Special
<インタビュー>Deep Sea Diving Club、メンバー全員がソングライティングを手がけるバンドのクリエイティブの在り方
“TENJIN NEO CITY POP" を掲げた福岡発の4 人組バンドDeep Sea Diving ClubがEP『Mix Wave』をリリースした。
メジャーデビュー第1弾となる本作には、昨年7月に配信された「フーリッシュサマー」、土岐麻子をフィーチャーした「Left Alone feat. 土岐麻子」、切ないウインターソング「Miragesong」のほか、本作のリードトラック「ゴースト」をはじめとする新曲4曲を収録。メンバー全員の才能とセンスが存分に活かされ、多様性に溢れたポップミュージックが体現されている。
EP『Mix Wave』の制作プロセス、Deep Sea Diving Clubのクリエイティブの在り方について、谷 颯太(Vo.)に訊いた。(Interview & Text:森朋之/Photo:大城為喜)
“全員がクリエイター”のバンドでバランスを保つために
――メンバー全員が作詞・作曲を手がけ、それが音楽の多様性につながる。EP『Mix Wave』は、Deep Sea Diving Clubの強みがしっかり反映された作品だと思います。
谷:ありがとうございます。制作に関しては、「Left Alone feat. 土岐麻子」のときもそうだったんですけど、まずリード曲のコンペをメンバー全員でやったんですよ。持ち寄った曲からリード曲(「ゴースト」)を選んで。さらにその他の曲を並べて、EPとしてまとめたという感じですね。曲が出揃った段階では「相変わらず(曲調が)バラバラだな」と思って(笑)。すぐに“Mix Tape”という単語が浮かんだんですけど、バンド名のイメージと重なるようにタイトルは『Mix Wave』にしました。
――“メンバーそれぞれがリード曲に相応しい曲を作る”というのがスタート地点なんですね。
谷:そうですね。「フーリッシュサマー」「Left Alone feat. 土岐麻子」「Miragesong」は東京でレコーディングしたんですけど、その3曲の制作を通して、全員がさらにポップを意識するようになって。そのなかで考え方が変わった部分もあったし、今までやってきたことと新しくチャレンジしたことを混ぜながら、それぞれが思うポップスを持ち寄ったというか。「ポップとは何か?」みたいな話にもなるんですけど、(リード曲は)投票で決めるシステムなので、みんな納得せざるを得ないんですよ(笑)。個人的には楽しく作ってましたね。「フーリッシュサマー」「Miragesong」のときは季節感を意識してたんですけど、今回は自由に作れたので。
――1曲目の「bubbles」、2曲目の「フーリッシュサマー」はどちらも鳥飼悟志さん(Ba.)の作詞・作曲。2曲とも解放感のあるポップチューンですね。
谷:しかもすごくロマンティックなんですよね。鳥飼は読書好きで、吉本ばななさん の小説なんかをよく読んでいて。この2曲にも彼のロマンティストなところが出ているというか、鳥飼らしいなと思いますね。「bubbles」は“泡”というタイトル自体もバンド名とつながっているし、自分たちのテーマソングみたいなイメージもあるんです。疾走感があるし、メンバー全員が自由にプレイしている感じを含めて、この曲でスタートダッシュを切りたいなと。自分自身もリード曲に推してたくらい、好きな曲ですね。ただ、歌うのがけっこう難しくて。母音の使い方も自分とは違うし、<楽園へ 楽園を目指して>のメロディの運び方がすごいことになってるんですよ(笑)。レコーディング当日もみんなで話し合ったんですけど、鳥飼は腕組みして、「ここは変えれん!」って。
――制作プロセスのなかで、せめぎ合いがあるんですね。
谷:そうなんですよ。歌のメロディとしてはかなり突飛だと思うんですけど、そこが面白いところでもあって。歌っていて難しいなと感じたり、違和感がある部分って、曲を作った人の個性や癖が出ている部分なんですよ。どうしても無理なときは変えますけど、できるだけオーダー通りにやるようにしてます。こっちも「絶対、歌ってやる」というプライドもあるし、みんなの癖を活かすことで、バンドらしさも出てくると思うんです。
――「フーリッシュサマー」の制作でも、鳥飼さんとのやり取りはあったんですか?
