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<インタビュー>idomが感じる孤独、衝動を満たす新作『EDEN』

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Interview:高橋梓
Photo:Yuma Totsuka

 デビューEP表題曲「GLOW」が月9ドラマ『競争の番人』(フジテレビ系)の主題歌となり、大きな注目を集めたシンガー・ソングライター、idom。そんな彼が前作から約7か月、4月12日に2nd EP『EDEN』をリリースする。

デビュー作からのつながりや新たに得た経験、価値観などが詰まった同作は、ChillなサウンドやR&Bのグルーヴ、思わず身体揺れるビートなど、新しい魅力を感じられる作品で、よりidomらしい音楽になっているという。そんな最新作について、そして今の自身について本人にじっくり話を聞いた。

僕のルーツが分かる曲を

――デビューから約7か月経ちましたが、振り返ってみてどうですか?

idom:デビューする前と比べると変化を感じますが、デビューしてからは大きく変わっていないかもしれません。今は前進している真っ最中という感じです。ただ、デビュー作の「GLOW」はドラマのタイアップだったこともあって、これまで僕の音楽を聴いたことがない方や、音楽自体をそこまで探っていない方にも聴いていただけました。例えば去年、デビュー後に初めてライブをやらせてもらったんですけど、80歳くらいのおばあちゃんが観に来てくれていて。テレビで知ってくれたらしく、「娘に頼んで来ました」と受付スタッフの方に話していただきました。自分の音楽がいろんな人に届いている実感がありましたし、自分が音楽を届けていたリスナーとは違った層が見えた、面白い経験ができたと思います。輪が広がっているのはすごく嬉しいですね。





――ドラマ主題歌やライブも然り、音楽番組にも出演されていました。そういった経験からクリエイティブ面や考え方においての変化があったりも?

idom:僕はもともと表舞台に立って目立ちたいという性格ではないんですね。なので、ああいう舞台に立つと緊張してしまうんですけど、簡単に得られる機会ではないのでモチベーションにはなっています。特に初めてライブの経験を経たことで変化があったかもしれない。ライブで盛り上がれる楽曲を作りたいと思うようにはなりました。

――その考えが今回の『EDEN』にも反映されている、と。

idom:そうですね。まさに今回はEP全体を通してライブを意識していて。ノれる楽曲が詰まっていると思います。今まで作った作品の中でも、よりサウンド感やビート感を意識しました。

――タイトル曲の「EDEN」についても、SNSで「エモいけどノれる曲」と仰っていました。

idom:前作の「GLOW」でJ-POPの王道サウンドを初めて制作して、多くの方に僕を知っていただきました。その次のステップとして、僕のルーツとなるサウンド感やグルーヴ感が分かる曲を出したいと思ったんです。それを考えたときに、Chill R&Bは外せないというか。でも「ライブでもノれるようにしたい」という思いがあったので、ハウスビートをメインに置いた、アチーヴなサウンドを作りました。相対するものですけど、それをミックスさせることで「ノれるけどオシャレだよね」という音楽になるのかなって。盛り上がるだけじゃない楽曲になったと思います。




idom - EDEN


――そのサウンドに乗っている歌詞も印象的ですね。

idom:少し色気のある雰囲気が欲しくて。前作のEPに「i.d.m.」という曲があるんですけど、ありがたいことに『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で取り上げていただいたんです。すごく反響をいただいたので、「i.d.m.」にもつながる色気や大きな愛というものが感じられる歌詞にできたらいいな、と。ゆったり揺れながら眠っていくような、愛情に包まれる感覚が歌詞でも届けられたらと思って制作しました。

――曲の出だしからその思いが反映されています。<このまま此処で あなたの腕で ただ眠らせて>。

idom:その部分はメロディを考えながら一緒に出てきた言葉ですね。僕のTikTokにこの曲の制作の過程を少しだけアップしているのですが、ほぼあのままで制作していきました。

――声色も低いところから高いところまで、テンポ感もビートが強いところから引き算されているところまで、idomさんの良さが“全部乗せ”されていますね。

idom:そうですね。構成はA、B、サビ、2A、2B、2サビ……というよくあるJ-POPの構成なんですけど、その中にテクノっぽさやハウスっぽさを入れていて。そのうえで緩急をつけています。そこに歌のバリエーションも1曲の中で感じられるように考えて作りました。

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葛藤が孤独感につながっている

――一方、2曲目の「Memories」はシンプルなサウンドに一転しています。

idom:この曲は歌詞に思いを乗せて作りました。大切な人との別れ、その悲しみ、寂しさを受け止めつつ前に進んでいくという内容です。というのも、僕が音楽を始めたコロナ禍のときに一番仲良くしていた友人が病気で亡くなってしまって。その彼と一緒に改築した古民家があるんですけど、そこで新しいことをしようと思って始めたのが音楽活動なんですね。僕の彼に対する思いがこの楽曲に詰まっています。でも、その通りに聴いてほしいわけではなくて。誰しも友人、恋人、家族などの大切な人との別れって経験しますよね。だから、聴く人によっては失恋の歌にもなるし、家族との別れの歌にもなる。別れの悲しさを背負っているときに寄り添えるような、ちょっと前向きになれる曲になったらいいなという思いで作りました。




idom - Memories


――その思いを際立たせるためにも、アコギがメインのシンプルな構成にしたのでしょうか?

