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<コラム>鈴木雅之、個性豊かなゲストと“明るい未来”への旅をナビゲート 4年ぶりオリジナルAL『SOUL NAVIGATION』
Text:永堀アツオ
鈴木雅之が、オリジナルとしては前作『Funky Flag』から4年ぶり、ソロ通算17枚目となるニューアルバム『SOUL NAVIGATION』をリリースした。
この4年間を振り返ってみると、2019年には、自ら“アニソン界の大型新人”と名乗り、キャリア初となるアニメ『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』のオープニング・テーマ「ラブ・ドラマティック feat. 伊原六花」を発表。アニソンフェス【Animelo Summer Live 2019 -STORY-】にも出演して大きな話題を集めた。11人組のドゥー・ワップ&ロックンロール・バンド=シャネルズからのデビュー40周年を迎えた2020年に、“ラヴソングの王様”と称されるようになった軌跡を余すことなく歩みを収めたオールタイムベストをリリースすると、続く、アニメ『かぐや様』第2期のオープニング・テーマ「DADDY ! DADDY ! DO ! feat. 鈴木愛理」のMVは5300万回、『THE FIRST TAKE』でのパフォーマンスが3100万回の動画再生回数(ともに2023年4月現在)を超え、『第71回NHK紅白歌合戦』にも出場。翌年2021年にはソロデビュー35周年を迎え、2022年には“日本のうた”の再発見をコンセプトとしたカバー・ベストアルバム『DISCOVER JAPAN DX』をリリースし、同作に新曲として収録されたYOASOBI「怪物」のMV再生回数は735万回を突破。YouTubeやストリーミングの再生数だけでなく、「渋谷で5時」「違う、そうじゃない」「め組のひと」などを使用したTikTokも世界中から大量に投稿されており、若年層からも大きな支持を得ている。
「怪物」 / 鈴木雅之
“ラヴソングの王様”で “アニソン界の大型新人”である鈴木雅之には、他にも“バラードの名手”や“リーダー”など、様々な異名があるが、もっとも忘れてはいけないのは“ブラック・ミュージックの伝道師”という側面である。1950年代のドゥー・ワップ・コーラスからリズム&ブルース、ソウル、ファンク、ブルース、ゴスペルなどのブラック・ミュージックをそのまま表現するのではなく、日本人なりの解釈を通して、昭和の歌謡曲やニューミュージック、シティポップ、平成のJ-POPや令和のアニソンに昇華し、日本のメジャーの音楽シーンに浸透させてきた先駆者なのだ。そういう意味では、4年ぶりのアルバム『SOUL NAVIGATION』は、リスナーを無条件で躍らせてしまう、ご機嫌なファンク・アルバムとなっている。
タイトルの『SOUL NAVIGATION』とは、鈴木雅之がキャプテンを務めるマザーシップ=宇宙船であり、実に7組のアーティストがゲスト・クルーとして乗り込み、“魂(ソウル)・セッション”を繰り広げている。前作では、布袋寅泰や高見沢俊彦、鳥山雄二、小西康陽、冨田恵一、萩原健太、松尾潔といった鈴木と年齢の近いプロデューサーを各曲で迎えていたが、全11曲が収録された本作には、堂本剛、Ayase、橋口洋平(wacci)、水野良樹(いきものがかり/HIROBA)、マハラージャン、在日ファンク、CARTOON+YELLOCKといった世代を超えたアーティストたちが集結し、それぞれがパワー全開で自らの個性を発揮している。
本作は少しだけアナログレコードのような構成になっているのだが、冒頭の2曲は鈴木雅之自らの作詞作曲によるナンバーからスタートしている。1曲目「MY SOUL NAVIGATOR」は、エレキギターのカッティングとエレピの音色、スナップやコーラスで彩られたニュー・ジャック・スイング。マザーシップに乗り込んだゲストクルーやリスナーに〈準備はいいかい〉と呼びかけ、〈未来を切り開け〉という言葉とともに地上から宇宙へと飛翔する。その勢いをさらにブーストすべく、同じく80年代のミネアポリス・ファンクに今日的なシンセ・ウェーブの要素を加えた「I know how to have a goodtime.」へ。プレイヤーが踊りながら演奏しているライブが想像できるようなダンスミュージックの2連発によって、キャプテン・マーチンによる『SOUL NAVIGATION』の旅は解放的な船出を果たした。
そして、P-FUNKやプリンス、スライ・ストーンやジミヘン好きを公言している堂本剛のソロ・プロジェクト、ENDRECHERIによる「flavor」。前半の2分はスイートでロマンチックなラヴソングなのだが、後半の2分はレイドバックした粘り気のあるビートに、メロウな音色が織りなす極上のグルーヴによる、P-FUNKになっている。KinKi Kidsの堂本剛しか知らない方は驚くかもしれないが、ギター、ベース、ドラム、ピアノを弾くマルチプレイヤーであり、ENDRECHERIのライブではインストナンバーや長尺のフリーセッションも行う彼のアーティスト性が存分に味わえる楽曲となっている。