谷:歌詞について相談されましたね。たとえば“N°5”(シャネルの香水)は自分が提案したんですよ。ちょうど渋谷でライブやった日なんですけど、「お揃いで使うアイテムを入れたいんだけど、何がいいかな?」って言われて、「“N°5”はどう?」って。全体のイメージはもちろん、鳥飼なんですけどね。冒頭の<ああ、僕らの夏/ああ、僕らの夏よ!>も自分では絶対に書かない歌詞だし、やっぱり彼らしさがすごくあって。「bubbles」と「フーリッシュサマー」は連作のようにも聴こえるんですよね、自分には。
――ボサノバ、ラテンの要素が入ったサウンドも印象的でした。
谷:鳥飼さんにとっての夏のイメージは、こういう音みたいです。シャカシャカしたリズムもそうですけど、ちょっとトロピカルな感じというか。彼自身は太陽に弱くて、海にも全然行かないらしいんですよ。なので「フーリッシュサマー」のサウンドは、虚構の夏のイメージだって本人が言ってました(笑)。この曲、初めてアレンジャーの方(岩田雅之/SMAP、KinKi Kidsなどの楽曲アレンジで知られるクリエイター)に入ってもらったんです。アコーディオンを入れてもらったり、いろいろと勉強になりました。
――制作時は、ライブで演奏する際の再現性は考えない?
谷:そうですね。バンドの結成当初に話し合いをしたんですよ。ドラムの出原(昌平)はスタジオミュージシャンの経験があるんですけど、「作品とライブは別だから」って常々言っていて。制作時は楽曲を良くすることだけを考えて、ライブで演奏するときにみんなで(ライブ用の)アレンジを決めればいいのかな、と。
――「Left Alone feat.土岐麻子」(作詞:谷 颯太 / 土岐麻子 作曲:大井隆寛 / 土岐麻子)も話題を集めました。
谷:作曲はギターの大井なんですけど、彼の作るメロディもけっこう不思議というか、独特で。明らかに歌う人が作ったメロディではなくて、器楽的なんですよ。デモの段階ではちょっと歌いづらかったり、「ボーカリストとしては美味しくないな(笑)」と思うこともあるんですけど(笑)、歌詞を乗せてみるとしっかりいい流れが出来ていました。「Left Alone feat. 土岐麻子」に関しては、やっぱり土岐さんの歌ですよね。歌詞とメロディの混ざり方、発声のやり方やリズムの出し方もそうですけど、自分たちよりはずっと上の次元にいる方なので。この曲を聴くたびに、やっぱりすごいなって思います。インスタライブも一緒にやってくださったんですが、土岐さんに「バンドの一員になれた感じがあって楽しかった」って言ってもらえたのもうれしかったですね。なんて懐が深い方なんだって。
――そして「リユニオン」は、ハンドクラップ、鍵盤、歌ではじまり、ネオソウル的なテイストを取り入れた楽曲。大井さんが作曲、谷さんが作詞を担当しています。
谷:もともとは歌詞も大井が書いていたんですけど、「表現したいことはわかるんだけど、これだとある特定の人にしか伝わらないんじゃないかな」と思って、書き直させてもらいました。ウチのバンドのルールとして、「意見を言うなら、代案を出そう」というのがあるんです。音楽には正解がないし、「これは違う」みたいなことっていくらでも言えるじゃないですか。それだけだと良くないから、「こうしたらどう?」という案を出すことにしてるんです。「リユニオン」の歌詞もそうで、二つならべて「どっちがいい?」ってみんなに聞きました。
――なかなかシビアですね。
谷:そうですか?(笑) 感情をぶつけ合わないで済む方法を、みんなで考えた結果なんですよ。ウチのメンバーって、音楽をやってないときはめっちゃ仲良しなんです(笑)。3人(出原、鳥飼、大井)を見ていて、「こいつら、バンド組んでなかったら、もっと仲良かったのかな」って思うこともあって。それはもったいないし、音楽をやってるときもケンカを避けたいんですよね。「リユニオン」の歌詞も、そういうことを書いてるんです 。「リユニオン」って再結成とか再集結という意味なんですけど、バンドのメンバーに向けているところもあって。