idom:そうですね。自分の心情とリンクしてもらうため、大切な人を思い浮かべるために、一つひとつの言葉が入ってくるサウンド感を目指しました。アコギと軽いキックのスネアのシンプルなビートだったら、一番僕が書いた言葉が伝わるかなって。

――たしかに、idomさんの歌声も際立っているので歌詞が受け取りやすいです。

idom:歌い方にもこだわりがあるんです。「Memories」だけでなく全曲通してなんですけど、落ち着いたサウンドを目指していたので、「GLOW」よりも抑えめで語りかけるように歌っていて。いつもならワーッと歌い上げるんですけど、今回はマイクに口を近づけてウィスパーな感じで歌ってみました。そのほうが身近に感じられるかな、と。それだけじゃなくて、曲の後半にいくにつれてエモーショナルな感情を出すようにしました。「Memories」はそれが強く出ているかもしれませんね。

――3月10日に先行配信をされていますが、リスナーの反応はいかがでしたか?

idom:時期的なこともあって、別れを思い返しつつも前向きに頑張ろうという声はコメントやDMでたくさんいただきました。みんなそれぞれの別れがあるんだなと改めて思いましたし、リスナーの別れを教えてもらったことで距離が近づいたなと感じています。

――続く「Control」は唯一のコライト作品ですね。

idom:他の3曲はトラックメイクから全部自分でやったんですけど、「Control」に関してはイメージを共有して、「こういう曲にしましょう」と最初に決めた状態でコライトしました。まずToru(Ishikawa)さんとSILLY TEMBAさんがトラックを出してくれて、僕がアンサーを返して。構成なんかもいろいろ話して進めていきました。こういったコライト的な制作は何度か経験しているんですけど、けっこう好きなんです。自分一人だと作れないような世界観が生まれたり、トップラインと引き出しが増えたりするので。特に「Control」はやってみたかったけど一人で作るにはまだ力不足だなと思っていたサウンドができたので、すごく楽しかったです。




――ちなみに、最初に共有したイメージはどんなものだったのでしょうか?

idom:エッジが効いていてダーティな雰囲気です。不穏なビートの中で隠れていた本性や本能が開放されていくようなトラックをイメージしていました。

――歌詞もHIP HOPの方がボースティングするような感じですよね。

idom:これは自信満々な感じに見えるんですけど、周りの目がすごく気になっているというストーリー。周りの目を気にして抑えていた本当の気持ちや感情をもっと開放させよう、というようなイメージで書きました。この曲は『EDEN』という楽園の中だからこそやれる曲ですね。

――というと?

idom:自分の殻の中=EDENだから発散できたというか。自分という存在や自分が作るものに対しての攻撃的な衝動が止まらないことを周りに発信しているんです。なんていうんですかね……。制作の中での孤独感をまた自分の作品で発散していく、というのが「Control」の歌詞。普段なら「俺の才能は開花して世界中に響き渡るんだ」という野心的なことは言わないけど、この曲の中にいるキャラクターだから言っちゃう、というか。僕の中にいる別のキャラクターが言うというのが面白いかなと思って書きました。

――別のキャラクターとはいえ、汲み取ってもらえない孤独感というのはidomさんの中にあるんですね。

idom:リスナーの曲の受け取り方というよりも、僕の中にある葛藤が孤独感につながっているのかも。楽曲自体はどういうふうに聴いていただいてもいいんです。僕の曲がリスナーの中でどう作用するのかが面白いと思っていますし。そうではなくて、僕がもともと持っている音楽の感覚のまま、今のJ-POPシーンで広く受け入れられるというのは難しいだろうなと感じていて。それならポピュラーなジャンルに寄せた楽曲を作って僕を知ってもらってから、元からある僕の音楽の感覚を出したほうが近道だろうなという葛藤みたいなものがあるんです。どういう楽曲を作れば多くの人に届くんだろうって。それが孤独感につながっているのかもしれないです。

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一番自分らしくいられる空間=楽園

――なるほど。発信の仕方について、なんですね。次の「Loop」はidomさんのルーツ的な音楽に近しいのでは?

