴方だ>にしたいと思ったんですけど、自分自身にも跳ね返ってくる言葉だと思います。今の自分が、昔の自分を一歩引いたところから見ているような感覚があるんですよ。この部分は、今、心の底からそう感じられている自分が、過去の自分に伝えたいメッセージでもあるというか。




――なるほど。ということは、リスナーを鼓舞してくれるエールソングばかりが詰まったこのアルバムは、みなさん自身のことも勇気づけてくれるアルバムでもあるんでしょうか?

神門:そうだと思います。今言われてハッとしました。前に自分たち主催のライブをやった時、コロナが流行っていたこともあり、他に出演してくれる予定のバンドが体調不良で泣く泣く出演キャンセルになっちゃったことがあったんですよ。その時のセットリストに「動物的生活」という曲が入っていたんですけど、中野が<それでも君がいないなら なんて考えちゃうナンセンス>という歌詞を歌った瞬間、「あ、今だ!」って思って。その瞬間に歌われるために生まれた曲だったんじゃないかという感覚になったんです。俺はそういう時が、楽曲が一番輝く瞬間だと思っていて。

中野:ライブ中ハッとする瞬間ってあるよね。私も人間なのでどうしても感情に波があるんですけど、曲たちが変わらず自分に訴えかけてくれるメッセージがあるおかげで、ブレずにいられるなと思う瞬間があって。そういう瞬間ってたくさんあるんだけど、リスナーのみなさんも同じように感じてくれていたら嬉しいなと思います。


Atomic Skipper「Orbital」

Orbital

2023/05/24 RELEASE
UMCK-1745 ¥ 3,980(税込)

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