――<僕らバラバラだけど/分かり合えないわけじゃない>というフレーズもありますね。
谷:はい。もちろん自分たちのことだけではなくて、聴いてくれた方々の共感も得られるように書いてるんですけど。部活なり会社なり、似たようなことは多くの人が経験していると思うし、それぞれに照らし合わせて聴いてもらえたらなと。
――なるほど。それにしてもDeep Sea Diving Clubのメンバーの関係性はユニークですね。“全員がクリエイター”という側面もあるし、独特のバランスで形成されている印象があって。
谷:初期は出原がリーダーだったんですよ。その前 、俺がリーダーだった時期もあるんですけど、バンドをまとめるって大変じゃないですか(笑)。どうしても嫌われ役になっちゃうし、だったらリーダーをなくして、全員でやっていこうよということになって。出原には、「アーティストとして、全員が独立した状態でありたい」という気持ちがあったみたいなんですよ。全員が作詞・作曲できて、DTMも使えて。今はメンバー全員が「そのほうがいいよね」という方向になってます。制作に関しても「この部分をこうしたいんだけど」みたいな会話が生まれるし、同じ熱量で取り組めるようになってきて。誰か一人が重荷を背負うと、潰れることもあると思うんですよ。初期は出原に負担をかけてしまってたんだけど、今はいい意味で分散できているし、それぞれが得意なところを伸ばせているのかなと。
歌詞には余白を持たせたい
――「Miragesong」は作詞が谷さんで、作曲が出原さん。切ないウインターソングですね。
谷:デモの段階では、もっとディーバっぽい雰囲気だったんです。00年代初期のR&B系の女性ボーカルのイメージというか。出原はMISIAさんがすごく好きなんですけど、当時のスタイルと今の新しいJ-POPを混ぜた感じの曲だなと。歌詞もじつは出原発信で、「こういうふうに書いてほしい」という要望書が届いたんです(笑)。全体のテーマだったり、「物語調がいいです」「難しい言葉は使わないでほしい」「わかりやすい比喩表現を入れてほしい」とか。こっちもお題をもらうと燃えるというか、「よっしゃ、いいやつ書いたるわ!」みたいな感じで(笑)。ふだんは使わない言葉もかけたし、楽しかったですね。
――出原さんのイメージを具現化した楽曲なんですね。ボーカリストとしては、どんなスタンスで歌っていたんですか?
谷:自分のなかに別の人格が生まれるというか。「Miragesong」のキャラクターになるスイッチを押して歌っているような気分ではありました。提供された曲を歌うアイドルみたいな感じもあって。そういう“プロジェクトみ”もけっこう楽しいんですよね。さっきも言いましたけど、曲を作った人のオーダー通りに歌うという達成感があるし、それがボーカリストとして前に進むためのガソリンにもなっていると思います。
――ハモンドオルガンの響きが印象的な「goodenough.」は心地よいグルーヴ、切ないメロウネスをたっぷり含んだナンバー。作詞は谷さん、出原さんの共作、作曲は出原さんです。
谷:最初に話したリード曲のコンペのときに出原が作った曲なんですけど、そのときはもっとテンポが速かったんです。EPに収録するときに、曲の並びなども考えてBPMを下げることになって。そうしたら出原が書いた歌詞が上手くハマらなくなってしまって、1番だけ自分が書くことになったんですよ。
――コライトの方法も臨機応変なんですね。<非常識な人間でなくちゃ 死の瞬間まで>というラインも強烈。
谷:そのフレーズは出原にとっても大きいポイントだと思います。彼自身が日頃から言ってるようなことなんですよ。「普通にやって、何がいいの?」みたいな考えの持ち主だし、実際、いつも新しいことを取り入れるヤツなので。“死”という単語が入ってるのもすごいじゃないですか。「“死”って、本当に使う?」って聞いたんですけど、即答で「使います」って言われました。
――既存のスタイルをなぞるのではなく、新しい何かを取り入れ続けるというのは、バンド全体の考えなんですか?