idom:これは音楽制作を始めた半年後、2020年10月くらいに作った楽曲なんです。そのときはもうちょっとファンクポップな感じで作っていたんですけど、今回『EDEN』に収録することで内容や世界観をブラッシュアップしました。アレンジメントには「帰り路」のリミックスでお世話になったり、ライブに出演させていただいたりしていたMONJOEさんに加わっていただいています。MONJOEさんの作る曲がすごく好きなので、いつか一緒にできたらと思っていたときに「Loop」をブラッシュアップする話になって。音楽を始めて半年の僕じゃなく、今の僕に合うサウンドにするならMONJOEさんにお願いしたいと思ってお声がけさせていただきました。当初のファンクポップからトラップな雰囲気に自分で変えたりしていたんですけど、そこにMONJOEさんがアーバンとかオルタナな雰囲気を加えてくださって。それに合わせて僕もトップラインを変えたり、歌詞を変えたりして、EP全体と合うように調整しました。歌も何千テイク録ったかな……。

――SNSで「999テイク録った」と発信されていましたね。

idom:この曲のことですね(笑)。途中で数えるのをやめたので、正確なテイク数は覚えていないんですけど。

――こだわりにこだわった楽曲ですが、「今のidomらしいサウンド」というのはご自身でどういうものだと捉えていますか?

idom:ボーカルの幅が広がったと感じているので、それが引き出せるようなトラックなのかな、と。2020年の僕よりもボーカルがアップデートされているなら、トラックもアップデートしないといけないと考えて作りました。それにMONJOEさんのサウンド感をミックスしたことでまた新しい化学反応があったと思います。

――1,000テイク以上録ったのは、実験的にトラックに合わせた歌い方を試したからだったり?

idom:それもあります。それにこの曲、コーラスがけっこう多いんですよ。掛け合いも多いですし。いろんなボーカルワークが詰め込まれていたのもあってテイク数が多くなりましたね。

――あぁ、初めて拝聴したときは一瞬女性コーラスを入れたのかなと思いました。

idom:(笑)。ミックス作業も自分で好きにやっているので、僕の声をいじって女性っぽく聴かせたりもしていますね。いろんなことを実験的に行なってできあがりました。でも、歌詞なんかは半年前のものが残っていたりするんです。当時は遊び感覚で作っていたので、ラフな歌詞が多くて。それによって脱力感が生まれていいなと思ったので、そのまま使っています。





――最後は昨年末にすでに配信リリースされている「GLOW -English ver.-」。日本語詞と英語詞はやはり歌うときの違いが大きそうです。

idom:そうですね。僕の声のグルーヴ感は英語詞のほうが乗せやすいです。日本語詞はエモーショナルに感情を伝えるときのように句読点が感じられる歌い方なんですけど、英語詞はツルッと最後まで歌っていく感じなんです。流れるような「GLOW」も面白いですよね。しかも、キーも英語に合わせて半音下げているんですよ。

――え、気づきませんでした……!

idom:パッと聴くと違和感ないですよね。英語のグルーヴ感を出したり、オシャレな雰囲気を出したりしようと思ったときに、半音下げたほうがいいなと思って変えましたね。




idom - GLOW (English ver.) | Official Live Performance


――なるほど。そもそもなのですが、なぜ『EDEN』というEPタイトルにされたのですか?

idom:より自分らしい世界観をみんなに見てほしいという思いがあって。開放された空間をみんなに届けるというよりも、僕の世界観の中に聴く人を取り込むような作品にしたかったんです。「自分が一番心地よく、一番自分らしくいられる空間=楽園」にリスナーを引き込む、という意味でこのタイトルになりました。

――アートワークにもこだわりがありそうです。

idom:実際に僕が手掛けたわけではないんですけど、構想の部分はアイデアを出させてもらっています。そのときに伝えたのは「コンクリートから草が生えているアートワークが作りたい」。無機質な世界観の中に生命を感じさせるものが良かったんですよね。もともと建築が好きでいろんなものを見ているなかで、無機質の中に自然があると良い反応が起きると前から思っていて。この作品自体、満たされていない世界の中にある自分だけの楽園というイメージもあったので、そういうアートワークが沸いてきました。今回のEPに関しては、アートワークを含め、ディレクションの部分も多くやらせていただいています。それこそ5曲すべてが独立したシングルっぽく聴けるようにしたり、映像の制作の部分も関わらせてもらったり。なので、『GLOW』よりも僕を知ってもらえると思います。

――そんな『EDEN』の制作を経て、やってみたいクリエイティブも新たに生まれたのではないでしょうか?

idom:もちろんそれぞれの道のプロの方とご一緒させていただく前提のもと、完全に自分でクリエイティブ・ディレクションしてみたいなとは思います。僕、クリエイティブに関してストレスを感じたり、出てこなくて詰まったりすることを感じたことがなくて。今回もクリエイティブなモチベーションが途切れず最後までできました。この感じを何らかの形にできたらいいですよね。もしかすると音楽でなくてもいいのかもしれない。いつかそういうものを発信できたらいいなと思います。

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idom「EDEN」

EDEN

2023/04/12 RELEASE
SECL-2857 ¥ 1,400(税込)

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Disc01
  1. 01.EDEN
  2. 02.Memories
  3. 03.Control
  4. 04.Loop

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