前述したカバーベストでは、YOASOBIの「怪物」をファンク的解釈でカバーしていたが、Ayaseによるラヴソング「道導(みちしるべ)」はピアノとストリングス、フルートのソロが印象的なアシッド・ジャズで、橋口洋平(wacci)が作詞作曲し、冨田恵一が編曲した「言葉にすれば」は普遍的な力を備えたオーセンティックなラヴ・バラード。アナログレコードでいえばA面のラストナンバーで、ここが旅の折り返しとなる。
「道導」 / 鈴木雅之
B面の1曲目に位置する6曲目の、アニメ『かぐや様は告らせたい』第3期のオープニング・テーマ「GIRI GIRI」と、9曲目である同アニメ特別上映版オープニング主題歌「Love is Show」は、4作連続で作詞作曲を水野良樹(いきものがかり/HIROBA)、編曲を本間昭光が担当。SILENT SIRENのすぅ(Vo. / Gt.)を迎えた「GIRI GIRI」、ももいろクローバーZの高城れにをフィーチャーした「Love is Show」はともにホーンが鳴り響き、コーラスが恋心を掻き立ててるファンキーなディスコ・チューンで、脳内ではミラーボールが回る。「スパイス×ダンスミュージック」を掲げるマハラージャンによる「君とデスマッチ」は、マッチングアプリで出会った男女が繰り広げるデスマッチを展開。〈はじめようか〉というセリフや〈マッチマッチ/フォーリンラブ〉という多重コーラス、〈ときめく気持ちだけが道しるべ〉というアルバムのコンセプトと通じるフレーズの部分で急にラテンビートになるなど、ポップでコミカルながらも細部にこだわりを感じる構成となっている。続く「スポットライト」は、ジェームス・ブラウンをこよなく愛す浜野謙太がボーカルを務める在日ファンクとのセッション。ハマケンは、ツインボーカルかと思うほど、マーチンの横にずっといる。ファンキーなシャウトを響かせ、時に煽り、おそらく踊ってもいる。音を聞いているだけでも、そこにいることがわかる。その存在感がワングルーヴで延々と押しまくるファンクサウンドの質感を決定づけており、最後には役者としての一面も見せてくれている。
「GIRI GIRI」 / 鈴木雅之 feat. すぅ
「Love is Show」 / 鈴木雅之 feat. 高城れに
アルバムの10曲目、B面のラストは再び鈴木雅之作詞・作曲のラヴ・バラード「EveryDay EveryTime」。あらゆるブラック・ミュージックのルーツであるゴスペルとなっており、〈立ち上がり 歩き出せばいい/あなたは一人じゃない〉と優しく語りかけ、その事実が、〈僕らの明日を 照らしている〉と締めくくる。また、歌詞をじっくりと読み込むと、〈この街〉(堂本)、〈居場所〉(橋口)、〈導いてくれた 愛おしい人〉(Ayase)、〈ぶつかる時〉(マハラージャン)、〈照らしている〉(ハマケン)……とゲストクルーが綴った歌詞を想起させるワードがさりげなく盛り込まれており、まるで“魂(ソウル)・セッション”の旅路を集約したようなアンサーソングのようにもなっている(考え過ぎかもしれないけど)。
さらに、キャプテンのナビゲートで明るい未来へと辿り着いたリスナーには、ボーナス・トラックとして、11曲目「CLUB KAGUYA〜CARTOON+YELLOCK MIX~」が待っている。アナログでいえば、アルバムとは別にカットされた、12インチシングルといったところ。アニメ『かぐや様は告らせたい』の主題歌4曲をミックスした、ハウスにディスコの要素を取り入れたフューチャー・ディスコとなっており、歌謡曲にはあって、J-POPにはなかったドラムマシーンの音色にときめかずにはいられない。そして、音盤の中のキャプテンは「もっと踊りたい?」と誘う。返事は言わずもがなだろう。
「CLUB KAGUYA ~ CARTOON + YELLOCK MIX ~」 / 鈴木雅之
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SOUL NAVIGATION
2023/04/12 RELEASE
ESCL-5813 ¥ 3,300(税込)
Disc01
- 01.MY SOUL NAVIGATOR
- 02.I know how to have a good time.
- 03.flavor
- 04.道導
- 05.言葉にすれば
- 06.GIRI GIRI
- 07.君とデスマッチ
- 08.スポットライト
- 09.Love is Show
- 10.EveryDay EveryTime
- 11.CLUB KAGUYA ~CARTOON + YELLOCK MIX~ (Bonus Track)
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