谷:そうだと思います。いろいろなテイストを混ぜたり、常に新しいことをやらないと面白くないという話はよくしているので。多分、みんな飽き性なんですよね。同じことを続けてるとすぐ飽きちゃうし、 いろんな曲をやれているのは助かってます。実際、これくらい曲調がいろいろあると、毎回ちゃんと背筋が伸びるし、新鮮でいられるので。楽器隊も、曲ごとに違う人格になって弾いてる感じがあるんじゃないかな。ギターのレコーディングでも、「おなか空いてる感じで弾いてみて」とか、楽しみながらやってます(笑)。
――EP『Mix Wave』の最後に収められているのは、リード曲「ゴースト」。谷さんが作詞・作曲を手がけた、ヒップホップ的な要素を取り入れた楽曲ですね。
谷:「ゴースト」は、すごくパーソナルなところからはじまっていて。普段は人に見せてない部分を形にしたというか。これは自分の趣味の話でもあるんですけど、最初から“共感してもらおう”と思って書いた歌詞よりも、個人的な思いを歌った曲に惹かれるんですよね。なのでこの曲がリード曲に決まったときは、ちょっと不思議でした。“ポップ”というテーマには合ってないんだけど、「歌詞のコンセプトが面白いね」って言ってもらえたり。
――<姿形が変わっても 僕はここで生きてるよ>もそうですが、深い愛が伝わる歌だなと。
谷:歌詞に関しては、一行書いては、書き直して、元に戻して……みたいなことをずっと繰り返してました。自分なりに深いところまで書けたんじゃないかなって思ってますね。俺が作品に対して“いいな”と思うポイントは――映画でもアニメでも小説でもそうなんですけど――そのときの自分とリンクして、「俺のことみたいだな」と思えることなんです。学生時代にバスケをやってたときは『あひるの空』というマンガとめちゃくちゃリンクしていて。キャラクターになりきって読める物語って、自分だけじゃなくて、日本の人たちはみんな好きだと思うんですよね。
――確かにそうかも。
谷:あと、歌詞に関して「本当のことです」とか「嘘です」みたいな断言をしたくないんですよね。隠しているわけではないんだけど、できれば余白を持たせたくて。「ゴースト」は恋人同士の歌に聴こえるかもしれないし、亡くなってしまった人のことかもしれない。そこは聴いてくれる人の受け取り方に任せたいと。そのときの状況によっても違ってくるだろうし……。たとえば宇多田ヒカルさんの曲って、「これ、ノンフィクションなのかな。いや、でも、本当のことをこんなに赤裸々に書けないか」みたいになって、ときめきを覚えるんです。「ゴースト」もそういう考察が生まれるといいなって思ってます。
――全体を通して、今現在のDeep Sea Diving Clubのポップミュージックが堪能できる作品だと思います。この後の活動に対しては、どんなビジョンがありますか?
谷:大きい野外フェスに出たいですね。地元(福岡)に【Sunset Live】というフェスがあるんですけど、お祭りみたいな雰囲気で、音楽好きだけが集まってるわけではないんですよ。ただお酒を飲んでる人、海に入っている人もいて、そこで音楽が鳴っていて。あの景色は天国に近いというか、すごくいいなと思ってるんです。さっきの歌詞の話もそうですけど、聴き方、楽しみ方を決めたくなくて。ただ音楽があって、自由な空間がある――そういう景色に俺自身が救われているというか。そのきっかけを自分たちが作れたら素晴らしいし、みんなが嬉しそうにしてくれてたら、もっと最高ですよね。
関連商品